11 jとの出会い
そいつと話したことは今でも覚えている。あれは確か生後半年の頃だ。
まだ上手く口を動かせず辟易していた時、突然夢の中にジョーカーが出てきた。
見た目は、トランプに書かれたピエロを黒くしたような奴だ。
そいつはまず、体をくねらせながらお辞儀をしてきた。
j『こんばんは坊や』
政明「だれだてめぇ?」
j『私の名前はジョーカー。気軽にjと呼んでくれ。というか口悪いね』
政明「お前は見ためが悪いな」
j『……さて君は対話が成立脳みそを持ってるね』
政明「ああ。お前はそもそも脳みそがあるかすら疑わしい見た目だな」
j『…………。じゃあ、いじわるなジョーカーから意地悪な質問だ。君という人生、物語が映画になった時、君のラストはどんなシーンになるかな。さあ、理由も含めて答えてね☆』
政明「はあ? んな前提条件もないような質問……」
j『制限時間は俺の独り言が終わるまで。
私はね、君みたいな赤ん坊の夢の中に入ることができるんだ。そして俺は、生後6か月の全世界の赤ん坊の夢の中に入ってこんな質問をしてる。
君みたいに子供の内から考えられる子は少ないから意外と時間はかからない。それに、子供の時の夢だ。大人になったらみーんな忘れる。
で、私が質問を君たちに課してどんな答えが来るのかを聞くんだ。子供の発想力は無限大だからね~。とっても楽しい答えがたくさん帰ってくるんだ。
過去の解答例を挙げるなら、お姫様になってお城で幸せに暮らす、とか新しい物語を作っていく、なんかがあったね。
面白いでしょ。まだ生まれて半年なのに、ここまでラストに大きな差が出るんだ。
さて、雑談はここまでだ。どうかな君の答えをきかせて欲しいね』
政明「……どうもなにも、俺が死んで終わりだ」
j『へえ、随分と淡々とした終わりだね?』
政明「そんなもんだろ。人生の終わりは誰もが死だ。面白さなんていらねぇ。
ただ死ぬ。
お城のお姫様も、新しい物語を生む奴も全員死ぬんだよ」
jは少し黙りこくり、クックックと笑い始める。
j『そうかそうか。その発想はなかったな。確かにそれもお題に沿っている。いや、むしろ沿いすぎているくらいだ。
君、その年でかなり老骨な答えを出すね』
さぞ、面白かったのだろう。鼻歌まで歌いだしている。
j『いいでしょう少年。君は今からとあるゲームに【裏切者】として参加してもらう。なに、心配はいらない。ルールは起きたら君の頭の中に出てくるだろう。じゃあ、またね☆』
次の日から俺はホルダーとしてクラウンゲームに参加することになった。厄介なノイズも添えて。
j『おやおや。もしかしてそれは私のことを言ってますか?
いいじゃないですか。君はこの力のおかげで毎日の畑仕事も楽ちんで、あのお嬢さんに嘘を見抜かれることも、ホルダーであることもバレずに済んでいる』
政明「そこが問題なんだよ。正直、嘘を吐かない素敵な男の子っていう烙印は面倒でしかない。まあ、そんなたられば言ってる場合じゃねぇ。早くどこかに売り飛ばさねぇと」
どうやら由美とかいう女は重いタイプの女だったらしい。
別にそれはいいが、付き合ってもいない男の子に対してもヤンデレをするのはお門違いだ。
正直、毎日起床したらベッドに由美がいたり、血液入りの弁当を用意したり、発信器を俺に取り付けようとしてるのは狂気の沙汰としか言いようがない。
j『国に売ろうってのは、飛躍しすぎじゃないかな?』
政明(とりあえず、今日も定刻になったら連絡をいれるか)
今のところ、こっちの足がつかないよう連絡はついているのだが、それでも時間がかかりすぎる。
j『それにしても、君もたいがい人でなしだよね。幼馴染の女の子を売ろうっていうんだから』
政明「寝ぼけたこといってんな。俺はここよりも安全な場所に由美を連れて行こうと思ってるだけだ。
今のところ情報料は3億で手を打ってるが、まあよくて2億ってとこだな」
最近、(大槻家で勝手に借りてるパソコンで)メールのやり取りしている相手の反応を思い出しながら具体的な見積もりを出す。
政明(まあ、ホルダーの情報だけでここまでくれりゃあ十分。なる早で来るよう指示しておくか)
肥料を散布しながらそんなことを考える。
j『ねえ、僕は最初、君という人間をとてもどう評価していたかわかるかい?』
政明「興味ない」
j『現実主義、というのが第一印象だよ。でも、今の君は違うらしい』
政明「別に、それは間違ってねぇ。俺は自分の限界や許容量を判断して、決断してる」
j『ハハハ。それじゃあ、君の行動と矛盾するな。君は友達である、彼女を国に売って大金を得ようとしている。まさか、国にホルダーとして管理してもらう方が現実的だと?』
政明「まさか。由美にとって一番の幸せは最後の一秒までこの村で平和に生きることだ」
j『そうだろう。なら、どうしてそんな幸せを壊すことを?』
政明「……何か勘違いしてるみたいだな。俺は由美のことを友達とも家族とも思ったことはない。ただの腐れ縁の幼馴染、それがあいつだ。そんな奴のために、覚悟を決めるのは俺には無理だった。それだけだ」
大体の肥料をまき終え、俺は家に入る。まだ5月に入ったばかりで少し暑いので、麦茶を飲みながら外を見る。
j『君、彼女の気持ちに気づいてるんでしょ?』
政明「jはストーカーに心が動かされんのか? つまりそういうことだ」
絶対そういうことじゃない、と内心で突っ込みを入れつつjは何もいわない。
政明「さて、レリウス王国からはどんな人が来るか」
俺は、由美の家付近の地面を注視しながら自室に戻るのだった。




