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98-迷宮

 迷宮は、国から国への通路。


 海で隔たれた国と国を唯一繋ぐ通路である。


 ただし、ただの通路ではない。途中には、魔物も出るのだ。


 そして、ダンジョンとの大きな違いは、ひたすら洞穴である。迷路のような洞穴に、魔物との戦い。大抵の人は、途中で諦める事になる。ただし、気を付けなければいけない事があった。帰り道さえ、わからなくなるのだ。


 そのため、通常はガイドを雇う。ガイドはギルドの所属となり、完全な成功報酬である。そうでなければ、裏切りや悪事をはたらく者が現れるからであった。


 そこまでが、基本的な話だ。本来、ガイドを付けずに迷宮に入る馬鹿はいない。


 道をわかるものが居なければだ。



 

 「マスター、こっちです。そっち行くと魔物の巣があるようです。そんな話をしてましたから」


 「念の為にマークを付けとくから、待ってね」


 俺は木槌を取り出して、壁を叩いた。これで、普通では見えないマークが付いたことになる。通称マーカー・ハンマーである。帰り道対策だ。時々、壁を叩いているのは、そのせいだ。


 「行きは勿論、帰り道も覚えてますよ、マスター」


 「念の為だ。帰りは、サリーに頼めば、一瞬のはずだ。だから、あくまでも念の為だ。よし、ここもオッケイだ。先を急ごう」


 「この先に、少し広い所があります。でも、油断しないでください。魔物が集まってますから」


 少し行くと、確かに広い所に出た。中央に泉があるだけだ。魔物は泉に集まっていた。


 魔物は、オーガの群れだった。


 「こっそりと通り抜けるのは、無理そうだな」


 「ええ、私達は見つかりませんでしたから、すぐに通り抜けることが出来ました」


 3人は、宙に浮きながら、話を進めた。


 「ここは、先手必勝だね」

 そう言うと、俺はレイガンで、魔物達を撃った。


 5体くらい倒した所で、敵も気付いたようで、こちらに向かって走って来た。


 辿り着くまでには、俺が一掃しておいた。


 ダンジョンと同じで、魔物は地面に吸収される。俺は素早く、魔石だけ抜いていく。肉はいらないので、放置だ。あっという間に地面に吸収される。


 「壁際で、俺達も休憩するか」

 

 小さな家の模型を取り出すと、目の前に投げる。


 ポワン。


 模型の家が、急速に大きくなった。


 「マスター、何ですか、これ?」

 大きくなった家を触りながら、シンクが聞いてきた。


 「ポケットハウスだよ。普段は小さな模型だけど、設置したい所に置くと普通サイズの家になるんだ。頑丈だから、少々魔物達に攻撃されても、何とも無いよ。まあ、中に入って、休憩しよう」


 「はーい」

 3人の妖精は、アリスの開けた扉から、入って行った。


 アリスもひとつ持っている。少し前に、ダンジョンの宝箱からゲットしたものだ。アリスは、影の中で使うらしい。影の中は、何も無いから、暇なんだと。


 中は、1LDKで、トイレとシャワー室が付いている。アリスのには、シャワーではなくて、お風呂が付いているらしい。


 とりあえず、お湯を沸かしてお茶を淹れる。妖精用に小さなカップを用意しておいた。もちろん、茶菓子は必須である。今回は、クッキーだ。


 時折、壁を叩く音がする。魔物の攻撃によるものだ。壊れることはない程頑丈だが、音だけはどうにもならない。五月蝿いのだ。寝る時には、見張ゴーレムが必要かもしれないな。

 


 寝る前に見張ゴーレムを2体作成して、周囲の警戒をお願いした。


 それ程、五月蠅かったのだ。眠れやしない。


 けれど、ゴーレムに警戒させたら、すぐに静かになった。


 お陰で朝までグッスリだった。



 「おはよう」


 アリスはまだ眠っていたけれど、手を挙げて、反応した。寝覚めが良くないからなあ。でも、すぐに目を覚ますはずだ。


 ゴーレム達の様子を見る為に、外に出てみた。


 すると、どうだ。魔石が山になっていた。見張ゴーレム、ふたりで倒したのだろう。返り血を浴びて、2体とも、真っ赤である。いったい、どれくらい倒したのだろう。


 魔石をマジックボックスに仕舞うと、ゴーレム達に御礼を言っておく。誰であろうと、感謝は大事である。


 ポケットハウスに戻ると、アリスはやっと目覚めていた。妖精三人衆は、部屋中をクルクルと回っていた。準備運動らしい。


 作り置きのパンと簡単なスープを作って、みんなで食事をした。


 部屋を片付けると、外に出て、ポケットハウスを元の形に戻す。ゴーレム達もカードにして、収納した。さあ、準備もできたし、前進だ。



 一度、シンク達は通過しているせいか、迷うことなく前に進んだ。


 魔物達との遭遇も少ない。どうやら、迷宮内の魔物蜂と仲が良いらしい。色々と情報を貰って、進んでいるせいで、魔物に会わないようだ。今は、出来る限り戦闘は避けたいのでちょうどよい。前進する方が優先だ。


 時々、遺跡のある広場に出る。調査したいが、またにしようと思う。調査を始めてしまったら、2、3日は籠もってしまいそうだ。青の国の件が終わったら、ゆっくり遺跡調査に来たい。


 他には、何も無かった。本当に、迷宮である。


 ダンジョンのように、広い森に出ることもない。洞穴が続くばかりだ。アリスなんか、俺の影で寝ていると来たもんだ。俺も寝ときたいのに。影に潜る能力がないし、この洞穴では、タートル君は狭くて出せない。自分の足で歩くしかないのだ。


 〈前からオーガです。10体の群れが来ます〉


 「シンク、下がってて。オーガが来るらしい」


 「わかりました」


 左右の壁に散るシンク達。


 駆け出す俺。


 レイガンで、一気に撃ち倒す。


 連発だ。


 オーガに襲われることもなく、通過する。


 〈暫く敵はいません〉


 魔石だけを抜くと先を急ぐ。


 〈今度は、ガーゴイルです。気を付けてください。今は石像の振りをして、動きを止めています〉


 両脇に、2体ずつ、片膝で座っている。


 〈何か、弱点はないの?〉


 〈動かないうちに、叩き割るだけです〉


 荒っぽ過ぎないか。


 仕方なく、俺は高速で近づいて、首を刎ねて行った。


 呆気ない終わり方である。


 魔石を取って、先に進む。


 「マスターには、逆らわないようにしようね」

 妖精たちは、こそこそと話し合っていた。そんなに鬼畜なことはしていないと思うのだが。やられる前にやるだけなのだよ、君達。


 

 そんなこんなで、やっと出口に近づいてきたようだ。


 「マスター、あの扉の先が、出口だよ。魔物が出ないように、二重の扉になっています」


 「わかったよ。お前たちは、俺のマントにでも隠れていてくれ。通行証を見せて、出れるかどうか、確認した。手を出したら、駄目だよ」


 妖精たちが隠れたのを見計らって、扉を開ける。6畳間くらいの広間があって、その先に、ふたつめの扉があった。妖精たちが言っていたのは、あれだな。


 ん?広場に入ると、視線を感じた。何かの方法で、こちらを覗いている様だ。


 〈覗き窓が天井にあるようです。四隅に隠ぺいされた窓があります〉


 気が付いていない振りをして、もうひとつの扉を開ける。


 そこは、まるで闘技場であった。反対側に檻で閉ざされた通路が見える。


 「前来た時には、檻は開いていましたし、兵士が何人と、通王証を見る係のような人たちがいましたよ。あの時と雰囲気が違います。何かあったのでしょうか?」


 すると、左側の壁が急に開いて、中から2体の魔物を連れた目つきの悪いやつが出て来た。


 〈マスター、あれは魔人もどきですね。目つきの悪い奴に対して、とても従順です。本物の魔人であれば既に飛び掛かっていると思われます〉


 ここは、当たって砕けろですね。


 「よくぞ、青の国に入らっしゃいました。私は、門番係のカシウと言います」


 「私は、女王様より預かりました品をアンデ王女様に渡すように頼まれたものです。アンデ王女様とのお取次ぎをお願い申し上げます」


 男は、さらに目つきが悪くなった。


 「それでしたら、申し訳ございませんが、お取次ぎ出来ません。王女は悪い病に掛かりまして、今は誰ともお会い出来ません。そういうわけですので、お帰りください」


 おいおい、病なら通信にくらい出るだろう。出れない状況に居るという事が確定です。


 「おお、それでしたら、私は良い薬を持っております。白の国の蘇芳会の方々からも、良い薬であるというお墨付きを戴いておりますので、ぜひ王女様に会わせていただけませんか?」

 嘘八百である。


 「お墨付き、ですか?」


 「ええ、その話をする予定でしたが、急に何処かに行かれたようで、お会い出来なくなりました。残念です。こちらには、蘇芳会の本部があると聞いております。ぜひ、そちらもご紹介いただけませんか?」


 「その話は、本当ですかな?信用するのは。突拍子もないような気がするのですが」


 「それでしたら、どなたか、試験台になっていただける方はいらっしゃいませんか?」


 カシウと名乗るものが、手を上げると、先程開いた箇所から、ひとりの兵士が現れた。片腕の無い兵士である。おどおどして、覇気がなかった。


 「こいつを練習台にしてください」

 そう言うと、カシウは腰の剣をいきなり抜いて、残っているもう片方の腕をいきなり斬りとばした。


 兵士は、悲鳴を上げた。血が飛び広がる。


 俺は、やれやれと、回復薬を取り出すと、兵士に無理やり飲ませた。腕が無いので、口に流しいれる。


 すると、斬られた腕が生えて来た。さらに、遅れて、無かった腕も生えて来た。傷口は消えて、何事もなかったかのように、本来の姿に戻った。


 驚く兵士。否、カシウと横の魔人もどき達も、その変化に茫然としていた。


 「これは、凄い。凄い薬です。これがあれば、何処の国とも戦える・・・。いえ、こちらの話です。申し訳ありません」


 カシウの態度が一気に変わった。


 まあ、そうなるよね。


 「それでは、王女様に会わせていただけますか?」


 「ええ、会見の場を用意いたしましょう。とりあえず、こちらへ、どうぞ」


 カシウに誘われるままに、俺は開かれた壁の中に入って行った。中に入った所で、妖精たちは散って行った。こちらの仲間にコンタクトを取ることと、こちらの情勢をより詳しく知るためである。隠蔽用のマントも渡してある。何とかなるだろう。


 「こちらです。私に付いて来てください。王の元にお連れしましょう」


 いきなり王の所とか、カシウは何者だ。もしかして、上位の人間だろうか。話は早いに越したことは無いが、少し心配になった。まあ、様子を見るしかないだろう。影の中には、アリスもいるし、いざとなれば・・・暴れましょう。


 サリーが位置を把握しているだろうから、転送してもらうのもありだな。迷宮を通らなくとも、こちらには来ることが出来るのだから。




 あの後、豪華な馬車に乗せられて、お城に連れて来られた。


 城壁が高く、巨大な門から入って、そのままお城に向かった。


 王城の前で降ろされると、迷路のような城内を移動して、大きな広間に通された。


 「私が、青の国の王レオである」


 声の主は、中央の背の高い椅子に座っていた。


 〈あれは、本当の王ではありません。偽物とは言いませんが、この国を乗っ取った者かもしれません。部屋の外には兵士が大勢集まっております。何かあれば、捕まえる気満々かと〉


 さて、どうするかな。対応を間違えると、面倒臭い事になりそうだ。あえて、踏み込むのもありかな。窓から逃げる事も出来そうだし。


 〈普通のものより厚い作りになっておりますので、レイガンで割ることをお薦めいたします。椅子を投げたくらいでは、割れません〉


 テレビの見過ぎだ。いつ観たんだ?


 「王様が代替りされたのですか?前回来させていただいた時と、違うのですが。どなたですか?」


 


 


 


 



 


 やっと青の国です。

 お楽しみに!

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