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77-ルイーズ領で、一悶着

 「ねえねえ、聞いた?院長達3人が行方不明なんだって。どうしちゃったのかしら?」


 「医療院は、どうなるのかしら。薬はくれるみたいだけど、以前ほど効かないみたいよ。飲んでも治らないから、治療してる人、みんな、困ってるんだって」


 「うちの娘夫婦も通ってたみたいだから、大丈夫かしらね」


 「領主様は、何とかしてくれないのかしら


 噂話で、どこででもあるものだ。嘘か、真実かは、別にしても、話好きな人は、何処にでもいるのだ。井戸端会議は、みんな大好きだ。


 


 「何処に行っても、この話で持ちきりだなあ。事実が知りたいんだけどな」


 ビー達に頼んでも良いけれど、自分の目で確かめたいしなあ。怪我をしたと嘘ついて、入ってみるかなあ。顔を見られたくないんだよな。


 「夜にでも忍び込もうかな」


 そう思って、立っていたら、子供がぶつかって来た。


 「危ないぞ、大丈夫か」


 俺は、子供の腕を捕まえたまま、離さなかった。


 「い、痛いじゃないか。離してくれよ」


 「ぶつかって来たのは、君の方だろう。人のものを取ったら、駄目なんだぞ。知ってるか?」


 「し、知らないよ。それに、何も取ってないだろう」


 「取ってないではなくて、取れなかったの間違いだろ。盗人なんて、やめといた方がいいぞ」


 「大声出すぞ、みんな、子供の言うことの方を信じるんだからな。知らないぞ」


 子供は暴れるのをやめて、そう言った。


 「ああ、いいぞ、その前に殺すから」


 俺はナイフを取り出して、首筋に当てた。


 青ざめる子供。かなりビビっているようだ。初めの威勢の良さは、どこに行ったのやら。


 「このまま、離してやらないこともないぞ」


 「ほ、本当か」


 青い顔で、俺を見た。


 「俺は嘘は付かない。ただし、逃げたら、殺すぞ。俺は高速で動けるからな。まあ、信じるかどうかは、自由だ」


 「わかったよ。それで、何をすればいいんだ」


 「医療院から出て来た人の持っている回復薬と、この回復薬とをすり替えて来て欲しい。お前なら、出来るだろう。心配しなくても、これは本物の回復薬だ。だから、すり替えても罪にはならないよ」


 マジックバックから回復薬をひとつ取り出した。


 「うーん、おじさん、何をしたいんだい」


 「そこは気にしない方がいいかな。それで、どうする?」


 「わかった、やるよ」

 

 子供は、俺に手から回復薬を取ると、今で出て来た人とすれ違った。


 普通の人では気づかない程、上手くすり替えて、こっちに戻って来た。


 「これで、いいのか」


 俺に回復薬を渡すと、様子を伺っていた。


 「こんなことに、礼を言うのも何だが、ありがとうな。楽が出来たよ。それと、もうひとつ、聞きたいことがあるんだが、いいかな」

 俺は見られないように、回復薬をサリーに転送した。


 「今更だろ。何でも答えるよ」


 「それじゃあ、この領都の養護院が何処にあるか、知らないか」


 「どうするんだよ、そんなとこの事知って?」


 「ああ、少し寄付しようと思ってね」


 子供がひどく落ち込んでいた。何かあったのだろうか。


 「少し、遅かったな、おじさん。ひと月くらい前に閉鎖になったよ」


 落ち込んでいる理由は、これか。


 「閉鎖になって、子ども達は、どうなったんだい?」


 「ジャガ爺が、面倒を見てるよ。俺も面倒見てもらってるから、少しくらい役に立ちたくて・・・」


 「それだと、そのジャガ爺が怒るんじゃないか。人の迷惑になる事だけはしちゃあ、駄目だよ。俺を、そのジャガ爺の所まで、連れていってくれないか。心配しなくても、さっきの事は言わないよ」


 「本当か。本当なら、案内してやるよ。気難しい、爺さんだから、注意してくれよ」


 「そう言えば、君の名前を教えてくれよ」


 「アポロだ」


 俺は、アポロと一緒にジャガ爺のところに向かった。





 「ジャガ爺、いるかー。お客を連れて来たぞ」


 何度も何度も曲がった先に、その家はあった。またボロ屋だ。


 普通の家ではないようだ。表に看板があった。


 【鍛冶屋ジャガ】とある。おー、鍛冶屋を一度は見てみたかったのだ。どうやって、作業するのか、興味深々だ。

 アポロに誘われるままに、店に入る。


 「この老ぼれに何のようだ」


 奥から出て来たのは、ドワーフだった。ずんぐりむっくりの筋肉質。髭の生えた小人だ。噂通りである。


 「ジャガさんでいいのか。アポロにそう聞いたのだが。俺はレイ。ただの冒険者だ」


 俺は、店内の様子を見ながら、話を続ける。


 「いい腕だなあ」


 「大したものはないぞ。もう、腕が上がらなくてな」


 「それじゃあ、この回復薬を飲んでみな。見る見る元気になるはずだ」


 俺は、回復薬を3本渡しといた。普通のものより、性能が良いはずだ。


 「用というのは他でもない。ジャガさん、潰れた擁護院の子供達の面倒をみてるんだろう。俺にも手伝わさせてくれないか」


 「本気で言ってるのか」

 そう言いながら、ジャガは回復薬を一気飲みしていた。


 「ああ、本気だ。何処かに土地を購入して、新しく養護院を作ろうと思っている。そこの院長をしてもらえると、助かるんだが」


 ジャガの目の色が変わった。腕を上げたり、回したりしている。


 「おーい、ジャガさん、聞いてるか?」


 ジャガは俺に詰め寄って来た。恐ろしい形相だ。


 「お前、これを何処で手に入れた。どうやったら、手に入るんだ」


 「落ち着いてくれ。それは、俺が作ったものだ。院長をしてくれれば、幾らでもやるよ」

 俺は嘘は言わないよ。その代わり、院長をしてもらうのだから。


 「うーん、考えさせてくれ。仕事もしたいんだ。凄く良いものが出来そうなんだ。だから、子供達の面倒と一緒は難しいかもしれない。子供達には悪いがな」


 「ジャガ爺、俺たちの事は気にするなよ。今なら、いい仕事が出来るんだろ。やってくれよ。俺達は、前と一緒だから、自分達で何とかするから。ジャガ爺のしたい事しろよ。俺達は、ジャガ爺の足ばっかり、引っ張りたくないんだよ」

 アポロは泣きながら、叫んでいた。


 何だ。お互い、必要としてるんじゃないか。


 「養護院と仕事場を一緒にすれば、良いのではないのか」


 「出来るのか、そんな事が」

 ジャガは、まだ疑っていた。


 「ちょっと用意してくるから、待っててくれ」

 

 俺は、狐の騙されたような顔で、見送ってくれた。




 「サリー、何かわかったか」


 俺はリングに向かって、サリーに話しかけた。


 〈以前の回復薬とは、違うようです。出来の悪い普通の回復薬ですので、中毒性はございません〉


 相変わらず仕事の早いサリーだった。


 「ありがとう」


 〈どういたしまして、チュッ〉


 俺は通信を切った。サリーが嫌いなわけではないのだが、何処か同級生のような懐かしい感じなんだよな。前の世界で、何か関係でもあったのだろうか。今も記憶は戻らないままだった。





 「ギルドで土地を斡旋してくれると聞いたんだが」

 ギルドに入ると、受付嬢に尋ねた。


 「はい、斡旋しておりますが、どのような土地をお探しでしょうか?」


 「大きな音を出しても、近所迷惑にならないくらいの土地を探している。広いのは問題無い」


 受付嬢は、後ろの棚から本を取り出して、パラパラと捲っていく。


 手が止まると、


 「ここなんか、如何でしょうか?以前は、養護院があったのですが、潰れてから、廃墟になっております。此処でしたら、土地も広いですし、周辺には何もありませんので、お薦めですよ」


 「そこを見ることって、出来るのかな」


 「ええ、ここでしたら、私がご案内いたしますよ」


 そうと決まれば、話は早かった。ギルドで馬車を借りて、あっという間だった。





 「右の森では木の実がよく取れます。魔法薬の材料として、重宝されてる実なので、かなりの稼ぎになるかと。左の森は硬い木なので、防具の材料にもってこいです。奥には小さな山があって、鉱山があるという噂です。小さいですが、池もあるので、魚釣りが出来ますよ」


 受付嬢は馬を操りながら、楽しそうだ。


 「詳しいですね。もしかして、あなたの土地ですか?」


 「まさか。・・・恥ずかしいですが、この養護院の出身者ですから」


 なるほど、道理でよく知っているはずだ。


 「この土地の区分けは、どうなってますか?」


 「簡単ですよ。土地を囲むようにして、川が流れていますから。川に囲まれた土地が全部です。1キロ角でわかりますか」


 東京ドームで22個分くらいかな。広いなあ。って、東京ドームって、何だ?また昔の記憶だな。たまに出て来るんだよなあ。


 「こんな広い土地がよく余ってましたね」


 「山と森と池と。誰も開拓しませんよ。真裏は領都の巨大な塀ですし、外から、何か入って来ないかと、みんな、恐ろしがっちゃって。そんな土地なんか、誰も買いませんよ。そのせいで、養護院の面倒も見る人が居なくなっちゃって」


 「わかりました。俺が購入しますよ」

 決まりだな。こんな良い土地は滅多に無いぞ。


 「ギルドに戻って、手続きしませんか?」


 受付嬢は固まっていた。口が開いたままだ。美人さんが台無しだ。


 「ジャガさんと、アポロのやつ、喜んでくれるかな」


 「へっ」


 何だか、変に再起動した受付嬢だった。


 「アポロのこと、何で知ってるんですか?」


 「少し前に、スリに合いました」


 「申し訳ありません」

 土下座する受付嬢だった。


 「いえいえ、大丈夫ですよ。何も取られてませんし、その後仲良くなりましたし。立ち上がってください」


 俺に支えられるように起き上がっても、何度も頭を下げていた。


 「とりあえず、ギルドに戻って、手続きしませんか?」


 落ちつくのを待って、俺達はギルドに戻って行った。





 「以上で、手続きは終了になります」

 

 コレットが、書類一式を渡してくれた。


 受付嬢では呼び難いので、帰りの馬車で、名前を聞いていた。


 俺は書類一式をマジックバックに入れて、もう一度あの場所に戻った。



 メガミフォンを取り出して、建築アプリを開く。


 養護院は再構築する事にした。新規に立てるより、ポイントが少なくて済むからだ。それに、懐かしい建物の方が、驚くだろうと思って、実行した。後は、いつものように、裏に倉庫を建てて、少し離れた所にジャガ爺用に作業場を作っておいた。ミニ溶鉱炉も作っておいたので、材料となる鉄さえあれば、何でも作れると思う。

 

 詳細部は、爺さんと子供達に見てもらって直そう。


 もちろん、メイドゴーレムも忘れてはいない。名前はリリだ。


 掃除の必要はないとは思うけれど、中の片付けをしていてもらおうか。今日からでも住めるから、呼んでこようと思う。


 ここは、街から少し距離があるから、専用の馬車を作っておこう。御者は必要ないくらい賢い馬を作っておけば大丈夫だろう。


 俺は、作った馬車に乗って、アポロ達を迎えに行く事にした。




 「おお、本当に戻って来たのか、レイ。夢物語の準備は済んだか」

  

 「ああ、準備は出来たぞ。さあ、引っ越しの準備だ。ちりあえず、必要なものだけ、この馬車に積んでくれ」


 「まだ、そんなことを言ってるのか。回復薬には、感謝してるが、これ以上無理せんでいいぞ。後は、俺がこの腕で何とかするさ」

 

 腕もかなり良くなったようだな。もう2回くらい飲めば、完治するはずだ。


 「まあ、騙されたと思って、準備してくれ」


 ジャガ爺は、頭を掻いて、面倒臭そうだ。後ろで、アポロもどうしていいか、悩んでいるようだ。


 俺は、使わなくなった容量の少ないマジックバックを投げて、アポロに渡す。


 「その中に、必要そうな物を全部入れて来い。マジックバックだから、心配いらない」


 アポロは俺の目を見ている。信用していいかどうか、まだ悩んでいるようだ。いい加減に信用して貰いたいものだ。


 「早く行け。お前が、みんなを先導するんだ。頼んだぞ」


 頷くと、ジャガ爺の家の奥に入って行った。


 暫くドタバタ音がしていたが、音が止んだ頃、アポロは他の子供達を連れて戻って来た。


 「準備できたぞ。仲間もこれで全員だ。ジャガ爺の分も入れて来たぞ」

 

 まだ半信半疑のようだが、ジャガ爺に迷惑をかけている今より良いと思ったのだろう。子供達全員、本気の目だった。これなら、大丈夫だろう。


 「さあ、馬車に乗った、乗った。ジャガ爺も忘れるなよ。ちゃんと積んどけよお」


 「おー」


 やはり子供達の方が、話が早いようだ。だから、騙されやすんだろう。


 俺は、馬車の扱いをアポロに教えながら、目的地に向かって、進んで行った。





 「レイ様、この先には何も無いぞ。本当に、合ってるのか、この道で」


 「ああ、一本道だからな」


 「でも、この先は・・・・・」


 そろそろ新しくなった養護院が見えてくるはずだが。


 「あれ?あんな新しい建物なんか、あったかー」


 アポロがやっと気がついた。


 「ああ、あれが新しい養護院だ。少し離れているが、隣にジャガ爺の作業場もあるだろう。見えるか?」


 子供達は隙間から顔を出すと、じっと見つめていた。


 「本当だ、本当に、家があるよ」


 「見える、見える。僕にも見えるよ」


 「養護院と同じ形だ。懐かしいな」


 どうやら、みんな、喜んでいるようだ。作った甲斐があったと言うものだ。


 「わしの作業場もあるのか。レイ様、あなたは、いったい何者じゃ」


 「ただの通りすがりの・・・冒険者だ。ただし、ひとつだけお願いがある。蜂の巣箱を置かせて欲しいんだが、良いか?」


 「いいも、悪いも、ここのオーナーはレイ様だろう」


 大口を開けて、笑う爺さんの歯はデカかった。ちゃんと歯磨きしろよ。


 


 表に馬車を停めると、メイドのリリが出て来た。


 「お帰りなさいませ」

 一礼すると、背筋を伸ばして、立っていた。


 「あれは、何者じゃ」


 「ここの院長は、ジャガ爺だが、忙しい時に留守を守る者が必要だろうから、俺の方で用意しておいたメイド兼副院長のリリだ。よろしく頼む」


 「よろしくお願いいたします」


 子供達は、割れ先にリリに抱きつくと、そのまま、養護院に入って行った。


 「何から何まで、ありがとうの。これで、子供達にも良い暮らしをさせてやれるわい」


 「俺の農場で収穫した野菜と果実を置いとくから、暫く食べ物に困る事はないはずだ。金貨もリリに渡してあるから、必要なら言ってくれ。ただ、ジャガ爺だけでは生活に困るかもしれないから、子供達の仕事を考えてやって欲しい。土地ならいっぱいあるから、農園をしてもいいだろうし、出来ることはいっぱいある筈だ」


 「ああ、そうじゃな。子供達の未来の為にも頑張らねばのう。ん?あれは、何じゃ」


 こちらに、猛スピードで近づいて来る1台の馬車があった。


 何事だろうか。




 


 


 


 1話でうまくまとまらず、2話になってしまいました。

 さてやって来るのは、吉報か、それとも災いか。

 次回をお楽しみに!

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