19 結婚はギャンブル
タクトの背中には嫌な汗が流れた。
色々と理由はあるのだが、一番は今の状況が変わってしまうことだろう。
タクト「……つまり、俺がそいつと結婚して国に引き入れるってことか」
小島「はい。もちろん子供も作って頂きますのでご了承ください」
タクト「……俺、そういうのはちょっと興味ないというか……。嫌なんですが」
率直に意見を述べるが小島は眉一つ動かさずに答える。
小島「あなたに拒否権はありません。この結婚はこの国の未来を左右するといっても過言ではないのです。【聖女】の力如何で国益は変動します。あなたも一国の王族ならば国のためにその身をささげるべきかと」
タクト「だとしても、俺より適任がいるだろ。【新】とか」
腹違いの弟の名前を出すが、小島は頭を横に振る。
小島「アラタ王子はクラウンゲームのことをご存じではありません。いかに王族であっても情報統制は行われています。今、この国でクラウンゲームについて知っているものは限られた者だけです」
タクト「でも……」
小島「失礼、そろそろ時間ですので私は行かせていただきます」
敬礼をした後、小島は国章の描かれた車に乗り込むと、そのまま夜の闇に消えてしまった。
タクトは思わず静香の方を見る。顔には出ていないが、いつもより明らかに険しい顔をしていた。
静香「…………では王子、私は仕事がありますのでこれで」
俺の追いつけない速度で走り出した静香は、そのまま見えなくなる。
タクト「どうすりゃいいんだよ……」
古山「王子、どうしたんですか? 浮かない顔して。学校でなんかされたなら俺らで何とかしますよ!」
いつもの模擬戦の合間に、古山から心配の声が届いた。
タクト「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
内海「ははぁ……さては恋の悩みですか? 高校生なんて女性関係が複雑ですからね。もしかして広瀬元帥のこと好きになっちゃいましたか?」
野村「俺らが相談に乗りますよ。高校生の悩みを聞かせてください」
タクト「みんな……」
タクト(ったく! いい仲間がいてよかったぜ)
タクト「実はかくかくしかじかで……」
―――
タクト「――っていうことがあってさ。俺、結婚したくないんだけどどうすればいいと思う?」
古山「……いやちょっと、思ったよりも重い内容で混乱してるからちょっと待って」
なぜか皆こそこそ集まって話し合いを始める始末。
野山「すいません! 俺らじゃいい方法が思いつきませんでした!」
何のための話し合いだったのか問い合わせたいところだが、まだ言いたいことがありそうだったので、俺は黙っておく。
内海「ですが一応、心の整理というか王子に後悔のないような選択をしてほしいという結論になりました」
タクト「?? つまり、城の中で暴れて何事もなかったことにしろってことか? さすがに宝具を持った静香は勝てないんだけど」
内海「いえ、全く違います。
まあ、簡単にいえば独身の内に遊んでおけっていうことですよ。妻子ができると思うように遊べなくなりますからね。小島総司令が戻ってくるまで数日かかるそうですし女遊びとかしといた方がいいですよ」
タクト「……な、なるほど」
だが、俺はここである疑問を抱いた。
タクト(……なんで俺は結婚したくないんだ? 面倒な人間関係ができるのは嫌だけど、最強になるのにそこまでの障害じゃないしな)
むしろ、早めに結婚しておけば貴族たちの勢力争いからも抜けることができる。そこまで悪い話ではないのか?
でも、いざ結婚するとなると少し拒否感が出てくる。それに、なぜか静香の顔がチラつくのだ。
古山「なんにしても、一晩しっかり考えてみてください。まだ時間はありますから」
タクト「そうだな!」
―――
翌日の昼、静香はいつもの校舎裏に来ていた。
タクト王子は先に弁当を食べているのだが、昨晩のことがあり、少し話しかけづらい。
だが、彼が結婚してしまえばこうして会うこともできなくなってしまうのは明らかだった。
静香「こんにちは王子。隣、失礼します」
なるべくいつも通りに話しけるが、王子は少し緊張した面持ちで箸の手が止まる。
タクト「お……おはよう」
静香「その、昨日の話なのですが……」
タクト「ああ、覚悟は決めたよ。多分女の子が生まれるまで子作りを強制させられるだろうけど、今後の国と民のためならやるしかない」
改めて言われると、やはりショックが大きかった。
結局、何も言えずに別れることになってしまうがここで、私が何かを言ってしまうと王子に迷惑がかかってしまう。だから、なるべく笑顔で返事をする。
静香「ご立派です。おそらく、こうして会うのも難しくなってしまうでしょうが、陰ながら、最強になれることを祈っています」
タクト「いや、まだ言いたいことがある」
そういうと、タクトは弁当をベンチの上に置き、私の前に立った。
タクト「……静香、俺はこのままの関係で終わりたくない」
静香「……と申しますと?」
タクト「俺は、できる限り全力で静香を支えて助けあっていきたい。もっと長く一緒にいたいし、終わりまで隣にいたい」
静香は心臓がバンバン鳴っているのを感じた。頬が赤くなってるのが分かり、必死に平静を保とうとする。
タクト「静香……俺は静香のことがす……」
そこまで言った辺りで、タクトは地面に倒れこんだ。急に力が入らなくなったかのように、受け身も取れないまま地面に吸い寄せられる。
静香「お、王子!? 大丈夫ですか? しっかりしてください」
倒れたまま、動かない王子に急いで駆け寄り抱き起す。
王子の顔には血が流れていた。仮にもホルダーである私を圧倒した王子が地面に転んだだけで頭から血を流しているのだ。
そしてなにより私を困惑させたのが王子の体のことだった。
静香「な、なぜ王子がホルダーになっている?」
今この瞬間、【菅原 拓斗】が称号を授かったのだ。




