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86-新ダンジョン探索

 今日から、新しいダンジョンの探索を開始した。


 農地は、マーキュリーに任せました。落ち着いたら、睦月を呼ぶ予定だったのだけど、マーキュリーがよく頑張っているので、任せる事にして、俺はダンジョンに行く事にした。


 塔の下に入ると、門の周りに蔦が裏までびっしりと絡み合っていた。表から入れよと言わんばかりだ。


 門を開いて、岩で出来た階段を降りる。降りた所に少し広い空間があって、その向こうが石の門だった。今度は3メートルくらいと少し小さい。軽く押しただけで、開いた扉の向こうは、何と果実園だった。色んな実がなっている。まだ1日しか経っていないはずなんだが。

 

 果実の世話をしているのは、エルフ達だった。若くて美しい外見で、長い耳に、華奢で長身の彼女らは、微笑みながら果実の世話をしていた。俺を襲ってくる事もなく、黙々と作業をしていた。


 俺はそのまま果実園を抜けると、下への階段を見つけた。仕事の邪魔をする事もないだろうと、俺は下に向かった。


 今度は、一面水田であった。

 竜人が水田の世話をしていた。


 ドラゴンの頭に尻尾。閉じているが翼も付いている。人間より少し背が高いようだ。でも、どうやって喋るのだろうか。会話が通じるのだろうか。誰かに声を掛けてみようかと思うけれど、俺に気がつかないかのように、作業をしていた。


 ゆっくりと歩いてみたが、誰も目を合わそうとはしない。


 結局、水田の間の畦道を通って、次の階段まで来てしまった。


 

 階段を降りると、洞窟が迷路のように伸びていた。あちこちで、穴を掘っては、石の塊を袋に入れる者達がいた。そう、ドワーフ達だった。背は低いが、みんなマッチョで、髭が凄い。ぼうぼうである。手に持っているのはハンマーだろうか。カンカン、カンカンと、頭に響くような音を出し過ぎていた。何とも無いのだろうか。


 中央の洞窟を抜けると、階段だ。この区画は狭いような気だする。



 さらに、階段を降りる。


 今度は広い池だった。池の周りでは、ラミアが釣りをしている。上半身は人間の女性、下半身は蛇の姿のもの達だった。

 時折、竿を上げると、魚が掛かっていた。魚影は濃いようで、結構な数、釣れているような気がした。不思議な光景だ。


 俺は池の周囲を歩いた、反対側に階段が見えていた。焦る事もないので、ゆっくりと歩く。やはり、誰もこちらを見ない。まるで俺が存在しないかのようだ。


 ここは、池なんだが、鯛やヒラメまで釣れている。似ているだけで、違う魚なのだろうか。


 

 階段を降りると、広大な農地が広がっていた。ダンジョンに居るのだろうか。不思議に思うくらいに、広いのだ。ここでは、沢山の小人達が、農作業をしていた。小さい身体で、土に魔法を掛けて回っているようだ。とんがり帽子に、カントリーワンピース、そして大きな靴の小人達がいた。数えてみると、7人いる。


 右の方角に、小屋が見えた。とりあえず、小屋まで行ってみる。


 そう大きく無い小屋だ。


 扉を開けて、入ってみる。


 「お邪魔しまーす」


 中にあるのは、台座に載った巨大な水晶体だった。これが、ダンジョンマスターである。


 「おーい、誰か居ないのかー。おーい。おーい」


 何も返事がない。


 「返事が無いなら、水晶体を割りますよ」


 俺は刀を取り出して、構えた。


 「ご、ごめんなさい。ぼ、僕、シャイなんで。割らないでくださいね」


 また変なダンジョンマスターに当たったものである。


 「君は、どう言ったコンセプトで、このダンジョンを作ったのか、教えて欲しい」


 「表を真似しただけです。何も解らなかったから、真似をしただけなんです」


 真似しても、こんな風にはならないだろう。困ったな。まあ、でも、生産ダンジョンにしようとしているのは、何となくわかるかな。表に入口を塔で封鎖しているから、これでもいいかな。


 「収穫したものは、どうしているの」


 「今は、大地に還っているだけです」


 あら、勿体無い。


 「表に倉庫を作るから、そこに入れてくれたり、出来るかな?」


 「ええ、問題ありません。僕、出来ます」


 「後で、塔の横に倉庫を作っておくから、そこに置くようにしてくれるかな」


 「わかりましたけど、かなり大きな倉庫にしてくださいね。収穫率がとても良いですから。後、冷蔵庫みたいなのも必要ですよ。お魚が腐りますからね」


 考えていないようで、考えているようだ。


 「ダンジョンは何階まで作れるんだい?」


 「今は10階だけど、生産メインだし、訪問者も居ないから、それ以上は無理かな」


 「今はこのままでいいかな。何かあれば、また相談しようか」


 「うん。それで、マスターにお願いがあるの。僕、名前が欲しいな」


 名前つけると、やばい事にならないだろうか。でも、名前無いと、呼びにくいしなあ。まあ、今更か。・・・・・。


 「《ナルシー》は、どうだ?」


 「うん、それがいいな。これからは、ナルシーだね。よろしく、マスター」


 やっぱり、水晶体は光り始めて、中から、子供が出て来た。Tシャツに半ズボンの子供である。大丈夫なのか、こんな子供で。


 「基本的にここに入れるのは、俺とマーキュリー、それとララだけにしておく。一度連れて来て、顔合わせするが、他にも入るものが居れば、敵だから気をつけるようにね」


 「うん、マスター、大丈夫だよ」


 「近いうちに、また来るよ」

 そう言って、俺はダンジョンから外に出た。




 塔の隣に、巨大な倉庫を作った。冷蔵室完備の優れものだ。塔と倉庫を繋ぐ秘密の扉も作っておいた。秘密の扉で、出入りして欲しい。

 おいおい、改造は必要だろう。


 塔から出ると、昼を少し回っていたので、ララのお手製サンドイッチを食べて、ギルドに向かった。やはり、領内にも、屋敷が欲しいな。〈815〉の起点となる場所が必要だ。


 マーキュリーに後を頼んで、俺はギルドに向かった。


 

 一番近い南門から、入る。ギルドは、東門に近い位置にある。これは、東門からダンジョンまでが一番近いからだ。大した距離では無いので、もっぱら歩きだ。そのうち、馬車が必要になるかもしれない。


 ギルドは、昼過ぎのせいか、人は疎だった。


 受付には誰も並んでいなかったが、何だか強いぞオーラ満載の人物がいたので、敢えてそこに並んだ。


 「今日は、何の用だ」


 「土地の付いた屋敷が欲しいのだが、良いところは無いか?」


 「お前は、誰だ?」


 「ただの冒険者だが。この領では、土地を売ってくれないのか」


 「売るぞ。ただし、俺に勝ったらな」


 こいつは、ヤバい奴だったか。ハズレを引いてしまった。一番決定権を持っているかと思ったのだが。駄目か。宰相に頼むかな。


 「それなら、結構だ。宰相にでも、頼んでみるよ。じゃあな」


 俺は手を挙げて、別れを告げると、戻ろうとした。


 「待て、待て。お前が噂のレイか。それなら、話は別だ。宰相様から頼まれているからな。さっきの話は無しだ。また、そのうち模擬戦をしてくれると嬉しいぞ」


 俺は嬉しく無いぞ。


 「南門と西門の間で、塀沿いで、良い物件は無いか?塀には近いほど良いな」


 「何だよ、そんな物件なら、幾らでもあるぞ。塀沿いは、みんな、嫌がるからな」


 「そうなのか。店舗になるようなものが付いていると、尚更良いのだが。無いか?」


 「有るぞ。南西の角に、丁度良いのがある。何なら、これから見に行くか?俺が、案内してやるよ」


 「それでは、頼もうか。早く手に入れたいのでな」


 

 ギルドの職員は、馬車を用意してくれた。ギルドのものの割には、かなり豪華な馬車だ。乗り心地も最高だ。


 「結構広い土地だが、良かったのか?」


 今更である。


 「多分、問題ない」


 

 いい馬車は、やはり違うようだ。お尻が痛くないのだ。


 「この馬車は、売ってないのか?」

 念の為に、聞いてみた。


 「こいつは、駄目だ。俺専用だから、馬鹿高いぞ。作っているやつ、知っているから紹介してやるぞ」


 「ああ、頼む」


 

 「着いたぞ、ここがそうだ。元商人の屋敷だから、かなりデカイぞ。倉庫も付いているし、店舗もあるぞ。ここを起点に商売をしていたのだが、あっという間にデカくなって、王都に店を出したって話だ。確か、ガチャードとか言ったかな」


 「偶然って、あるんだな。ガチャードさんなら、よく知っている。あの人がいた所なら、商売運が残っているかもしれないな。よし、ここにしよう。買ったぞ」


 「いいのか、そんなに簡単に決めても。安いとは言っても、かなり高額だぞ」


 「心配してくれて、ありがたいが、大丈夫だ。今日からでも、購入出来るのかな」


 「ああ、誰も買い手が付かなかった土地だからな。いつでも、オッケイだ」


 「よし決まりだな。戻って、契約書を頼む」


 「即決かよ。俺が来た意味ないじゃないか」


 「暇そうだったから、良かったじゃないか。ギルマス」


 「ああ、そうだなって、いつバレたんだよ」

 驚くギルマスだが、


 「こんな豪華な馬車は、職員辺りでは乗れないだろう。それに、戦いを挑む職員なんかいるかよ。バレバレだっつうの」

 俺は、こんな人がギルマスかと思うと、頭が痛くなった。


 「バレちゃあ、仕方ねえなあ。模擬戦でもするか?」


 「せんわ」




 書類も作成してもらい、無事に買う事が出来た。


 早速戻って来た。まずは、小綺麗にしないとな。


 メガミフォンを取り出して、清掃アプリを立ち上げる。周囲の塀と店舗を修理して、屋敷をリフォームにする様に設定して、はい、を選択する。


 一帯が光り輝いて、空から光の粉が降って来る。


 キラキラ光る粉が、全てを清潔にし、リフォームを完成させる。


 

 「終わったようだね」


 俺は、屋敷の中に入って、確認する。格好だけの住処だから、そこまでのこだわりはない。ただし、何処かに外と繋げることの出来る秘密の通路を作るつもりだ。


 そこで思い付いたのが、神棚だ。神棚の前で、二礼二拍一礼すると、外の屋敷に転移出来るようになっている。もちろん、登録した者だけだが。これなら、この世界の人には理解できないはずだから、何だこれ、で終わるはずだ。


 まだ、外の屋敷には神棚を設置していないので、今は使えない。


 後は門に、門番ゴーレムの設置が必要だ。狛犬風が良いだろうか。普段は、じっと座っているが、何かの時には動き出す。目からビームなんて格好いいだろうが、やはりやり過ぎだろう。


 そうだ、巣箱もひとつ作っておこう。外からだと少し遠いからね。どっちを使うかは、ビー達に任せよう。


 屋敷と店舗の間に、倉庫を作っておこう。その都度、彼方から持って来るのも面倒臭いし、保存出来るようにしておく方が便利だと思う。

 そこまで大きくなくても、大丈夫だろう。どれくらい売れるかもわからないし、売れ始めてから大きくしてもいい。俺には、それ程問題でも無いしね。


 店舗は、思った以上に広かった。道の駅みたいな売り方は、どうだろうか。色んな物を置いといて、選んでもらったら、レジで支払いをしてもらうようにすれば、ゴーレム達だけでも、何とかなりそうだ。


 人手は、宰相に相談してみようか。この街の人を雇う事が出来れば、宰相も喜んでくれるに違いない。まあ、一度相談だな。


 さて、だいたい終わったみたいだから、外の様子を見て来ようかな。




 「わあ、もう野菜が出来てるではないですか。収穫出来るのではないだろうか」


 そこに、マーキュリーがやって来た。


 「収穫した作物は、何処に格納しましょうか」


 「屋敷の隣の倉庫に入れといてくれるかな。そこで整理して、出荷しよう」

 

 

 俺は屋敷に入ると、神棚を作成した。転移先を領内の屋敷に設定した。これで、わざわざ門を通過しなくても、あっという間だ。

 

 倉庫にマジックバックを置いておいた。これに入れて運べば、手間もかからないはずだ。


 残るは人員だな。宰相に相談しようかな。ゴーレムだけだと限界があるのだ。


 と思っていたら、また兵士たちがやって来た。


 「レイ様は、いらっしゃいますか?」

 デカい声である。


 俺は、扉を開けて、中に入れる。何と、宰相まで一緒に来ていた。


 「レイ殿、私の方から来てしまいましたが、宜しかったでしょうか?」


 「こちらから、伺う予定でしたから、構いませんよ」


 宰相は、農地を見ると駆け出していた。一緒にきた兵士達も大変だ。


 「これは、凄いですな。けれど、まだまだ農地を広げる事が出来そうですな。人を雇いませんか?私の方で、紹介させていただきたいのですが、如何でしょうか?」


 「ええ、お願い出来ますか。出来れば、売り場の従業員もお願いしたいのですが」


 「よろしいのですか?」


 「そのために開拓しているのですから」


 「わかりました。こちらで、人員の方は、手配いたします。この地の代表は、レイ殿で宜しいでしょうか?」


 「構いませんが、俺は色々と忙しいので、あまり此処には居ないと思いますので、このマーキュリーに言ってください」


 「マーキュリー殿、よろしくお願いしますぞ」


 固い握手をする二人だった。


 さて、俺は一度王都に戻ろうか。予定より早いけど。蘇芳会や、魔人、青の国のことも気になるからね。アンデ王女から今だに連絡もないし、心配ごとだらけだ。



 

 やっと王都に戻ります。

 蘇芳会のその後のお話をする予定です。

 次回も、お楽しみに!

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