20 介護必須の王子様
クラウンゲームにおける称号とは、常人にとって様々な利益をもたらす。
身体能力が増加するのはもちろんのこと、宝具の使用も可能となるし特殊能力だって備わる。
だが、クラウンゲームにはそれとは真逆――ホルダーにデバフを与える称号が2つ存在する。
タクト王子が得たのはそのうちの一つ。その効果は一人で食事もできなくなるほど、全ての身体能力が究極的に低下するものだ。
ゆえに本人の口から称号の名前が言えないほど劣化した体をたとえ、称号名を【劣等者】と仮呼称している。
この称号の逸話は数多くあるが、一番有名なのは国最強の騎士の話だろう。
かつて、東の国にいたという最強の騎士はありとあらゆる敵をなぎ倒し名実ともに最強であった。だが、ある時この称号を得てしまう。
それ以来、近所の子供のチャンバラで骨折するほど弱くなり、最後はベッドから落ちて死ぬという笑えない最後を迎えているのだった。
―――
私は、ベッドで力なく横たわる王子を呆然と見ていた。
今の彼には、食事や排せつ、さらには寝返りなど下手な老人よりも手間のかかる人間と化していた。
そのすべてに面倒を見ている私は、焦りと……少しの喜びを感じていた。
今の彼の現状は決して芳しくない。私も仕事があるので誰かにこの役目を任せることになるだろう。それは、彼に会う機会が少なくなってしまうことを意味していた。それは少し寂しい。
しかし、それとは別に予定されていた【聖女】との婚約もなくなったのだ。国に仕える軍人としてはあるまじき考えだが私はその結果に安堵を覚えてしまっていた。
「広瀬元帥、そろそろ会議の時間です」
目の前の彼は、力強い目と瞼だけを動かしながら行けと伝えてくる。
静香「ああ、今行く」
そっと閉じられたドアを見たタクトは心の中で自身を笑っていた。
タクト(ハハッ……。なにやってんだ俺。こんな年寄りみたいな介護までさせて、最強になんかなれるわけないじゃねえか……)
静香の気配が50メートル外に出た途端、俺は自虐をするのだった。
満足に動かないと分かっていながらも、諦めきれずに腕を動かそうとする。だが、まるでお前のものじゃないとでも言わんばかりにピクリとも動かなかった。わずかに動いたのが小指だけだ。
その事実に、何度目かの涙が零れる。
タクト(結局、静香には悪いことをしたな。いまや会話もろくにできない俺につきっきりで。それに告白だって……)
タクト「…………」
タクト(さて! もう十分に弱音も吐いたし、さすがにやるか!)
俺は昨日から考えていたことを実行しようと、なんとか首だけを少し上げた。そして少し毛布団が捲れたところで頭を元に戻す。そして、すぐに頭をあげる。
そう、今やっているのは簡易的な腹筋だ。
過去の逸話から、どうやら先人たちは子供たちとチャンバラするくらいは動けていたらしい。ならば、俺ができないはずがない。
タクト(死んでも歩けるようになってやる!!)
いまだ諦めきれない最強への道と静香のために、俺はまた少しずつ筋トレを始めるのだった。




