95-揺れる大地
「サリー、どんな状況だ」
「今のところ、動きはありません。アリス様の塔で確認した方が、よろしいかと」
俺はアリスを連れて、隣の塔に移った。中央のソファに座って、様子を見る。ここで、慌てても仕方がない。
「アリス、状況を確認してもらってくれないか」
「いや、四神を呼びましょう」
アリスの声が聞こえたのか、四神は中央に集まって来た。円形のソファに全員が腰を下ろす。
代表して、ジコクが話をするようだ。
「マスター達が帰ってくる少し前に、大地が震え、移動を開始したようです。一度大きな揺れがありましたが、特に影響は出ておりません。白の国の民は、何事もなく生活しているようです。一度しか揺れておりませんし、気にしていないだけなのかもしれません。青の国も、今のところ動きは見られませんが、あちらは揺れていないので、気づいていないだけかと思われます。以上が、現在の状況となります」
「他に気づいたことはない?」
アリスが、自分の部下となる四神に、問いかける。
「青の国に最も近いのが、ルイーズ領になりますので、何かしら、対策が必要かと。実は、竜樹が最も少ない土地になりますので、万が一を考えて、守りを固める必要があろうかと思われます。青の国の魔獣に対しての備えが必要かと」
ゾウチョウのいう事も、もっともであった。
さて、どうしたものか。
「アリス、みんなに警戒を続けるように頼んどいてくれ。俺は、女王の所に行って来る」
「レイが直接、四神に命令すればいいわよ。そのための組織なのですから。それに、私が間に入ると、ややこしくなるかもしれないから。レイ、お願い」
「わかったけど。みんなは、それでいいのか?」
みんな、大きく頷いている。どうやら、納得済みのようだ。
「それじゃあ、王都に行って来るよ」
時代は、一度に走り出したようだ。難しいことにならなければ良いのだが」
俺は王都の屋敷に戻ると、女王に一報を入れて、お城に向かった。アリスも一緒だ。
「レイ、待って居ったぞ。いったい、何があったというのじゃ」
いつもの落ち着いた女王ではなかった。流石に焦っている様だ。
「落ち着いてくれ、女王よ。今から、話をする。出来れが、四天王も同席してもらいたい。あとスノウもだ。居るか?」
女王が兵士に目で合図を送ると、すぐに部屋を出て行った。
「待っている間に、少し話をすると。白の国が、青の国に引っ付いたのだ。大陸が動いて、青の国とひとつになった」
「もしや、不入山の影響か」
「ビンゴ。当たりだ」
「さて、みんな集まったことじゃし、話を始めようかの。とは言え、レイに話してもらうだけじゃがの」
俺は一通りみんなの顔を見て、口を開いた。
「一言でいうと、白の国と青の国が、引っ付いた。大陸が移動して、ひとつになりました。それは、見て確認しておりますので、事実です」
「あの揺れがそうか」
宰相のナポリオンだった。
「そうです。あの揺れは、大陸が動いたことで起こったものです。大した揺れではありませんでしたので、何処も被害はなかったはずです」
「そうか、後で確認しておこう」
「それが良いかと」
「被害が無かったのならば、何の問題もなかったのでは?」
ルイーズ伯爵だった。
「問題はひとつです。陸続きになったので、青の国に直接行けるという事です。迷宮を通らなくても、行けるという事です」
「良いことでは、ないのですか?」
「それ自体は良いことかもしれませんが、大昔の様に、攻めて来ないという保証はありませんよ」
「それは問題じゃのう」
ジェームズ侯爵が腕を組んで考え込んでいた。
「ちなみに、青の国に最も近いのは、ルイーズ領になります」
「やはり、そうですか」
ルイーズ伯爵は、頭を抱えている。
「レイよ、どうすれば良いと思う。何か、策があるのであろう」
流石に女王である、お見通しか。
「壁が必要かと」
「結構な距離があるのではないのですか?すぐには、出来ませんよ」
フランソワ侯爵のいうことに、みんな同調する。それはそうである。国境に壁を作るのだから、当然だ。俺が、居なければの話である。
「レイ、お前なら、出来ると申すか」
「俺、まだ、何も言っていませんが」
「言ってないだけじゃ。出来ると顔に書いてある」
いつ、書いたのだろう、不思議だ。
「出来ますが、作っても問題ありませんか?門は、作りますがね」
「頼む。褒美は、欲しいものをやろう」
「そんなもの必要ありませんよ。俺は、国を守るように頼まれていますから」
「ん?誰に、頼まれた?」
俺は、天を指差した。
みんな、首を傾げている。笑っているのは、アリスだけのようだ。ああ、スノウも口の端が上がっていた。
「それと、青の国の動向が不明です。アンデ王女と連絡が取れません。何か、嫌な予感がするのですが」
「攻めて来る可能性があるという事でしょうか?」
ルイーズ伯爵が立ち上がって、叫んだ。
「可能性です。あちらは、まだつながったことに気づいていないようです。大陸が移動したのは、こちらの大陸だけのようですから。準備だけはしておいた方がよろしいかと」
「わかった。ジェームズよ、防衛軍を派遣するよう、準備しなさい」
「わかりました」
嬉しそうに見えるのは、きっと気のせいだろう。戦闘狂のせいではないと思いたい。
「あとはお願いします。俺は、国境に壁を作って参ります」
それだけ言うと、俺はアリスを伴って、部屋の外に出た。
「私も行きます」
それは、スノウだった。
「仕方ないか。付いておいで」
早く終わられて、天空城に帰ろう。
「着きましたよ、マスター」
俺たちは、タートル君に乗って、国境沿いまで来た。昨日まで、海だった場所だ。
大地に降り立ち、周囲の様子を調査する。
今の所、変わったところはない。
メガミフォンを取り出して、建築アプリを立ち上げる。
某国の長城みたいな城壁がいいかな。高さは5メートル。魔獣に備えて、高さが必要だろう。幅は3メートル位欲しいな。人が歩けて、すれ違える幅は欲しいからね。所々に塔を建てよう。昇降するための階段は必要だ。
白の国からも、魔獣が来るから、二重にする必要があるそうだ。ふたつの城壁の間は、少し距離を取ろう。そのうち、間の空間で、人が住めるようにする必要があるかもしれない。今後の課題だな。
それと、門だな。大きいのをひとつ作っておこう。
城壁の前には、堀を設けておこうか。これは、青の国側だけで良いはずだ。水は、海から流れるようにすれば、不足する事もないだろう。
範囲は、国境全て。
〈この設定で間違いありませんか?〉 はい / いいえ
勿論、はいを押す。
目の前の大地から、城壁が生えてきた。
「タートル君、様子を見に行くよ」
のしのしと、歩いて来たタートル君に、3人で乗り込む。
「北から見て行こうか。端まで行ったら、南に向かうよ」
「わかりました、マスター」
1メートル程、浮かび上がると、北に向かう。
「タートル君、城壁の上を飛べるかい。そうすれば、両方見えるんだが」
「わかりました」
ふわりと、さらに浮かび上がると、城壁の上に乗る。1メートルくらいの位置を上手く飛んで行った。
白の国のこの辺りは、竜樹が多いようだ。元々、国境だったのかもしれない。伸びるように、竜樹が続いていた。落ち着いたら、門までの道が欲しいな。
青の国側には、あまり竜樹が生えていないようだ。大地は黒ずんでいる。女神の話だと。大地の浄化のために、竜樹が生えているはずなんだが。
やはり、いい印象はないなあ。
北は、やはり海に出た。海水が掘りを流れていく。
海を回れば、こちらに来れそうだが、この荒れようでは無理だ。しかも、巨大な魔獣がウロウロしている。海に出るのは、やはり無理だな。
「このまま、南下して行こうか。タートル君、お願いね」
くるりと、Uターンすると、南に向かって、飛んだ。
「今度は、少しゆっくりと進もうか」
「レイ、青の国は、かなり変だよ。魔獣が1匹も見えないもん」
「アリス様の言うとおりですね。動いているものがいませんよ」
「黒ずんだ大地のせいなのか、それとも、他に何か理由があるのか」
三人は、黙り込んでしまった。
〈あの黒ずんだ大地は、燃やしたもののようです。根っこらしいものが、所々に残っています。それに、黒いのは炭のようです。燃やした後には、何も生えて来なかったようですね〉
誰が、何の目的で、何をしたかったのだろう。
分からない事が多過ぎる。謎の国だ。
「ん?あそこに、何か居ないか?」
あの姿は・・・。
〈どうやら、エメラの仲間かと思われます。あれは、進化後の妖精です〉
「アリス、影を通って、あの子達を保護出来ないか?」
少し考えてから、
「うん、何とか出来そう。少し、待っててね」
その場で、影に沈んで行く。
俺は妖精達に視線を移すと、見逃さぬように観察した。
暫くすると、妖精達が、不意に消えた。後には、何も無い。
行く時と同じ様に、急に影から、姿を現す。
「助けて来たけど、この子達、ヤバいよ。傷だらけだし、翅も千切れて無いの」
俺はテーブルにタオルを敷いて、この子達を置いた。
回復薬を取り出して、先ずは身体にかける。すぐに、傷は消えて無くなった。擦り傷から切り傷まで、全て消えたようだ。そこで、口に当てて、飲ませる。少しでも飲めば変わるはずだ。
3人のうち、1人が目を覚ました。
「レ、レイ、様、助かった、ので、しょうか?」
「ああ、3人とも元気だよ。お前達は、迷宮で、蘇芳会の連中を追って行った者達か?」
「はい、そうです。追いかけて、青の、国まで・・・」
「少し黙っていなさい。話は、後で聞きましょう。今は、休む事だ」
俺達は、3人の身体を拭いて、俺の部屋に連れて行って、ベッドに寝かせた。3人には、大き過ぎるだろうが、今はこれが精一杯だ。
「南は、また後で見に行こう。まずは、この3人を天空城に連れて帰ろう」
「その方が良いですわね」
「その子達は、レイに頼むよ。南も、今見ておかないと、後で何かあったら大変だから、私がこのまま見て来るよ」
「それでしたら、私もお供いたしましょう」
どうやら、スノウも一緒に残ってくれるようだ。
「わかった。アリスとスノウは、このまま見回りを続けて欲しい。この子達を預けたら、すぐに戻って来るよ。よろしく頼む」
メガミフォンで、籠を作ると、タオルを敷いて、3人を寝かせた。
「サリー、俺を捕捉出来るか」
〈問題ありません〉
「このまま、転送してくれ」
俺は籠を抱え込んだ。
〈了解です〉
霞のように、俺は消えた。
次回に、続く、です!




