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64-止まらない進化

 「どうした、エメラ」


 急にエメラがやって来た。珍しい。しかも、俺の執務室だ。ソファで、ゆったりとしている所だったのだが。


 「今日は、お願いがあって、参りました」


 俺の目の前で、妖精になったエメラがお辞儀をしている。実は、ルダスの進化に伴い、親であるエメラまで、進化をしてしまったのだ。翠色のドレスに、ティアラの見た目は、まるでミニプリンセスのようだ。


 「私の配下達に、ダンジョンへの入場の許可をお願いしたいのです。実は、ルダスが進化の秘密をポロリと漏らしたみたいで、配下が、王都の外のダンジョンに行きたがっております」


 「それは、危険だろう。普通の蜂では、魔物には勝てないよ」


 驚いた。そんな事になっているのか。口の軽いルダスに黙らせる方が難しかったか。困ったやつだ。仲間を危険な目に遭うことなんか、これっぽっちも思っていないようだ。


 「そこで、ここのダンジョンならば、危険度が下がるかと。モール殿もいらっしゃいますし、何とかならないかと・・・」


 これは、止められそうに無いな。逆に、戦力アップに繋がるかもしれない。

 魔人戦とのことを考えると、戦力は多い方がいいと思える。


 「わかった。蜂達は、いつでも秘密基地に入れるように、設定しておこう。ただし、1匹では行かないように伝えてくれ。勿論、多過ぎても駄目だよ。節度を持って、よく話し合いながら進めてね」


 「ありがとうございます」


 俺はルダス用に作った指輪のマジックバックをエメラに渡しておいた。手首に付ければ、ちょうど良いはずだ。


 「よろしいのですか?婚約指輪をいただいても」

 エメラの頬が赤く染まっていた。


 「違うから、あくまでもマジックバックだから。小さなお前達用だから」


 「はい」


 ああ、これは、聞いてないかも。

 そのうち、この辺りいったいが妖精だらけになるかもしれないな。


 と、そこへ、執事のアンバーがやって来た。


 「マスター、お客様がいらっしゃいました。いかがいたしましょうか」


 実は、みんなが俺のことを色んな呼び名で呼ぶものだから、【マスター】に統一する事にしたのだ。アンバーまで、真似をして、そう呼び始めた。

 

 さて、誰かと約束してたかな。


 「【紅き守護神】と【蒼き神威】のパーティの方々が、お越しです」


 ふたりだけが、異常に強くなったのがバレて、揉めたな。バレルの早くない?


 「応接室で、待ってもらってくれ。イチゴケーキとコーヒーを出して、もてなしといてこれ」


 「わかりました」


 実は、睦月達の努力で、コーヒーが飲めるようになった。

 飲みかけのコーヒーを煽る。やっぱり、美味い。

 今度は、魔法で氷を作ってもらって、アイスコーヒーにしてみようかな。


 俺はソファから立ち上がると、応接室に向かう事にした。

 面倒臭い事にならなければ、良いのだが。



 

 「イグニスとグラースですか。パーティ名は、よく憶えていませんから、顔を合わせるまで、気が付きませんでしたよ。何か、ありましたか」

 恐らく力の話だろうとは思うけれど、こちらからは言わない方が良いでしょう。


 「すまないな、急に来て。・・・仲間が、俺の話を信用してくれないんだよ。レイさんからも、説明してやってもらえないか。俺は、日頃の行いが悪いからさあ」

 イグニスは、かなり項垂れていた。


 「グラースも、そうなの?」


 「ああ、面目ねえ」


 みんな日頃の行いに問題があるんだね。俺も同じだけど。


 「それなら、俺から説明するより、丁度いい人がいるよ」

 俺は、アンバーに目で合図を送った。


 「少し待っててね。呼んできてもらうから」

 アンバーは部屋を出て、迎えに行った。


 何だは雰囲気が良く無いねえ。

 

 「パールは、いるかい。あれ、持って来てよ」


 扉が開いて、パールが入って来た。

 それぞれのテーブルに置いた。

 イチゴケーキとコーヒーだ。少しだけ、時間がかかるだろうから、出してもらった。


 「あっ、最近有名なショートケーキじゃん。食べていいの?」


 「どうぞ、遠慮は要らないよ」


 みんあの前に置くと、パールは戻って行った。


 それを見計らっていたのか、女性陣は一斉に食べ始めた。


 「美味しい」


 ほっぺが落ちそう」


 「こ、これ、何処に売ってるんですか。どこに行けば買えるんですか」


 ずっと迷宮に潜っていたらしいから、仕方ないかな。食欲には勝てないよね。


 男性陣も、コーヒーに胃袋を捕まえられたようだ。イグニスなんか、泣いてないか。


 皆で、美味しく食べている所に、その人は現れた。勿論、王女のスノウである。


 「お邪魔しますね。自己紹介、必要かしら」


 「スノウ王女では、ありませんか。何で、こちらへ?」


 「今は、こちらに御厄介になっております」


 変な目で見る女性陣である。勘違いしないで欲しい。


 「ただの居候だ。勘違いしないでくれ」

 俺は、説明を補足しておく。


 「勘違いしてもらっても構いませんが、それだとレイ様に御迷惑をお掛けするといけませんので、ここは胸の底に仕舞っていただいて」


 「ううん」


 「レイ様、お風邪でもひかれましたか。お大事になさってくださいね」


 「今はその話は結構。イグニス達の話が優先です」


 「おお、そうでした」


 スノウは、イグニス達の方を向いて、話をすすめた。



 「それでは、本当に間違いないのですね」

 

 イグニスの嫁兼パーティリーダーのフランマが、話を聞いて、念を押して来た。


 「間違いありませんよ、ダンジョンを攻略したのわ」


 王女の言葉で、やっと信じ始めたパーティメンバーだった。


 「ふたりでですが、最後のボス戦の一角、ディバイン・ウオーターバグを倒したのですから、本物でしょう。イグニスもグラースも、かなりお強いですからね。国としても、放ってはおけませんね。女王にもひとこと・・・」


 「駄目です。イグニスは、一生ギルド会員ですから」


 「グラースもそうです。我らのリーダーを連れて行かれると、困ります」


 どうやら、ふたりとも、モテモテである。


 「残念ですねえ」


 ふたりの前に立ちはだかるパーティメンバー達。イグニスとグラースは驚いていた。ここまで、大切にしてくれるのかと、泣きそうである。


 「それでもまだ、少しでも疑いがあるのでしたら、一度あのダンジョンに行くことをお勧めしますわ。ダンジョン・リングもありますし、どの階層にでも、飛べますからね」



 やっっと、話もまとまったようだ。


 「そこで、提案だが、また一緒にダンジョンに潜って貰えないだろうか。まだまだ潜っていないダンジョンもあるし、やはりパーティで潜ることが大事なんだなと、痛感したわけですよ。それに、場合によれば、各パーティで分かれて潜る事も可能だろうしね」


 「やる、やる。私は、行ってみたい」

 ニクスは、やる気満々であった。


 「そうですよね。リーダー達だけ強くなるのも、何だか狡いですしね。いいんじゃないですか」

 ミチユーリも依存はないようだ。


 イグニスとグラースは、しゃがんで相談した。

 「あんなもう懲り懲りだぞ。どうすんだよ」

 「一緒に行けば、何とかなるさ。レイ様も一緒なら、問題ないだろう。死ぬかもしれないけど」


 フランマが、ふたりの首根っこを捕まえて、立ち上がらせる。

 「この際、行くしかないでしょう。お金儲けも大事だけど、もっと強くなりたいわ」


 「そうだな、王都では変な事件が多いみたいだしな。強くなって、問題になる事はないだろう」

 キオーンも、納得しているようだ。


 魔人の件は、どこまで知っているのだろうか。詳しく話しておいた方が良いだろうな。

 彼らでも、S級とでは、部が悪いだろうからな。


 ぐるぐるぐる・・・。


 誰かのお腹が大変な事になっているようだ。

 真っ赤になったニクが、俯いていた。


 「メシでも、食べて行ってくれ。すぐに、用意させるから。俺も、お腹が空いて、ヤバかったよ」

 そう言って、俺はニクスの肩を叩いた。


 手を叩いて、パールを呼ぶ。


 「メシの支度を頼む」


 「それでしたら、用意が済んでおりますので、食堂の方にお越しください」


 手回しの良い事だ。


 「それじゃあ、みんなで食堂に行こうか。スノウ、案内してやってくれ」


 それだけ言うと、スノウの後に、ワイワイ言いながら、みんなでついていった。




 「美味しかったー、お腹いっぱいだあ」


 「ニクス、食べ過ぎだぞ。お腹が壊れやしないかと、ヒヤヒヤものだったぞ」


 「だって、美味しんだもん」


 子供のように喜ぶニクスだった。


 「いいじゃないですか。美味しいと言ってもらえて、パールも喜んでますしね」


 「でも、何でこんなに美味しいのでしょうか?」


 フランマが、不思議そうに聞いた。フランマも料理の腕に自信はあったが、ここまで美味しくは作れない。だからこそ、不思議で仕方なかった。


 「食材のおかげですね。うちの料理の食材は、ダンジョン産です。魔力がいっぱい詰まっているので、美味しいんじゃないかと思っています。隣で販売しているんで、また買ってやってください」


 「なるほど、食材ですか。気がつきませんでした」


 「実は、隣の養護施設【子供ハウス】の子供達のも手伝ってもらっているのですよ。この屋敷と【子供ハウス】の間に農場があったと思いますが、あれが子供達の作った農園です。あれも美味しいですよ。近々、子供達の育てた野菜や果実を使って、テイクアウト出来る店舗を作る予定です」


 施設を卒業させても、仕事がないのなら、このまま雇ってしまえば良い。農業が苦手な子は、戦い方や魔法を教えたりして、ダンジョンで魔物肉を取って来れるようにしたい。出来るだけ危険が少なくなるように、探索に優れた蜂を育てているのだ。他にも、お店の手伝いでも構わないし、イート君たちの手伝いでも、良いと思う。独り立ちして、自分のお店でも出来れば、なお結構だ。


 「その間に、ダンジョン攻略もされてますよね。忙し過ぎません?」


 ミチユーリが心配してくれているようだ。


 「大丈夫ですよ。基本線が出来たら、丸投げですから。作ったレールに沿って、頑張ってもらうだけです」


 ここは一発満面の笑みだ。


 でも、引かれてるかも。


 「何かあれば、私も雇ってもらえますか?」


 本気か、冗談か、わからないようなことをミチユーリは言った。リーダーのグラースを見ると、青い顔をしていた。

 

 「その時には、きちんとリーダーやお仲間を説得して、来てくださいね。それであれば、問題ありませんから。勝手に来たりしたら、駄目ですよ、絶対に」


 冒険者なんて、先の見えない仕事だからな、悩むのは仕方ないかなと、思う。


 「でも、暇な時に、手伝いに来てもらえるのなら、大歓迎ですよ。賃金もちゃんと払いますからね。執事のアンバーか、お店にスリラックという店長がいますので、そっちに話をしてください。誰か、したい人がいたら、紹介してください。紹介料は、払いますよ。でも、無理強いは駄目ですよ」


 

 と、突然、エメルが飛び込んできた。


 「マスター、大変です」


 エメルにしては、珍しく慌てている。


 急に、妖精が入って来て、みんな、ビックリしている。


 「何があった?」


 そこに、たくさんの妖精が入って来た。20や30ではないくらいに存在した。


 「みんなが行きたがるものですから、数を分けてダンジョンに入れたのですが、みんなが皆んな進化しちゃって。進化が止まりません」


 はは、このタイミングかい。これは、各領都にも派遣が必要なのではないだろうか。一度に増やし過ぎですよ、女神様。絶対に、何か企んでいるよう、あの人は。


 「わかった。エメルの方で、人選して、領都にも派遣させてくれ。ここに、沢山いても、仕方ないからな」


 「わかりました」


 エメルは、妖精達を連れて、出て行った。多過ぎだろ、妖精。


  

 「さっきのは、何だ、レイさん」


 グラースは、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。信じられないと、顔に書いてある。早く消しときなさい。


 「やべ、見られちゃったかな」


 みんな、張子の虎のように、何度もうなづいていた。


 「あれは、うちのダンジョンで進化した蜂達だ」


 「うちのダンジョンって、どう言う事ですか?」


 あー、もう面倒くさくなって来た。

 「わかった、わかった。その代わり、誰にも言うなよ」


 一通り、みんなを見回す。こいつらなら、大丈夫だよな。


 「この屋敷の裏山に、ダンジョンが存在する。一応この辺り全部、俺の土地だから、問題はない。それに、女王にも知らせてある。勿論、王女だって知っている。だから、特には問題ない」


 「それ、問題だらけではないですか」


 「気にしたら、負けだ」


 「秘密にするから、そこに潜らせてほしい」

 イグニスは戦闘狂に違いない。


 「私も、潜りたい」


 ニクスなら、そう言うよね。そう言うと思ったよ。


 「わかったよ。その代わり、何かあれば、手伝って欲しい。手付金代わりに、【子供ハウス】の隣に、庭付きの家を建ててあげるから、そこに住んでほしい。どうだ、良い案だろう」


 「乗った」


 返答が早いのは、グラースであった。イグニスの方が、速いと思ったのだが。そうか、イグニスはリーダーではなかったか。


 「私達も、その計画に便乗する」


 フランマも納得したようだ。後ろで、イグニスが頷いていた。


 「これで、契約成立だ。よろしく頼む」


 みんな、一斉に右手を突き上げた。


 この後、家を2軒建てておこう。忘れないうちに。


 

 




 秘密基地が、秘密で無くなった。

 また秘密基地作らなくちゃ。

 次回も、よろしく!

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