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祖父が死んだ。熟練の機械技師であった祖父はこじんまりとした工場を所有していた。祖父はその工場に誰も寄せ付けず、祖父にとって唯一の孫で、普段はかわいがられていた彼ですらも、一度も入ったことはなかった。別に彼も特別興味はなかったのだが、それでも長く放置しておく訳にもいかず、祖父の死から手付かずであったその工場に立ち入った。
工場はたくさんの器具と機械で埋め尽くされ、そのいくらかはまだ十分に使える様であった。奥へ進むといくつかの完成したロボットが置かれているのを見つけた。人や犬を模したような形のもあれば、車輪が取り付けられモノを運ぶように特化したものや、アームで作業をできそうなものもあった。と、そこで隅に静かに座らされたひとつの女の人形が目についた。その精巧な作りは彼を一目惚れさせた。小窓から光が差し込み、照らし出される白い肌とうつろな伏目に彼は神々しさすら感じた。ほとんど衝動的に、彼女の手の甲にキスをしようと彼はその手首をもちあげた。瞬間問題に気づいた。関節は硬く、その人形が動かせるような状態ではないことを悟った。
その日から彼は人形の再び動く姿を見るが如く機械工学を学び、技術を磨いた。半端な腕で人形に触れて壊してしまうのは怖かったし、何より失礼な気がした。
そしてとうとうその日が来た。彼はまずどのような仕組みで動かしているのか、そしてどこが悪くなっているのか調べるため蓋を探した。しかし蓋はおろか、よくよく見てみると継ぎ目の一つも、ネジの一本も見つからないではないか。気が引けながらも彼は目立たない背中からまずは表皮を切り開こうと鋏をいれた。切れ目からは綿がのぞいた。
彼は気付いた。それは剥製であった。