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A.I.W-story-  作者: 香芳戯 麻弥
白の国編
79/102

79-ナポリオン領にて

 「レイ様、もう行かれるのですか?」

 伯爵が淋しそうなのは、気のせいか。悪い奴も退治したから、後は地道に頑張って欲しい。


 「伯爵の方が、地位が高いのですから、様は必要ありませんよ」


 「だが、私はまだ貴方に恩を返していないのです」


 「それなら、養護院のことをお願いいたします。それで構いまいませんので」


 俺は、まだ何か言っている伯爵を無視して、門の外に出た。森まで行ったら、転送してもらおう。見られると困るからね。






 「只今、サリー。今、帰ったよ」


 「お帰りなさいませ、御主人様。お風呂にします、それとも私にします?」


 相変わらずのサリーだった。いつもの事だが、何となく居心地が良くなっているのは、秘密だ。


 「そうだな、この細胞を調査してくれないか。フックという奴の身体の一部なんだ。調べる価値はあると思うんだが。どうだろう?」

 

 「折角、お風呂を沸かしといたのですけどね。御主人様は、冷たい人」


 サラリと流したものだから、機嫌がとても悪いようだ。


 「それなら、俺は風呂に入って来る事にしよう。一緒に来るかい?」


 顔が赤いよサリーさん。


 「うっ。またにしておきます。とりあえず、調べますので、お風呂にどうぞ」


 サリーは、そそくさと行ってしまった。


 俺は何かを忘れているような気がするのだが。何だったかな。ティンクに聞いてみようか。


 あー、あー、あー、ティンクの事を忘れてる。尾行を頼んで、そのままだった。


 メガミフォンを出して、アリスに連絡してみる。


 〈何なのー。何か用かなの〉


 「ティンクを見なかったか。王都で、尾行を頼んだっきり、帰ってないんだ」


 〈あたしは、しらないなの。ティンクの事だから、大丈夫だと思うなの〉


 「わかった、ありがとう。王都に戻って、調べてみるよ」


 俺はそれだけ言うと、通話を切った。やはり心配だから、王都に戻ろう。


 


 「アンバー、いるかい?ティンクは戻っているかい?」


 転送で執務室に送ってもらったので、扉を開けて、アンバーを呼んだ。


 「マスター、お帰りなさいませ。何か、御用でしょうか?」


 「ティンクを知らないかい?」


 「マスターと出掛けてから、戻っておりませんが」


 理解が付いていかないアンバーは、首を傾げる。ティンクが帰って来ないのは、よくある事なので、気付いていなかったようだ。


 「もしティンクが戻って来るようなら連絡して欲しい」


 「わかりました」


 俺は、エメラの所に急いだ。




 「エメラ、お願いがある。ティンクを探してくれ。2、3日前には、この王都にいたはずだ。気になる人がいたので、尾行を頼んだら、それっきりなんだ。だから、頼む、大至急探してほしい」


 エメラは巣箱の小屋に帰ると、すぐに戻って来た。


 「この子達の言うには、一昨日まで、王都に居たようです。S級の冒険者達とナポリオンの領都に出掛けるのを見た子がいます。何のために出掛けたかは、不明です。今、サウスに連絡して、探すように頼みました」


 仕事が早くて、助かる。


 俺も直ぐにナポリオン領に向かうとするか。その前に、S級の冒険者はどのパーティか、聞いておこう。


 



 「おーい、誰か、居ないかー」


 部屋に灯りのついている〈紅き守護神〉の屋敷の扉を叩いた。


 「何処のどいつだ、朝っぱらから、扉を叩く奴はって、レイ様じゃないですか。何かあったんですか」


 「詳細は後だ。とりあえず、S級の冒険者について、教えて欲しい。S級は、幾つパーティがある?」


 「え、2パーティだけです。我が〈紅き守護神〉と、隣の〈蒼き神威〉だけです。〈栄光の牙〉は、理由は知りませんが、解散したようです」


 「すると、グラース達は、今・・・」


 「ええ、ナポリオン領に向かいましたよ。何か依頼を受けたようです」


 「それだけわかれば、問題ありません。ありがとう」


 俺は、直ぐにナポリオン領に向かう事にした。


 「レイ様、待ってください。私達も連れて行ってください。何か困っているのでしょう。私たちで良ければ、お手伝いしますよ」

 そう言うのは、フランマだった。奥で話を聞いていたのだろう、冒険者の格好をしていた。


 「あんたも早く用意しなさい。こんな時しか、レイ様のお役に立てないのだから」


 イグニスは頷くと、屋敷の中に戻って、身支度を整えて、出て来た。


 「レイ様、用意出来ました。連れていってくだせい」


 ひとりで行くより、いいかもしれないな。何があるか、わからないしな。


 「わかった、それでは一緒に行きましょう」


 俺はタートル君を取り出して、乗り込んだ。

 王都から、1週間くらいは掛かるはずだから、俺達はそこまで急がなくても大丈夫だろう。何処かに居ないか、探しながら、行こうと思う。多分追い付くはずなんだが。




 「いないねえ。そろそろ、追い付いても良い頃なんだが」


 普通なら、もう追い付いているはずなんだが、何故追い付かないのだろう。


 「まさか、あいつら走って向かってるのではないかしら。レベルがかなり上がっているから、走って行く方が早くないかしら」


 「何かを追い掛けてるって、ことはないですかね」


 イグニスのひと言は、案外的を得ているのかも知れないな。そうでもなければ、追い付かないわけがない。まさか、ティンクに何かあったのだろうか。


 「それなら、もう探すのはやめて、ナポリオン領に急ぐとするかな」


 「そうですわね。急いで行かなければならないような、事件が起こったのでしょうか」


 おそらく、フランマの言う通りだろう。到着したら、すぐにサウスを探す事にしよう。





 少しばかり時間を戻す。


 ティンクは眠気が覚めず、フラフラと飛びながら、後を付けていた。もう少し上空を飛んでいれば、問題は起きなかった筈なのだが。


 それでも、建物の陰に隠れながら飛んで行く。時折り見せるあくび。どうしても気が抜けていた。それでも、レイに頼まれた以上、離れる訳にはいかないと言う気持ちだけで、飛んでいた。


 男は、角を曲がった。少し細い路地に入って行った。


 見逃しそうになって、急いで角に向かい、曲がる。


 「あれ、どこ行った?」


 それは、いきなりだった。


 ティンクは背後から袋を被せられて、そのまま箱に詰められてしまった。


 箱には、沈黙の魔法でも掛けてあるのか、声が外に届かない。男は、路地から出ると、ギルドに向かった。馬車を借りるためである。


 だが、今日はついていなかった。ギルドには、会いたくない者達がいた。


 〈蒼き神威〉の面々であった。


 「ブリザじゃねえか。帰って来てたのなら、連絡ぐらいしろよ」


 リーダーのグラースがぼやいていた。


 「すまなかった。実は、俺、冒険者を辞めようかと思ってな。お前達に、どんな顔で言えばいいか、悩んでいたんだ。申し訳ない」


 「どう言う事だよ。理由を話せ」


 「リーダー、声がデカいよ。みんなが見てるよ。何処か、別の所で話そうよ」


 「そうだな。ここだと何だから、何処か別な所で話さないか」


 ブリザは仕方なく頷くと、箱を袋に突っ込んだ。


 5人は外に出ると、建物の脇の空き地に陣取った。


 「すまねえ。何も聞かずに、行かせてくれないか。頼むよ」


 「理由くらい言えよ。俺達に言えねえ理由でもあるのか。長年一緒にいた仲間だぞ」


 ブリザは貧乏揺すりを始めていた。苛ついているのがわかった。


 「・・・・・頼むよ。見逃してくれよ」


 「だから、理由を言えって、言ってるじゃねえか。お前の事を心配して言ってるんだぞ。わかってるのか?」


 「うるせえなあ。お前らと一緒に仕事をしたくないだけだよ」


 そう言うと、ブリザ服の裾に隠していたナイフを出すと、見えないくらいのスピードでグラースの腹を刺した。刺して、少し抉るのだ。血が吹き出る。


 「何をするんだ、ブリザ」


 キオーンの脚が、ブリザの腹に命中した。その勢いのまま、後方に跳ねると、ブリザは逃げ出して行った。


 ミチユーリが回復魔法を掛けるが、何故か効かない。あのナイフには特殊な何かが塗ってあったようだ。


 「大丈夫か、リーダー」


 「心配するな。レイ様の回復薬から大丈夫だろう」


 グラースは回復薬を取り出すと、口に含み、傷口に吹きかける。残った薬は飲み干した。傷は見る間に修復していく。


 「さすがに、レイ様の回復薬だ。もう治っちまった」


 「本当に大丈夫なのか、リーダー」

 ニクスが心配している。


 「ああ、大丈夫だ。さて、ブリザを追いかけるぞ。このまま、放っとく訳にはいかない。一発、殴ってやらないと気が済まないからな」


 4人は走り出した。ひとりがギルドに報告していれば、レイ達も苦労しなかったのだが。




 「こっちで間違いないよ。ブリザの臭いが残っているから」


 臭いを追うのは、ニクスの特技のひとつであった。雨さえ降らなければ、何処まででも追えるのだ。まるで、猟犬である。だが、この特技で助けられた事は数知れずあった。ニクスさえ居れば、道に迷う事がないのだから。


 「この方向は、ナポリオン領だな。間違いない」


 「いったい、あいつに何があったんだ。何で、リーダーを刺しちまったんだよ。理由がわからない」

 ブリザと一番仲の良かったのが、キオーンだった。いつも一緒に酒を飲む仲だったのだ。


 「どこかに行って、帰って来てから、人が変わったようだったわ。知り合いでも亡くなったのかと思ってたんだけどね」

 ミチユーリは、気にしていたようだ。よく話しかけていたのは、そのせいだったのだろう。


 「そうは言っても、それでリーダーを刺したとすれば、やっぱり不味いよな。まあ、リーダーで良かったよ。他の奴なら、間違いなく死んでるぜ。リーダーだから、ナイフを筋肉の圧力で止められたんだ。内臓まで届いていたらと思うと、ゾッとするぞ」


 「ひでえな、キオーン。まあ、確かに俺で良かったかな。あまえらが死ぬとこなんぞ、見たくないからな」


 「流石は、リーダーだわ。言う事が違うねえ」


 「さあ、行くぞ。何とか今日中には追いつきたいんだがな。街に入られると、臭いも追えなくなるから、捕まえられなくなるぞ。もう、ひと踏ん張り、頑張ろうぜ」


 4人は、再び駆け出した。先頭のニクスを追うように走っていく。





 「遅かったな。もうじき、夜が明けるぞ」


 クラウスが、焚き火に薪を足しながら、言った。


 古びた屋敷跡の庭で、クラウスはブリザが戻るのを待っていたのだ。ここは、まだ親がいた頃に住んでいた屋敷の跡だった。他の貴族に騙されて死んでからは、空き家になっている。


 「すまない、兄貴。グラースの奴がツベコベ言うものだから、つい刺しちまった。それで、遅れちまった」


 「相変わらず、気が短えなあ。まあいい。この国ともオサラバだし、後腐れはねえ方がいい」


 「だから、アイツらを殺っちまったんですか」


 「見られちまったしな。面倒くせえ事は、始末するに限るんだよ」


 「これから先は、どうするんだい、兄貴」

 

 焚き火に薪を投げ入れるクラウス。


 「暫くのんびりしたら、迷宮を通って、青の国に向かう。あっちの蘇芳会に知り合いが居るんだ。そいつに、面倒見てもらう予定だ」


 「わかった。出発が近づいたら、教えてくれ、兄貴。俺は、これを売りに行ってくらあ」


 ブリザは、袋に入っている箱を叩いた。


 「何が入ってるんだ?」


 「驚くなよ。妖精だ」


 「何処で捕まえた?」


 「俺を尾行してやがったから、捕まえてやったよ。妖精なら、高く売れるだろう」


 クラウスは、手の持っていた薪をふたつに折った。


 「何で追われてたんだ。それは、考えなかったのか。やっぱ、馬鹿だな、お前は」


 「イライラして、何も考えられなかったんだ。許してくれよ、兄貴」

 ブリザは、頭を下げて、小さくなっていた。クラウスには、頭が上がらないようだ。


 「まあいい。こんなとこまでは追いかけて来ないだろう。ここを見つける方が難しいか」


 ブリザは、ホッとした。兄弟といえ、怒らせたら、殺されるのだ。ブリザは、何度その光景を見たことか。俺よりも気が短いのではと思っている。


 「売ると、足がつきそうだな。いっそ、殺すか」


 「それは、大丈夫だ。知り合いがいるんだ。そいつに頼めば、足はつかない、絶対にだ」


 「なら、いいか。まあ、バレたらバレたで、ブチ殺せば済む事だ。気にしても仕方ないか」


 また、薪を折って、投げ入れる。


 「食料を買い込んでおこうか。食べるもの、無いんだろう、兄貴」


 「ああ、そうしてくれ。肉ばかりで、飽きたぜ」


 「じゃあ、ちょっくら行ってくるよ。これから行けば、夜が明けた頃には街に着くだろうから。早めに買い物を済ませて、戻ってくるよ」


 「おう、頼む」


 ブリザは、森に入っていった。夜明けにはもう少しあるが、月明かりよりは、よく見えた。何処に魔獣が潜んでいるか、わからない。茂みの闇に紛れていれば、見つける事も出来ない。要注意である。




 門は開いていた。このナポリオン領は、四方の門が全て開けられる。しかも、朝早くにだ。商人に優しい街であった。


 もちろん、この街でも、ギルドカードを見せれば、通行料は取られることはない。


 「おはようございます。ご苦労様でございます」


 門を抜けると、屋台街に向かった。食い物を買うにはもってこいの場所だ。


 通り過ぎながら、気になったものを購入していく。隣で買った、焼き鳥は朝飯がわりに食ったが、とても美味かった。ここの焼き鳥は、どうだろうか。


 色々と購入していくと、お目当ての店が見えて来た。


 扉を開けて、中に入る。特に挨拶もない。


 「今日は、何用だい?」

 〈何でも屋〉と書かれた店の店主ニュースである。


 「聞いて驚くなよ、妖精だ」

 袋から取り出した箱を机の上に置いた。


 「どうやって、手に入れた?」

 ニュースは、本物の妖精だとは、まだ信じていない。


 ドタバタ。


 箱の中から、音がする。


 「それは、言えねえな。それを言えば、飯の種がなくなるからよ」


 「本物か?」


 「あたりねえだろう。俺が今まで、お前に嘘を言ったことはあるか」


 「ねえな。でもよ、騙されたことはあるぞ」


 「結果的に、儲けたんだから、いいだろう」


 「本物なら、金貨100枚だそう」


 「それは、安過ぎるぜ。500枚は貰わねえと、売らねえよ」


 箱が動いた。ブリザは、上から手で押さえた。


 「貴族様にでも、持って行くかなあ。高く買ってくれるだろうしな」


 ブリザは、箱を持ち上げると、再び袋に入れ始めた。


 「待てよ。俺とお前の仲だろう。400で、どうだ。これ以上は無理だぜ」


 「やっぱ貴族様に持って行くか。その方がいいな。値段のことで、お前とケンカしたくねえしな。また、来らあ」


 「待てよ。わかったよ、500枚で、手を打つよ。それなら、いいだろう」


 「ああ、それなら、問題ない」


 その時だった。ガタンと扉が開いた。


 「やっと見つけたよ」


 店に入って来たのは、知った顔の4人組だった。


 「ブリザ、お前、俺を刺しただけでなく、誘拐までしたのかよ。その妖精は、俺たちの知り合いだ。返して貰うぞ」


 グラースは、素早く箱を取り開けた。箱を開けて、袋を開いた。


 「狭いし、暗いし、やっと出られたよ。グラース、ありがとう」


 「やっぱいティンクさんかい。良かったよ、助けることが出来て」


 ティンクはグラースの顔に飛びついて喜んだ。涙でぐしゃぐしゃだ。


 「返せ、グラース。それは、俺の獲物だぞ」


 グラスが取り返そうと、手を伸ばして来た。


 ヒョイとかわすと、ティンクをミチユーリに渡した。


 「馬鹿野郎。誘拐は、犯罪だぞ。わかっているのか」


 「お前達、俺様を舐めていると酷い目に遭うぞ。邪魔すんじゃねえ」


 「ブリザよお、やっぱり騙したのかよ。もう2度と来るんじゃあねえ。争い事は、外でやってくれ」

 

 「ふん。2度と来ねえよ」


 ブリザは、窓を破って、外に出た。


 「逃さねえぞ。リーダーにbナイフを刺した事を謝らせてやる」


 キオーンは、そう言うと、ブリザに飛び掛かった。

 

 ブリザは、ナイフで反応する。


 それを見ていた者達が、騎士団を呼びに行った。他の者達も、周りを固めて、逃げ道を塞ぐ。


 ナイフを振り回すブリザを盾で止める。


 「流石に、ここじゃあ、部が悪いな。一旦逃げるとするか」

 

 ブリザは、跳躍して、屋根に乗ると、門を目指して駆け出していた。


 「追いかけるぞ」


 グラースは、後を追って、走った。


 「どうやら、南門に向かっているようだな。遅れるなよ」




 何とか南門を抜けて、ブリザは、兄の元に走った。後を追われているとも知らずに。そう、ブリザはあまり物事を考えない。だから、いつも問題を起こす。パーティの中でも問題になっていた。本人の感知しない所でだ。人がいいので、みんな結局は我慢していたのだ。振りだと気づかずに。


 「全く大損だぜ。折角、妖精を捕まえたのによ。全部あいつらが悪いんだ、畜生」


 「自業自得だろう」


 ブリザは気付かないうちに、追い付かれていた。ブリザは知らないが、他の者達は、レベルがかなり上がっているのだ。そうとは知らぬブリザは、追い付かれるとは、これっぽっちも思っていなかったのだ。


 「俺様に、よく追いつけたなあ。褒めてやるぜ」


 「お前に褒められても、嬉しくないわ」


 4人は、ブリザを遠巻きに囲んでいた。ティンクは、ミチユーリの肩に乗っている。


 「さすがに、お前達4人には敵わねえなあ。でもよ、俺には秘密兵器があるからよ」


 そう言うと、ブリザは丸薬を取り出して、口に入れた。


 「あれ、ヤバいやつよ。レイ様が最悪逃げろって言ってたやつだわ」

 ニクスが思い出したように言った。


 「どうする、リーダー」

 キオーンも悩んでいるようだ。


 「あの頃の俺たちとは違う所を見せてやろうじゃないか」

 リーダーは、やる気でいる。刺された仕返しと言うのもあるのだろうが。


 「わかった」


 ブリザだった者は、蝙蝠の羽を持った何かに変わっていた。悪魔によく似ている。


 三叉の槍を振り回す。それに対抗するのはキオーンの役目だ。盾で、槍を受け流しては、一歩ずつ前進する。


 それを左右から、ニクスとミチユーリが魔法で援護する。ニクスの火魔法が幾度となく炸裂し、ミチユーリの風魔法が烈風と化し刻み付ける。


 それ程効いてはいないようだが、悪魔は左右にも意識を奪われて、気を散らし始めた。元々が、集中力のないブリザであったから、悪魔になっても、何も変わっていなかった。


 そこを狙い澄ました様に、キオーンの後ろから跳躍して、悪魔の頭上を占拠する。悪魔は上を見るのが精一杯だった。占拠された位置から、グラースの一撃が悪魔の頭で轟音を上げる。


 レベルの上がったグラース達には、悪魔と化したブリザでも、敵わなかった。


 驚愕の表情で倒れていくブリザだった。何故お前達はそんなに強いんだ。そんな顔をしていた。努力すれば強くなる。それだけのことだった。


 「凄いな。魔人もどきを倒すなんて、立派なS級だな。胸を張ってもいいと思うぞ」


 声の主は、レイであった。ここに来て、追い付いたようだ。


 「見てたのか。人が悪いなあ。手伝ってくれよ」

 グラースが頭を掻きながら言った。


 「そう言うな。本当に、今着いたんだ」

 レイは笑っていた。彼らが強くなって、嬉しそうだ。


 「レイ様、遅いですー。早く助けに来てくださいよ」

 ティンクはミチユーリの肩から跳び上がると、レイに向かって翔んだ。


 その時だ。


 一本の矢が、レイに向かって、飛んで来た。


 「危ない!」


 ティンクはレイを庇う様に、前に出た。


 矢はティンクに刺さり、落ちていった。


 「ティンクー」


 レイは、すぐさまティンクを拾い上げた。





 


 

 


 

 

 次回、ひとつが終わり、ひとつが始まります。

 待っていてください。

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