15 望まれず生まれた王子
俺の生は、絶望から始まった。記憶にはないが、俺の性別を知った国のお偉いさんは心底残念そうな顔をしていたらしい。
俺が望まれない子供だと知ったのは6歳のころ。トイレに出かけようと広い城の中を歩いていたころ、父たちと臣下の会議の声が聞こえてきた。
タクト「ん? なに話してるんだろう?」
少し扉を開け、中の声に聞き耳をたてる。
父「まったく、あの女がいないせいで外交も上手くいかん。本当に使えん女だった」
臣下「全くです。しかも、生まれた世継ぎも男とは、いったいどれだけ我々を困らせれば済むのか」
父「ああ、あんな使えん奴が息子だとは思いたくもない。俗にいう、子供ガチャ爆死といったところか」
『はっはっはっは』、と周りにいる臣下とともに父は高笑いをする。
俺は、絶望した。
確かに、いままで親からの愛情を受けたことはなかったが、それは国王という立場上仕方のないことだと割り切っていた。だが、恐らくこれが本音なのだろう。
タクト「……よし!」
それが分かった瞬間、俺は扉を思い切り開け唖然とする父や臣下の視線を浴びながら部屋の中央にある机に向かった。
臣下「お、王子。こんな遅い時間に出歩くのはよくないですよ。ささ、すぐにお部屋にお戻りに――」
俺に手を伸ばしてきた臣下の腕を払い、机の上に登り、父の前に立ちはだかる。
父「その顔。お前、聞いていたな?」
別にどうでもいいことなのだろう。父はグラスに入ったワインを飲む。
父「分かってると思うが、お前は不要な存在だ。わかれば、なるべくその面を私の前に見せるな。実に不愉快だ」
父はグラスの中のワインを回しながら、つまみを食べる。俺は、そのグラスを思い切り蹴り、中身を父にかける。
父「なっ、貴様……!」
タクト「俺は、ものじゃない! 見てろ、俺がこの国で最強になって、いつか、ここにいるお前らを見返してやる!!!」
しっかりと父の目を見据え宣言する。
父「あまり、笑えない冗談を言うなよ。おいお前ら、こいつを一週間牢に入れておけ」
後ろに控えていた衛兵たちが俺を捕まえる。必死に暴れるが、鍛えた大人には勝てず、そのまま連れていかれる。
父「よかったなあタクト。俺が優しくなかったらお前は勘当されていてもおかしくないぞ。まあ、クラウンゲームに情報が漏れないように監視してるだけだがな」
父の高笑いを、唇を噛んで聞きながら俺は牢にぶち込まれる。
タクト「クソ!! やってやるよ」
早速、俺は腕立て伏せを始める。
俺が何の抵抗もできずに負けたのは、俺が弱かったからだ。もっと強くなって周りにいる衛兵くらいやっつけられるようにしなければいけない。
衛兵1(古山)「あの、タクト王子。少し聞いてもいいでしょうか」
10回やっただけで息を切らせる俺に、父の警護をしていた衛兵が声をかけてきた。見れば、他の衛兵や牢の管理人までいた。みな、かなり若い部類だ。
タクト「なんだ?」
古山「その、なんで王子はそこまで頑張れるんですか? 俺、実は王子が扉の隙間から覗いてたの、気づいてました。でも、きっと音も立てずに部屋に帰って泣くもんだと予想してました」
周りの兵士も頷く。
古山「でも、王子はあろうことか部屋に入って、あんな宣言をしました。なんで、あのまま帰らなかったんですか? そうすれば、牢に入れられることもなかったでしょう」
タクト「そんなの、俺もわかんねえ。でも、あんなこと言われっぱなしは嫌だった。だから、別に深い考えはない!」
大きな声で宣言すると、俺はまた腕立てに戻る。今度は15回が目標だ。
古山「あの、王子。初めての腕立て伏せは10×5セットでとにかく長く継続する方が効果的ですよ」
タクト「なに、そうなのか」
感心した俺の顔に気を良くしたのか、古山以外の衛兵もいろいろと教えてくれる。
野村「腹筋は完全に起き上がらせると腰を痛める原因になります。ですから、ここで――」
有本「筋肉を増やすにはタンパク質が不可欠ですが炭水化物など、バランスよく摂取するのが大切ですよ」
内海「筋肉を休ませるのも大事ですよ。超回復というものが――」
結局、みんなが言ってくれた助言をノートにまとめる
タクト「皆、ありがとな。早速やってみる」
古山「問題ありませんよ。それより、俺たち、タクト王子の力になれることが嬉しんです。正直、国王様に啖呵を切ったときの王子、めっちゃかっこよかったです。俺たち、できる限りのことは協力するつもりです!」
タクト「そうか。じゃあ、俺が強くなったら模擬戦とかしてくれよ」
古山「喜んで」




