91-竜宮城への水路
「アリス、大剣は修理しといたけど、出来れば《闇一文字》を使って欲しい。使えば使うほど、成長する太刀のようだ。何処まで成長するか、見てみたい」
アリスは、大剣を仕舞って、《闇一文字》を取り出した。
抜くと闇の雫が舞い落ちた。床に落ちると、跳ねてから消えた。黒い刃に闇を纏っている。
太刀を振ると、闇の雫が残像となる。
「中々の名刀なの。軽いけど、当たる瞬間に重量が増すなの。自分に跳ね返る訳では無く、当たるものに重量が流れていく感じなの」
なるほど。ある意味、俺の《光一文字》と同じだ。後は、戦いの中で、どう変化していくのか、それが知りたいと思う。
使えば使う程、強くなる太刀。不思議な刀だ。
だが、そうなると、レイガンが使い難くなる。そこで考えたのは、指輪だ。指輪から光弾を出せる様に改造した。指輪を嵌めた指を伸ばして、対象に向けるだけで、光弾を放つ事が出来るのだ。光弾は対象に当たると、染み込んで爆発する。強力な武器だ。まあ、普段はレイガンで問題ない。弱い敵にまで《光一文字》は、必要ないだろう。
同じ物をアリスにも渡してある。違う所は、光弾ではなく、闇弾だ。対象に当たると、染み込んで爆発する。似たような武器である。
攻撃面は、これで問題ないと考えている。
問題は防御面だ。今のまま変えるつもりはないが、気が付かないところからの攻撃だけは、躱しようがない点だ。ティンクみたいな事になるのだけは、勘弁して欲しい。そこで、防御用の玉を飛ばすことを考えた。8個の玉が自分の周りをグルグル回って、攻撃が飛んで来ると、玉が当たりにいって、守るようなシステムだ。攻撃の必要はない。ただ防御に徹するのだ。
普段は、首数珠で、何かあれば、それぞれが俺の周囲を旋回しながら、防御していくのだ。攻撃を吸収したり、弾いたり。攻撃の邪魔をしないようにするのが難しいけれど、自分の魔素に反応しないようにするだけで済んだ。
これも、俺とアリス用を作った。俺達は魔力を持たないので、同じシステムでいけるからだ。
これで、準備は出来た。天空城に飛んで、アリスに説明しておこう。竜宮城には、それからになるだろう。
「ここが、天空城だ。ひとこと言えば、空飛ぶダンジョンだな」
俺は、初めて、アリスを連れて来た。
「バトルスーツは、ここから転送される仕組みだ」
俺達は、塔の最上階に来ていた。勿論、サリーも同伴している。
「初めてお目にかかります。私が、御主人様のパートナーのサリーです。天空城にあるダンジョンのマスターをしております」
「あなたが、サリーさんですか、なの」
「何処かで、お会いしましたか?」
首を振るアリス。
「ただ、聞いていましから、なの」
サリーは微笑みを浮かべていた。俺には、さっぱりわからないのだが。それでも、ふたりは手と手を取り合って、握手をしていた。
「サリーと呼んでも、良いですか?」
「ええ、私も、アリスと呼ばせていただきます」
以前から、その存在を知っていたかのようである。どう言う事だ。
「サリーにお願いがあるの。この塔の隣に、もうひとつ塔を作って欲しいの。そこで、地上を監視させたいから。地上のエメラ達とネットワークを組んで、常に情報が得られるようにしたい。出来るかしら」
「任せてなさい、アリス」
サリーは、目の前のコンソールパネルに向かって、キーボードに何かを打ち込んでいる。チカチカと点滅するディプレイ。軽く大地が揺れた。
俺は、窓から、外を眺める。自分たちのいる塔の横に、もうひとつ塔が地面から迫り上がって来た。ひとまわり小さい様だが、これでツインタワーになった。
さらに、キーボードに打ち込み続けると、壁側に扉が生まれた。
「あの扉から、隣の塔に行けますよ」
アリスは頷くと、扉を開けて、入っていった。
「あれ、アリスの話し方が変わったね。成長したのかな」
「もう隠す必要が無くなったということではないですか?」
「大人である自分を、ですよ」
サリーはさらりと言うが、俺には理解出来ない。どういうこと?
アリスは、コンソールパネルの前に立って、キーボードを打ち込んだ。残り三方にも、コンソールパネルが現れた。中央には丸テーブルにソファだ。テーブルには、ノートパソコンみたいなものが置いてあった。
「四神達、出て来ておくれ」
アリスの背後に、四つの影が出現した。次第に輪郭がはっきりとしていく。
「長かったですなあ。やっと出番ですか?」
「これで、思い切り暴れる事が出来そうですね」
「私はこちらを使いましょう」
各々がパネルの前に立ち、作業を始めた。
「アシスタントが欲しいですね。ひとりでは、限界がありそうです」
「わかりました。アシスタントの件は、レイに頼んでおきます」
問題は色々とあるが、少しずつ改善していきましょう。どうやら、小さいながらもダンジョンがある様ですから、訓練にもちょうど良いでしょう。
「正確には、もう少し先だけど。準備は必要よね。ちょうどいい場所も確保出来たから、ネットワークを構築していこうかと思うの。四人は、それぞれで、対応してくれるかな。ここも使っていいわよ。私は中央のテーブルを使うから」
「レイ、お願いがあるのですが」
後のことは、四神に任せて、アリスは戻って来ていた。
「アシスタントになる者達が欲しいのです。私の手の者4人にひとりずつ付けたいのですが、どうでしょうか?」
「ああ、問題ないよ。すぐに造るとしよう」
俺は、2階の作業部屋に足を運んで、すぐさま作業に取り掛かる。
ジャイアント・スパイダーの魔石をゴーレムと合わせよう。
メガミフォンを取り出して、ゴーレム作成アプリを立ち上げる。
〈アシスタント・ゴーレムに、魔石を合成しますか〉
もちろん、はい、を選択する。床に魔法陣が浮かび上がる。そこに、魔石を置いて、魔素を少しだけ注入すると、魔法陣に変化が現れる。
魔方陣に魔石が沈む。あたかも魔法陣が魔石を食っているが如く。さらに、魔法陣が縮んで、四つの玉になった。玉は無地から虹色に変化していき、四つの玉が螺旋になりながら、浮かび上がり、爆発した。白い煙が辺りを包み、収まる頃には、4体のゴーレムが背中合わせに立っていた。
「名前は、アリスに付けてもらおう」
俺は4体のゴーレムを連れて、3階に戻った。
「出来たぞ、アリス。後は、こいつらに、名付けをして欲しいんだが」
アリスの前に立つ4体のゴーレム。
「それじゃ、右から、キノ、キヨ、アシ、アサでいく」
その瞬間、4体のゴーレムが光輝いた。眩しいながらも、光の向こうで、4体はそれぞれの形を変えていた。
光が収まると、そこに立っていたのは、姿の違う4体のアシスタント・ゴーレムだった。
大喜びのアリスは、4体を連れて、自分の塔に戻って行った。
俺は、サリーと今後のことを相談した。
「アシスタント・ゴーレムを造ってもらったから、それぞれで選んでくれる?」
ジコクはキノ、ゾウチョウはキヨ、コウモクはアシ、そしてタモンはアサを選んだ。何だか、面白い組み合わせだ。
ここは、暫く放置ですね。四神の方で、上手くやってくれるだろう。アシスタントもいるし、問題ないよね。
「サリー、2階に部屋を5つ作りたいのだけど」
サリーは、何も言わずに、笑顔でタブレットを渡してくれた。
「あちらの塔は、そのタブレットで、改造出来ます。何をしても、こちらの塔には影響はありませんので、思い切り改造してください」
渡されたタブレットのスイッチを入れてみた。色んなアプリが入っている様だ。
「存分に力が振るえますね」
何をしようと思っているのだか。
「そろそろ、竜宮城に行くよ、アリス」
「何ですか、それ?」
「昨日までは立入禁止区域。今日からは立ち入れるはず、多分」
「面白そうですね」
アリスの目が輝いていた。興味津々なのか。
「サリー、玄武を呼んでくれるかな。一緒に行こうって、誘うから」
「わかりました」
言うか、言わないうちに、目の前に玄武が現れた。転送して、連れて来たようだ。訓練中だったのか、両手に鉄アレイを持っていた。心なしか、筋肉が増えている様に見えた。
「おーお、いきなりなんじゃ」
「竜宮城に行こうと思うから、一緒にどうかなと思って呼んでもらったんだ。訓練中だったみたいだね、ごめんね」
「最近運動不足でな。鍛錬してたとこじゃが。ちょうど良いわい。着いて行くぞい」
「会った事ないだろうけど、こっちはアリス。俺の仲間だ」
「ほほー、かなり出来ると見た。よろしく頼むのじゃ」
「こちらこそ、よろしくね」
「サリー、東のダンジョンまで、転送してくれるかい」
「了解しました、御主人様」
俺達は、転送用の魔法陣の上に載った。玄武は小さくなって、俺に頭の上に腰掛けている。アリスも、とても楽しそうだ。ただ、遊びに行く訳ではないのだが。
魔法陣に載ると、サリーの合図で、身体が下から消えて行く。見てる分には気持ちが悪い。本人達には、何の影響もないので、わからないが。
東のダンジョンの外れに出現した俺達は、すぐさま、ダンジョンに潜って行った。
いきなり海だった。以前と変わってる?
〈変化型のダンジョンかもしれません。毎日階層が変化するため、冒険者に嫌われているダンジョンです〉
「わざと変化させている可能性はないの?」
〈水の中を進んで行くタイプかと思われますので、あえて潜らせないようにしていると思われます〉
「そうだよね。普通の冒険者には、水の中は進めないよね」
俺は、バングル型のマジックボックスから、アリゲーター・ゴーレムを取り出した。
こんなこともあろうかと、造っておきました。背中に透明な丸いコブがあるので、そこを開けて乗り込む。俺が前で、アリスには後ろに乗ってもらう。運転したいと言っていたが、後ろの席は攻撃が出来ることを話したら、喜んで乗り込んだ。
「出発するよ」
内部は、空気があるが、念の為、オキシガムを渡しておいた。噛んでさえいれば、呼吸に困ることはない。当然予備も渡しておく。
アリゲーター・ゴーレムは、深く深く潜って行く。
〈下への入り口は中央の底にあります。魔物は、ジャイアント・シャークと、ヤンキーピラニアです。ジャイアント・シャークは文字通り巨大なサメです。ヤンキー・ピラニアは、サングラスを掛けた魚です。顎が強いので、噛まれたら、千切れるまで離しません〉
すると、もうヤンキー・ピラニアの大群が襲って来た。
俺はアリゲーター・ゴーレムの口を開けて、ピラニアを食っていった。食うと、肉と魔石に分解される。魔石は取り込み、肉は冷蔵用のマジックバック行きだ。魚には違いないのだから、食べれるはずだ。
大量に出現するが、こちらは口を開けて、取り込むだけなので、苦労はない。
食べ終えた頃に、ジャイアント・シャークがやって来た。
「アリス、出番だよ。目から矢が弾のように撃てるから、操縦桿で、目玉を動かして狙ってね。操縦桿に付いているボタンが、発射ボタンだからね」
「わかりました。やってみます」
アリスは嬉しそうに、操縦桿を握った。
「おまえさん、色々と面白いものを作ったのう。面白い御仁じゃ」
玄武は呆れているようだ。
「撃つから、シャークに向かってください」
目の前の液晶パネルから、目線で相手を確認できるから、狙い易いと思うのだが、どうだろうか。後で、アリスに使い勝手を聞いておく事にしよう。
アリスは狙いを定めて、矢弾を撃った。水の抵抗に負けない様に、潜水艦のようにスクリューを付けてある。勢いは衰えずに、ジャイアント・シャークに大当たりだ。的も大きいので、よく当たる。
5発程度撃つと、腹を上にして浮いていった。俺は、何回かに分けて、噛み砕いて、飲み込んだ。肉と魔石に分けていく。
そんな戦いを何度か行った後、下に行く穴を見つけた。
俺は、そのまま突っ込んで行った。
真っ暗な通路を抜けると、やはり水中だ。
これって、絶対に冒険者には無理だと思う。
さて、この階は、何が出てくるかな。
〈前から、ハサミ・ホエールです。全長30メートルくらいあるでしょうか。下からは、オクトパス・シュリンプです。引っ付いたら離れませんので、気をつけてください〉
だが、うちのアリスに狙われたら、逃げられないようだ。アリスの撃つ矢弾が面白い様に当たる。その都度、食って行かなければならないので、面倒くさい気分だ。タコとエビだから、味は気になるところだ。
お陰で、オクトパス・シュリンプの方は、片が付いたようだ。
問題は、ハサミ・ホエールである。ハサミの付いた腕で攻撃してくるのだが、ホエールにはハサミは付いていないぞ。今は、何とか躱しているが、そろそろ怪しくなって来た。ハサミの動きが良くなって来ている。俺たちの動きに慣れて来たようだ。
こちらも、奥の手を使うと使用。かなりの自爆技だ。
アリゲーター・ゴーレムの指先をドリルに変化させる。水中で海底探索用に考えていたのが、役に立ったようだ。
腕を伸ばして、身体全体で回転を始める。まるで、スクリューのように。そして、そのまま口の中に突っ込む。アリスには矢弾を撃ちまくってもらっている。腹の中だから、かなりこたえているはずだ。
お腹の中が、血の海だ。
俺達は、そのまま、貫通して、お尻から飛び出した。
「恐ろしい攻撃を考え付いたものじゃ。わしの腹に穴が開いたらと思うと、ゾッとするわい」
そう言って、玄武は肩をすくめた。
ハサミ・ホエールの肉と魔石を回収すると、再び潜っていく。
〈次の階に、竜宮城があります。すでに、兵士が並んで、我々を待ち構えているようですので、気を付けてください〉
頷くと、ゴーレムを底にある通路に飛び込ませた。
さあ、決戦だ。
仕事が忙しくて、ヤバい状態です。
申し訳ありませんが、空くかもしれません。
次回まで、お待ちください。




