第六章
サンフランシスコにいる者はみんなレイヴィス家を知っていて、街の良家のひとつとして口にすることを常に忘れなかった。新興でも取り立てて裕福でもなかったが、カリフォルニア通りの同じ家に二十年近く住み、いつも快適に暮らしていた。サンフランシスコがそうであるように、彼らは昔気質であり、彼らには家族の伝統や慣習や昔からのしきたりがあった。書斎は過去半世紀にわたって収集が続けられていて、壁の絵画は鋼版彫刻や本物の古風な多色刷り石版画の油絵であり、今日では値段がつけられない代物だった。
家具や装飾品は、重厚で地味な一世代前のものだった。これらは何かひとつのスタイルを参考にして選ばれたのでも、すべてが同時に購入されたのでもなかった。個々の作品それぞれに独特の個性があった。レイヴィス家の者は流行が去った後も古いものをずっと所蔵し続け、それらを連想されるもっと当世風の「芸術」品よりもそれらを好んだ。
家族は六人いた。レイヴィス夫妻、ターナー、そして兄のスタンレー(イェール大学八十八期生)は、経済と金融にずっと関心を持ち続けている二十七歳のとても真面目な青年だった。さらに二人の子供、九歳のハワードと、ヴァージニアと名付けらた十四歳の彼の姉がいた。
彼らは家庭を愛する人たちだった。父親のレイヴィスはボヘミアン・クラブに所属していたが、そこで姿が見られることはほとんどなかった。スタンリーは法律の仕事に没頭し、ターナーはほとんど外出しなかった。彼らは自分たちの知人の四分の三よりも互いの親睦を深めることを好んだ。知人といってもそのほとんどは「家族の友人」であり、年に三、四回夕食をともにしに来る程度だった。
テーブルが片づけられた後は、レイヴィス氏とスタンレーが新聞を読み、一人が葉巻を、もう一人がパイプを吸い、レイヴィス夫人は雑誌を、ターナーは『ショトーカ』の機関誌を手にして、屋敷の奥の大きなダイニングルームで夜を過ごすのが習慣だった。ハワードとヴァージニアはテーブルを占領して、兵隊のおもちゃやバックギャモンボードで遊んだ。
家族には使用人が二人いた。一人は最初から一緒にいた「若い中国人」のジューンで、もう一人は最近雇ったコックのデルフィーヌだった。ジューンはある意味で執事と家事手伝いを合わせた存在で、階下の仕事と負担の大きい掃除をすべてやったが、寝室の片付けと埃払いとベッドメイクに毎朝一定の時間を費やすのは、レイヴィス夫人とターナーの昔からの習慣だった。この他に、ハワードとヴァージニアは保母をつけるには年が行き過ぎていたし自分を管理させるには幼すぎたので、ターナーが一応監督を務めた。九時に寝かしつけて、服の繕いをして、定期的に風呂に入れ、一時間おきに喧嘩の仲裁をして仲直りさせた。最も大変な仕事は、ハワードが毎朝きちんと体を洗うのを確認し、水曜日と土曜日の午後のダンススクールに間に合うようふさわしい服を着せることだった。
日曜日の午後。レイヴィス夫人は、奥の部屋のソファーに横になって葉巻を吸う夫に、本を読んで聞かせていた。スタンレーは電話をかけに外出し、ハワードとヴァージニアは浴室に集まって、ボートと葉巻の箱を浴槽に浮かべていた。三時半頃、ターナーが部屋で手紙を書いていると、玄関のベルが鳴った。ヴァンドーヴァーかもしれないと思いながら、ペンをつかんだまま手をとめた。ジューンは昼休みをとっていた。数分後に再びベルが鳴った。ターナーは自分で応対しようと駆け下り、途中でデルフィーヌを出し抜いた。彼女はこういうときにジューンの代わりをするのが役目だったが、どうしようもなく愚かだった。
レイヴィス夫人は客間の窓のカーテン越しに外をのぞいて、相手が誰なのかを確認した。ターナーは、来客に客間を明け渡そうと二階に行く途中のレイヴィス夫妻に会った。
「ママとパパは上の階に行って本を読んでるからね」レイヴィス氏は説明した。「来客はお前の知り合いの若い男性のうちの一人だよ。客間にお通しすればいい」
「ヘイトさんだと思うわ」ターナーの母親が言った。「お茶の時間までゆっくりしていくようお誘いしなさい」
「まあ」階段の下で立ちどまって、ターナーは怪訝そうに言った。「そうするけど、私たちじゃ、日曜日の夕方にお茶を飲みながら話すようなことがないってわかるでしょ。ジューンは外出中だし、給仕させようにもデルフィーヌがどんなに不器用で愚かかわかってるくせに」
客はヘイトだった。ターナーは彼に会えてとても嬉しかった。ヴァンドーヴァーに次いで彼女は他の誰よりも彼のことが好きだった。彼をもてなす義務を負わされても彼女は決して退屈しなかった。彼には常に話題があり、それを伝える巧みな話術を持っていた。
アマチュアの写真について話していると、五時半頃、レイヴィス夫人が入ってきて、二人をお茶に誘った。
レイヴィス家のお茶会は、二十年前の昔ながらのお茶会だった。日曜日の夕方のテーブルには現代風の「珍味」は見当たらず、魅力的な冷たい軽食も、スパイスも、ケチャップやペッパーソースさえなかった。彼らが夕食に食べた七面鳥や鶏肉は、スライスされた冷たいものが出された。缶詰のフルーツ、ジャム、紅茶、クラッカー、パンとバター、冷たい豚肉と豆が盛り付けられた大皿、氷水の入った大きなガラスのピッチャーがあった。
ジューンがいないので、コックのデルフィーヌが、清潔な更紗のガウンと糊のきいたエプロン姿で、とても緊張し、恥ずかしそうに、テーブル給仕という苦行をやり抜いた。手は赤く節くれ立っていて、石鹸が匂い、まるで皿と食器が繊細なガラスの蝶であるかのように、過剰な熱意と抑圧の加わった腫れ物にさわる手つきで陶器に触れた。テーブルから少し離れたところに立ち、突然ぎこちなくテーブルを軽くたたいた。皿を渡すときに、間違った側から皿を渡し、さらに間違った瞬間に自分で気づき、どもりながら謝った。礼儀作法に気を遣い過ぎ、相手の要望に応える間、絶えずぶつぶつ言い続けた。別のフォークですか? かしこまりました。すぐお持ちいたします。奥さま、紅茶をおかわりなさいますか? いりませんか? もう紅茶はいらないと? では、パンをどうぞ。パンはいかかがですか、ハワードさま? おいしいフランスパン、ご好物の。洋梨のジャムはいかがですか、レイヴィスお嬢さま? はい、お嬢さま、すぐにお持ちします。このサイドボードに用意してございます。はい、ここにございます。もういりませんか? じゃあ、戻してまいります。そして全員の神経を逆なでしてようやく、彼女は台所に追いやられ、言葉にできない安堵の息をもらして引っ込んだ。
夕方もう少し遅くなって、ヘイトはターナーと二人きりになった。二人の会話はとても珍しいことに個人的な方向に進んでいた。突然、ターナーは叫んだ。
「私はよく、自分はこの世の中で人の何の役に立っているのかしらって考えるの。私は物を知らないし、何ひとつできないわ。自分が食べる最も簡単な食事ひとつ作れないし、昨日なんかちょっとボタンの穴を縫うだけで丸二時間もかかったのよ。私って何の役にも立たないわ。誰の役にも立ってないのよ」
ヘイトは、この家中でほとんど唯一の近代的革新であるガス炎管の青い炎を見つめて、しばらく黙り込み、それから膝に肘をついて、じっと炎を見続けたまま答えた。
「それについてはわからないけど、あなたのおがけで僕はかなり助かっていますよ」
「あなたの!」ターナーは驚いて叫んだ。「あなたの助けになってるの? ねえ、どういうことかしら?」
「だって」ヘイトはずっと相手を見ないままで答えた。「人はいつだって自分の影響力を持ってますからね」
「じゃあ、私は誰に対しても大きな影響力を持っているわけね」ターナーは信じられない様子で言い返した。
「そうです、あなたにはあります」彼は力説した。「あなたを大切に思う人たちに対して、あなたは大きな影響力を持っています。あなたは僕に対して大きな影響力を持ってますよ」
ターナーはかなり困惑し、どう答えていいのかわからなかったので、マントルピースの横にかがみ込んで、ガス炎管の火を少し大きくした。ヘイトは彼女と同じくらい困惑しながら続けた。
「僕は自分が悪い人間だと思ってます。多分、他のほとんどの人よりは少し悪いんです。でも、僕の中にだって良いところはあると思……願っています。このすべてが馬鹿げていて、気取って聞こえるかもしれない。でも、本当に、見せかけではないんです。今回だけは、思ってることをそのまま話しますが、あなたは気にしないでください。約束しますよ」半笑いで続けた。「二度もしませんって。僕が小さい頃に母を亡くして、ほとんど男世帯で暮らしてきたことは知ってますよね。他の人たちには女性と接する機会があっても、僕にはあなたしかいなかったんです。だって、僕がこれまでに気心の知れた女の子って……僕がこれまでに知りたいと思った女の子って、あなただけですから。他の男性が自分の人生に登場するいろいろな女性を大切に思ってきたように、僕はあなたを大切に思ってきました。男性が自分の母親や姉妹……それに妻を大切にしてきたようにです。あなたはすでに、母親や姉妹が影響を与えるように、僕に影響を及ぼしてきました。もし僕があなたに……僕にとってのそれ、かけがえのない人に、なってほしいとお願いしたらどうしますか?」
ヘイトは、言い終わるとターナーの方を向いた。初めて彼女のことを直視した。ターナーはまだかなり困惑したままだった。
「ああ、もし私が誰かの……あなたの……助けになれていたのなら、とてもうれしいわ」ターナーはしどろもどろになった。「でも、あなたがそんな風に私のことを気にかけていたとは……私のことを考えていたとは、知らなかった。でも、いけないわ、あのね、あなたはそんな風に私のことを気にかけてはいけないのよ。すぐに言うべきね。私はこれ以上……いつもしてきた以上に……あなたを大切に思うことはできないの。つまり、とってもとっても良い友人としてしか、あなたのことを考えられないの。あなたにはわからないわ、ドリー」ターナーは熱心に続けた。「私がこれを言うのがどれほど辛いか。だって、私はあなたのことをありとあらゆる点でとても大切に思っているから、どんなことでもあなたの感情を傷つけたくはないのよ。でも、それだとやはり、もし私があなたに言わないで、あなたを励まして、私が好きでもないのに、多分私が他の誰よりもあなたが好きだとあなたに考えさせてしまうのなら、余計にあなたを傷つけてしまうでしょ。それだと、間違ってることにならない? 私が何かあなたの役に立っていたことを、私がどれほどうれしく感じられるか、あなたは知らないのよ。だからこそ、今、私は誠実でありたいし、あなたには私に失望してほしく……私を悪く思ってほしくないのよ」
「ええ、わかってますよ」ヘイトは答えた。「これについて何も言うべきではなかったって自分でもわかってるんです。あなたにその気がないって事前にわかってましたから。いや、わかってるつもりでしたから」
「多分、私のせいだったのかもしれない」ターナーは答えた。「あなたの気持ちに気がつかずに、あなたに間違った印象を与えてしまったんだわ。私はずっとあなたが事情を知ってると思ってたのよ」
「事情を知ってる?」彼は顔を上げながら尋ねた。
「ヴァンと私の関係よ」ターナーは言った。
「ヴァンがあなたをかなり気にかけているのは知ってました」
「そうよ、でも、あなたは知ってるでしょ」ターナーはためらい、困惑して続けた。「私たちが婚約してるって。婚約してかれこれ二年になるわ」
「でも、彼は自分が婚約しているとは考えてませんよ!」この言葉がもう少しでヘイトの口から出かかったが、歯を食いしばって沈黙を守った……その理由は彼にもよくわからなかった。
「もしヴァンドーヴァーのことがなかったら」ヘイトは立ち上がって、本当の自分ほど真剣に見えないように微笑んで言った。
「うーん」ターナーは微笑み返しながら言った。「わからないわ。答えにくい質問ね。私はそんな質問を自分にしたことがないもの」
「じゃ、僕があなたの手間を省いているわけですね」彼はずっと微笑みを絶やさないまま答えた。「僕はあなたに代わって質問をしているわけだ」
「でも、私はそういう質問に即答したくないわ。どう答えたらいいのかしら? どうせ、今のところは、多分、にしかならないわ」
ヘイトは、「今のところは」その「多分」で満足だと即答したが、ターナーはこれに耳を貸さなかった。彼が話すのと同時に叫んだ。「でも、そんな話をして何の役に立つの? ヴァンとの約束は、どんなことがあっても、たとえ私が破りたくても、破ることはできないと感じるのよ。私がこうして話したんだから、ドリー」ターナーはもっと真剣になって続けた。「あなたは思い違いをしたり、間違った印象を持ったりしてはいけないわ。あなたは事情を理解したわよね?」
「ええ、はい」笑ってやり過ごす努力を続けながら答えた。「わかってます、わかってます。でも今は、僕が言ったことをあなたが何も気にしないで、僕が話さなかったかのように、何事もなかったかのように、物事が進めばいいと思ってます」
「ええ、もちろんよ」ターナーはまた彼と一緒になって笑いながら言った。「当然よ、どうしてそうならないのかしら?」
ヘイトが帽子を手に持って帰る準備をしてドアの前に立ったときには、二人とも再び気持ちがなごんでいた。
彼は空いている手をターナーの頭上にかざし、滑稽な芝居がかった口調で、笑うのをこらえながら言った。
「あなたたち二人に祝福あれ。ヴァンドーヴァーと結婚して幸せになりなさい。僕があなたたちを許します」
「ああ、まったく、そういう馬鹿げたことやめてよ」ターナーは叫んで笑い始めた。