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67-サリー対スノウ

 「予想通りでしたね」


 スノウは、探偵気取りだ。真実はひとつ、とか言ったりしないことを願う。


 「魔物を使役して、冒険者を襲わせて、危なくなったら、良い人を装って、回復薬を渡す」


 「それだと、冒険者も喜んで貰いますよね」

 

 そうなんだ。何も疑わずに貰うよね。

 

 「飲んだ冒険者は、本人の知らないうちに中毒になって、また回復薬を購入」


 「何処の品物かわかりませんから、おそらく、ここから遠くない街。ここからだと、ルイージ領が、怪しいですね」

 スノウは、顎に手をやる。


 「回復薬の服用で、中毒になる。中毒は悪化して、また魔法医療施設に行く。そうすると、魔法医療施設が儲かる」


 「莫大な治療費が手に入ります。行けば治ると信じているのですから、患者が減る事もない」


 正解だ。上手い事、考えている。


 「この医療施設なら、治ると、みんなが勝手に宣伝してくれる。悪循環だが、患者は増えて行き、ウハウハ儲かる仕組みだ」


 「凄くよく考えられたシステムですね」

 恐ろしい悪意に、震えるスノウだった。


 「しかも製作側に魔人がいる」


 いつ、魔人と出会うかわからない。やはり、防御を上げておかなければ、駄目だな。やはり、スノウに告白しよう。スノウに、何かあってからでは、遅いからね。


 俺は、スノウに顔を見て、言った。


 「重要な話があるのだが、聞いてもらえるか」


 「ええ、構いませんけど」


 



 「レイ様、これって、母上に・・・女王には、絶対に言ってはいけないやつですよ」

 スノウは、呆れていた。

 

 「だから、秘密だって、言ったではないか」


 「いえいえ、そういうレベルではありませんよ。空飛ぶ島なんて、前代未聞です」


 サリーが飲み物を持って来てくれた。


 中央のテーブルを挟んで、俺とスノウは座っている。


 スノウの前に飲み物を置くサリー。


 俺の前にも飲み物を置くと、隣に座った。


 「どちら様ですか」


 スノウは、誰とは知らぬ者が、レイの横に親しげに座ったことに、戸惑っている。


 「レイ様を御主人様と、お慕い申し上げている者です」


 サリー、そんな言い方すると、スノウが怒るから、止めて欲しい。


 「サリーは、この天空城のマスターだ。間違えないように」


 スノウの目つきがキツくなっていった。

 だから、言ったのに。


 「御主人様のイ・ケ・ず」

 そう言うと、サリーは俺の腕を抓って来た。痛いぞ、止めて欲しい。


 「へえ、そういう関係ですか。女王に告げ口しときましょう。ついでに、私は捨てられたとも」


 「捨てたとか、そう言う話では無いぞ」


 「いえ、今、捨てられようとしているのです」


 「それは違うだろう。それに、そう言うことで連れて来たわけではないぞ。きちんと、話をしよう。サリーも茶化さないでくれ」

 俺の心臓は、バクバクと鼓動が上昇する。


 「とりあえず、わかりました。それで、話って、何ですか?」

 スノウは頬を膨らせて言った。


 まだ納得してないようだ。


 「スノウの防御の話だ。今日みたいなことが、二度ないとは限らないからね」


 「あれは、突然でしたから・・・」


 「突然で、死んでしまったら、元も子もないだろう」


 スノウの反応が悪い。自分のことなのだから、よく考えて欲しい。


 「俺のバトルスーツを知ってるよな。あれは、ここから転送されている」


 スノウは驚いていた。確かに、何処から来るのかは不明だったが、レイさんのことだから、マジックバックに入れているのでは、と考えていたからだ。


 「マジックバックからでは、着替えないといけないから、いざという時に使えないのだよ。だから、ここから転送するようにしたんだ」


 スノウは、納得したようだ。

 だが、転送というのが、よくわからない。


 「転送だと、何故着替えが必要ないのですか?」


 俺は、左右の手をスノウに見せた。


 「このふたつの指輪で位置を把握して、そこに粒子変換した物質を送ってもらうんだ。粒子は指輪に反応して位置を確認。再度、物質に戻るってわけだ。魔法陣による転移のの簡易版だね」


 「何故、左右の薬指なんですか。まるで結婚指輪みたいですよ」


 やべ。蒸し返したかも。そこから、離れてくれないか。


 「一番邪魔にならないのと、位置の把握が容易だからです」


 横から、サリーが回答した。

 それに対して、スノウは何も言わなかった。至極まともだからだ。


 「それで、このシステムをスノウにも使って欲しいんだ。今日みたいに危険が迫った時に、活用してもらいたい。スノウに怪我させると、女王に怒られるからね。それに、スノウは、下位でも、王位継承者だろう」


 俺の説明で、やっと納得したようだ。呼吸も安定してきている。先程までのイライラ感が無くなって来たようだ。


 「私だけですか。アリスさんには、言ってるんですか」


 「ものには、順番がある。スノウが最優先だ。アリスなら、自力で何とかする力がある」


 俺と同等の女神の加護があるんだ。言えないけど。だから、余程の事が無い限り、自分で対処出来るよ。それに、逃げるのは、得意なんだ、アリスは。


 「サリー、これからでも、スノウ用のリングを作れないかい?」


 ため息を付くサリー。俺、何か、悪いこと言ったっけ。


 サリーは立ち上がって、自分用の机の前に行くと、引出しから小箱を取り出した。


 戻って来ると、俺に手渡した。


 「もう作っております。・・・いつ、御主人様が言うのかと、やきもきしておりました」


 蓋を開けると、指輪がふたつ入っていた。


 俺は、そのまま、スノウに渡した。


 スノウは、俺の顔を見た後、サリーの顔を見た。いいのか、というような表情だ。すぐわかるぞ。少しくらい顔芸を覚えた方がいいな。王女なんだし。


 サリーは、頷いて応えた。


 「本当に貰っても良いのですか?多分、これ、母上に、突っ込まれますよ」

 顔がにやけていた。


 口ではそう言いつつ、指輪を左右の薬指に嵌めた。自動で、サイズは調整されるので、ピッタリだ。色も、シルバーで、似合っている。ん。本格的に、結婚指輪の様に見えるが、大丈夫だろうか。心配になって来た。


 「似合いますか?」


 「お似合いですよ」


 「ああ、似合ってる」


 先程までも反抗的なサリーは、何処に行った?お前は、いつもそうだったよな・・・?俺は元の世界で、サリーと会っていたのか?記憶が無いから、何もわからない。サリーは、何者だ?嫌、俺はいったい何者なんだろうか?


 「バトルスーツの方も仕上がっておりますので、スノウ様、ご確認ください」


 サリーはスノウを連れて、転送部屋に入っていた。転送するものは、その部屋に用意してある。


 何とか落ち着いたかな。しかし、いったい俺の記憶は、いつ戻るのだろうか?戻った時、俺は俺でいられるのだろうか。


 誰なんだ、俺は?




 「レイさん、私用のバトルスーツ、凄く格好よく作ってもらってました。最高です」


 「そうか、良かったな」


 破顔するスノウを見るのは、久しぶりだった。

 これで、何かあっても、対処可能だろう。


 「使い方は、わかると思うが、指輪に【転送】と言えば、反応するはずだ。この天空城に来たい時にも、指輪でサリーに連絡を取ってもらえれば、ここまで転送してもらえるから。安心してほしい」


 頷くスノウ。


 「ただし、まだみんなには内緒だ。使うことに躊躇する必要はないが、あえて言う必要もない。何なら、俺に聞けと言ってくれればいいよ」


 あとは、やはりここに、スノウの部屋も必要だな。何処かに作らないといけないな。ああ、サリーに任せよう。それがいい。


 サリーとスノウの対決も、何とか終わったようだし。

 




 「クソ、やられた。この俺様が逃げるだけで精いっぱいとは・・・。まあ、いい。今度会ったときは、目にもの見せてやる」


 彼、フックは、テーブルの上に食べ物を山の様に置いて、手づかみで食べていた。それは、まるで、オークの食事を見ている様である。


 「魔人になるのも、自由になれるようになって、安定して来たから、問題はないだろう。記憶もしっかりしている様だし。後で、無茶苦茶腹が減るのが問題だが、まあ、食えば直るから、いいとするか。ああ、この肉は旨いな。こっちの料理はスパイスが少し足りねえから、物足りねえな。ああ、腹が減った」


 扉を誰かが叩く。


 「誰だよ、食事中に。開いてるぞ」


 扉が開くと、スカーレットが入って来た。


 「【イリスの実】は、頼んでくれた?」


 椅子の座ると、煙草を吸い始める。


 「煙たいから、煙草なんか、止めろよ。それに、まずくなるだろ」


 手で煙を叩きながら、フックは言った。


 「そう言うと思ったから、これを持って来てあげたわ」


 マジックバックの代わりのマジックリングから、果物を取り出す。


 「王都で流行の果物よ。舌が蕩けるくらい旨いわよ」


 テーブルから溢れるくらい、果物を出した。


 「おお、ありがてい。ガブリ。おお、本当に旨いな」


 唾を飛ばしながら、フックは喋る。


 「【イリスの実】の件は、いつもの冒険者に頼んどいたよ。ついでに、何個か、見つけて来たよ」


 マジックバックから実を取り出すと、スカーレットに渡した。


 「こんだけでは、全然足りないけど、無いより、ましかな。でも、いいの、シルバー院長に渡さなくても?」


 「もう渡したさ。それは、俺が使おうと取っといたやつだから、心配するな。ただし、もうあんまりないぞ。どうやら、知らないやつから貰うなというお達しが出ているらしい。多分、ギルドだと思うぞ」


 フックは、食べるのを止めない。食べながら、喋っている。

 

 「しばらく、回復薬を冒険者に渡すのはやめた方がいいわね。医療施設のお薬だけにしておいた方がいいみたいね」


 「俺もそう思う」


 「でも、また、取りに行くんでしょ。ああ、今はそれしか手に入る余地がないからな」


 「もっと、何かいい手はないかしらね」


 そう言って、スカーレットは部屋を出て行った。


 

 「この果実は、本当に旨いな。一度、王都に行ってみるかな」


 食べ物に寄って来る虫を手で叩きながら、呟いていた。


 「この食事だけじゃあ、足りそうにないな。何処かに、上手いものでも食いに行くかな」


 それから、あっという間に食事を終えたオーク・・・フックは、上着を羽織ると外に出て行った。もうすぐ休憩時間が終わるのだが。近場の美味しい店を想像して、涎を垂らしていた。


 その後を虫が飛んでいたのだが、フックは気づかなかった。





 「おかえりなさい、姉御」


 見た目は、補助医師の男が言った。もうひとりも、首を垂れている。


 「ここでは、先生って呼べって言っているでしょう。患者が聞いたら、驚くから、その呼び名はやめなさい」


 「申し訳ありません」

 腰が、くの字になるくらいまで身体を倒す。


 「まあ、いいわ。あなた達にお願いがあります」


 「何でございましょう」


 「フックの日常を調べなさい。私たちの知らない何かを隠しているわ、あのオークは」


 「わかりました」


 2人は、脇目も降らずに、部屋を出て行った。


 「フックのやつ、何を企んでいるのかしら。オークの癖に、油断ならない奴だわ」


 スカーレットは、机に向かうと、書き物を始めた。もう時期、診察が始まる時間だ。それまでに、済ませておきたい資料だった。




 「いつものやつを頼む」


 フックは、店の奥のテーブルに付くと、店員にそう言った。


 どうやら、常連のようだ。


 「何だ、お前も来たのか」


 声の主は、シルバー院長だった。

 

 「あの食事の量じゃあ、足りねえからな」


 「相変わらず、よく食うな」


 「魔人になると、腹が減るんだよ。仕方ねえだろうが」


 院長に対する口調ではなかった。が、院長は咎めることをしない。


 「スカーレットを、ほっといていいのかい。俺が何をしているか、調べているみたいだぞ」

 フックが顎で示す方向に、スカーレットの仲間が隠れていた。


 ニヤリと笑うシルバー院長だった。


 「大丈夫だろう。俺たちは、愚痴を溢しながら、食事をしているだけだからな」


 「それなら、いいがな」

 フックもつられて、ニヤリとする。


 「それより、あの薬は使えそうか?」


 「ああ、自分で試してみたから、間違いないさ。ほら、五粒出来ているから、渡しておこう。【イリスの実】がなかなか手に入らないから、当分作れそうに無いぞ」


 「それなら、三粒でいい。後は、お前が持っておけ。何かあった時のために、持っておけ。どうやら、雲行きが怪しくなりそうだからな」


 苦虫を噛み潰したような顔で、シルバーは言った。


 「どう言う事だ。何を掴んだ?」


 フックの顔色が悪いようだ。


 「ギルドが、回復薬を怪しみ出したようだ。もう派手には動けんし、時間の問題だろう。逃げる事も考えなければいけないかもしれない」


 「わかった。隠れ家を用意しよう。また一から出直しかもしれねえな」


 このふたり、案外仲が良いのかもしれない。


 「まあ、もう少し時間はあるさ。焦らない事だ。食事の続きをしよう。あまり長くなると、スカーレットに怪しまれる」


 「ああ、そうしよう」


 ふたりは、食事を食べ終わると、別々に戻って行った。



 秘密が秘密で無くなっていきます。

 ひとりよりふたり、ふたりよりさんにんなのです。

 さあ、仲間を信じて、次回に続きます!

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