23 懐かしの二人
咄嗟の判断だった。ユキ君が口を開こうとしたのと同時に7時の方向に2人のホルダーの気配を感じた。
どうやらあちらも私に気づいたようで、一瞬動きが止まる。距離的に、まだユキ君は半径50メートルに入っていない。
結奈(ごめんねユキ君)
【虹のルーレット】を持ったユキ君の腹に、私は思い切り蹴りを入れ、彼を対岸に蹴とばす。
結奈「逃げて!」
ユキ君はとても頭がいい。これだけで、彼には伝わるだろう。
地面に転がりながらも彼はすぐにその場を脱出し、気配が消えた。50メートル離れてないのに消えた気がするが、今はそんなことどうでもいい。
??「やあ、久しぶり。といっても、結奈君の神社に乗り込んでから3日ぶりですね」
少し高い声でボクに語り掛けてくる声を聴き、ボクは後ろを振り返る。
結奈「……そうだね。それにしては、初めて会う子がいるみたいだけど」
暗い川のほとりでボクの目の前に現れたのは、気品のある佇まいの女性と中学生くらいの男の子だ。
勇「……、あっ俺のことか。初めまして、勇といいます」
勇は道中で捕まえたクワガタを慌ててしまい、結奈に挨拶をした。
結奈(彼もホルダー……か。全く、なんで子供のホルダーがこんなに……)
結奈「なんの用かな? 【盗賊】さん。あと、なんでボクの場所が分かったの?」
キス「ふふっ、嫌ですね。私は【米原 キス】って名前があるんですよ。あと、ここが分かったのはこの子のおかげですよ」
キスは勇の頭に手を置くと、無造作に撫でる。
キス「それに用は分かっているでしょう。あなた達巫女の一族が100年以上かけてため込んだ宝具を全て私に譲ってくれるだけでいいんですよ」
結奈「そんなこと言って、ボクの称号も盗る気じゃないの?」
『どうでしょうね?』、とでも言いたげに舌を出して彼女は笑う。
キス「結奈君が宝具を全部持ってるのは分かってるからね。夫ちゃんみたいに死なないうちに、早く出してくれない? じゃないと、君の子供もどんな目に合うかな」
下卑た笑いをたたえながら、キスは一歩一歩近づいてくる。
だが、その歩みを止めたのは意外な人物だった。
勇「……ちょっと待って。キっさん、さっきから何の話してんの? 【巫女】に大事なものが盗られたから、探すのに協力してくれって話じゃなかったか?」
彼女の左手を掴みながら、勇は疑問をぶつける。
それに対し、キスは少しも動揺することなく、簡潔に答える。
キス「ああ、全部嘘ですよ」
勇「はぁ? ……そんなの協力するわけが――」
すべてを言い切る前に、キスは勇に首トンをして気絶させる。
キス「騙される方が悪いんですよ」
気絶した勇を地面に放置し、キスは結奈に迫る。
結奈「……分かった。宝具は全部あげるから、ボクと娘は見逃してくれ」
【漆黒の布】と【無色のコンタクトレンズ】が入ったカバンを指で示しながら結奈は白旗を上げる。
キス「あー……ごめんなさい! なんか、むかつくからやっぱり結奈君の称号もくれない?」
直前で勇に制止されたことに対し少し腹を立てたキスは屈託のない笑顔で条件を変更してきた。
結奈「そ、そんなの認められるわけ……」
キス「大丈夫! 君の子供には手を出さないよ。欲しいのは君の称号だけ」
結奈「信用できないね。それに、今宝具の所有権はボクにある。本気を出せば――」
キス「それは無理でしょ。結奈君はこんなにピンチな状況にあって宝具を使おうとしない。
使えない効果なのか、使い方が分からないのか、それとも使ったらなにか不都合があるのか。真意は知らないけど、結奈君にこの状況を覆すことはできない」
明確に確実に、死が近づいていることを理解し結奈は嫌な汗が背中を流れるのを感じた。
結奈(……【漆黒の布】を使えば逃げ切れる可能性がある。でも、ここで使えばキスはこの山全体を捜索する。そうなればユキ君まで危害が及ぶ。それはダメだ)
政明「ちょっと待て!」
どうしようもなく手詰まりなこの状況で、聞こえるはずがない声が結奈の鼓膜を叩いた。




