キジトラ先輩のおしごと
あれは台風が近づいて来た、去年の秋のこと。
この辺の地域は、小高い丘と川があるすり鉢状の地形をしている。
だから、突風が強烈な風になることもしばしば。
猫たちは、ヒゲセンサーで敏感に感じ取って、安全な場所に身を隠すのが日課。
そう思っていたら、犬の様な『番猫』ぶりを発揮する、キジトラ先輩がいた。
ある日、雨が降ってきそうな雲行きに、ご主人様がご近所の家に「雨が降りますよ、カーペット仕舞った方が良いですよ~」と教えに言った時のこと。
帰って来たご主人様は、鼻息荒く「凄い猫がいた!」と私に話してくれた。
ご主人様が、一軒のお家に雨が降ると教えに言ったら、玄関先で寛ぐキジトラ姉さんがいたらしい。
呼び鈴を鳴らすと・・・・。
「にゃ~」
「〇〇さん、いますか?」
「ニャ~ァ、ニャ!」
「何?」
「ニャ~ァ、ニャ!」
同じイントネーションで同じ様に返す、キジトラ姉さん。
ご主人様は、何か伝えたいのかと、もう一回聞いたんだって。
「もしかして、〇〇さん居ないの?出かけてる?」
「ニャ~ァ、ニャ~ァ、ニャ!」
「車も無いから、出かけたんだね。教えてくれてありがとう。」
帰ろうとしたら、座り直して叫ぶようにキジトラ姉さんが鳴いたらしい。
「ニャァァァ――ニャ、ニャニャ!」
「どうしたの?」
ご主人様が、キジトラ姉さんの顔を覗き込んだ瞬間、車のエンジン音がしてお家の人が帰って来たらしい。
番犬ならぬ番猫。
しかも、家の人の不在を教えてくれて、近くまで帰って来てることまで教えてくれる。
凄技猫。これがキジトラ先輩のお仕事なの。
実は私も、パパさんが帰って来た時に、1km前から分かるの。
だから、ママに教えるのよ。
ママは電話をかけて、いつも何処に居るのか聞くけど、答えは同じよ!
だって、この技はキジトラ姉さんの直伝だもの!