82-フランソワ領は恐ろしい
俺はフランソワ領に来ている。
ナポリオン領に行くと思い出しそうなので、フランソワ領にした。どちらもまだ、巣箱を作っていない。ビー達には悪いことをしたな。ちょっと間が開いてしまった。他の2領には、すでに作っているのに、放置していた様な状態だ。
だから、ここは豪勢な巣箱にしてやろうと思う。
「いらっしゃいませ」
何故、おばあさんが受付に?
「今日は、何の御用でしょうかな」
「ええっとね、土地を探しているんだけど。良い土地ありませんか?」
「あるにはあるが、高いでのう。どうしたもんかのう」
「その土地、見せてもらうことは可能ですか?」
「腰が痛いでのう。困ったのう」
「遠いんですか?地図でもあれば、行って見てくるんですが?」
「それは、助かるのう。誰かに案内させるかのう」
「地図があれば、わかりますよ」
「おお、良い所にのう。クレア、ちょっとお願いがあるんじゃが」
呼ばれた子が振り返ると、ニコニコと近づいて来た。
「何か、用ですか、ギルマス」
あのおばあさんが、ギルマスなのはビックリだ。ここのギルドは大丈夫なのか。若い人は、いないのだろうか?他には誰ひとり、いないのだが。
「クレア、あの人を養護院の隣りに案内してやってはくれぬか?」
「構いませんよ。どうせ帰るところですから」
「それでは、よろしく頼むの。土地を買いたいそうだから、ついでに説明しといてやってくれ」
「わかりました」
うーん、よくわからないけど、まあいいか。
どうやら、クレアという子は、ギルドの職員のようだ。歳の頃で15歳位かな。あどけない顔をしている。仕事が終わったので、帰る所だったらしい。
しかも、養護院の子みたいで、家=養護院だそうだ。
「さあ、乗ってください。ギルドで馬車を借りて来ましたので。御者は、私がします。通勤用にいつも借りてるので、運転は安心してください」
俺は、クレアの隣に腰掛けた。
クレアは、馬に軽く鞭を打つと、ゆっくりと走り出した。
「どれくらいの広さの土地を買われる予定なのですか?養護院の隣は小高い山なんです。だから、かなり広いと思いますよ」
「それは理想的ですね。大き過ぎるくらいが、ちょうど良いですね」
「山の裏がすぐに、この国の防御壁なので、みんなが嫌がるんです。魔獣が紛れ込まないかと」
「そんな所に、養護院があるのかい?」
「国からの補助も少ないから、贅沢なんて、出来ませんから」
養護院が困っているのは、何処も同じようだ。子供達にも出来る仕事が何かあれば良いのだけどね。
「子供達は、魔法が使えるのかい?」
「はい、普通の子達よりは使えると思います。する事がないから、魔法の練習ばかりしてますから。それに、ギルマスが養護院の院長を兼ねてますから、休みの時には、良く教えてもらっています。私もそのひとりです。魔法が上手くなって、ギルドの依頼をいっぱい受けようと思っています」
これは、尚更土地を購入して、子供達に仕事を与えないと、養護院が潰れてしまいそうだ。
「あそこに見えるのが、養護院です。隣に見える山が、売地の山になります」
笑えるくらいボロボロの養護院だった。これは、酷い。今日中に何とかしてやりたいものだ。
そんなことを思っているうちに、馬車は養護院の前で止まった。
「着きましたよ」
中から、子供達が出て来る。50人くらいは、居るだろうか。これだと、大変だ。どうにかしたいな。
「クレア、俺はこのまま山を見て、一度ギルドに帰るよ。あっ、でも、その前に」
俺は馬車の中に、野菜と果実と、肉を山になるくらいマジックバックから取り出した。ゴロンゴロンと転がる野菜に、クレアは驚いていた。
「みんなで、これを食べてよ。俺が作らせた作物だから、美味しいよ」
俺は、馬車を降りて、山に向かった。
「あ、ありがとう、ございます」
余程嬉しかったのだろう。クレアは泣いていた。
子供達も、作物の山を見て、喜んで、飛び跳ねていた。
山はと言うと、お皿みたいな山だった。急勾配の道なき道を登り、峠を越えると、すり鉢状の窪地が広がっていた。草原の向こう、中央には池があった。魚もいるようだ。
魔獣は居ないようである。あの裾野を越えるのは難しいからかもしれない。
ビー達が住むにはとても良さそうだ。池の周りに、花を植えてやるのも、良いかもしれないな。
よし、すぐに購入しよう。
街に戻ると、すぐにギルドに向かった。
相変わらず、あのお婆さんが座っていた。あおのお婆さんがギルマスだと言うのだから、驚きである。
「ギルマス、土地を見て来たよ。直ぐに購入したいんだが、可能だろうか」
「早いお帰りじゃのう。購入は可能じゃが、ついでに養護院も買ってくれんかの。国からの補助も少ないしのう。最近はアップアップなのじゃ」
「ああ、いいぞ。あの辺り一帯を購入したい」
「金貨百枚じゃが、大丈夫かのう」
「ああ、問題ないが、内訳を聞きたい」
「わかった。山が金貨10枚。養護院が90枚。合わせて100枚じゃ」
「ほとんど養護院分じゃないか」
「おまけに凄腕の魔法使いが付いて来るのじゃ」
それ、あんたのことだろう。まあ、いいけど。
ギルマスは、引き出しから書類を出して来た。俺は、それにサインして、ギルドカードを提示した。お金は全て、これで支払うことが可能だ。クレジットカードみたいなものだ。この世界の訳のわからないところだ。何でそんなものがあるのだろうか。不思議で仕方がない。
ギルマスの作業はすぐに終わった。カードを返してもらうと、マジックバックに仕舞った。失くすと手続きが大変なのだ。
「養護院の土地は、周囲に囲いがあるとこまでだ。すぐわかるさ」
「ギルマスは養護院の院長も兼ねているんだろう。建物を修理するが、良いだろう?」
「ああ、問題ないぞ。ついでに、私の作業場があるとお嬉しいのう。こう見えて、錬金術も使えるでな」
「わかった。子供達のも教えてやってくれ。大きな作業場にしとくから」
「ありがとうの」
「気にしなくて、大丈夫だ。こっちにも理由があるんでな」
「そなた、養護院のオーナーという事で良いかの?院長は、今まで通り、私がやるとしよう。お金だけ出してくれると、有り難いのう」
「お金なら任せておけ。後は、頼む。俺はこれから、養護院を修理しておくよ」
俺は、最後にそれだけ言うと、養護院に戻った。
「さて、とりあえず、隣に新しい養護院を作るかな。ギルマスに頼まれたやつも忘れないようにしないとな」
メガミフォンを取り出すと、建築アプリを開いた。
養護院と作業場(大)を選択。はい、を押す。
地面に巨大な魔法陣が浮かび上がる。そこから、ふたつの建物が出て来る。
横並びになるが、作業場は位置を山際にずらしておく。作業場で失敗しても、養護院に、影響が出ないようにするためだ。途中には、屋根付きの通路を作っておく。これで、雨でも気にせず移動が出来るはずだ。
もちろん。メイドゴーレムも出しておく。名前は、〈リラ〉だ。
「リラ、子供たちを呼んで来てくれるかな」
「承知しました」
一礼して、旧養護院に入って行く。
間もなく、子供たちが飛び出して来た。
「レイさん、これは何ですか?」
今日はお休みなのか、クレアがいた。
「新しい養護院だよ。早速引っ越しを初めてくれるかな」
「さあ、皆さん、引っ越しを始めましょう」
リラが大きく声を出して、子供たちに催促する。
「はーい」
子供たちは喜んで、リラと一緒に引越の準備を始めた。
「あちらの方は?」
クレアが聞いてくる。そう言えば、紹介してなかったな。
「ここでメイドをしてもらうリラだ。よろしく頼む」
俺が紹介すると、子供達は歓声を上げていた。
どうやら、大人の女性は少ないらしい。大人の女性の魔法使いは引くて数多で、就職先に困らないんだそうだ。だから、女性は少ないんだと。言葉は悪いが、女性上位の領都らしい。
「さあ、引越しの続きです。みんな、頑張ろうね」
リラは子供に好かれるのか、リラの周りに子供達が集まって来る。
「渡すのを忘れていた。このマジックバックを使ってくれ。クレアにも、渡しておくから、上手く使って欲しい」
リラは手に取ると、そのまま旧養護院に戻って行った。
クレアは、持ったまま動かない。
「こんな高価なもの、使えません」
手が震えていた。
「俺が作ったやつがから、大丈夫だよ。安心して、使って欲しい。駄目になったら、また作るよ」
「マジックバックは、金貨100枚はしますよ。本当に大丈夫なんですか?」
「まだまだ、あるけど、足りなければ、出すよ。言ってね。とりあえず、俺は山に行ってくるよ」
俺は、そう言って、山に駆け出した。
「この辺で良いかな」
俺は、お花畑を作ると、その傍らに、小屋を2件作っておいた。
花の周りに、すでにビー達がやって来ていた。よくわかったな。
「少し前から、様子を伺っておりました」
妖精に進化したウエストだった。
「この領都の担当をさせていただいております。今後ともよろしくお願いいたします」
俺の目の前で、ふわふわ翔びながら、挨拶する。
「ここは、お前達で好きに使ってくれ。任せる。ただし、養護院のことそ見守ってやってくれ。何かあれば、連絡をしてくれ。ああ、リラに言ってもらえれば、大丈夫だと」
「わかりました」
ウエストは、一礼すると、小屋に戻って行った。
よーし、後はナポリオン領だけだ。明日にでも、行ってみようかな。くよくよしてても、駄目だ。ティンクに笑われてしまう。
「お婆さん、いや、ここではギルマスか。養護院を綺麗にしてきたから、終わったら、メイドのリラに言ってくれるかな。古い建物は、壊さないと危ないからな」
「お前さん、何を言っておる。1日で綺麗になる訳なかろう」
「まあ、帰ったらわかるさ」
俺は依頼書を眺めてみた。この辺りは、どんな依頼があるのか、興味本位だ。
ん?
そんな中で目に留まったのは、
「不入山の調査?なんだ、これは?」
俺が独り言のように呟くと、イメルダ婆さんが背後から答えてくれた。
「その山には、誰ひとり、入れないんじゃ。入ろうとすると、気づくと下山しておる。全く不可解な山なのじゃ。だから、誰にも調査出来ないのが実状じゃ」
お化けのように現れた婆さんに、俺は尋ねた。
「それなら、調査の必要はないんじゃないのか。出来ないんだろ」
「まあ、そうなんじゃが、不入山から流れてくる川が一本だけあるのじゃが、その川で、時折、砂金が取れるのじゃ。だから、その川には人が溢れておる。まあ、流れてくる砂金にも限度があるのか、いつもいつも取れる訳では無い。じゃが、馬鹿な人間は一杯おるでな。若い者がおらぬ原因のひとつじゃわい」
「馬鹿は、放っておけば良いのでは?」
「そうもいかんじゃろ。このままでは、この街は廃れてしまう。魔法が発達しているから、絶えることはないとは思うがの」
「フランソワ領は、恐ろしいところだなあ」
「そう言う訳で、不入山の秘密を調べて欲しいのじゃ。お前なら、出来そうな気がするのじゃ。なんとなくだがな」
暇潰しには、丁度いいかもしれないな。
「わかった、調べてこよう」
「おお、そうか、そうか。ありがたい事じ。何が起きるかわからんから、気をつけるんじゃぞ。最近、行方不明者が増えとるでな」
「そう言う肝心なことは、先に言えよ、婆さん」
大声で笑いながら、受付の席に帰って行った。変な婆さんだ。
「そう言えば、婆さん、場所を教えてくれよ」
俺は、婆さんを追いかけていった。
不入山突入です。
何があるかな、何があるかな、ちゃっちゃちゃん。
現場から、お伝えしました。
次回も、よろしくお願いします!




