9 ハニートラップ
そう、確かに俺は半年に一度くらいの頻度で協力するといった。
勇(まさか大学受験の前日に協力をお願いされようとはね……)
勇「おい、俺がいくら聖人君子でも引き受けないことはあるからね」
美紀(本名)「あーはいはい、これでも食べてていいから」
私は手作りのパンを渡して納得させる。
もしゃもしゃと勇がかぶりつくのを見て話を始める。
美紀「まず大事なことをあえて言ってないから補足するけど、受験の前日なのは私の方ね。そっちは就職先も決まってるし最近車の免許も取ったよね?」
あやうく、私が相手の都合も考慮していない自己中ウーマンだと誤解を与えてしまいかねないではないか。
勇「まあ、俺はいいんだけど。明日朝早くから受験でしょ? 落ちても驚きはしないよ」
美紀「どうせ滑り止めの私大だからね。先週の本命の手ごたえも中々だし頑張る気力はないよ」
実際、私はかなり頭がいい。記憶を司どる大脳室皮質をちょっと刺激しながら効率的に勉強しているし、体の中にカンペだって仕込める。落ちるはずもない。
勇「さいですか。だから、こんな朝早くにこんな田舎の商店街に連れ出されたのか」
そう、今私たちがいるのは高校から数百キロはなれた、とある町の商店街である。人通りは多いし、立地が悪いだけでたいそう賑やかなところである。
近くの雑居ビル屋上から全体を見回す。
美紀「ホルダー界隈も危なくてね。最近だと【エンド】の構成員の一人が死んだ」
勇「へー。久か湊のおじちゃんがやられたんか」
私は首を振る。
美紀「いや、二人じゃないよ。構成員のなかで私よりも年下の女の子。その子が誰かに殺されたから、警戒を強めてる」
勇「じゃあ、今はその痕跡を追ってると?」
美紀「まさか、他人がどうなろうと私は気にしないよ。ただ、殺された場所が近いから勇を誘っただけ」
面倒ごとに巻き込まれた、とでも言いたげに眉をひそめる勇。
勇「で、今回なんで誘われたの?」
美紀「そう。実はこの町に私の専用宝具【黄金の粘土】を持ったホルダーがいるっていう情報が入ってさ。でも、闇雲に探しても大変だから【賭博師】の運がほしかったの」
それだけ説明し、私は体を変態させる。今回の変装相手は、中学生のころ初めて作った美女である【六崎 朱美】だ。
中に着込んだ少し露出の多い防寒着をさらけ出させ準備を完了させる。
勇「いつ見てもよくできた美女だなー」
朱美「女性の変身を見るのって失礼ではないですか?」
勇「いや。俺はプリキュアの変身中に怪人が攻撃しないのは、変身中の女の子に見入ってるからだと思ってるから」
朱美「……答えになってないんですが」
まあ、すでに私は人前で裸になることに恥じらいなどなく、ましてや服越しの変形など屁でもないのだが、勇のその発言は全国の少女たちに謝るべきだと思う。
勇「で、雑談はこのくらいにして具体的に俺はどうすればいい?」
朱美「まずは情報収集。多分、勇は適当に街中を歩いてればホルダーとエンカウントするだろうから、そうなったら連絡して」
勇のスマホにホルダーの情報を送る。
勇「ほーん【道化師】ねー。朱美はどうするの?」
朱美「私には私のやり方があるんでね。じゃ、解散!」
それだけ言い、私はビルの屋上から下へと飛び降りた。人気のない裏通りで息を整え商店街に歩みを進める。勇はその数秒後に別の建物へと飛び移ったようだ。
私はできるだけ自然な感じで街を歩く。
私がすべきはしらみつぶしに街を徘徊することではない。この美貌をいかして地域住民に話を聞くことだ。実際、少し歩くだけで熱い視線が私の顔や胸に刺さる。
少し歩けば同い年くらいの男子が一人でいるのを見た。
肉屋のおばさんと親しげに話しており、あまり防寒を意識していない部屋着だった。おそらく、このあたりに住んでいる子なのだろう。加えて男子。しかも、聞き耳を立ててみれば一人暮らしのようだ。
朱美(ちょうどいい鴨発見!)
おばちゃんとの会話が終わるのを見計らい、私は男子に話しかける。
朱美「あのーちょっといいですか。私、ついさっきこの町にきて、それで友達を探しているんですけど少しお時間いただけますか?」
上目遣いをしつつ、手袋越しに彼の手を取る。男の子は顔を赤くしながらオドオドし始める。
「えっとその…」
朱美「もしかしてお忙しかったですか?」
「いえ、全然! むしろ暇だったくらいです。ぜひお聞きください!」
思わず声が裏返ったのだろう、近くの人から変な視線をもらう。
朱美「とりあえず、歩きましょうか」
男の子はいい顔立ちだった。目鼻立ちがはっきりしているし、なにかスポーツをしているのかけっこういい筋肉をもっていた。
だが、眉毛もひげも伸びており、身だしなみがなっていない。それに加え、私に対する反応で女性には免疫がないこともわかる。
実にいい鴨だ。
朱美「君、けっこういい筋肉してるね。なにかスポーツやってるの?」
「はい、部活でワンダーフォーゲル部っていう登山の部活やってます」
朱美「そっかー。すごいね山登りするんだ」
わざと大げさなリアクションをとり、ジワジワと懐の中に入る。
「そ、それより探してる友達っていうのは? 自分、この辺に住んでるのでもしかしたら力になれるかもしれません!」
朱美「えーホント!? めっちゃラッキー。こんな感じの人なんだけど」
あらかじめ防犯カメラから入手していた映像を写真風に加工したものを高校生君に渡す。
「あっ、この人みたことあります!」
おおっ、まさか一発で当たりを引くとは。
朱美「じゃあ、悪いんだけど君の家に上げてくれない? ちょっと長話になっちゃいそうだから。こんな寒いところじゃ大変」
「い、家に!!? もも、もちろんです。大歓迎です!」
鼻息を荒くし、わずかに歩くスピードが速くなる。そのあたりで自分の身だしなみに気づいたのだろう。しきりにひげを触りだした。
朱美「ありがと! じゃあ、よろしくね」
心の中でほくそ笑みながら、私は彼の後をついていくのだった。
変態編はこれで終わりです。次話からは別の視点からになります。
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