85-ナポリオン領ふたたび
「ナポリオン領に、到着っと。とりあえず、ギルドかな」
俺は、ナポリオン領に来ていた。この地に、巣箱を作れば、終わりだな。一大ビーネットワークの完成だな。これで、情報が早く、手に入るはずだ。
「今日は、やけに門番が多いなあ。何かあるのかな」
すると、俺の後方から、豪華な馬車が連なって、やって来た。俺は端によって、眺めていた。他の人達は、お辞儀したまま、馬車が過ぎるのを待っているようだ。
俺は隣でお辞儀しているおじさんに聞いてみた。
「あれは、どなたの馬車ですか?」
「あれは、領主のナポリオン様の馬車だよ」
頭を下げたまま、おじさんは言った。
「あれが、宰相の馬車ですか」
突然、馬車が止まって、目の前の馬車の扉が開いた。そこにいたのは、ナポリオン宰相であった。ニコニコして、手を振っている。誰に振ってるんだ?
俺は周囲を見回したが、それらしい人はいなかった。いったい・・・。
「レイ殿ではありませんか。我が領に、何しにおいでですかな」
そう言えば、このじいさんとは顔見知りだった。女王のところに行くと、必ずいる顔だ。
「ただの通りすがりですよ。それでは、また」
俺はそのまま離れようとしたら、護衛に捕まった。
「ここで話すのも何ですから、我が屋敷に参りましょう。馬車に乗ってください。どうぞ、どうぞ」
逃げられないやつだ。俺は観念して、乗り込んだ。
「いかがですかな、我が屋敷は」
流石に宰相である。通路の至る所に、高そうな絵画が飾ってあった。どこかの美術館かと言うくらい、凄かった。女性が微笑んだ絵や、ビックリして頬に手を当てて大口を開いている男性の絵。蓮の絵もあった。凄い。おそらく名画と呼ばれる作品だと思う。
誘われるまま、客間と思われる部屋に案内された。
座るように勧められて、ソファに腰掛ける。
「我が領で、何かありましたかな」
女王の執務室で見るくらい、鋭い目をしていた。隠し事をしている訳ではないんだが。
「養護院に寄付をするために訪問しただけですよ」
俺は嘘は言っていない。
「それは、残念ですな。我が領には養護院はありませんぞ。そういう教育をしとりますので、捨てられる子供はおりませんし、親が亡くなった場合は親族がきちんと面倒をみると言う法律もありますでな」
「それは、凄いですね。流石は宰相ですね」
「それ程褒められる事ではありませんな。当たり前のことです」
しかし、困ったな。土地だけでも購入しておこうかな。ギルドで相談だな。
「実は、レイ殿にお願いがありまして」
「何でしょうか?」
「実は、この領では、あまり作物が育ちませんでな。食料はよその領から取り寄せている次第でな。出来れば、自給自足を目指しておるのだが。何か、良い知恵はありませんかな」
宰相はかなり困っているようだ。助けてあげられれば良いのだが。
農場を作るのは、どうだろうか。睦月達に一度来てもらって、土壌改良をすれば、うまくいかないだろうか。農場の横に蜂の巣は、当たり前だろうし。何とかなるかも。
売るのは、〈815〉を展開していこう。それなら、ダンジョン産も一緒に売る事が可能だろう。人手は、この町で雇えば大丈夫だろう。
「何か良い方法を思い付きましたかな?」
「ええ。その時には、ご協力をお願いします」
「わかりました。こちらこそ、よろしくお願いします」
俺は、以前から聞きたかったことを質問してみる事にした。
「ひとつ、お聞きしたいことがあるのですが」
「なんでしょう?」
「この領から少し離れたところに、龍樹で囲まれた土地があると思うのですが、その土地の権利とかは、どうなっているのでしょうか?買えるものでしたら、購入したいのですが」
「レイ殿は、この国の事をどれくらいご存知ですかな」
「そう言われると、ほとんど知りませんね。四つの領都とひとつの王都があると言うことくらいでしょうか。知らないことの方が多いですね」
「そうですか。この国は五つに分けられているのです。王都と言われるところ。領都と言われているところ。合わせて、五つに分けられております。これは、国や領を守る城壁の外も同じです。ですから、門を出たからと言っても、この領の範囲なのです」
元の世界が、都道府県で分けられている事と同じようだ。
「ですが、申請すれば、購入は可能です。値段も安いはずです。守る塀がなくなるので、危険度が上がりますので、余程の方でないと、購入はされませんからな」
「申請は、何処にすれば良いのですか?」
「領主にするようになります。本当は色々と書類が必要なのですが、今回は私の方で処理をしておきましょう」
そう言うと、部屋を出て行った。すぐに戻っていくると、手には大きな地図を持っていた。
テーブルに広げる。
「この辺りまでが我が領になります。レイ殿の言われているのは、おそらく、この範囲でしょう。とても良い土地ですが、竜樹の中にも魔獣はいます。竜樹の外程の脅威となる魔獣は居ないものの、魔獣は存在します。だから、誰も手をつけたがらないのです」
「それでは、ここを俺に売っていただけますか?」
「ええ、勿論です。我が領、いえ、我が国の発展のために、よろしくお願いします」
宰相は嬉しそうであると同時に、どう扱おうとしているにか、興味津々のようだ。
「今日からでも見に行って、手を加えていっても構いませんか?」
「ええ、もちろんです」
俺は宰相の所から、すぐに、俺の物となった土地に来ていた。
メガミフォンを取り出して、建築アプリを開いて、塀を選択。地図上で範囲を選択して、はい、を押す。
竜樹の手前2メートルくらいに沿って、高さ3メートルくらいの塀がニョキニョキと生えてきた。ここからでは見えないが、地図での範囲上に生え揃っていると思われた。
ただし、このままでは魔獣が居るはずなので、黄色のチューブを取り出して、クイーンを呼び出した。
チューブは割れて、中から蟻の魔神クイーンが現れた。
「お呼びですか、マスター」
「ああ、この塀の中にいる魔獣を殲滅してくれ。人間や亜人がいた場合は、ここより出る様に伝えてから、強制的に退場させて欲しい。よろしく頼む」
「わかりました、マスター」
そう言うと、クイーンは中央に向けて、走って行った。
俺は、領から一番近い所を選んで、100メートル範囲くらいの草を刈って、屋敷を建てた。もちろん巣箱も忘れない。
「今日は、ここに泊まるかな」
メイドゴーレムのララを呼び出した。
「お前には、この屋敷の面倒を見て貰いたい。よろしく頼む」
「マスターの命じるままに」
一礼すると、早速昼食の用意を始めた。
倉庫に、野菜と肉を少しだが用意しておいた。俺が1週間程度、在宅する予定だからだ。この地に農地を作る予定だ。まずこの辺りを中心に開拓したい。
そこに、高さ2メートル程度の蟻がやって来た。何か咥えている。
蟻は俺の足元に咥えていたものを置くと、頭を下げている。
〈これをマスターに届けるように言われました。そのまま、マスターの手伝いをする様にとのことです〉
どうやら、クイーンの子供のようだ。
「わかった。お前は今から《マーキュリー》だ」
そう伝えたとたん、蟻は発光を始めた。3分程経った頃だろうか、光は消えて、そこには頭に触角の有る若者が立っていた。戦士の格好をした彼は、一礼した。
「名前を付けていただきまして、有難うございます。マスターに誠心誠意尽くさせていただきますので、よろしくお願いします」
どうやら、またやってしまったようだ。今後は、名付けを不用意に出来ないな。呼び名がないと困るから、仕方ないよね。
俺は、足元の玉を拾い上げた。何処かで見たような形をしていた。
俺はリングに向かって、
「サリー、これって、あれじゃないのか」
〈正解です。ダンジョンの卵ですね。そんなに簡単に見つかる物では無いはずなのですが〉
そうは言っても、クイーン達が、何処かで拾って来たものだからなあ。
俺は、その玉を、軽く上に投げては取ってを何度か繰り返した。が、何かの弾みで、玉を受け損ねて、落としてしまった。
落ちた玉は、大地に触れると、そのまま沈んで行った。
〈やっちゃいましたね、御主人様〉
あー、これで、この地にダンジョンが出来るかもしれない。宰相には、絶対に内緒だな。たまに、出来ない事もあるようだが。
「マスター、昼食のご用意が出来ました」
ララが、呼びに来てくれた。
「マーキュリーは、食事が可能なのか?」
「はい、頂きます」
「それじゃあ、一緒に食事にしようか」
俺はマーキュリーを連れて、屋敷に入った。
「美味かったですねえ、マスター。みんな、あんな美味しいものを食べているのですか?」
マーキュリーは饒舌で合った。人化したばかりだからかもしれないけれど、質問攻めである。
屋敷から出ると、隣に巨大な門が出来ていた。高さが、5メートル位はあるだろうか。ダンジョンが既に出来上がったようだ。俺は、周囲を囲むように塔を建てた。昇降には塔に沿って階段を作った。これで、中を気にせず塔の上まで行くことが出来る。
勿論、塔の入り口も作ってあるが、入れる者を制限した。許可の無いものは、扉に弾かれる。怪我のないように、回れ右をする感じかな。
ダンジョンが育つのは、流石に時間が掛かるだろうから、まずは周辺の改造から始めよう。
これは、マーキュリーが適任だった。元が蟻だからどろうか。土魔法を得意としていた。周辺100メートル程度を開墾してもらった。水路を作ってもらって、メガミフォンを使って、何ヶ所か、井戸を作っておいた。これで、作物が水に困る事はないだろう。
農作業ゴーレムを5体造っておく。それと、何種類かの種を渡しておいた。これで、とりあえず、農作業は可能であろう。他に何を育成するかは、今後の問題だ。
すると、そこにクイーン達が戻って来た。
「マスター、魔獣の処置が完了いたしました」
クイーンと40体の子蟻が整列して、報告している。
「クイーンはチューブに戻るとして、他のものはどうしたら良いんだい?」
「他の子達は、ここで使ってやってください」
「いいのか?」
「ええ、問題ありません、マスター。私もここに残りたいくらいです。けれど、マスターを守ると言う仕事がありますので、この子達に任せようと思います」
「了解だ。まあ、お前には一緒に居てもらわないと、何かの時に困るからな」
俺の言葉に賛成するように、チューブに戻った。
「お前達は、魔獣が何処からか入って来たりしないか、警備を頼む。必ず、何体かで一緒に行動する様にしてくれ。1体では、対処できない時があるかもしれないからな。だから、1体では、絶対に行動しない事。わかったら、よろしく頼む」
蟻達は、口々に雄叫びを上げながら、周囲に散って行った。
俺は農地の周りに囲いの柵を作って、道との区分けを行った。用水路も一緒に作ったのだが、そうなると、井戸では水が足りないので、小さな池を作る事にした。そこを拠点に用水路に水を流すつもりだ。
メガミフォンで、池を選択して、農地の隣を平地にしてから、はい、を選択する。
選択した範囲の大地が光り、木々は大地に沈み、代わりに水が溢れて来た。
大地が窪み始めて、そこに溢れた水が溜まっていく。いつものように、あっという間の出来事だった。
50メートル位の池の完成である。
そこから、用水路を繋げて、水が流れていくようにした。堰を作る事も忘れない。水量の調整が必要だ。四方八方に広がっていく。水はぐるりを巡ると、池に帰ってくるようにしておいた。池の戻る手前に浄化施設を作るのを忘れていない。
浄化施設といっても、枡の中にクリーンスライムを入れてあるだけのようだ。こう言う所は、異世界だなと思う。
そうこうしていると、塀の向こうで、何やら音が聞こえてくる。
魔獣でも攻めて来たかと思いつつ、俺は様子を見に行く。
塀の向こうにいるのは、兵士たちだった。
俺は、塀から首だけ出して、見ていると、
「レイ様では、ございませんか?」
よく見ると、宰相の所にいた兵士達だった。
俺は、塀の一部に門を作成して、中に導いた。
「よくわかったね、ここが。まあ、入ってよ。そっちは、魔獣が出るかもしれないよ」
「森に変な物があるから見て来て欲しいと言う通報を受けまして、宰相様の指示のもと、こちらに来た次第であります」
「宰相も気にしてたんだね」
兵士達は、恐る恐るこちら側に入って来た。
「最後の人は、門を閉めといてね」
「これは、いったい」
兵士たちは中の景色に驚いていた。魔獣の出る世界とは程遠い農村の風景があったからだ。
「何故こんな所に農地があるのですか?」
「宰相から聞いてない?この一帯を購入したんだよ。今は、農地にしているところだよ」
「この辺りは土地が痩せていて、作物など出来ないはずですが。僕は、夢でも見ているのでしょうか?」
「そこは、色々と言えないことがあるからね。企業秘密ってやつだね」
「この事は、宰相様には?」
「言ったつもりだよ。本気にしてるかどうかは、わからないけどね」
兵士達は、言葉を失ったまま、立ち尽くしていた。その中のひとりが、農地に近づくと、土を取って、手のひらで捏ねる。
「私の実家は農家ですが、この土はとても良いですね。ふかふかで、繊維分が多そうだ。これなら、良い作物が出来るのは間違いない」
「いい目をしてるねえ。でも、まだまだ、これから良い土になっていくよ。いい作物を作って、領都に売りに行くから、待っといてね。店の名前は〈815〉になる予定だから、覚えといてよ」
「王都にある〈815〉と同じ店でしょうか。あそこなら、間違いありません。私の実家があるのですが、凄い凄いと誉めてました。ああ、待ち遠しいですね」
「宰相に伝えといてくれるかな。今は忙しいから行けないけれど、手が空いたら、訪問するって、伝えといてよ」
「私、この兵士達の代表を務めております、ネルソンと申します。必ず伝えておきましょう」
そう言って、敬礼する。
「それは助かるよ。お願いするね」
兵士達は、暫く様子を見て、戻って行った。
もう少し、頑張ろうかな。
明日くらいには、新ダンジョンも探索に行かないといけないだろうし、しばらく、忙しくなるかな。
今週は身内の事でドタバタしているので、急にお休みするかもしれません。
転けて、顔を切って、縫いました。本人は至って元気そうです。
皆さんも、お気をつけください。
次回もお楽しみに!




