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89-最後のダンジョン(前編)

 俺は、ティンクと話をした後、王都のある屋敷の秘密基地のコテージに来ている。


 「おい、そろそろ出て来いよ。居るんだろ?」


 俺は、影の中にずっと潜んでいるアリスを呼び出した。


 「ばれてたなの」


 アリスは影から出て来て早々、いじけていた。ばれていたのが、悔しかったようだ。


 「わかるだろ。影が重くなるから」


 「それがわかるのは、レイくらいなの」


 アリスは、プンスカ怒っていた。


 「俺がピンチの時くらい、出て来て手伝ってくれよ」


 「あれくらいでは、ピンチとは言えないなの」


 アリスは、俺の前のソファに座って、テーブルに置かれているクッキーを摘まんで、口に入れた。


 「飲み物は、何がいい?」


 「大丈夫、持ってるなの」

 そう言って、自分のマジックバックから、オレンジジュースを取り出した。


 「何で、俺の中に居たんだ?」


 「そう言われたなの。心配だから、付いていて欲しいって、言われたなの」


 「誰に?」

 

 「秘密なの」


 美味しそうに食べる姿に、俺は、何も言えなかった。心配だったのだろうと、勝手に判断する。アリスは、そういうやつだ。


 「それはそうと、四大ダンジョンの残りひとつに行かないか?」


 クッキーを食べる手を止めて、少し考える。


 「うん、行こうなの」


 そして、また食べ始める。


 「それじゃあ、二日後に。準備は忘れるなよ」


 「いつでもオッケイな準備はしてるなの」


 「食べ物だよ。クッキーとかケーキとか。いっぱいいるぞ」


 「それは大事なの。忘れずに準備するなの」



 それから二日後、俺とアリスは、南にあるダンジョンに到着した。四大ダンジョンで唯一踏破していない場所だ。


 北のダンジョンは、クリムがダンジョンマスターだ。


 西のダンジョンは、ダンジョンマスターはピーターがしている。


 東は、途中で追い返されたダンジョンだ。だから、正確にはまだ踏破していない。今のままでは、入れてくれなかったダンジョンだ。


 そして、南のダンジョンである。Aランク相当だそうだ。魔物が飛び切り強いらしい。そのせいで、あまり冒険者が行かないことで有名だ。強力な魔物が多い割には、出て来る宝物のレベルが低いらしい。言ってみれば、儲けの無いダンジョンという事らしい。


 儲けが無いだけで、強くなるためには最適だと聞いている。S級たちが言っていたのだから、間違いはないと思う。一緒に行きたいと言っていたのだが、今回は勘弁してもらった。理由はあるのだが、まだ仮定の段階だから、アリスにも言っていない。


 さて、足を踏み入れてみようか。


 

 いきなり、砂漠だ。みんなが嫌がる理由のひとつだ。そう、砂漠=熱いのだ。しかも、熱波に近い。俺達みたいな温度調整機能の付いた服でないと、我慢出来ないはずだ。汗だくで、水ばかり飲む羽目になる。


 隠れる所もない=日影がないのだ。下級冒険者には無理だな。


 2階への入り口は既に見えている。

 

 ちょうど真反対に入口が見えている。だが、そこに行くには、この砂漠を踏破しなければいけない。

 

 もうひとつの嫌がる理由は、これだ。


 地中から、巨大なサソリが飛び出して来た。5メートルはあるだろう。しかも、毒持ちである。

 

 俺は、アリスを手で制すると、巨大サソリの頭に、矢弾を撃ち込んだ。一撃である。こいつの体内に、ゴーレムの魔石を入れて、魔法陣で包み込む。


 光が包み、晴れると、サソリのゴーレムの出来上がりだ。これで、俺の命令を聞くはずだ。


 「アリス、上に乗るぞ」


 俺達は、サソリゴーレムに乗って、反対を目指した。これなら、砂に足を取られることもないだろう。しかも、この上から、砂から出て来る魔物を狙い撃ちできる。アリスに、以前使っていたレイガンを渡しておいた。

 

 アリスは、嬉しそうに撃っている。魔石は、サソリゴーレムが器用に鋏で摘まんで、俺に渡してくるので、楽が出来る。良いものを作ったと、自分でも関心している。


 そうこうしているうちに、反対側に到着だ。


 サソリゴーレムをカード化して、収納する。実は、途中でもう一匹作って、アリスに渡してある。ここ以外でも使う機会はあるだろうから。もちろん、アリスは喜んでいた。


 二階は、沼地だった。歩きにくいダンジョンである。これがダンジョンマスターの作戦なのだろう。知恵のあるマスターだ。


 俺は、いつものように、シールドを使って、走っている。シールドを出しながら走るから、難しいように思うが、慣れたら簡単なのだ。アリスは、俺の影に入っている。ここでは、出番がないそうだ。


 時折出て来る、怪魚もレイガンで一発だ。魔石は、面倒なので取っていない。走り方が忙しい。


 あっという間に、反対側まで来た。下への入り口は目の前にある。さあ、行こうか。


 3階は、湖だ。ダンジョン一面が湖なので、歩くところが無い。


 「どうするかなあ」


 俺は顎に手を当てて、考える。

 

 「さっきみたいに、何か捕まえて、改造するなの」


 俺と同じことを考えていたようだ。だが、そんなにうまく相手が出て来ない・・・と思っていたら、強大なワニが出て来た。こいつなら、ふたり乗っても大丈夫そうだ。

 

 俺は跳躍して、巨大ワニの頭の上に乗って、レイガンを構える。目と目の間より、やや後ろ、この辺りかな。レイガンを当てて、引き金をひく。


 死んだのを確認したら、すぐさまゴーレムの魔石でゴーレム化する。光が迸り、アリゲータゴーレムに変わっていた。


 俺達は上に乗って、反対側を目指す。出て来る魔物は、シャークアナコンダやマンモスフィッシュたちだった。タートルキングが出て来た時には、背中に乗ったアリスが、甲羅ごと貫いていた。何だか、可哀想になる。


 〈それは、マスターとアリス様が強過ぎるのです。もっと自覚してください〉

 ティンクである。何も言わないなと思っていたけど、聞いてはいたようだ。


 「わかったよ」


 「何か言ったなの?」

 

 「独り言」


 本当である。独り言なのだ。


 アリスは撃つことに集中していると思ったら、違ったようだ。どうやら、聞き耳を立てている様だ。


 ここまでは順調である。


 4階の入り口は、湖の真ん中にあった。


 跳躍して入口に入ると、アリゲータゴーレムをカード化させた。帰りも必要かもしれないからだ。


 階段を抜けると、雲の上だ。雲は歩けそうだが、雲の隙間から、落ちたりはしないよね。


 恐る恐る綿菓子のような雲の上を歩いて行くと、雲を突き抜けて、スパイダーに翼が生えたような魔物が現れた。


 〈あれは、スパイダーイーグルですね。口から粘着性の高い糸を吐きますから、気を付けてください。それに、羽根が矢のように飛んで来ますよ〉


 (ありがとう、ティンク)


 「わたしが行くなの」

 

 アリスは、俺の影に入ったかと思うと、スパイダーイーグルの影から飛び出して、首を一閃した。ポロリ落ちる首。俺は跳躍して、スパイダーイーグルの上に飛び移った。また、ゴーレムの魔石を埋め込んでゴーレム化する。


 光る身体。光が弾けると、イーグルゴーレムが居た。


 「ウオーーーン」


 身体はゴーレム化したイーグルだが、腹から脚が何本も出ていた。蜘蛛だな、この脚は。


 「このまま、反対まで飛んでくれるか?」

 

 「ウオーーーーン」 

 

 イーグルゴーレムは、旋回して、羽搏き始めた。ゴーレムになっているのに、どうやって飛行しているのか、とても不思議である。やはり、魔法だよな。風魔法かな。


 飛んでいると、スパイダーイーグルが群れになって襲って来た。


 アリスが先に動いた。


 影から影に移動しては、スパイダーイーグルの首を刎ねていく。器用な攻撃だ。


 魔石は諦めよう、首の無くなったスパイダーイーグル達は、浮力がなくなり、落ちていった。落ちているものから、魔石の回収は難しい。


 このダンジョンは、魔石の回収が非常に困難である。下手をすると、ひとつも取れないのではないかと言う気がする。だから、人気がないのだろう。



 入口は雲の上だった。俺達は雲の上に降ろしてもらった。イーグルゴーレムは回収しておく。


 あらら、階段も雲だ。降りていくと、急に、洞穴に変化した。今度は、どんな階層なんだろう。気が滅入りそうだ。


 

 5階は、草原だった。1メートルくらいの丈の高い草の生えた草原でした。何が隠れているのか、わからないから、嫌になる。

 

 反対までは、かなり遠そうだ。


 そこに現れたのは、巨大なテントウムシだった。


 〈あれはレディバードタートルですね。背中が甲羅のように硬いので、上からの攻撃は無理だと思います〉


 「あれは、わたしが相手をするなの」


 言うが早いか、アリスは影に沈んでいった。いったい何処から攻撃するつもりだろうか。下からの攻撃は得意だったはずだ。


 すると、いきなりレディバードタートルの背中から、剣が生えて来て、そこからアリスが飛び出して来た。


 レディバードタートルは、何も出来ないうちに、あの世に行ってしまったようだ。


 俺は、傷口にゴーレムの魔石を入れると、ゴーレム化させた。


 レディバードタートルは、闇に包まれて、闇は身体中に浸み込んで行った。


 レディタートル・ゴーレムの完成だ。背中は真っ赤に染まって、所々に黒い染みが残っていた。まるで七星テントウのようだ。


 アリスに、すりすりしている。先ほどまでの魔物と違って、やけに可愛い。こいつは、アリスに惚れているらしい。


 「アリス、そいつはお前にやるよ。どうやら、アリスのこと、気に入っているようだから」


 「いいのかなの」


 「ああ」


 「やったなの。レイも乗るなの。出発なの」


 アリスはレディタートル・ゴーレムの上で、ふんぞり返っていた。触覚らしきものを握って、まるで運転でもしている様だ。

 

 俺は天辺付近で胡坐をかいて、近寄って来る魔物に矢弾を撃ちまくった。


 魔石は諦めている。下手に取りに行って、草むらから、何が出て来るかわからないからだ。今度来るときは、魔石回収組が別で必要かもしれない。


 レディのお陰で、移動は楽だった。魔物達はレディの硬さを知っているのか、襲ってくる魔物はいなかった。この階層で、見た目の可愛さの割に、1、2を争う魔物だったようだ。


 下の入り口まで来たので、レディをカードで回収して、アリスに渡した。嬉しそうに、いつまでも握っていた。



 今度は、確か6階だったはずだ。


 洞穴だった。何処までも続く洞穴だ。進めば進むほどに、魔物が湧いて来る。湧いて来るのはスパイダーアントだった。


 〈スパイダーアントの吐き出す糸に絡まれたら、逃げることが難しいので、要注意です。ちなみに糸は火魔法に弱いですが、マスターは使えませんので、気を付けてくださいね〉


 俺は、壁を走ることにした。地上は、スパイダーアントだらけで、通れそうにない。


 アリスは左、俺は右だ。まず、俺から走って、注意を引き付ける。アリスは、その後だ。


 「用意はいいか、アリス」


 アリスが頷いたのを確認して、俺は走り出した。45度を駆け上がってから、そのまま水平に走る。


 落ちそうになると、シールドで角度を修正しながら、走り抜ける。スパイダーアントが糸を吐いてくるが、俺のスピードの方が速い。倒すことより、走り抜けることを優先した。


 アリスは走りながら、影に潜って、軌道を修正する。俺程の速度はないが、影を上手く利用している。


 通行の邪魔をしようと、登ってくる奴が、偶に居るが、レイガンで撃っては阻止をする。アリスの方も同じだが、影に潜っては、ワープしているため、邪魔になることはなかった。


 洞穴は一本道だった。魔物が邪魔してくる予定だったのだろうが、これでは止められない。



 何とか走り抜けると、下に行く階段を発見した。スパイダーアントが追いついてくるものも居たが、レイガンで頭を撃ち抜く。魔石を取ると、サッサと階段に飛び込んだ。


 

 6階は、広いだけのグランドだった。中央に、巨大なベアーが現れた。


 〈ストロング・キング・ベアですね。力が強く、前後に防具を付けているようです。武器は巨大な斧です〉


 「わたしが、やりたいなの」


 「構わないが、気を付けろよ」


 頷くと、ストロング・キング・ベアの周囲を回転し始めた。走った後に、黒い靄が上がり始める。次第に大きくなっていき、ストロング・キング・ベアを覆い尽くす。覆い尽くした黒いドームの横に、アリスは立っていた。


 「闇潰し」


 アリスの声を合図に、闇のドームは、急速に縮んで行く。ドームから球体に、球体が更に縮んで、バスケットボール程度の大きさに縮んで、最後には弾けた。そこに、ストロング・キング・ベアの姿はなかった。魔石さえ残さず、消滅した。


 「強力過ぎて、魔石も残らないなの。この技は、お蔵入りなの」


 「まあ、いいじゃないか。宝箱は出てくるだろうから」


 光が中央に集まって、光は宝箱に変わった。


 「宝箱が3つもあるなの」


 〈マスター、気を付けてください。真ん中は、罠です〉


 「アリス、真ん中は開けるな。おそらく、トラップだ」


 宝箱に手で触れようとして、アリスは手を引っ込めた。


 「両サイドは、問題ないはずだ。開けてみてくれ」


 俺はカードを投げて、トラップボックスを回収する。そのうち、何かで使えると思う。


 アリスは心置きなく、宝箱を開けた。ひとつは、鉱石だった。もうひとつは、ブーメラン?だった。


 「二つとも、レイにあげるなの。上手く使って欲しいなの」


 「わかった。調べて、キチンと利用しよう」


 俺達は、ここで、ひと休みして、再び階下に向かう事にした。さっきのお礼に、チョコレートケーキを出したら、とても美味しそうに食べてくれた。実は新作だ。カカオやコーヒー豆が収穫出来るようになったのだ。



 アリスの口の周りが、チョコレートだらけになっていた。今は、秘密にしておこう。


 「さて、行きますか」


 俺達は階段を降りて行った。


 




 

 



 

 いつもありがとうございます。

 次回、ダンジョン編は、後半に続くー。

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