21 時は少し遡り
政明「……おっ、マネーフェスティバルだな」
指定の口座を確認し、しっかりと振り込まれていることを確認した政明は、静かに笑いながらショッピングに興じる。
j『それ、聖女を売った金だろう? よくそんな金で買い物ができるね』
由美が連れ去られ、一か月がたった頃、政明はパソコンを前に真剣な顔をする。
政明「ちげぇよ。俺はそれなりに金を持ってる。あと、少し静かにしてろ。大槻のおっさんが帰ってくる前に必要なものを買っとく必要があんだよ」
最低限のスペックをもつパソコンとグラボ、デスクトップと俺の仮拠点として目をつけていたアパートの契約を済ませる。
政明「これで次からは住居侵入せずに済む。あとの生活必需品はあっちでいいな」
j『なんだい? 政明君、君は中学生ながらに引っ越すのかい?』
政明「……あ? んなわけねえだろ。ただの拠点づくりだ。これからクラウンゲームを本格的に攻略するにはどうしても拠点がいる。そのために借りてんだよ。学校はあいつらと一緒のとこだ」
毎晩、隣町まで走ることになるが体が成長すれば20分ほどで往復できるはずだ。
j『フフフ、やっぱり君は面白いね』
このタイミングで引っ越したら怪しまれる、という理由のなにが面白いのか。
政明「そうかよ。それより、俺も早めに仲間や他のホルダーと協力関係にならねえといけねえ」
j『アテはあるのかい?』
政明「そうだなぁ……。ま、【解析者】だな。こいつの使い道を知らなきゃ勝ち残れそうもないからな」
いいながら、俺は子供の頃に【巫女】から受け取った宝具【虹のルーレット】を眺めるのだった。
―――
あれは、俺が小学1年生の時だ。
当時、クラウンゲームのことを嘘だと思っていた俺は意識的に脳内にいるヤバいやつの声を無視していた。
そんな俺だが、当時は家族みんなで遠出することが好きだったのでいとこや親戚のおじさんたちと一緒に山へキャンプに行くことが多かった。
川で取ったテナガエビを焼いて食べたり、早起きしてクワガタ取ったり、まさにキャンプフェスティバルを満喫していた。
そんな青春輝く俺の小学一年生夏のキャンプで、彼女に出会った。
政明父「おーい、火を熾すためにために山で小さな枝を集めてくれー」
政明「枝の長さは3センチくらいでいいか?」
政明父「……政明、お前いつからそんな口悪くなったんだ?」
政明(……生まれつきだ)
ススキのように着火しやすいやつも一緒にと頼まれ、俺は山の中を散策した。子供なので、もちろん大人と同伴しなければならないのだが、ホルダーになり身体能力が向上しているので、上手くかいくぐって一人で散策する。
政明「……よし、ススキフェスティバルだな。これだけあれば、みんな俺を褒めるだろ」
服を袋のようにして、大量のススキと枝をゲットし、意気揚々とキャンプ地へ戻る。
j『君、口は悪いけど意外と子供っぽいとこあるよね』
なんか、また変な奴が脳内に沸いたが無視して移動する。あと、そもそも俺は子供だ。
j『それにしても、すごい量だね。父君も驚くんじゃないかい?』
政明「……! そうだろう」
まだ子供だった俺は、思いがけない相手から唐突に褒められ、少し舞い上がってしまう。
そして、ちょうどその時が川を渡るところだった。
ところどころに突出している岩に飛び乗り、向こう岸へと渡るはずが、油断したせいで姿勢が崩れる。そのはずみで、ススキが少し零れた。
政明「……っあ、ヤバ!」
その零れたススキで足を滑らせ、俺は川に落ちたのだった。
落ちた川は想像よりも深く、そして早かった。
いくら身体能力が上がっていようと、中身は泳ぎ方も知らない小学生。
政明「……っが、オッ! …………た、助け……ゲホッ」
足がつかない感覚と、上手く呼吸できない状況は簡単に政明をパニックに陥れた。
j『おやおや、少し謀っただけですが、意外と小学生というのは張り合いがありませんね。まさか、少し褒めるだけで溺れるなんて。鈍くさい子です』
諸悪の根源は、脳内で高笑いする。
j『川に落ちた時は、無駄に手足を動かさずに浮かぶのが正解ですよ。なのに、あなたは無理して岸に上がろうとするから体力をなくして溺れる。まあ、もう聞いてないようですが』
肺に水が入り、意識を失った政明は、そのまま下流へと流される。
j『今回の宿主は意外と早く終わりましたね。前回の【裏切者】は26まで生きていたというのに……』
早速、次の宿主を探そうとjは称号を回収しようとする。そこに、予想外の気配を感じとった。
j『これはこれは……。なんという偶然――いや奇跡! 面白い展開になってきそうですね~』
jは笑いながら、流される政明に泳ぎ寄る【巫女】を観察するのだった。




