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78-災いは早めに摘み取るに限る

 「そこに、レイさんと言う方は、いらっしゃいませんか」


 猛スピード馬車の犯人は、アポロの姉のコレットだった。


 「俺なら、ここにいるけど、どうしたんだい。手続きの不備でもあったのかい」


 「違います。それは、昨日にキチンと終わらせています。そうではなくて、急病の人が沢山発生していて、レイさんなら、何か知らないかと思いまして。て、天の声が、聞こえたんです。レイさんの所へ行けと」

 

 よく見ると、コレットの頭に上に、妖精が胡座を描いて座っている。見えない魔法でも掛けているのか、誰も気が付かない。こちらに向かって、手を振っている。あれは、確か、イーストだったかな。


 〈偽物の回復薬がなくなった事で、中毒者が悪化しているようです。どうやら、酷くなると暴れたくなるようです。ミニ魔人みたいな感じですかね〉


 中毒症状を治すために作った薬を使わないと不味いようだ。まだ正規の実験をしてないんだよな。この状況だと使わない訳にはいかないようだ。仕方ない。


 「わかりました。あれを治せる丸薬を持っていますので、症状の軽い人に飲ませてください。悪化している人には、俺の方で対応するんで、悪化している人のは絶対に手を出さないでください。お願いします」


 俺は丸薬の入った箱をコレットに渡そうとしたら、アポロが横から取っていった。


 「俺も手伝うよ。だから、これは、俺が持って行くよ。いいでしょう、レイ様」


 「わかった、頼むぞ」


 「悪化した者の多くは、蘇芳会と領主の屋敷に分かれて向かっているようです」


 「わかった、コレットさんとアポロは、丸薬を頼む。ジャガ爺は、子供の守りをお願いします。リリもいるので、大丈夫だと思います」


 「わかった。気をつけろよ、お前達」


 俺はイーストを肩に乗せて、駆け出していた。その後ろを、アポロの乗る馬車が遅れて着いて来た。




 「うわ、これは、酷いな」


 街の至る所が、破壊されていた。ああ、道がわからないんだが。


 「次を右です。その方が、蘇芳会に行くのは早いです」


 「助かる」


 暴れるもの達とすれ違いながら、口に丸薬を放り込んで行く。飲んだ瞬間に、素の穏やかだった頃に戻って行き、眠るように倒れて行った。

 もう大丈夫だろうけれど、確認する間がないので、放置だ。


 「まだ、蘇芳会まで、かかるのか」


 「その角を曲がると見えて来ます」


 


 そこは、デモを行っているかのように、人が集まっていた。蘇芳会の建物は、窓は破られ、入口は壊されていた。


 さて、どうしたものか、考えながらも、丸薬を口に放り込んで行く。


 「私も手伝いましょうか」


 「出来るか?」


 「おそらく」

 そう言うと、イーストは飛んで行った。翔びながら、上手に丸薬を口に放り込んで行く。俺より上手くないか。


 


 「ほとんど、終わったようですね、マスター」


 「ああ、そうみたいだな。ここは、もう良いだろう。領主の屋敷に向かうぞ。どっちの方向だ」


 イーストの指差す方向に跳躍した。屋根を伝っていった方が早そうだ。道は、眠っている人で溢れている。とても走れる状況ではない。


 

 「あそこです。あの大きな建物が領主の屋敷です」


 ここまで来ると、道に中毒者が溢れていた。建物を破壊しながら、行進していく。ハーメルンの笛吹きを見るようだ。ネズミでは無く、人ではあるが。


 「この辺りから、また下を行くぞ。丸薬を飲ませながら、進むぞ」


 「わかりました」


 俺が屋根から飛び降りる拍子に、イーストは翔んだ。


 ふたりで、丸薬を飲ませては、進む。


 「いったい、どれくらいいるのだろうか、中毒者が。後始末が大変だぞ」


 「マスター、その角を曲がると広場に出ます。その先が領主の屋敷です」


 「もう一踏ん張りだな。俺は先に領主の屋敷に行く。ここは、頼むぞ」


 「わかりました」


 俺は、シールドを出して、空中を駆けていく。人が多過ぎて、前に進めないのだ。


 屋敷の塀を越えて、侵入する。中は中で、中毒者が暴れていた。騎士団の中にも、中毒者はいたようだ。それ程まで、あの薬に頼っていたようだ。中毒になっていない者達が、何とか中毒者を取り押さえているが、時間の問題かもしれない。押さえ続ける手段が無いのだ。


 「ここにいる中で、1番地位の高い者を教えてくれ」


 「ここに、どうやって入った。こいつらの仲間か」


 「違うよ。助けるために来たんだ。信じるか信じないかは任せるが」


 「わかった。私が団長のニコラウスだ」


 「俺はレイだ。詳しい話は後だ、時間が勿体無い。この丸薬を中毒者に飲ませてくれ。そうすれば、とりあえず症状は治る。倒れて眠り始めるから、すぐにわかるよ。時間を空けて、もう2、3回飲めば完治するはずだ」


 「信じても良いのか」


 「好きにしろ。俺は、屋敷の中が気になるから、先に行く。後は頼む」

 

 ニコラウスに丸薬の箱を渡すと、跳躍して、窓を破って、飛び込んだ。



 

 そこには、中毒が悪化して、魔人になり掛けている女性がいた。暴れ回っていたのか、ほとんどの人は倒れていた。残っているのは、伯爵だけのようだ。


 伯爵は取り押さえようと素手で対応していたようだ。腕がボロボロである。


 「伯爵、俺のこと、覚えているかい。一度だけ、会ったことがあるはずだが。覚えてる?」


 「・・・覚えているぞ。何しに来た」


 「中毒者を治しに来た」


 「つまらん、冗談だ」


 「本当だ。この件は、女王にも頼まれているから、放っておけないんだ」

 俺は回復薬を伯爵に渡した。


 「とりあえず、それでも飲んどいてくれ」


 俺は、暴れる女性の手を掻い潜って、丸薬を飲ませる。頭を押さえていたが、直ぐにまた、暴れ始めた。一粒では足りないようだ。それとも、美味しくないのか。後で聞いてみたいところだが、覚えてないだろうな」


 さて、もう一度だ。


 暴れる手を掻い潜って、丸薬をふたつ飲ませる。今度は、どうだ。

 

 女性は頭を掻きむしった。激しく動いていたが、突如電池が切れた様に、止まって、床に倒れた。寝息を立てているところを見ると、眠っているようだ。もう大丈夫だろう。


 「伯爵さん、後でこの回復薬を飲ませておいてくれ。もう大丈夫だと思うが、念のためだ」


 どうやら、外の騒ぎも収まるつつあるようだ。後は、アポロ達が上手くやってくれていれば、問題ないだろう。様子を見に行くとしますか。


 「すまなかった。私がこのことに、もう少し早く気づいていれば。家内の様子がおかしかった事に何故気が付かなかったのか。本当に申し訳ない」


 「それは、街の人に言ってやんなよ。それに、復旧が大変だぞ。あと、念の為にもう少し丸薬を置いていくよ。必要になったら、言ってくれ。いつでも用意するから」


 

 

  

 「一度、養護院に戻ってみようか。リリがいるから、大丈夫だとは思うけど」


 俺は、イーストを肩に乗せて、街の様子を見ながら、養護院に戻って行った。




 「建物は、あちこち壊れているようですが、怪我人はいないようですね」


 「あの回復薬が残っていると不味いから、何とか回収できないかな」

 倒れた植木鉢を直しておく。花は大事だ。ビー達の原動力になる。無ければ、飛んでる事に違和感を感じるかもしれない。あくまでも、何処にでもいる虫と言う必要がある。ある意味、俺達の諜報部員なのだから。


 「養護院の裏山に、巣箱を作るから、いい場所あったら教えてね」


 「着いたら、探して来ます」


 街中を抜けた頃には、壊れた所も無くなっていた。


 「この辺りに、被害はなさそうだね」


 そう思っていると、後ろから馬車がやって来た。あれは、ギルドの馬車だ。もしかすると、載ってるのは、コレット達だろうか。


 「レイ様ー、中毒症状の人も居なくなったので、戻って来ました」


 馬車は、横で止まって、中からアポロが出て来た。


 「レイ様の方は、どうだったんですか?中毒が悪化した人達で、ごった返してたって聞いたんだけど」


 「ああ、粗方片付いたから帰って来たんだよ。後は、領主様が何とかするだろうさ」


 「レイ様、馬車に乗ってください。養護院に帰ってから、ゆっくりと話しましょう」


 「ああ、そうしよう」


 俺はアポロを抱えて馬車に乗せると、自らも乗り込んだ。


 ゆっくりと走り出す馬車だった。


 「ギルドの方は、いいのか。今は、忙しいのではないのか」


 「ギルマスに了解を取ってますから、大丈夫です。養護院のことを話して、心配だからと言ったら、行ってこいと言ってくださいました」


 「できたギルマスだな」


 コレットは、自分が褒められた訳でもないのに、とても嬉しそうだった。


 しばらくは、ゆったりした時間が過ぎて、馬車は養護院に到着した。イーストは肩から翔んで、山の方に向かった。巣箱の設置場所を探す気満々のようだ。良い所が見つかるといいのだが。


 「お帰りなさいませ」

 

 出迎えは、リリであった。子供達は、外に出さないようにしているらしい。


 馬車を擁護院に脇に置いて、中に入ると。やかんや、鍋を被って、棒を持っている子供達がいっぱいいた。大きい子ほど、何も持っていない。棒ぐらいでは、賊を撃退出来るのを知っているのだ。


 「どうじゃった、街は」


 ジャガ爺は、椅子に座って、お茶を飲んでいた。こんな所まで、敵は来ないだろうと思っていたようだ。それと、どうやら、リリの強さを見抜いていたようだ。抜け目のない爺さんである。


 「もう大丈夫だ。中毒者には薬を飲ませて来た。後は、伯爵に頼んできたから、問題ない。かなり建物が壊されているから、復旧には少し時間がかかるかもしれないなあ」


 「ギルドの方でも、復旧の手助けをするそうです。場合によっては、依頼を出すそうです。薬が足らなくなれば、レイ様に言って欲しいと伝えてあります。不味かったですか?」

 コレットが自信満々に語っている。まるで、自分の自慢のように聞こえるのが不思議だ。


 「あの薬は、俺しか持っていないから、仕方ないだろう」


 「もうお外で遊んでも良いのですか?レイ様」


 「もう大丈夫なの、レイ様」


 子供達が口々にしゃべるから、答えに困った。


 「お腹も空いたから、みんなで、美味しいものでも食べようか」


 俺は、リリに早めの晩御飯を頼んだ。肉ならマジックバックにたんまりとある。外でバーベキューでもしたいところだが、何かあっても困るので、今日の所は室内で騒ごうと思う。




 そこに、イーストが、戻って来た。見つからない魔法を忘れていない。子供達に見られたら、パニックになるかもしれない。


 〈山の上に変な建物を発見しました。人数はふたりです。どうやら蘇芳会の関係者のようです〉


 それは、不味いな。すぐに捕まえとかないと、子供達に何かあったら大変だ。


 「わかった、俺も行こう」

 小声で言うと、俺はジャガ爺を隣の部屋に連れて行って、事の次第を話しておいた。


 「そんな理由で、ちょっと行ってくる。何かあるようなら、爺さんの作業場に逃げろ。あそこなら、ドラゴンに攻撃されても壊れないような作りになっているから。よろしく頼む」


 「そんな凄いものを作るんじゃあねえ。まあ、良い。後のことは任せておけ。美味いものを食いながら、待っといてやるよ」

 イヒヒと笑う顔は、福笑いのようだ。


 「それじゃあ、ちょっと行ってくる」




 

 「この先です」


 イーストの指差し方向に、ボロ屋があった。今にも壊れそうだ。


 「ゆっくりと近づいて、中の様子をみよう。あそこの壊れて開いた穴から、見えるんじゃないか」


 俺達は、音を立てないように、ゆっくりと近づいて行く。




 

 「早過ぎないか、鎮圧されるのが。中毒者が街中に溢れて、暴動が起きる予定ではなかったのか。どういうことだよ、全く」


 この街の蘇芳会の院長シルバーが、喚いていた。


 椅子や物を投げたのか、中も相当ボロボロだ。


 「暴動に紛れて、この街を出る予定だったと言うのに。何も出来ないうちに、終わるなんて、考えられない。スカーレットの姿は見えなくなるし、どうすろんだ、いったい」


 「カッカするなよ、院長。暴動が鎮圧されたのなら、もう一度暴動を起こすだけだ。もっと、大規模でな」


 「可能なのか、そんなことが」


 少しばかり落ち着いたのか、机に座って、頭を掻く。


 「任せろ。そのための準備はしてある。其処の本棚をずらしてみろ」


 シルバーは、棚を動かした。初めから動かすことを想定していたのか、とても軽い。


 「東門の横にある屋敷の倉庫に繋がっている。そこからなら、魔獣を呼び寄せて、騎士団が対応している間に逃げることが出来る。ついでに、西門にも魔獣が行くように、誘導しておくさ。塀に外に、そっと出れれば良かったんだが、塀には穴が開けられんから、我慢してくれ」


 「中々考えておるでは無いか。よく準備出来たな」


 「いつでも逃げれるように、準備しといたからな」


 「相変わらず、用意周到だな」

 シルバーは院長服を脱ぐと、軽装の鎧を身に付けた。腰に剣を下げて、脱出の用意をする。


 フックは、机にあった書類をマジックバックに仕舞い、代わりに防具を取り出して、身に付ける。シルバーの物と違って、革製の物のようだ。得物はナイフを左右に取り付けた。どうやら機動性重視のようである。


 「忘れ物はないか。もう戻って来れねえぞ」


 「大丈夫だ。王都に置いてある」


 棚の下に隠れていた蓋を開けると、梯子が下に伸びていた。まずは、勝手知ったるフックから降りて行った。続くように、シルバーが降りて行く。最後に蓋を戻すと、棚が勝手に動いて、元に戻っっていった。


 「敵さん、用意がいいねえ」


 「逃げられますよ、どうするんですか?」


 「東門に行ってみよう。他のも、用意してるようだから。西門は騎士団に頼もう。伯爵に連絡しておくよ。そのためのテレ・フォンだからね」


 ここで、倒した方が良かっただろうか。フックという奴が、どうやって魔獣を集めるかも知りたかったしなあ。まあ、何とかなるだろう。


 俺達は、東門に急いだ。




 「イースト、奴らを探せないか?」


 「もう探しております。もう少し、お待ちください」


 あいつら、魔獣を呼び寄せるって、言ってたよな。どうやって、呼び寄せる?見えないものは、呼び寄せられないだろう。ならば、音か。

 どちらにしても、高い所か。見るにしても、音を響かせるにしても、高いところの方が、効率が良いよな。そうなると、この辺りで、高い所は・・・・。

 

 「あそこの塔の周りの倉庫を調べさせてくれ」


 イーストは頷くと、翅を震わせた。振動が音になって、周囲に広がっていく。


 反応はすぐにあった。


 「あの倉庫で正解のようです、マスター。ただし、倉庫に続いていた洞穴はもぬけの空だそうです。すでに、塔に登っているのではないかと」


 「少し遅かったか」


 何処からか、笛の音が響いて来た。


 「マスター、塔の上に人がいます」


 「イースト、お前はギルドに飛べ。そして、魔獣が攻めて来ると伝えて来い。聞いてくれないようなら、すぐに戻って来い。人の話を聞けぬギルドなら、潰れればいい」


 「わかりました」


 イーストはロケットの様に飛んで行った。あれなら、間に合うかもしれない。


 俺は、シールドを作って、駆け上がって行った。


 笛を吹かれた以上、魔獣が来るのは、時間の問題だろう。


 兎に角、大元を叩かないと、終わらないはずだ。あの時の仕返しが出来るから、楽しみだ。


 俺は駆け上がりながら、レイガンで笛を撃ち抜いてやった。


 どうやら、気づいていなかったようで、驚いている。撃ち抜かれた笛を投げ捨てると、剣を抜いて、構えていた。


 「誰だ、お前は。よくもやってくれたな」


 俺はあまり広く無い塔の上に辿り着いた。シルバーが斬りかかってきた。フックは、指笛を吹いている。状況はあまり変わっていないようだ。


 シルバーと斬り合いながら、森の方に目をやる。魔獣だ。竜樹の木で守られているはずだが、何処からやって来たのだろう。もしかして、何らかの方法で魔獣を連れて来ていたのか。仕込んでいたのだろう。


 不味い、相手をする余裕はないぞ。そうだ、その為にあいつらが居た。


 俺はモンスターチューブを四つ共、塀の外に投げ付けた。


 チューブは割れて、魔物達が出て来た。


 「お前達は、森から来る魔獣どもを倒せ。門の中に一匹も入れるなよ」


 魔物達は、四方に散っていった。あいつらに任せておけば、大丈夫だろう。


 「お前、何をしやがった」


 「お前達と同じような事だ。無茶苦茶強いけどな。覚悟しといた方がいいぞ」


 シルバーとフックが連携を取りながら、斬りかかってきた。二対一では、部が悪いんだが。レイガンを撃つと、マガジンを変える余裕がないので、刀と入れ替える。左右に一本ずつ、二刀流である。左でシルバーの剣を受け止めて、右でフックの変幻自在の剣に対応する。


 フックは2本のナイフをうまく使って、攻撃してくる。それでも、俺の方が早いから、次第にフックの反応が悪くなり、上手く左腕を斬り飛ばしてやった。


 「思い出した。お前はあの時の男か。あの時もう一人いた女は、どうした。死んだのか。残念だったな」


 「残念だったな。ピンピンしているよ。残念だったな」


 どうやら、スノウのことを言っているようだ。勝手に言ってろ。


 俺は、タイミングをずらすようにして、斬りつける。フックには躱されたが、シルバーの脚に深い傷を付けたようだ。


 「やはり強いな。今のままだと勝てそうにないな。仕方ねえなあ」


 フックは、注射器を2本取り出すと、一本は自分に、もう一本はシルバーに差した。


 刺した箇所から血管が浮かび上がり、全身に走っていく。気付くとフックはオークに変わっていた。気持ち悪い顔が、更に気持ち悪く感じる。ブタの顔だ。


 シルバーの方は、羽根が生えて、頭にツノが生えている。ヤギのそれだ。一般的な悪魔の顔だ。でも、何故違う変化なのだろうか。どうやら、この前までの魔人とは違うようだ。こいつらは洗練されている。以前の魔人は、人ならざる者と言った感じの化け物だった。


 しかも、人の心が残っているようだ。自分自身を制御できている。そこが、全く違うところだ。さっきの注射の中身が知りたいんだが。分析の必要がある。


 「グググ、こちらから行くぞ」

 

 シルバーの先制攻撃だ。長い爪の生えた腕が、伸びて来る。目の前で爪がクロスする。刀で受け止める。人間だった時より、力が上がっているようだ。刀が押し戻される。このままだとジリ貧か。


 「斬り刻んで、塵にしてやる。爪が伸びて、剣のようになった。5本の剣が、縦横無尽に飛んで来る。受けていられない。かわすのもひと苦労だ。


 横から、フックも斬り掛かってきた。強大な斧を手に攻撃が止まらない。ふたりを相手にするのは、どうやら無理そうだ。


 やっと、騎士団が到着した。イーストの言うことを信じてくれたようだ。


 「門を守れ。魔法部隊は、塀の上から撃退せよ。撃ち漏らした分は、残ったもので叩く。いいか、怪我をした者は直ぐに下がれ。医療班を準備しているので、直ぐに処置をしてもらえ。人手が足りなくなったら、街に入り込まれるぞ。危なくなったら、すぐ撤退だ」


 騎士団の動きは早かった。


 「団長、魔獣を倒している魔物達がいます。どういたしましょうか」


 「あれは、我がマスターの配下ですので、それ以外をお願いします」


 「了解した、イースト殿」


 イーストは、一度こちらを向くと頷いて、門を見直した。遠くにモンスター・チューブ達がいる事にも気づいていた。ただし、自分にはあまり攻撃力が無い為、戦況を見つめるしかなかった。




 「おかしいぞ。我が配下どもが押されておる。あれだけの数を人間如きが止めれるわけがない。いったい、何が起こっている」


 地団駄を踏むフック。ここまで、作戦通りなのだ。今の戦況が理解出来なかった。勝てるはずなのだ。この状況を利用して、どさくさに紛れて逃げるはずだったのだ。


 「どうなっているんだ、いったい」

 フックは呆然と、戦況を見入っていた。


 


 今がチャンスだ。俺はリングに向かって叫んだ。


 「召鎧」


 俺の身体が光を浴びて、転身すろ。光が消えると、黄色い鎧を身に纏っていた。背中に交差するように、2本の刀を背負っている。これが、新しいバトルスーツだ。


 片方に刀を抜くと、光が線を描き、飛んでいった。


 光はシルバーに当たると、真っ二つに斬り裂く。


 シルバーは、驚いた表情のまま倒れて、息を引き取った。再生する様子もない。やはり、あの魔人達とは違うようだ。


 「おいおい、一撃かよ。何だよ、その格好は。頭に来るなあ」

 言い終わらないうちに、斬り掛かって来るフックだった。仲間が死んだのだ。少しは苛立つようだ。人間味が残っているようだな。やはり、魔人とは違うようだ。区別する為にも、狂人化とでも言った方が良いだろう。

 

 おそらく、薬を血管に入れる事で、細胞が活性化して、人を越えた力を手に入れるのではないだろうか。よくそんあ方法を見つけたものだ。医療院で人体実験でもしていたのだろうか。蘇芳会全体に広まっているとすれば、厄介だ。


 「何、黙ってるんだ。俺をシルバーと一緒にするなよ。俺の方がランクが上だからな。シルバーは、初めから捨て駒なんだよ。まあ、あんなに簡単にやられるとは、思わなかったがな」


 饒舌だなあ。この姿になった俺に敵うと思うなよ。さて、時間をかけたくないんでね。


 「行くぞ」


 俺は跳んだ。この姿の時は、3秒だけ、光速になれるんだよ。


 フックが瞬きをする間も無く、俺は斜めに斬り付ける。一歩も動くまもなく、フックの身体が、左右にズレる。おそらく、死んだ事に気づいていないだろう。これをすると、疲労感が酷いから、あまり使いたくなかったんだが、外の事もあるからね。


 「イースト、外の様子を教えてくれ」

 俺は刀を鞘に納めた。


 「召鎧解除」


 バトルスーツを解除する。


 「あらかた、片付いた様です。あの方々に敵うものは、そういませんからね。相手に同情しますよ」


 そこに、ブルー達が帰って来た。


 「マスター、終わったよー」


 スライムのブルーがボールが跳ねるように跳んできた。可愛いやつだ。


 その後を蟻の王女クイーンと、白狼のシルバが戻って来た。炎の魔神クレナイはと言うと、倒れた魔物達を焼いているようだ。死体を放っておくとアンデッドになるから、雑魚だけ処理しているようだ。大物は、魔石や素材になるので、残してある。これは、騎士団やギルドが何とかするだろう。なんせ、金になるからな。


 「ありがとうな。助かったよ」


 4体はチューブに戻ると、俺のベルトに付いたバックに入って行った。


 俺は、シールドを使って、下に降りた。


 ちょうどそこに、伯爵とギルマスがお揃いのようだ。


 「レイ様、終わったのでしょうか」

 伯爵が、尋ねてきた。


 「ああ、終わったよ。まだ雑魚が残っているかもしれないが、外も大丈夫だろう。首謀者のふたりは死んだよ。この塔のうえに死体が残っているから、片付けは頼む。金にならないような魔獣は焼いておいたが、大物は残っているから、かなりの額になるはずだ。それくらい多かったと言う事だが」


 「レイ様が居なかったら、全滅も有り得たかもしれません。本当にありがとうございました」


 「俺達は、養護院に帰るから、後は頼むよ。俺の取り分は不要だ。建物が壊れたり、冒険者に怪我人もいるだろうから、そっちに使ってやってくれ。何かあれば、養護院にリリって言うメイドが居るから、リリに言っといてくれ。それじゃあな」


 俺は、イーストを肩に乗せて、養護院に戻って行った。


 帰り道を忘れたけれど、イーストがいるから、大丈夫だろう。


 「お腹が空いたな。まだ肉が残っているといいけどな」


 「蜂蜜なら、沢山ありますよ」


 「やっぱ、肉だな」


 「残っているといいですね。それと、あの小屋は、私たちで戴いてもよろしいですか。住みやすい様に、こちらで改良いたしますので」


 「ああ、好きにしてくれ。その代わり、俺が購入した土地のパトロールは頼むぞ。特に子供達には注意してくれよ」


 走る元気もなかったので、トボトボと歩いて帰った。馬車くらい持ってくれば、良かったかな。


 

 


 

 



 ふたつに分ければ良かったと後悔しつつ。

 次回に、続きます。

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