9.白の国の周辺の探索
「ギルドカードは便利だなあ。何も言われずに通して貰えたもんな」
「でも、これから、どうするなのー、レイ」
門から少し離れた所で、タートル君を取り出した。
「この辺りの散策をしようかと思ってる。今日はもう遅いし、宿はまた明日探すとして、今夜はタートル君でも良いだろう」
「様子を見るのは賛成なの。早く行くなのー」
「それじゃあ、行くか」
ふたりでタートル君に乗り込んだ。
道なりにノロノロと歩くタートル君の前方の窓から眺める。
最初は、城の人たちに付いて行くことしか考えていなかったから、あまり外の景色を見る余裕がなかった。
二度目だからか、色々と考えながら、見ることが出来ていた。
馬車が二台通れるほどの道には、竜樹がトンネルの様にアーチ化していた。大型の魔獣は無理だが、小型の魔獣ならば通れろうだが、竜樹が嫌なのだろうか。
竜樹の森には、所々に普通の森も存在するようだ。森自体結構な広さがあるように見える。葉の形が違うから、そのことがわかる。竜樹の森が針葉樹とするなら、その森は広葉樹だ。
よく目を凝らすと、木々の合間に、牛に似た魔獣や、蛇に似た魔獣が見える。
ああ言う奴って、物語の中では、だいたい食用だよね。家畜を育てているような場所はなかったようだし、こいつらを捕まえて食べるのかな。それも、ギルドの仕事なんだと思う。
「アリス、あの牛みたいな魔獣、捕まえて来てよ。僕は、あの蛇みたいな奴を捕まえて来るから」
「わかったなのー」
そう言うと、アリスは猛烈ダッシュで出て行った。
「心配だから、ティンクも一緒に行ってくれ」
「お任せを」
光の残像がアリスの後を追った。
「ティンクも来たなのー」
「心配だからと、レイ様に言われまして」
「レイは心配性なの」
そう言いながら、アリスは大剣を構えた。
「左斜め前から、来ます。五本の角を持つ雄牛クイノタウルスです。全長が三メートルくらいあります。角には、要注意です」
「了解なのー」
アリスは木の影に沈んだ。同時に、クイノタウルスの身体の表面に映る木の葉の影から姿を現すと、首目掛けて、大剣を振り下ろす。
それは、あっという間の出来事だった。
クイノタウルスの首と身体が離れ離れになっていた。
「流石ですね、アリス様」
「実力なのー」
アリスは、クイノタウルスをマジックバックに仕舞った。
「帰るなのー」
「私、付いて来る必要ありました?」
ティンクは頭を傾げた。
蛇の魔獣、ジャイアントオロチは、全長十メートルくらいあった。胴回りもかなりの太さだ。食いごたえ有りそうだ。
マジックバックから刀を取り出す。街中では、邪魔になるから、仕舞っていた。
柄の根本に赤い丸い玉を取り付ける。
「さて、お前の力を示せ」
刀が赤く染まり、焔のような形状に変化した。
まずは、一閃。
大蛇はうまく交わしたように見えたが、ひと筋の火傷跡が残った。傷口から、血が噴き出す。
悲鳴を上げるジャイアントオロチだったが、すぐに尻尾を振り回して、攻撃して来た。
「シールド」
パリンと割れて、尻尾を跳ね返す。
すかさず、懐に飛び込むと、二閃。
目の後ろ辺りを、斬りあげる。
頭が飛んでいく。
焦げた臭いの切断跡。
頭を無くしても、胴体は暫く動いていた。
胴体の残撃に巻き込まれないように、後ろに跳ねて、距離を取る。
同時に、ブランクカードを投げる。ブランクカードに吸い込まれる大蛇だったもの。ブランクカードは、そのままレイの手元に戻った。
「流石に一筋縄ではいかなかったね」
大きいってのは、それだけで武器になるよな。
タートル君に戻ると、アリス達も戻っていた。
「どうだった?」
「大きいだけで、大したことなかったのー」
「そっちも大きかったのか。この森の魔獣は、どんだけ大きいんだか」
運転席に腰かけると、ティンクがお茶を持って来てくれた。
「この森をもう少し散策しようか」
「賛成なのー」
歩けそうな所を選んで、タートル号を進ませる。魔獣が大きいせいか、獣道と思われる所があって、結構広い。森をあまり荒らさない程度に進ませる。
たまに見つかる薬草を回収しつつ、前進する。
「アリス、出番だよ」
魔獣が見つかると、アリスに丸投げだ。俺は薬草の回収で手一杯だ。
「あれは、ゴブリンですね。低い身長に緑色の肌で、赤い目が特徴ですね。棍棒が主な武器ですが、なかにハイゴブリンが混じっていると、剣を使うものもいますので、そこは要注意です」
「わかったなのー」
「ティンクは同伴して、様子見ね」
「またですか」
「はい、またです」
嫌な顔をしながらも、アリスの後を追うティンクなのだった。
そんなことを続けていると、池に出た。湖にしては小さいかな。違いがよくわからないけど。
池の周りには、竜樹が生い茂っていた。まるで、池から出て来る敵から身を守るかのように。
「嫌な池なのー」
アリスには何となくわかるのかな。
「このまま池に入ってもいいけど、念のため、ゴーレムに行ってもらうかな」
メガミフォンと取り出して、アプリを開く。
天界の一年で貯めたポイントと女神様のくれたポイントが、たんまりとあった。
早速アプリを起動させる。
水中用ゴーレム 使用ポイント・・・1000ポイント
戦闘ランク=C
魔法ランク=B
探査ランク=A
こんなものでしょう。作成スイッチを押す。
目の前の空間が揺らぎ、一体のゴーレムが現れる。
人魚型なのか。下半身が魚だ。上半身は・・・予想通り、丸出しだ。あー、人魚と言えば、やはり女性型でした。何か、布を巻け、布を。
そう思っていましたが、人魚ゴーレムはさっそく池に突入しました。
アリスとティンクの視線が痛い。
でも、これは不可抗力です。俺のせいではありません。
暫くすると、人魚ゴーレムが戻って来た。
「この池の底に、この石の大きい物があります。それ以外は、水棲の魔物が沢山います。私では、相手を出来そうに無い魔物ばかりです」
人魚ゴーレムから手渡された石を眺める。生憎、鑑定スキルなどと言う便利なスキルは持ち合わせていない。
「何だろうな?」
ティンクも寄って来て、石の回りを飛びながら、観察している。
「何の石ですかね。わかりませんね」
腕を組んで、首を捻る。
「ティンクが分からなきゃ、無理だな。とりあえず、マジックバックに仕舞って置くかな」
鑑定装置でも作れると良いのだが。今後の宿題だな。
「人魚ゴーレムは、引き続き探索を頼むよ。ひとりで大丈夫か?」
「もう一体、付けていただけると嬉しいです」
「了解だ。すぐ造るよ」
メガミフォンを取り出して、先程と同じボタンを押す。
空間が揺らいで、人魚ゴーレムが現れた。
「ふたりで探索を頼む。何か武器が必要か?」
「いえ、戦う力はあまり無いので、何も持たず、逃げに徹します。それに、魔物達も戦闘狂ばかりではありませんので」
「了解。それじゃあ、気を付けてな。近いうちに、様子を見に来るよ」
ふたりは、そのまま池に飛び込んでいった。
「それでは、次に行きますか」
三人は、タートル君に乗り込んだ。
「今度は、池の反対側に行ってみようか」
「右回りで行くなのー」
「ああ、そうしよう」
「その前に、お腹が空いたなのー」
「だな。何か。作ろうか」
キッチンに行くと、冷蔵庫を眺めてみた。炒飯にするかな。
ご飯に、ネーギ、ヒクイドリの卵、クイノタウルスの肉。これで、作ってみるか。
魔道コンロに火を着ける。
中火でフライパンを熱したら、油を引いて、クイノタウルスのを炒める。
火が通って来たら、ネーギを入れて炒める。しんなりしてきたらヒクイドリの溶き卵を回し入れて、さらに炒める。
「いい匂いだ」
卵に火が通ったら、ご飯を入れて、強火で炒める。ここは少し力技だ。
ご飯が馴染んできたら、塩胡椒、醤油を入れて、さっと炒める。
全体に味が馴染んだら、火から下ろす。
お皿に盛り付けて、残ったネーギを掛けて、完成だ。
うん、美味そうだ。
「おーい、出来たぞー」
ふたりとも、すでに席に着いていた。
「お腹、空いたなのー」
「私もです」
スプーンをすでに持って、待ち構えていた。
ふたりの前に、チャーハンを置く。ティンクのは、少し小さなお皿だ。
「食べていいぞ」
「はい、なのー」
ガッつくふたり。そんなにお腹空いてたのかよ。
僕も食べるか。
ひと口、口に入れる。
あー、ラーメン、欲しくなるなあ。何とかして、作れないかな。米みたいに、自分で小麦粉作ろうかな。小麦の種、何処かに無いかな。米は、偶然見つけたから良かったけどな。
何処かに、自分の農園作れないかな。
この世界で、土地って、買えるのだろうか?知らないことが、多過ぎる。
考えても仕方ないか。今は、チャーハン食べよ。
「おかわりなのー」
「私も」
やべ、俺の分が無くなる勢いだ。
でも、美味いな。
結局、池を一周してしまった。三日かかったけど。
「今日は、まだ少し早いけど、街に戻って、宿に泊まるか。ここの方が、居心地は申し分無いけれど、調味料が心許なくなってきたしな。それに、今度はダンジョンに行ってみないか?」
「行きたいなのー」
「だろ。それでは、街に戻りますか」
「賛成なのー」
「ティンクも、それで良いかな」
「レイ様の仰せのままに」