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Bubble stories  作者: Arimio
2/2

『彼女』の運命


「ねえ、お母様、今日は何するの?」


「あら、トウラはどこ行きたい?」


「あの広いところ!みんなでボール投げする!!」


「芝生広場のことかしら?そうしたらみんなで行こうね。」


「だめだ。」


「…あなた、今はもう何もないのよ、あそこには。この子にまで背負わせないであげて。」


「…」


「お父様どうしたの??」


「なんでもないわ。トウラと遊べるのが嬉しいんじゃないかしら?…さ、準備してらっしゃい!」


「うん!!(…?)」












「そんなものでいいと思っているのか」


「すみません、お父様」


「…いや、謝ってほしい訳ではない。お前はこの家の跡継ぎだ。トウラには誰よりも秀でた力がある。私は知っている。自分に自信をもて。お前はこんなもので終わる器ではない。トウラならわかるだろう?」


「はい。一層努力いたします。」


「ああ、頼んだぞ。」


「…失礼します。」


自分は人よりも全てにおいて優れている。いや、優れていなければならない。なぜなら、みんながそう望んでいるから。私はこの家の跡継ぎだから。












この国は元々王政だった。そして、お父様のお祖父様、私の曽祖父にあたる方は、この国の王だった。とてもお優しい方だったそうだ。いつも国のことを考え、全てにおいて、『誰かを守る』ことを最優先とする人だったとお父様から教えられた。

だが、反王政派によって彼は信じていた多くの人に裏切られた。それでも彼は全ての人が救われるよう努力した。だが、奴らの方が一枚上手だった。


奴らは彼の最愛の妻を拷問し、目の前で殺したのだ。


それゆえ彼は怒り狂い、全てを壊すような『暴君』になってしまった。

これは反王政派の思う壺だった。


革命が起こされた。


彼は、信じていた家臣に、愛していた国民に、心までも殺された。


だが、彼は、その直前、たった一人の愛娘を他国へ逃した。それが私の祖母だ。








お父様は、

「私は、私たちは、その『復讐』のためだけに生きるのだ。そしてトウラ。お前が全ての鍵を握っている。今こそ、全てを取り戻す時なのだ。」

とよく言う。


以前は、ただ今あるものが全てだと言うように笑っていた。


幸せそうだった。






お父様が厳しくなったのはあの事故……いや、事件以来だ。


私が6歳の誕生日、あの寒い冬の日に、お母様はこの世から消えた。


お母様はその時、私のためにお菓子を買いに行ってくれていた。だが、帰り道に、暴走した車に追突され、車ごと川へ流されたのだ。


暴走した車、と言うよりも、反王政派によって意図的に暴走させられていた車、が正解だろう。


そこから、私の誕生日、2月3日は、反王政派への恨みを募らせる日へと変貌した。


私は「よくいる悲劇のヒロイン」なのだろう。母のために、とみんなが言っていた。直接私には言わないものの、こんな気持ちが伝わってくる。


『彼女なら仇を取ってくれるのでは』


『彼女なら世界を元に戻せるのではないか』





誰も悲しませちゃいけない。私がどうなろうと。

…期待はしても守ってくれる人などいないのだから。















「…お父様、では失礼します。」


またいつものように全ての人からの期待を受ける。







『君なら』


『トウラなら』


『大丈夫』


『出来る』


『さすが』


『なんでも出来るじゃん』


『すごいね今回もやっぱり??』







……ねえ、


期待ってそんなんだっけ。











私はいつの間にか家から出ていた。空は暗い。


当てもなく彷徨う。それが心地よかった。


あと、今日は、吐かないでいられる気もした。



私は12歳の誕生日からずっと吐血を繰り返している。自分では吐血病と呼んでいる。(そのままだけどね。)不定期にくる痛み、吐き気、まずい鉄の味。



そして、どこからか聞こえてくる『出来るでしょ?』と言う言葉。



半年でみんなには治ったと伝えた。でも実際は隠しているだけ。原因はわからないらしい。たぶん気持ちの問題だけどね。みんなに隠れて行った病院で、医者には持ってあと3年だ、って言われた。もう治らなくてもいいや。



どれくらい歩いたんだろう。


気づけばあの公園に来ていた。ここは、昔お母様とお父様と、みんなで一緒に遊んだところだ。



そして、王政の終結の場所だ。



私がこのことを知ったのはお母様が亡くなった一週間後くらいだったと思う。知った時、絡まっていた紐が全て解けた。解けたと同時にその紐で私は自分に縛られた。今となっては、鍵のついた鎖のようになって、外れることはない。



「……あぁ」

公園のベンチに座って私は泣いた。ここ何年も涙は出していなかった。理由は、なんだろう。


誰かと触れ合えたらわかるかな。


「あ、」


あの男の子、反王政派の一人息子ルトだ。確か、同い年のはず…。


「こんにちは。あ、違うや。こんばんは、だね。」

「ねぇ、君、3時間だけ一緒にいてくれない?嫌なら全然いいよ」






「、、、嫌ではない」

「じゃ座って」


気づけば私は話しかけていた。いつか殺そうかと思っていた相手だけど初対面。興味が湧いた。


でも少しは緊張する。


「きみ、ここで何したかったの」


特に何も考えず私はただ聞いた。

答えからわかったのは、彼の心がボロボロだったこと。赤の他人の目の前で泣くほどに。


そんな彼に対して、演技ではないと信じるわけじゃないけど、この彼にはちょっとだけ“私“を知ってほしいと思ってしまった。


「私はな、あと3時間で死ぬんだ」


「“?!”」


驚いた顔を見せる彼がちょっと愛らしく思えてしまう。


吐血病を伏せながら、私は笑って話した。『冗談でしょ。やめてよ笑』と返してくれるかと思いきや、



「あと3時間、っていうのを伸ばすことできる?」



まさかのまさかすぎる。大会や順位のでるもので入賞できるか怪しかった時より焦った。ただ、それ以上に“自分“が望まれてる気がして嬉しい自分がいた。涙が出た。



「じゃ、この病気のリミッター、君に外してもらおうかな。そうすれば、君は私を生かすために死ねないでしょ?」


「…ッ!」


よかった。もう一人じゃないよ。恥ずかしすぎて言えないけど、そう、自分にもルトにも伝えたい。


その瞬間は、私は全てを忘れて、幸せだった。




ルトと私はどれだけの時間を一緒に過ごしたかわからない。とても満ち足りた日々だった。運命など馬鹿げたものだとみんなは言っていた。今だけは納得する。


殺す相手だったルトは、誰よりもまっすぐにただ“私”を見てくれる。


私は、彼を愛してしまっていた。




『愛されたい』


「グ…カッ…ハ…ッ」


やらかした。ルトの前で吐血してしまった。願ってしまったことが原因だろうか。

ここ3日くらいは大丈夫だったのにな。


「?!」


「あ、なん…で、かなあ…笑 大丈…夫だから、慣れてる、から…。あ、ごめん、ちょっとだけハグして。いいって言うまで離れないでね」


泣きそうな彼を見て申し訳なくなる。泣かせまいとして冗談ぽく言って見るけど、後から思った。



あ、これ逆に泣かせるやつだ。



案の定泣かせた。で、詰められた。そして全て話した。

王の末裔っていうのだけは言えないけどね。


「それは知らない。」


「はあ?!?!?!?!?!」


「知らないものは知らないんだもん。だって初めて会ったのがほんとに初めてだから。っていうか興味ない。世間に騒がれてるとか別に。結局、君は死なない選択をするんだよね。ならなんだっていい。・・・・・・」




ちょっと待って、と言わせる間も無く彼は続けた。


「僕の本心の歌を好きだと言ってくれる君が要る。気持ちに答えなくていいから、君は死ななきゃそれでいい。」


無理無理無理無理ルトの言葉なんにも入ってこない…今私は何を言われて…


告白されてるって認識で大丈夫なのかな、、信じてみたい。でも、彼が生きててほしいなら、生きていてみたい。


「ルトが一人にしないなら死なない…。から死ぬまで歌を聴かせてくれる…?」


「トウラがそう望むなら」


私は驚いた。


「名前!!!」


「なんでって、君の一人称がよくそうなってるからだよ。君こそ。笑」



私は、多幸感に包まれていた。嬉しかった。これからも君に守ってもらえる。



でも、これでもう、彼を殺せない。










その後は平和に過ごしていたはずだった。


「トウラ。」


聞き馴染みのある声。もういつぶりだろうか。


「お、お父さ」

「戻れ。」



「…ッ」


私は車に乗せられて家に行った。


「3日後の朝、あいつを殺せ。」

「?!」


父は家に着いて開口一番、玄関でそう言った。

怒るでも罰を与えるでもなく、ただ、そう言った。


「用件は以上だ。今日は部屋で休め。」

「…」


私の居場所などわかっていたのだろう。隠れられていると思っていた自分が馬鹿みたいだ。そしてあの人はどうすることが私にとって一番酷なのか、ということもわかっている。


帰りたい。






その夜、私は逃げた。とにかく逃げて逃げて、あてもなく走り続けた。


気づけばルトがそこにいた。


「ねえ、3時間だけ一緒にいてくれない?」


あの時と同じことを言う。


そして同じ会話をする。一言一句違わずに。


違ったのは、私が吐血したことだけ。






「歌、聞かせてよ。君の歌。」


そうねだると、君はすぐに歌い出した。


互いに泣いていた。


私は彼に催眠薬をかがせ、彼の前から去った。



「ルトはこの川で死のうとしてたんだろうなあ」


私は橋の上でそんなことを呟く。あの公園からすぐ近くにあるこの川。お母様を飲み込んだこいつは、あの日のように濁っている。



「トウラ…!」


「遅かったね…。笑」


ルトだ。起きてきてくれた。嬉しかった。大好きだった。


「ありがと!ね!吐血病、君がいなきゃ、やっぱり治らないみたい!だから、ごめんね?」


「待って。本当に。まだ」


「君の歌をありがとう!愛してるよ!ルト!」


私はそのまま飛び降りた。






言わせないよ、ルト。その続きは本当に心から好きな人に言ってあげて?

こんな嘘つきじゃなくて、ね。






意識が途切れる直前、唇が温かくなったのは、きっと気のせいだろう。




【そして2人は一つの泡として消えたそうだ。】

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