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84-もうひとつの真実

 山を登っていくと、一本の道を発見した。


 舗装している訳では無いが、獣道を整備したような道だ。誰が、何のために、という疑問が残る。


 俺は、その道を進む事にした。


 下に行く道は、ぐるりとさっきの池に繋がっているようだった。早く見つけていれば、もう少し楽が出来たんだが。


 ひとまず、登っていく。すると、平地に出た。木塀で囲まれた集落があった。その大きさから、村であろうと思われる。


 数える程の民家しかないようだが、煙突から煙の出ている家もあった。

 寂れてはいるが、綺麗な村だった。


 村の入り口には、特に扉も無かったので、俺は中に入って行った。


 どうやら、女性しかいないようだ。男性は、出稼ぎにでも行っているのかもしれないが、子供がひとりも見えなかった。


 「貴様は、何者だ」


 槍を持ち、腰に剣を差した女性が突然現れた。


 「どうやって、この山に入った?」


 向けられた槍を、手で避けながら、右の家の横を指差す。


 「あの子に、入れてもらった」


 リュースは、唇の前で指を立てて、何かを言っている。


 「どう言う事だ、リュース」


 その女性は、リュースの方を向いて、手招きした。


 リュースは、顔は左右に振りながらも、近づいて来る。腰が引けている。


 「えーとね、えーとね、こいつに無理矢理命令されたの」

 涙目だが、嘘泣きである。


 「嘘をつくでない。喧嘩っ早いお前が、簡単に命令を聞く訳なかろう。反対に、喧嘩をけしかけるであろう。・・・さては、負けたな。負けたから・・・待てよ、リュース、お前、結界の外に出たな。出たからこんな事になったんだな」


 リュースは青白い顔を益々、青くさせていた。


 「まあいい。その話は、後だ。それで、お前は、何のために、ここに来た?」


 またしても、槍を向けて来た。懲りない人だ。


 「ギルドの依頼です。ここに、何があるか。何故、川から砂金が流れて来るか。を調べに来ました。でも、もうわかったので、帰っていいですか?」


 「駄目に、決まっておろう。ここを見た者は、生かして帰さん」


 槍が少しずつ近づいて来る。


 「困りましたねえ。黄金龍さんにも、上に行ってみろと言われたので、来ただけなのですが」


 「黄金龍様に、会ったのか」


 驚いたのか、槍の穂先が下がってしまった。


 「会いましたよ。素敵な方でしたよ」


 「それは、本当か。リュース、黄金龍様に聞いて来い、本当か、どうか」


 「わかりました」

 敬礼すると、リュースは一目散に駆け出して行った。


 そうこうしていると、村中の女性が集まって来たようだ。口々に、何か喋っている。20人くらいは、居るだろうか。全員がダークエルフのようだ。みんな、リュースに似たような顔をしていろ。リュース程、喧嘩っ早くはなさそうだ。良かった。


 一番後ろから現れた情勢に対して、みな、お辞儀をしていた。おそらく、最も偉い人なのだろう。


 「そなた、黄金龍様と知り合いじゃったのか。でなければ、ここまで来る事は出来ないからのう」


 「知り合いの知り合いですね。俺の知り合いの長老と仲が良かったようです」


 「ちょっと、見せてみろ」


 一番偉い人は、俺の顔を食い入る様に見ている。


 「何か付いてます」


 「お前はいったい何者じゃ。説明せい」


 なんて言おうか。何を言っても、信じないだろう。


 「黄金龍様の加護を持っているだけですよ」


 「嘘を吐くな。お前、女神様の加護も持っているであろう」


 そう言えば、持っているなあ。うーん、見える人もいるのだなあ。これから先、気をつけた方がいいかもしれない。隠蔽の魔法とかないのかな。あっ、魔法使えないんだっけ。


 「だから、どうだと言うのですか。人は平等・・・・です、よ」


 全員が、土下座した。一斉にだ。


 「お待ちしておりました、使徒様」


 「えっと、どう言う事?」


 そこに、リュースが戻って来た。息を切らしている。かなり急いだようだ。


 「どうしたのです、皆さん」


 みんなが、土下座しているのだ、面食らうだろうな。


 「馬鹿者、この方は、使徒様である。お前もここに来て、土下座せんか」


 「いやいや、やめてください。お願いしますから」


 このままだと、色々と問題が発生するので、とりあえず立ち上がってもらった。


 俺は、マジックバックからキャンプ用の長椅子を幾つか取り出して、座ってもらった。中央にテーブルも出して、果実を山盛りにしておいた。


 「どうぞ、食べてください。俺の農場で作ったものです。美味しいですよ」


 恐る恐る、手に取る。じっと、眺めて、意を決したようにかぶりついた。


 「美味しい」

 「こんな美味い果実、食べた事ないよ」

 「他の果物、食べられないかも」


 口々に、美味しいと言ってくれていた。うん、美味いは正義だよね。


 「俺は、冒険者のレイです。ギルドの依頼で来ました。不入山には誰も入れないのと、川になだれてくる砂金の秘密を調べるために来ました」


 「代表のカジュアです。ここは、山頂の神殿を守るための砦です。昔は多くの戦士達がいたのですが、守るだけでは生活が成り立たないため、ひとり、またひとり、山を去っていき、今ではこれだけになりました」


 「何の神殿なのですか?」


 「わかりません。と言うか、誰にも入れないのです。言い伝えでは、大地を揺るがすものであるとか、海を無くする力の素であるとか、言われておりますが、はっきりと知るものはいません」


 「それは、また黄金龍のでも聞いてみましょう。一番知っていそうですから。教えてくれるかどうかは、わかりませんが」


 依頼は達成だが、どこまで話して良いのだか。はー、ため息しか出ないなあ。


 「とりあえず、俺は一度戻って来ます。皆さんとは、今後どうすれば良いか、また話し合いましょう」


 「それでは、リュースを連れて行ってください。何かのお役に立つと思いますし、好きに使ってください。それと、外の世界を見せてやってください。今まで、こっそりと見に行っていたみたいですから」


 流石に、代表だけあって、よく見てますね。ちょっと抜けてるところがあるみたいだけれど、スノウにでも預けてみようか。今のままだと、誰にも勝てないだろうから。才能はあるみたいだから、強くしてみよう。


 チラリと、リュースを見ると、困ったような表情だ。


 


 「それでは、神殿を見て来ます。後をお願いします」


 俺はリュースを連れて、神殿に向かった。


 テーブルの横に、野菜と果実、肉も出しておいた。野菜は細々と作っていたようだが、芋や葉物しかなかったので、ここでは目新しいものを出しておいた。倉庫か何処かに仕舞うように、頼んでおいた。





 「神殿まで、どれくらいかかるの?」

 俺は、リュースに尋ねた


 「歩いて1時間くらいでしょうか」

 つまらなそうに、答える。


 「じゃあ、走ろうか」

 俺は走り出した。道はいいし、あっという間に着くだろう、と思う時がありました。


 「レイさん、早過ぎます」

 ゼーゼー言いながら、膝に手を当てて、何とか持ち堪えている。


 「えっ?遅い方ではないですか?もし、早いと思うなら、鍛錬が足りませんね。アリスに頼んだ方が良いですかね。アリスは、厳しいですからね」


 俺の影だ揺れている。姿が見えないと思ったら、そう言う事ですか。心配性ですね。


 「だ、大丈夫、です、よ。まだ、まだ、走れます、よ」


 俺は、回復薬を取り出して、飲ませる。


 「それ、よく効くでしょう。体力も回復するし、まだ走れますよね。おっと、これはシゴキではありませんよ。指導です。だから、まだまだ行けるでしょう」


 無理矢理、立ち上がるリュースだった。


 「さあ、行きましょう」


 俺は、再び走り出した。


 「はい、頑張ります」

 

 体力の戻ったリュースは、俺を追いかけて来た。


 努力するのは、良い事です。努力はしないより、した方が良いです。その積み重ねが、結果につながるのです。応援しますよ。


 


 「ふう。流石に厳しいですね」


 登り切った所に、オリンポスにある様な神殿が見えていた。パルテノン神殿だったかな。大理石の柱で出来た建物は、壮観であった。よく見ると、周囲に石で円を描いてある。何だろう、これは。


 やっと上がって来たリュースに聞いてみる。


 「ああ、あれは、境界です。私達もあれより先には進めないのです」


 「そうなんだ。困ったな」


 俺は、何の気無しに、石を跨いでいた。・・・普通に入ってしまった。


 「ん?入れるのだが」


 俺は振り返ると、驚いてこちらを見つめるリュースがいた。石を跨ごうとして、見えない壁に阻まれていた。こちらに入れずに、あたふたしている。


 「とりあえず、そこで待っといて」

 それだけ言うと、神殿の中に入って行った。


 


 「どなたか、いませんか」


 歩き方が、まるで、泥棒のようだ。


 沈黙の空間に、俺の声だけが響く。こだまが、俺に襲いかかる。やはり、誰も居ないのかな。


 奥まで、入ってみる。


 内部は装飾彫刻で、溢れていた。全てが大理石だ。


 中央に、女神像が置いてあった。本物そっくりだ。誰が作ったのか、俺みたいに見た事のある人でないと出来ないよね。もしかして、自作?の訳ないか。それにしても、見事だ。


 「この女神様、ずっと観ていられるな。美し過ぎるだろ・・・実物より」

 

 『こらこら、誰だ、悪口を言っているのは』


 女神像が喋った?


 『像を通して、話をしています』


 おー、やっぱり、像が喋っていた。女神様は、やはり凄いのだ。と、感心する。


 『レイに、お願いがあります』


 「何でしょう」


 『この像と同じものが、各大陸にあります。そこに、珠があるはずです。それをここに集めてください。像の後ろの壁に五つの穴があるでしょう。そこに、珠を嵌めてください』


 「この大陸の珠も、ここにあるのですか?」


 『この大陸だけは、他の場所にあります。探してください。通常では入れない場所にあります』


 もしかすると、あそこか。


 「嵌めると、どうなるのですか?五つ集まると、何が起きるのですか?」


 『ひとつ集まる毎に、大陸が浄化されますどうやら、急がないと不味いようなので』


 今まで、何も言っていなかったのに、急にどうしたのだろうか。俺は顎に手を当てて、考えた。以前と違う事って、何だ?・・・魔人の出現か」


 『レイの想像通りです。ただ、何故魔人が生まれるのかが、私にもわかりません』


 「女神にも、わからないことって・・・」


 『神は全てを見ている訳ではありません』


 「タイムリミットとかは、ないですよね」


 『ありませんが、時間を掛ければ、それだけ魔人が強くなります』


 まだ強くなるのか。自分も含めて、仲間を強くするしかないか。難しいことを依頼する女神様だ。俺の娘なら、拳骨を入れてるところだ。娘ではないけれど。


 「珠を集める順番とかは、あるのですか?」


 『ありません。どの珠からでも、問題ありません』


 引き受けるしか、選択肢は無いのだけれど。


 『黄金龍の加護も貰っているようですし、そうやって、どんどん強くなっていってくださいね私も出来るだけ、協力しますので』


 「そうすると、この地を守るためにダークエルフ達が居たのは、本当なのですね」


 『ええ、これからも頼みますと、伝えておいてください』


 「直接言えば良いのに」


 『誰彼構わず、話していい訳ではありませんよ、神と言うものは』


 「それは、そうですね。とりあえず、わかりましたので、努力します」


 女神像が微笑んだような気がした。それを最後に、像は何も語らなくなっていた。



 

 「どうでした?」


 境界線となる石を越えると、リュースが待っていた。


 「これからも、この山を頼むと言ってたよ」

 歩きながら、俺は言った。


 「誰がです?」

 不思議そうにこちらを見るリュース。


 「ああ、女神様だ」


 リュースは、動きが止まる。固まっているようだ。


 「詳しいことは、村で話そう」


 俺達は、村に向かって、走り出した。


 


 ひとつ目の当てはあるが、まずはナポリオン領に、巣箱を設置するのが先だな。

 再びナポリオン領です。

 そろそろ、青の国が慌ただしくなるようです。

 次回にまた、お会いしましょう!

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