25 賭博師の逃避行
俺がそのタイミングで目を覚ましたのは偶然だった。
細かな木の枝が頬に当たり勇は目を覚ます。
俺はキスに運ばれていた。右肩に俺を乗せ、左腕で宝具の入った荷物を持って森を移動している。
勇(……なんとなく覚えてる。確か、巫女が殺されてそいつには娘がいて……、あと俺より年下の少年がいたな)
キスは起きた勇に気づくことなく移動を続ける。
勇は本能的に理解した。このままこの人についていけば間違いなく殺されると。
勇(きっと、町に戻れば自殺に見せかけて【賭博師】の称号も盗られる)
そこまで考えた瞬間、勇は暴れた。正確に言えば左の手に握られたカバンに向かって手を伸ばした。
勇(……とった!)
キス「ちょっと暴れないでくださいよ!」
キスは右手で強く勇を締め上げる。何本かの骨が折れ、すさまじいい痛みが全身を襲った。だが、勇は歯を食いしばってなんとか抜け出す。手には【漆黒の布】が握られていた。
勇「なんだこれ? 布?」
キス「駄目じゃないですか勇ちゃん。君もその宝具も私のですよ。まあ、そもそも結奈を殺したのは私です。今、その宝具の所有権は私です」
勇(いや、……なんだこれとかいったけど使い方は何となくわかる)
勇「いや違う、これは俺のだ」
勇は勢いよく布を頭上に投げ上げた。
布は辺りの闇すらも飲み込むほどの漆黒で周囲に広がった。だが、勇には周囲の状況がクリアに見える。
勇は全力で駆けた。右も左もわからず、ただただ延々と走った。宝具の効果が消えてもずっと走り続けた。
気づいた時には日は昇っており、目の前には近くの町が広がっている。
周りにホルダーの気配はない。
勇「た、……助かった……」
地面に吸い込まれるように、勇はその場に倒れこむのだった。
―――
そして現在
政明「結局、6年経ってもこの宝具の使い道は分からずじまいだ。アンノウンフェスティバルだわ」
j『フフフ、そういえばあの時持っていかれた宝具はどこに行ったんだろうねぇ』
政明「んなもん、あの【盗賊】が持ってるだろ。
まあ、結奈が死んだ後に最初に触った奴が所有権を持つからな。ワンチャン、あの気絶したガキが持ってるかもな」
j『結局【巫女】の称号はどうなったんだい?』
政明「知ってんだろ。俺の能力は触った奴を他のホルダーの能力から守る。
つまり、殺した奴から能力を奪う【盗賊】の能力は無効化するが、【巫女】の能力はそうじゃない。今頃は、結奈のガキに渡ってんだろ」
ガキ――いやミクのことは何度か探してみたが、結局見つかることはなかった。
政明(まあ、俺に見つかってないってことは、他の奴らにも見つからねえだろ)
政明「とにかく、今の俺は潤沢な資金がある。そろそろ、クラウンゲームに集中してもいい頃合いだ」
j『【解析者】を探すんだったね。アテはあるのかい?』
政明はクローゼットから外行の服を取り出し着替え始める。
現在の時刻は午後10時。村はすっかり静かになる時間だ。
政明母「政明ー! なんかあんた宛に手紙来てるわよー」
訂正、どうやらそんなことはなかったらしい。
母のもとへ行くと差出人不明の手紙が渡された。
政明母「これ差出人がないけど誰からか分かる?」
政明「……あー。最近、近所のガキが封筒たくさん貰ったから手紙書くとか言ってたわ。ありがたく頂戴」
j『そんなこと言ってないだろう?』
jの声を無視し、政明は手紙をポケットに入れる。
政明母「あら、その恰好……今からどこかでかけるの?」
政明「いや。明日朝早く出かけるからコーディネートを考えてただけだ。じゃ、お休み。スリーピングフェスティバルなんで」
しれっと、玄関から靴を取ると、政明は二階へと戻る。
そして、家族が寝静まったのを確認した政明は、由美を連れ去ったレリウス国の王都に向けて出発するのだった。
j『そういえば、政明君に聞きそびれたことがあったねぇ。君は何のためにクラウンゲームをしているんだい。復讐のため? 強くなるため? それとも仕方なく?』
政明(……復讐なんて無駄なこと考えるわけねぇだろ。強いて言うなら――趣味だ。普通じゃできないクソゲーが楽しめるんだ。やらないのは損だろ)




