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7.白の国と白の城、そして白の女王

 真っ直ぐに進んで行くと、表面に針が生えたような木が無数にある森に辿り着いた。普通の森とは違うようで、入ることを拒絶しているようだ。

 「あれは、竜樹と呼ばれている御神木です。魔獣たちは、あの樹を嫌っています。そのため、近づいて来ることはありません。魔獣から守ってくれているのです」

 相変わらず、ティンクは物知りだ。実際に対面するまで、こちらに情報を流そうとはしないようだ。まあ、聞いてもいないことだから、その都度説明してくれるのは、仕方ないことなんだが。何だかなあ。

 

 馬車がやっと追い付いてきた。馬たちは疲弊し、ゼイゼイと言ってる。口から、唾液が零れまくっている。誰のせいだよ、水くらい、やればいいのに。ああ、俺たちのせいか。

 「やっと追い付きました。少し、馬たちを休ませてやってください。馬も疲れ果ててるようなので。少し休憩して、出発しましょう。申し訳ありませんが、これから先は、こちらの馬車にお乗りください。この竜樹の森を抜けたら、我が国になります」

 「いえいえ、大丈夫ですよ。タートル君は、まだまだ元気なので」

 「そうはいきません。こちらの馬が限界なのです。このペースだと馬達が言う事を聞かなくなります」

 仕方ないか。

 でも、タートル君をどうしようか。誰も見てないうちに。

 「わかりました。そうさせてもらいます」

 「その馬車は、私どもで責任を持って、護衛させていただきますので、こちらに待機と言うことでお願いします」

 どうするかな。

 「あっ、あれは何でしょうか?」

 レイは上空を指差す。

 その瞬間、全員が上を向く。

 レイは、素早くタートル号をマジックバックに入れた。

 「何かいましたか?」

 「ああ、俺の見間違いのようです。申し訳ありません」

 「それなら良かったです。ここに、魔獣が現れたことは有りませんので、何が出たのかと・・・」

 良し、見られなかったようだ。上手くいった。

 

 「えっ、其方の馬車が消えましたよ。何処にいったのですか?」

 やべ、気づかれた。

 何事も無かったかのように。

 「どうかしましたか?」

 とりあえず、誤魔化すに限る。


 「竜樹の森には、魔獣は立ち入りません。魔獣たちは、竜樹に恐れを抱いているようです。おかげで、竜樹に囲まれた我が国や我が領に、魔獣の被害は、ございません」

 「それは良いことですね。でも、何故魔獣は竜樹を恐れるのですか?」

 竜樹に覆われて出来たトンネルを通過しながら、説明してくれた。

 針のような葉が、嫌いなのか、それとも竜樹自体にそう言った効果があるのだろうか。

 「おっきな実が落ちてるなのー」

 「あれは、竜樹の実です。あれを食べると、死んでしまいます。竜樹の実は、毒なのです。くれぐれも食したりしませんよう、お気を付けください」

 「怖い実なのー。気をつけるなのー」

 「アリスが一番心配だなあ。何でも摘み食いするからなあ」

 「摘み食いなんか、しないなのー」


 竜樹の森を抜けると、巨大な壁がそびえ立っていた。

 「あれが我が国の城壁です。万が一、魔獣が、竜樹の森を乗り越えて来た時に、我が国の都市を守るためのものです。少々の攻撃ではびくともしませんぞ」

 そうだろうな。高さだけでも、十メートルくらいはある。厚みもかなりありそうだ。

 城壁の周りには、堀もあった。幅が、5メートル程度の堀だ。かなり深そうだ。綺麗な水が流れている。この水は、何処から来るのだろうか。周辺には、川がある様には見えなかったのだが。


 御者が何か合図をしたようだ。吊り橋が降りて来た。馬車が余裕で渡れそうな広さがある。

 吊り橋を渡ると、巨大な門が開いている。敵が攻めて来れば、閉じるのだろうな。これでは、攻められても負けそうに無いな。頑丈そうだ。

 門を抜ける。普通なら止められそうだが、お偉いさんとわかるのか、素通りだ。

 「馬車に家紋が記されておりますので」

 なるほど。


 門から真っ直ぐに道が進んでいる。馬車が四台くらいは並んでも、通れるだけのスペースはありそうだ。

 「メイン通りは、お城を中心に十文字に通っています。仕切られた各スペースは、商業区、魔工区、農業区、住居区と、分かれております。まずは、このまま、お城に向かいます」


 傾斜のある道を登り切ると、中央にあったのは、広い湖だった。どうやら、この水が堀まで流れているとのことだ。下水道も兼ねているらしい。途中に浄化施設があるのだと。凄いな。

 湖の上に浮かぶ島に、真っ白い城があった。湖面にに浮いているのではなく、空中に浮かんでいると言うのが正しい。浮遊島だ。

 小さな浮遊島の上に、その城はあった。四角い城壁の四隅に円柱の塔が建っている。中央には、一際高い四角い塔が見えた。全てが真っ白い城は優雅で豪華だった。この国が、白の国と言われる所以だろうか。この塔がメインになるらしい。そこに、女王様がいるということだ。しかも、俺たちを待っているらしい。何故だ。いつの間に、連絡を入れたのだろうか。

 

 湖の前で、立ち止まると、浮遊島から水が噴き出して来た。滝のようだ。中央に透明な円盤があった。どうやら、これに乗るらしい。一度に乗れるのは、十人くらいだろうか。それくらいの大きさだ。

 「それでは、これにお乗りください。これに乗って、入城いたします」

 乗ってみると、案外硬めの足元だった。ふわふわするのかと、少し心配だったが、普通に立てた。

 全員が乗ると、円盤は上昇していく。まるで、鯉の滝登りだ。

 円盤はそのまま門を通り過ぎると、丸い台座の上に止まった。

 「到着いたしました。案内させますので、兵士たちに着いて行ってください。私は、先に女王に報告してまいります」

 そう言うと、先に建物に入って行った。

 「どうぞ、私どもの後に付いて来てください」

 「わかりました」 

 兵士たちに挟まれて、僕達も建物に入って行った。

 何度か曲がったり、階段を上がったりしながら、ひとつの大きく豪華な造りの扉の前に、到着した。

 「やっと到着したなのー」

 アリスは歩き疲れたのか、ぐったりしている。いつもなら、僕の影の中に潜んでいるのだけれど、女王を訪ねて行くのに、それは不味いだろうと、頑張って歩いてもらっていた。

 「ただいま、ご到着いたしました」

 暫く待つと、中から、扉が開いた。

 兵士たちに続いて、中に入る。

 入った先、中央の豪華な椅子に、女王は座っていた。その横には、左右に二人ずつ立っている。ここまで案内してくれたおじさんもいた。結構、偉い人なのかもしれない。少しはゴマを刷っておけば良かったかもしれない。

 女王の十メートル手前くらいで、止まった。

 「お連れいたしました」

 そう言って、お辞儀すると、すぐさま下がって、部屋の外に出た。

 扉が閉まった。


 「こちらが、この白の国の女王である」

 女王の隣の4人の中では、一番背の低い男性が言った。

 俺達は、会釈をした。小難しい挨拶は無理だ。頭だけは下げておこう。

 「ジェームズ侯爵を助けてくれたそうで、御礼を言う。褒美を渡したい。何か、欲しい物はないか」

 女王様はそう言って、優しく微笑んでくれるが、目が笑っていなかった。欲しい物がある訳でも無いし、とりあえず辞退が正解かな。

 「いえいえ、大したことをした訳ではありませんし、褒美は辞退させていただきます」

 「ほう、褒美が要らぬと申すか」

 「ええ、まあ」

 「それは、困ったのう」


 「それでは、単刀直入に聞くが、お前達は何者じゃ?」

 「何者って、言われましても」

 俺は躊躇する。何処まで、話して良いのやら。話す程の記憶もない。こっちでの出来事は、今は話さない方がいいだろう。

 「あたしは、アリスなのー」 

 空気を読まないアリスは、堂々としたものだ。

 「こっちが、レイなのー」

 アリスが勝手に紹介してくれる。

 「ほほー。しかし、この国の者ではないであろう」

 「私からご説明させて頂きます。私はレイ様のアシスタントをしております、ティンクと申します。このお二方は、迷い人でございます。ですから、この国のことは、まだよくご存知ありません。こちらの国に参ったのも、初めてで御座います」

 「では、何処から参ったのじゃ?」

 「それは、相手が女王様と言えども、言えません。ご理解ください」

 「それほどのことか?」

 「世界の成り立ちに関わります」

 そうなのか。俺は知らなかったよ。

 「わかった、深くは聞かないこととしよう」

 えっ、それで納得できるの、女王様。

 「ありがとうございます」


 「それでは、違う質問をしよう。そなたらは、敵か、それとも味方か」

 「味方と言うのとは少し違うような気がしますが、敵ではございません、邪魔さえしなければ、ですが」

 ティンクも言うようになったものだ。


 沈黙が流れる。


 先に動いたのは、女王だった。

 「わかった、今は信用しよう」

 「ありがとうございます」

 「これから、どうする予定か?」

 「まだ決まっておりません。とりあえず、この世界を見て回る予定です」

 ティンクに任せておけば、万事解決だな。これからも、任せることにしよう。偶に、やり過ぎることもあるから、注意は必要だな。

 「それならば、まず冒険ギルドに行くが良かろう。登録しておけば、門の出入りも自由になるしな。出来れば、お前達の人となりがわかるまで、この国にいて欲しいが、どうだろうか」

 「おそらく、そうなると思います。お二方は、この世界では、あまりにも非常識なものですから。とりあえず、常識を知っていただく必要が御座います」

 ひどい言われようだが、仕方ないか。そう言えば、天界の長老も、いつも俺達は非常識だと言っていたから、何も言えない。

 「何かあれば、頼ってくれて構わん。それに、依頼で呼ぶかもしれんから、色々とよろしく頼む」

 そう言われて、俺達は城を後にした。


 「いかがですか?我が国の女王は」

 さっきのおじさんだ。

 「自己紹介が遅れましたな。私は、ジェームズ・フォン・ボルトンと申します。この国では侯爵の爵位を戴いております。お陰様で、この国の四つの領のひとつを任されております」

 「四つの領のひとつですか。偉い方なのですね」

 「いえいえ、大した事はありません。領はこの地を守るように、東西南北に存在しています。一度、我が領にもお越し下さい」

 この人は、良い人そうだな。仲良くしておいて、損はないようだ。

 「ギルドまでお送りしましょうか」

 俺達は、一歩下がる。

 「ありがたいお申し出ですが、街を観て回りたいので、今回は遠慮しておきます」

 「そうですか。また機会があれば、色々とお話を聞かせてください

 僕達は、ジェームズさんと別れて、門まで歩いた。


 「あーあ、疲れたなのー」

 お城から、やっと出ることが出来た。疲れたから、とりあえず、宿を探すつもりだ。でも、何処に何があるのか、さっぱりわからない。聞いとけば良かったな。どうするかなあ。

 「ティンクは、どう?周囲の状況とか、わかるかな?」

 「申し訳ありませんが、わかりかねます」

 「そうだよね。先に冒険ギルドに行って、そこで聞いてみようか」

 「その方が、良いと思います」

 でも、ギルドは何処にあるんだ?


 時を同じくして、女王の間では。

 「情報部の者は、いるか?」

 「はい、こちらに」

 影より、浮かび上がる人影。

 「先ほどの者たちを調べるのだ。何処かの国の隠密かもしれん。徹底的に調べよ」

 「わかりました」

 「ただし、絶対に悟られるでないぞ」

 影は音もなくうなづいて、闇の中に消えた。


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