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76-ジェームズ領から表で暗躍中

 「うおー、よく寝たー」

 俺は窓の景色に驚いた。ピンク色の空が広がっていた。まだ明け方?


 「おはようございます、マスター」


 「何だか、凄く眠ったような気がするのだが」


 「ええ、熟睡されていらっしゃいましたよ」


 夜中の3時頃に戻ったはずだ。3時間程度しか、眠っていないってことか?


 「パールが、マスターに魔法を掛けておりました。疲れが取れる魔法だそうですから、それで早く起きれたのではないでしょうか」


 「それでか。そんな魔法の練習してたな。練習台にもなったしな。色々しておくと、役立つものだな。後で、パールに礼を言っておこう」


 ベッドから起き上がり、アンバーの出してくれた服に着替える。いつもと同じタイプ服だが。


 「アリス達は、どうしてる?」


 「アリス様は、まだ就寝中でございます。マリアは、ギルドにお出掛けされました。依頼を受けてくるそうでございます」


 「元気だなあ、マリアは。そう言えば、スノウはどうしてる?」


 「何かあるといけないからと、青の国の王女アンデ様の宿に一緒にお泊まりになられているようでございます」


 「それなら、安心だね。とりあえず、次にこちらから仕掛けるのは、王女達が帰ってからかな。変な争いに巻き込む訳にいかないしね。それまでに、下準備と、女王様の所に報告に行って来ようかな」


 「それが、よろしいかと」

 一礼すると、アンバーは出て行った。


 さて、俺も出かけようか。


 メガミフォンで、女王様に連絡して、昼前に訪問する事になった。イチゴのケーキが食べたんだと。困った女王様である。




 「モールは、いるかい」

 秘密基地ダンジョンに入って、大きな声で叫んだ。何処にいるか、わからないけれど、これで聞こえるはずだ。


 案の定、目の前にモールが降って湧いた。

 この秘密基地ダンジョンのマスターなのだから、朝飯前である。


 「お呼びでしょうか?」

 

 「そろそろ、子供達を鍛えようかと思うのだけれど、どうだい」


 「・・・・・」


 「どうした、何か問題があるの?」


 中央のエレベータが、迫り上がってきた。

 中から、子供達が3名、出て来た。


 「あっ、レイ様だ。いつもありがとうございます」

 3人は、一斉にお辞儀した。院長に、よく教育されているようだ。


 「ああ。何してたんだい?」

 子供達は、正直である。


 「モール様に、鍛えていただいていた所です」


 モールが黙った理由は、これだった。


 「モール君、何故黙っていたのかな」


 「申し訳ございません」

 土下座するモールだが、子供達がその前に、立ち塞がる。


 「モール様は悪く無いんです。悪いのは、僕達で、モール様に無理言って、頼んだんです」


 「僕たち、何か手助けをしたくて。院長様の手助けをしたくて、それにはお金を稼ぐのが1番がから。モール様に鍛えてもらえるように、頼んだんです」


 「だから、僕達が悪いんです。モール様は、何も悪くないんです」


 子供には勝てないよね。多分、モールもそうだったんだろうな。何だかんだと、優しいからな、モールは。


 「わかった、わかった、別に怒ってる訳では無いよ。何で黙ってたのか、聞いてただけだよ」


 まあ、どうせ、そろそろ鍛えようかと思っていた頃だし、ちょうどいいかな。


 「モール、子供達に怪我をさせないようにね。後は、任せるよ。頼んだよ」

 それだけ言うと、俺は外に出た。後は任せておけば、大丈夫だろう。




 「少し早いけど、お城に向かおうか。そう言えば、ティンクはどこ行ったんだろ。昨日から、見てないんだが」


 「ここにいますよ。ふわーあ」

 ポケットから現れるティンク。


 「昨日は、夜五月蝿くて、あまり眠れませんでした。明け方、やっと静かになったので熟睡してたのですが、・・・何か、御用ですか?」

 目を擦りながら、ティンクはぼやいた。

 

 「特に用事がある訳ではないけれど、姿を見せなかったから、心配でさ」


 「最近、すごく眠たくってですね。まだ眠いので、用事があったら、起こしてください。おやすみなさい」

 言うだく言うと、ポケットに潜り込んだ。


 「まあ、いいけどね。やべ、遅くなっちゃったよ。急がなくちゃ」


 俺は、ジャンプして、屋根に飛び乗った。そのまま、屋根を跳ねながら、一直線にお城にむかった。この方が早いよね。


 


 「あいつ、何処かで見たような?」

 俺は懸命に思い出そうとした。


 「思い出せないな。でも、放っておくと不味いような気がするんだよな。・・・ティンク、悪いけど起きてくれるかな」


 ポケットから顔だけ出すティンク。


 「寝たばかりなんですよ。ふわあ。何か用事ですか?」

 

 「あいつの追跡を頼むよ。何処かで見たことがあるんだけど、思い出せなくてさ。跡をつけて、何者か、調べて欲しいんだ」


 面倒臭そうに、ポケットから出ると、ふらふら翔びながら、後を付いて行った。


 「見つからないように、気を付けてね」


 ティンクは振り向きもせず、手だけ上げて、追跡した。


 俺はそれを見送ると、城の方に跳ねるのを開始した。


 「ティンクなら、大丈夫だと思うんだけれど」


 嫌な予感が消えないのは、気のせいだろうか。





 「今日は、何用じゃ」


 女王の執務室に通された。


 「ルイーズ伯爵について訊きたい。最近、変わった事はないかい?」

 疑問は素直にぶつけてみるに限る。


 「特に変わらぬと思うが」


 「いえ、最近、あまり城に常駐しなくなりましたな。領都から出ようとしないようです。魔人の件があって、領都を心配しているのかと思っておったのですが」


 宰相のナポリオンが横で、書類整理の作業をしながら言う。聞き耳だけは立てていたようだ。


 「そう言えば、奥様と一緒の姿を見ませんな。いつも、ひとりで来られているようです」


 「調子でも悪いのか?お茶会を開いても、見なくなったのう。何だか、心配になって来たのう。悪いが、レイよ、調べて来てくれぬか。お前なら、直ぐに行けるであろう」


 タートル君のことを言っているようだ。転送で、すぐに行けることは秘密だ。


 「わかりました。依頼という形で、引き受けましょう。ただ、青の国の使節団が帰った後にします。まだ、ゴタゴタとあるかもしれませんので」


 俺は、昨夜のことを女王に話した。女王は渋い顔をしていた。


 「スノウ王女様が一緒にいるので、何かあれば対応してくれるはずですので、心配はしておりませんが、数で来られると困りますので、もう少し様子を見ようと思います」


 「わかった。それは、レイに任せよう。迷宮の件は、ジェームズ侯爵に対応してもらうことにする。本来は、ルイーズ伯爵の仕事なのだが、疑いのある今は頼めんからな」


 宰相も納得しているのか、こちらを向いて頷いていた。


 「あと、各領都の養護施設に寄付する事をお許しください。王都の養護施設のみ寄付するのは、気が引けるので、他にも寄付させていただこうかと。よろしいでしょうか」


 「寄付するのに、国の許可は必要あるまい。レイに任せる。好きなようにしろ」

 

 「ありがとうございます。これで、心の棘だ取れたようです。袖の下として、これをお納めください」

 マジックバックからホールケーキを5個出して、机の上に置いた。


 「はっきり言いよるわ。まあ、ありがたく戴いておこう。3個はマジックバックに仕舞って、1個は、宰相にやろう。もうひとつは、おやつの時間に、皆で食べよう」


 「ありがとうございます、レイ様。家内と娘が、喜びます」

 宰相は嬉しそうに、自分のマジックバックに仕舞った。


 「それでは、また何かあれば、報告いたします」


 俺は、部屋を出て、屋敷に戻って行った。



 

 ジェームズ領のギルドの扉を開けると、凄い活気だった。多くの冒険者達が、依頼票の貼ってあるボードを眺めている。あれだ、これだと、とても五月蝿い。


 「いらっしゃいませ。今日は、何かご用ですか?」

 可愛らしい受付嬢が、鈴のような声で応える。


 「初めて来た領都なんだ。養護施設の場所を知りたいのと、土地を買うなら、何処が対応してくれるか、教えて欲しい」

 ギルドカードを見せて、会員である事を示す。


 「それでしたら、ここを出て左にずっと行くとございます。それと、土地でしたら、このギルドでも取り扱っておりますので、言って頂ければ大丈夫です。商人ギルドでもお使っておりますが、街中が多い分、高額になります。うちは、街から少し離れますが、お安くさせていただいております」


 「わかりました。ありがとうございました。その時には、また、寄らせてもらいます。あっ、これ、お礼に差し上げます。また、よろしくお願いいたします」


 おれは、ホールケーキをひとつ置いていった。

 受付嬢の目の色が変わったことは、内緒にしておこう。あまり、食べ過ぎないようにして欲しいものだ。




 「この辺のはずなんだが」


 目の前には、壊れかけたボロ屋しか見当たらない。あの娘が、嘘を言ったのだろうか。そんな嘘をつくような娘には、見えなかったんだが。


 辺りには森以外何も無かった。有るのは、目の前の廃墟だけ。


 「行って来まーす」


 何処からか、子供の声が聞こえて来た。


 廃墟と思われる家から、ひとりの子供が出て来た。


 「おじさん、何か用?院長先生なら、中にいるよ」


 飛び出していく子供を捕まえて、俺は状況を聞く事にした。


 「痛いよ、おじさん」


 「ごめん、ごめん。そんなつもりじゃあなかったんだよ。それより、教えて欲しいんだけれど、ここって、養護施設?」


 「そうだよ。ちょっとボロっちいけど、ここがそうだよ」


 想像してたより、酷いなあ。侯爵も、ここまでは目が行き届いてないんだろうな。


 「院長先生に、紹介してくれないかな。ここに寄付をしたいんだよ」


 「本当?それなら、ちょっと待っててね。呼んでくるから」


 子供は奥に引っ込むと、ひとりのお年寄りを連れて出て来た。魔法使いのお婆さんみたいな人だった。後を継ぐ様な人は居ないのだろうか。


 「いらっしゃいませ。私がここの院長をしておりますブーケと言います」


 「寄付したら、帰ろうかと思っていたのですが、この状況を見て、考えを変えました。色々とご相談があるのですが、お時間よろしいですか?」


 「ええ、構いませんが、ボロ屋ですが、中にどうぞ」


 俺は、ブーケ院長に勧めれられるまま、中に入った。室内もかなりの年数を感じた。


 院長はすぐにお茶を淹れてくれた。


 温いが、ひとくち飲むと、旨味が凄く感じられた。


 「このお茶は、何処で買われたのですが、飲みやすくて、美味しいのですが」


 「このお茶は、この養護院で作っているものです。自慢の品物なですが、あまり売れてなくて。本来なら家賃まで賄えれば良かったのですが、食べるのがやっとで」


 茶色い袋に入れただけの簡素なものだ。これでは、売れないだろう。人は、見た目を言うからな。小綺麗な袋に入れてやれば、かなり売れるのではないだろうか。


 「実は、寄付しに来たのは本当です。ただ、この辺りの土地を全部購入して、お茶で生計を立てて貰えればと思っています。王都でも、養護院の立て直しをさせて頂きました。こちらでも、それを考えております」


 「ああ、噂は本当だったのですね。王都のことは、聞いていました。あそこに院長とは知り合いですので、あっちに来ないかとも言われて、考えていました」


 「ひとつだけ、条件がありまして、難しいことではありませんが、蜂の巣箱を置かせて欲しいのです。俺は養蜂業もしておりますが、巣箱を置かせて貰える所が少なくて、困っているのです」


 「そんな事でしたら、問題ありません」


 「それでは決まりですね。すぐに話をして来ますね」


 俺はテーブルに、野菜と果実を大量に出しておいた。


 「これを子ども達に食べさせてください。併せて、寄付金として、金貨を100枚置いておきます。これで、当分は大丈夫だと思いますが、変な人が来ても大変なので、護衛として、この娘を待機させます。おーい、入っておいで」


 外から、ひとりの女性が入って来た。


 「ルリと言います。何でも言ってください」


 俺の横に並んで、お辞儀をする。


 「俺はその間に、手続きをして来ますね。ルリ、後を頼むよ」


 「わかりました、マスター」


 院長は理解が追いついていないようだ。ルリがゆっくりと説明してくれるはずだ。


 俺は養護院を出て、ギルドに戻った。




 「あっ、先程の受付の人ですよね。ちょっとお話があるのですが」


 「ケーキのお兄さんではないですか。あれ、美味しかったですよ。王都では、ああ言うのが流行っているのですか。いいですねえ。こっちにも、あんなケーキを売っている店、出来ないかしら。あら、ごめんなさい。今度は何の用ですか?」


 「養護院の権利は、誰が持っているのでしょうか?」


 「あれなら、ギルドの持ち物です。子供達が大きくなって、ギルドで働いてもらい易くするためです」


 「でも、家賃、取ってるのでしょう」


 「そ、それは、慈善事業ってわけではないですから、取ってます」


 「俺にあそこを売ってもらえませんか。俺の方で、養護院の子供達を育てていきたいのです。オーナーですかね。駄目でしょうか」


 「すみません、ギルマスと相談して来ますので、少しお待ち下さい」


 受付嬢は、奥のギルマスの部屋と思われる所に入っていった。


 

 暫くすると、部屋から出て来た受付嬢は、何だか汗をかいている。揉めたのだろうか。


 「オッケイだそうです。何か国からお達しが来ているようで、養護院を守ろうとする者が現れた時には力になるようにとの事らしいです」


 今回は女王の手の早さに、驚いた。これなら、話が早く進みそうだ。

 

 土地の権利書を書いてもらった。周辺の森も含めて購入しておいた。茶畑を作る必要があるのだから。あれは、絶対に名産品になるはずだ。


 


 「戻りましたよ」


 廃屋同然の擁護院に戻って、院長にあらましを説明した。


 驚き過ぎて、泣いていた。苦労したんだと思う。これからは、大丈夫だからね。


 事は早い方が良いだろう。俺は、施設の者全員、一度外に出て貰った。何と、あのボロ屋に、50人も子供達がいた。しかも、院長以外の大人は居ないらしい。給料が少ないからと、みんな辞めていったらしい。


 「全員、出たかな」


 「はーい」


 元気な子供達だ。


 メガミフォンから、建築アプリを開いて、新しい養護院と大きな倉庫を選択して、はい、を押した。大地に巨大な魔法陣が浮き出て来た。色とりどりの光が、魔法陣の中で、暴れ回る。


 光が消えると、地中から養護院と思われる屋敷と裏に巨大な倉庫が出現した。それこそ、ドドーンと現れたものだから、子供達は大喜びだった。院長は、腰が抜けそうだったが、ルリが支えていた。出来るゴーレムである。


 今はゴーレムであるとは言っていない。もっと仲良くなってからで良かろうと言う、俺の判断だ。ただ、ひとりでは難しいかも知れないので、そのうち増員しようと思っている。


 「よし、出来た。みんな、中の様子を見て来てくれ。わからない事は、ルリに聞くように」


 当然、ルリはメイド服である。その方が子供ウケするかと思ったけれど、あまり関係ないようだ。何を着ても、子供にはルリはルリだった。メイド服に釣られるのは、大人くらいか。


 「院長も一緒に見てください。新しい住処なのですから。今後のことは、落ち着いてから、また相談しましょう。俺は、裏の森の奥の方に、蜂の巣を作って来ますので、後は、よろしくお願いいたします」


 院長は、何か言いかけたが、子供達に引かれて、屋敷に入って行った。


 巣箱を作ったら、蘇芳会の様子でも見て来ますか。ティンクのことも気になるし、さっさと用事は済ませましょうか。


 


 





 





 

 

 

 

 一話で全く収まりませんでした。

 少し長くなるかもしれません。

 次回をお楽しみに!

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