6 変態の攻撃っていうのは汚いものなんです
私はこの3年間、情報を集めるためだけに頑張っていたわけではない。
特に、自分の戦闘スタイルを確立するのは急務だった。
変態ゆえの強み、それは死んだふりをすることだと思った。
最近、ホルダー同士は気配が分かると知り、この戦法は使えないと思っていたが、上手く勇が気を引いてくれたおかげで奇襲に成功した。
体を変形できると知ったときから、すでに心臓と脳は移動済みである。もちろん神経系や血管など面倒な調整は死ぬほどあったが、3年あればどうとでもなる。
そして、攻撃。これは胃酸一択だと思った。人間の胃酸のPHは1~2。それを、変態の力があれば勢いよく発射できる。
このレベルの胃酸は鉄すらも溶かすほどに強力だ。とんでもない刺激臭も相まって対人戦では優位に働く。それが肌に触れようものなら火傷じゃすまない。
げんに、私は腹に穴をあけて射出したわけだが、すでに射出口に鈍い痛みが襲っている。
綾子(副腎髄質を活性化しとかないと)
まともに後ろから頭に被ったのだ。覆面のせいで効果は薄いだろうが匂いはそうはいかない。
盗賊は急いで覆面をとり、せき込む。
盗賊「およそ女の子がとる戦法じゃないね」
あらわになった顔はとても綺麗な目鼻立ちをしていた。若干海外の血も入っているのか目が碧い。
勇「よーし。ナイス綾子」
綾子「そのガスマスク、どこから出したの?」
勇「いや、次はおならの攻撃でもするのかと……」
私の隣に移動した勇は、情報を共有する。
勇「あの女の称号は【盗賊】。取得条件は知らん。能力は殺した相手の称号を奪えること。
で、問題なのはあいつの専用宝具。【無色のコンタクトレンズ】。通常は物の価値や年代がわかる鑑定道具なんだが、盗賊が使うことで相手の称号と能力がわかる」
【無色のコンタクトレンズ】
効果 生物以外の物の鑑定。
専用効果 称号の鑑定。
その宝具の効果で、私の称号がバレたわけね。
勇「もちろん、いままで殺した奴のホルダー能力もあるから油断しないよう頑張って!」
距離を取ってサムズアップしてくるが、あんたも戦えよ。
綾子「なんでそんなに他人事……というかあの人の目的、あなたの宝具って言ってましたよ。勇が前に出るべきでしょう」
専用宝具をすでに所持しているなら、そのあたりのことも事前に共有してほしかった。
綾子「その、なんでも出てくるポケットに秘密があるんでしょう! 早くなんとかしてください」
勇「称号複数持ちの激ヤバ女に勝てるわけないだろ」
あーだこーだと水口論を続けていると盗賊が割って入ってくる。
盗賊「随分とたのしい彼女ができたのね。勇ちゃん」
勇「どこの世界戦に胃酸をぶちまける彼女を欲しがる奴がいるんだよ」
綾子「え? 私のうんちを欲しがる人、結構いたよ」
勇「そいつの中身、江戸時代の百姓じゃなかったか?」
まあ、わたしのウンチは栄養がほぼない(大腸を操作して限界まで栄養を吸い取るため)ので価値は少ないでしょうけど。
盗賊「で、雑談はここまでにして大人しく宝具を渡してくれないい? そうすればこの場は見逃してあげるよ」
勇「悪いけど、これはあげられないな。ってことで変態さん、2分時間を稼げる?」
なにか確信めいた表情の彼を見て、私はため息を吐く。
綾子「まあ、別にいいけど。ねえ、どんな手段を使ってもいい?」
勇「お好きなように」
勇はポケットから漆黒の滑らかな布をとりだす。カーテンくらいの面積を誇るその布を風呂敷のように折り畳み、中をまさぐる。
初めて宝具を見たが、なるほど確かに宝具だと確信させる魔力がその布にはあった。
だが、よそ見をしているわけにもいかないので、胸の中にあるナイフを取り出す。
むこうも、やる気満々のようだ。遠慮なくいかせてもらおう。
接近しナイフを振る。
腕を物理的に伸ばし予想外の攻撃を行う。だが、【変態】の力を知っている盗賊は冷静に間合いを見切り、紙一重で避ける。
盗賊「私、このコンタクトのおかげで人の中身がなんとなくわかるんだよね。さすがに心臓とかの臓器の場所は分からないんだけど、綾子君がナイフを全身に隠し持ってることは分かるよ。あと10本ってところかな?」
綾子「じゃあ、私の本来の戦い方を見せてあげるよ」
私は服を破り捨て、背中から8本の手を出現させる。あっ下着はつけてるよ。
勇「うーわキモ」
綾子「そっちに集中してくれませんかね」
計10本の腕にナイフを握らせ、盗賊に攻撃を仕掛ける。
盗賊「へー、直にナイフを見ればわかるよ。そのナイフ、一本一本に別の種類の毒を仕込んでると。トリカブト、スイセン、シアン化合物――よくそんなもの、体内に隠し持ってられるね」
盗賊は10本の腕による無差別な攻撃も軽々とよけながら、分析を進める。
だが、彼女がいくら優秀な目を持っていようと、この猛攻を防ぎきるのは難しいだろう。
盗賊「これは……ちょっとめんどくさいな。あれを使うかな」
何やら不穏な言葉をつぶやいたのち、盗賊は思い切り後方へと距離を開ける。
次の瞬間には彼女の筋肉が盛り上がった。豊かな胸のふくらみはなくなり、整った目鼻立ちもドンドン原型を失っていく。そして、数秒すれば立派な筋肉を携えた大男が立っていた。
盗賊「これ、性別が変わるから嫌いなんだけど…」
服を破り捨て、胸筋を見せびらかしながら盗賊は話し始める。声も低くなっているためパッと見オカマにも見える。
綾子「ほんとにキモイのはどっちだよって話ですよ」
手始めに、10の腕を駆使し攻撃を仕掛ける。
気づけば、3本の腕が引きちぎられていた。
綾子「嘘でしょ」
盗賊「【決闘者】。10分間、パワー、スピード、耐久力が上がる称号。その攻撃、いまなら止まって見えるぜ!」
男性口調になった盗賊――いや決闘者はさらに3本の腕をちぎった。
痛みは感じないが、焦りは抑えられなかった。
あなたは【決闘者】のホルダーになりました。
称号取得条件
男性であること。
特殊能力
10分間、身体能力を究極的に向上させます。
専用宝具
深緑の錠剤
綾子「勇まだ? 早くしてくれないと持たないんだけど!」
勇「まだまだ~」
のほほんとした返事に思わず言い返そうとするが、そんな猶予もないほど決闘者は早かった。
巨大な拳が私の胸に勢いよく直撃する。避ける間もないほどの、圧倒的なスピード。
電車の椅子を幾つも破壊しながら、ようやく私の体は止まった。
綾子「ふーん、そんな余裕そうな態度できるんだ。なめられたものだね」
まるで、好きに打っていいと言わんばかりに決闘者は隙だらけだった。
私はいくつもの筋繊維を右腕へと集中させる。
それをがら空きの腹へと思い切り打ち込んだ。
『ゴキリ』と嫌な音が鳴る。みれば、私の拳は砕けており、折れた骨が丸見えになっていた。
決闘者「蚊でも止まってたか?」
正真正銘、今私に打てる最強の物理攻撃だったはずだ。それなのに、ダメージを与えるどころか逆に自分の拳が砕けた。
決闘者は――無傷。
決闘者「驚いたか? これ、ビジュは悪いけど、能力は一級品。全ての称号の中で、間違いなく最強の称号だ」
すっかり、男性口調になりながら、決闘者は私に近づいてくる。
とりあえず、勇に攻撃がいかないように電車の壁をぶち破り外に出る。田舎を走る電車だったこともあり、下には田んぼが広がっていた。
足に吸口を作り泥水を取り込む。そして肺に取り込んだ空気を利用して追ってきた決闘者に泥水を吹きかけた。
決闘者「泥かけが効果あるのはポケットにいるモンスターだけだぞ」
だが、泥の水を逆に利用し、視界が狭くなった私の背後に回った決闘者は、重い蹴りを顔面に叩き込んできた。頭蓋骨が砕ける。
綾子(脳みそ移動させてなかったら即死だったなー)
幸い、痛みはシャットダウンしているが、ダメージを受けすぎたせいか体が動かなかった。
決闘者「よく頑張った。けど、ここで終わりだ」
私の近くに来た決闘者は足を上にあげ叩きつけようとしてくる。いくら急所をずらそうとも、ダメージは受けるし血を失いすぎれば【変態】でも死ぬ。
勇「意外と頑張ったね」
死を覚悟したとき、勇の声が聞こえた。列車の方から声を発しているのは分かるが、すでに顔を向けられる状態ではない。
決闘者「じゃあ、【変態】の力は貰っていくよ」
勇「それは渡せない。【漆黒の布】起動」
勇はそう言って、宝具を上に放り投げる。すると、布はひとりでに大きくなり辺り一帯を暗闇に変えた。




