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88-幾つかの結末

 流石に、悪魔化した化け物と、相手をするとこちらの傷跡が途切れない。


 バトルスーツを着装したい所だが、街中で着装するわけにもいかない。このままでは、攻撃に押されて、倒されるのが目に見えている。

 塀を越えるのも有りだろうが、着いてくるかどうか、心配だ。


 周囲の人達は、フランマが逃してくれたようだから、建物を壊すくらいで済むはずだ。人的被害が出ないのであれば、着装するか。


 「どうした、どうした。もう終わりか」


 相手を調子に載せてしまったようだ。


 斬りかかっては離れての繰り返しだ。近接戦は、まずい事に気づいたようだ。貫通した脚も、すでに修復している。離れてしまえば、避ける自信があるのだろう。攻撃も当たらなければ、意味がないからね。


 しかも、向こうは空中移動が可能だ。移動速度も早く、視覚が追い付かない。


 油断すると、目の前に居る。そうなると、こちらも躱すのがやっとである。



 「レイ様、大丈夫ですか?」

 みんなを避難させて、フランマが戻って来た。心配してくれているようだ。


 「離れていてください。巻き込まれたら、危険ですから」


 だが、クラウスはそれを許してくれなかった。逃げるより早く、フランマに向かって、飛ぶ。


 大きく振りかぶって、斬りつける。


 フランマは、ギリギリの所で、剣を取り出して、受ける。が、威力が違い過ぎた。フランマは後方に吹き飛んだ。


 おそらく普通の剣だったら、剣ごと斬り裂かれていたかもしれない。吹き飛ばされた勢いで、転がって、壁にぶつかって、止まった。


 「凄い威力なんだけど。・・・レイ様、私は大丈夫です」


 俺は、回復薬をフランマに投げて渡した。


 「よく頑張ったね」


 フランマが、サムズアップした。何とか、大丈夫のようだ。


 「ほう、その剣は、優れ物のようだな。俺の剣を受け止めるなんて、有り得んからな。流石、S級か。この前もブリザをして、生き延びれたのは、そのせいか」


 あの時の戦闘を見ていたのか。まさかな。


 「俺のこの姿を見られた以上、逃げられると思うなよ。ブリザを殺されたからな。お返しをさせてもらう。あの攻撃だけで、終わると思うなよ」


 「まさか、見られたから、あなたのパーティの人達を殺したの。クーガーも、クミンも、クワトロも」

 

 違うパーティとは言え、親交はあったのだろう。フランマの顔から表情が消えた。壁に掴まりながら、何とか立ち上がる。


 「あんたが、リーダーでしょうが」


 「あのパーティは、俺の隠れ蓑だっただけだ。裏の仕事をするには、丁度良かったのさ。キキキキ」

 裂けた口で笑っている。


 「許さないわよ」


 剣を構えるフランマだが、手が震えている。怪我の影響か、それとも、怒りなのか。


 俺は、フランマの前に跳躍して、手で身体を抑える。


 「悪い、まだ聞きたいことがあるんだ」


 制した手で、フランマの肩を叩く。フランマの怒りが、手を通して、伝わってくる。が、ここはまだ我慢してもらう。


 「あの時、お前も、あそこに居たのか」

 フランマが我慢しているのだ。俺も心を抑えよう。


 「いたさ。お前を狙ったんだが、邪魔されちまったからな。あれだけのS級を相手にするのは、しんどいからな。さっさと、逃げたよ。流石に複数のS級とじゃ、こっちが、不利だからな。キキキキ」


 悪魔化が進行しているようだ。このままだと、人の心が無くなるのだろうか。


 「そう言えば、何だかちっこいのが邪魔したみたいだな。それで、お前は生き残れたんだろう。良かったな。キキキキ」


 制していた手を掴むフランマ。どうやら、俺の方が熱くなっているようだ。


 「フランマさん、下がっててくれ。何かあったら、イグニスに怒られるからさ」


 「勝てるのね?」


 「ああ、大丈夫だ」


 フランマは、手を離して、後方に下がって行った。良い子だ。


 「捕まえて、お前の身体を調査したかったんだが、無理そうだ。諦めてくれ」


 「ふん」


 それを合図に、お互いが動き出した。


 駆け出した勢いで、斬りかかる。剣と刀が火花を散らす。鍔迫り合っては、後退し、再び剣と刀を合わせる。折れないのが不思議なくらいの威力が、柄から腕に伝わってくる。


 何度か繰り返すうちに、クラウスは痺れを切らせたのか、丸薬をもうひとつ口に入れた。


 ガリっ。


 噛み潰して、飲み込む。


 すると、身体の筋肉が2倍に膨れ上がった。筋肉の塊に変化した。


 「これをすると、後が辛いんだが。キキキキ」


 まだ、人としての意識はあるようだ。いつまで保てるのだろうか。


 俺は駆け出して、クラウスの剣をスライディングで躱して、真下からレイガンを全弾撃ち出す。クラウスの足が伸びて来るが、転がって避ける。だが、避けきれそうにない。


 「シールド」


 一瞬、シールドで動きを止めて、退避した。危ないところだった。だが、こちらは、そろそろ限界かもしれない。レイガンが効かないのだ、どうしようもない。


 どうする?それがいけなかった。動きが僅かに止まった所に、クラウスの角が伸びて来た。角は俺の脇腹を貫通した。俺は、クラウスを蹴って、距離を取った。脇腹から、血が流れ落ちる。


 回復薬を即座に飲んで、傷口を塞ぐ。


 「危ないところだった」


 〈何を油断しているのですか〉


 俺は周りを見回した。誰もいない。フランマが、離れた所から様子を伺っているくらいだ。やはり、誰もいない。何処から聞こえた?


 〈ボケっとしない。次が来ます〉


 俺は右に跳んだ。俺がいた所に、角が刺さる。


 「誰だ、いったい」


 〈今度は左から来ます。戦いに集中してください〉


 ああ、そうだな。


 俺はクラウスを見る。


 ニヤけて、こちらを見ていた。


 〈ひとつ、提案があります。シールドで囲って、その中に光波を放ってください。それなら、何とかなるかもしれません〉


 「わかった」


 誰か、わからないが、今は信用するしか無い。


 〈シールドは、10枚くらいは重ねてください。光波を放った瞬間にシールドです。間違えないように、お願いします〉


 俺は集中する。


 レイガンで、動きを抑える。


 「チマチマと、面倒くさい奴だな。キキキキ」

 

 用意はいいかな。自分に問い掛ける。うん、問題ない。


 「ソロソロ飽きたよ。もう、うんざりだ。次の攻撃で、テメエをブッ殺してやる。キキキキ」


 それは、こちらの台詞だ。


 俺は駆け出すと同時に、


 「光波!」


 遅れて、


 「シールド10をキューブに」


 当たる寸前に、クラウスの周囲を囲う。


 光波は、クラウスに斬られるが、それが四方に散り、シールドに当たり、跳ね返る。キューブの中で、繰り返される攻撃。俺は、シールドを増やしていく。キューブの中が、光で見えなくなる。


 「ギャーーーー」


 クラウスのだろう雄叫びが上がり、それは段々小さくなり、消えてしまった。


 光が収まる頃、キューブの中は刻まれた肉で溢れていた。クラウスらしい物は、すでに無い。


 「勝ったのか?」

 フランマが近づいて来て、呟いた。


 「ああ、そうみたいだ。フランマさんは、あの中で火魔法を扱うことは可能だろうか?」


 「ああ、大丈夫です。これでも、S級ですからね」


 言うが早いか、ファイアボムの魔法を放った。


 キューブの中で、肉の焼ける臭いがする。


 しばらく燃えると、火は消えて、キューブの中には何も無くなった。嫌、拳大の魔石が転がっていた。魔石は、クラウスのなれの果てのようだ。


 シールドを解除して、それを拾い上げると、マジックバックに仕舞った。


 その頃になってやっと、警備兵がやって来た。


 フランマが説明している。流石はS級だ。ちゃんと話を聞いてくれているようだ。


 落ち着いたら、フランマと飯でも食いに行こうか。戦ったら、お腹が減ったよ。さっき食べたばかりなんだが。


 


 

 俺は、フランマと2度目のご飯を食べて、屋敷に帰って来た。


 そう言えば、気になる事があるんだが。


 「さっきのは、いったい誰だったんだ?」


 妄想?それとも、願望?


 わからない。でも、あれは間違いなく・・・。


 〈私です〉


 えっ、また聞こえる。誰?何処?


 〈もっと早く気づいてください。私ですよ〉


 声は、俺の中から聞こえるのか?


 〈はい、そうです。私はマスターのスキルになったんです。スキル名は《ティンク》です〉


 俺の目から、勝手に何かが出て来た。


 〈それは涙ですね。それ、嬉し涙ですか?それとも悔し涙ですか?〉


 嬉し涙に決まっている。俺は嬉しんだよ、とても。溢れる涙を拭う事も忘れて、問い掛ける。


 「スキルって、何だよ。もうティンクには、会えないのか?」


 〈私はスキルに生まれ変わったのです。今、私はマスターの中にいます。会う事は出来ませんが、いつも一緒ですよ。何も出来ないなんて、言いません。マスターのする事が、私のする事。私のする事が、マスターのする事です。これからは、同じ時間を一緒に生きていけますよ〉


 「あの時に言ってたことを憶えているかい?」

 どうしても聞きたいことがあった。


 〈ごめんなさい、覚えていません。私には、この世界の記憶しかないのです。あちらの世界のことは、わかりません〉


 俺の記憶のヒントになるかと思ったけれど、どうやら無理のようだ。でも、あちらの世界って言っていたが。・・・まあ、そのうち思い出すだろう。


 溢れる涙を、どうやって止めれば良いのだろう。誰か、教えて欲しい。



 みんなに教えてやらなければ。


 〈それは、やめてください。今後のことを考えると、知られていない方が、強みになると思われます。だから、このまま、ふたりだけの秘密です〉


 「わかったよ。でも、俺は、何て呼べば良いんだ?」


 〈今まで通り、ティンクで構いませんよ〉


 「それは、今まで通りだね。そして、これからも、よろしく頼む」


 〈はい、マスター〉


 


 俺達は、これからの事を話し合った。魔人化や悪魔化のこと、蘇芳会のこと、そして青の国のこと。


 1番は、蘇芳会だ。明日朝、もう一度行ってみようと思っている。悪魔化の事がもっと知りたい。丸薬を作ったのは誰なのか。どうやって見つけたのか。そして、青の国との関係について。聞きたいことは、山程ある。


 領都の仲間についても、話しておこう。今後の作戦参謀になるはずだから。


 俺に中で作戦を考えて、実行する。スムーズに考えが伝わるから便利だ。でも、もしかして、俺が考えた事、全てわかっちゃうんじゃないの。


 〈わかっちゃいますね〉


 それって、駄目なやつだよ。


 

 やっと、ティンクが帰って来ました。

 良かった、良かった。

 次回も、よろしく!

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