60.西のダンジョン探索
「このダンジョンは、昆虫系か。虫しか、出て来ないぞ」
そう吠えつつ、俺はグレート・ビートルをレイガンで、撃退した。
アリスは、グレート・スタッグを切り捨てた。カブトムシとクワガタムシの大型版だ。風魔法が使えるらしいが、今の所影響は無い。魔法を使われる前に、倒してるからだ。低階層だから、魔物もそれ程強くはないだ、潜って早々に中級クラスが出てくると言うことは、下に行けば期待がもてそうだ。
強い敵と戦いたい。俺も戦闘狂かもしれないな。
「御主人様は、初めから戦鬪狂でしたよ」
肩の乗っているティンクの台詞だ。
「お前達程ではないと思うが」
「御主人様は、冗談がお上手で」
こいつ、手で払って、落としてやろうか。
「御主人様、右から、タランチュラ・タランチュラが来ます。頭がふたつありますので、お気を付けください」
木を駆け上がって、タランチュラ・タランチュラを避けると、後方から、頭に矢弾を撃ち込んだ。もちろん、ふたつの頭共だ。こいつは毒を持っているから、早めに倒しておきたい。
スノウは、アリスと連携して、グレート・タランチュラの相手をしていた。左右から同時に斬りかかって、脚を切断している。動けなくなった所で、とどめを刺していた。あれでは、グレート・タランチュラが可哀想な気分になる。
「前方からアサシン・ビーの群れが来ます。相手はしたくありませんが、逃げられそうにありませんね」
今日は、ティンクには探索を頼んでいる。タイミングよく教えてくれるので、やり易くて、助かる。
「私が相手をします」
スノウはそう言いながら、魔法を唱えようとしていた。
長めに詠唱を唱えると、アサシン・ビーに向かって発動する。
「アイス・ウオール!」
30センチ程度の氷の塊が、無数にアサシン・ビー目掛けて落ちて行った。氷の板と大地で挟まれて、潰れて行った。挟まれなかったビー達には、水流波をお見舞いしていた。
水流波に押し流されて、全滅した。
「それは、魔力が勿体無いな。辺り一面を凍られる事は出来ないのか。その方が、効率が良くないか。氷の板から逃げた方が多かったような気がするのだが」
「そうかもしれませんね。もっと研究が必要ですね」
これなら、スノウはまだまだ強くなれそうだな。
「そろそろ、下の階に行きますか」
「そうするなの」
「この辺りには、魔物が居ないようですし、それが良いかと思います」
「そうと決まれば、出発だ」
ただ、変な奴らがついて来てるな。王都を出た時にいた奴らだろうか。ここまで、よく着いて来たなあ。
手を出して来ないうちは、無視でいいだろう。
ティンクは、まだ気付いていないようだ。いつ頃気付くか、楽しみだ。
「やっぱり昆虫かよ。虫ダンジョン確定だな」
俺達は、10階層まで、降りて来ていた。どうやら、ボス戦のようだ。
相手は、タイラント・グレート・ビートルとタイラント・グレート・スタッグのようだ。
ん?天井にもう一匹いるな。何だ、あれは。
「あれは、グレート・スケルトン・マンティスですね。唯一、火魔法が効かない昆虫魔物ですね。森で火魔法を使うと、火事になるから、普段は使わないですけどね」
ティンクの説明を聞いて、どうするか尋ねようと思ったら、アリスもスノウも、タイラント達と既に戦闘を開始していた。気が早いなあ。
必然的に、俺の相手はスケルトンなんだが。レイガン、効きそうにないな、骨だもんな。
仕方なく、俺は刀を取り出した。
スケルトンの鎌を持ち上げて、今にも飛び掛かろうとしていた。待ち伏せする昆虫ではなかっただろうか。魔物になると、戦い方が変わるのかな。
スケルトンの鎌を刀で受け流す。結構な威力だ。油断すると、斬られそうだ。
ただ、スケルトンだからか、翅は無かった。マンティスは、本来飛翔性が高いはずだが、空からの攻撃は無さそうだ。
ならば、こちらが、上空から攻撃をしよう。
シールドを出して、駆け上がる。スケルトンを旋回するように、上空に駆け上がる。スケルトンは、鎌を伸ばしてくるが、勿論届かない。
上空から、目眩しに、細かく切った銀紙を撒く。
キラキラ光りを発しながら、銀紙は舞い落ちる。優雅に、ゆっくりと。
俺は、銀紙に紛れ込みながら、スケルトンに襲いかかった。
まずは、邪魔な鎌を根元から斬り落とす。
スケルトンは残った脚で、立ち上がった。上から、俺に襲いかかって来た。でも、遅い。
俺はすでに、背後に回っている。お腹を斬りつける。流石に、ハリガネムシは出て来なかった。お腹の中が丸見えなのだから、仕方ないか。
お腹を斬られて、初めて、俺が背後にいる事に気付いたのか、逆三角形の頭で振り返った。
俺は、それを逃さず、首の部分を切断する。
落ちる頭を追うように、身体も倒れて行った。一度、ピクリと震えたが、それっきり動く事はなかった。俺はカードを投げて、回収しておく。何かの配合の時に使えるかも知れないのだ。
ふたりの方を見ると、同じように、終わった所だった。どんな相手だったか、後で聞いてみよう。倒れた魔物がまだ残っていたので、カードで回収する。
「終わったなの」
「終わりました」
さあ、宝箱の回収だ。
時間差で、宝箱が姿を見せた。三つあった。
それぞれ、好きな宝箱を開けてみる。俺は残り物だが。
「私のは、指輪ですね。蒼い石が付いてます。綺麗ですね」
「それ、魔力を貯蓄出来る指輪ですね。魔力の無い、スノウさんには、ピッタリですね」
ティンクが、指輪の効果を説明した。
「あたしのは、手裏剣なの。しょぼいなの」
アリスは愚図った。
「それ、投げたら、必ず手元に返ってくる手裏剣ですね。無限に使えるので、お得ですよ」
「それなら、問題ないなの。すぐに、使ってみたいなの」
みんな、結構いいものが出てるなあ。もしかして、俺のはカスかな。残り物には、福がある筈だが。
開けてみると・・・赤い仮面だった。俺は、◯影か。
「それ、効果がわかりません。というか、能力が見えません。こんなの初めてですね」
効果が見えないことに驚くティンク。
「ただの仮面だからじゃ、ないのか」
普通すぎて、能力が無いだけでは。
「屋敷に戻って、ゆっくり調べるさ」
俺達は、更に下を目指すことにした。
「おい、あいつら、普通じゃねえぞ。3人居ても、協力して戦わないぞ。必ず、タイマン勝負だ。おかしいだろう。ここのダンジョンは中級クラスが潜るダンジョンだぞ。ありえねー」
「それだけじゃない。俺たちの事、気付いてるくせに、全くの無視だ。逆に、見せ付けてるかのようだ」
S級の二人は、この後、どうするか、悩んでいた。次の階から、上級クラスでないと、対応出来ないのだ。例えS級クラスと言えど、2人だけでは心許ないのだ。しかも、回復役がいない。何かあったら、対応できないのだ。
「この辺りで帰るか。様子も見れたし、もういいだろう」
「いや、上級クラスでの戦い方を見てからにしよう。階段から、それ程離れなければ、何とかなるだろう」
「本当に行くのか」
「この先を見てみたいと思わないのか。俺は、見てみたい」
「わかった。付き合おう。だが、ヤバくなったら、すぐに撤収だからな」
「ああ、わかった」
ふたりは、覚悟を決めて、後を追うのだった。
「何だ、ここは」
一面、赤い花が咲いていた。風に揺れて、幻想的でさえあった。
「駄目なの。ここから先は、赤い悪魔が現れるなの」
「よく知ってるな、アリス」
「・・・・・」
アリスは珍しく何も言わない。
「どうやら、一度来たことがあるみたいだな」
「しまったなの。何でわかったなの」
いや、わかるだろう。わからない方が不思議である。
「ここを越えられなかったから、諦めたのか」
「そうなのー」
さて、どうするかな。
「御主人様、大量な魔物の反応があります。おそらく赤い花は、全て魔物です。ファイア・グレート・バタフライかと」
「そうなの。あいつら、一斉に飛んで襲ってくるなの。お腹が大きな口になっていて、齧って来るなの」
広範囲に攻撃する手段のない俺とアリスでは、不利だ。
モンスター・チューバー達を出して、全員で攻撃するか。腰のチューブに手を掛けたが。こちらの被害の方が多そうだ。
悩んでいると、
「私にやらせてください。宝箱から出た指輪のおかげで、魔力が無限に使えそうなのです」
「大丈夫なのか?」
「私だけなら不安ですが、レイ様やアリスさんもいらっしゃるので、問題ないかと」
魔力は無いから、最悪指輪が壊れるだけで済むかな。やらせてみようか。そうしないと、進歩もないだろうからね。
「わかった。やってごらん」
スノウは頷くと、俺達の一歩前に出た。
口の中で、詠唱を始めていた。どうやら、かなり長いようだ。スノウの額に、汗が滲んでいた。
「アイス・パレード!」
地上50センチが一面、凍り始めた。まるで、氷で出来た標本のようだった。
全てが凍ると、巨大な舞台のようだ。赤に染まって、美しい。
スノウは氷の舞台に乗ると、反対側に滑り始めた。
「先に行きますよ」
グングン速度を上げていく。器用なものだ。
「俺達も行こうか。レイは、滑れるなの」
「問題ない」
足元にシールドを貼って、前に進む。
これなら、滑らない。
「レイは、ズルいなの」
アリスは、もっとズルかった。俺の肩に座って来た。ティンクとアリスで、左右の重心が取りにくいのだが。しかも、重い。ティンクは兎も角、アリスは重いぞ。いや、剣だ。巨大な剣が、重いんだ。
まあいいか。兎に角、走ろう。走れないことはないだろう。
次の階は、一面黄色の花が咲いていた。
その次も、さらに次も。
スノウに凍らせてもらいながら、下の向かった。
やっと20階まで来た。
ずっと花シリーズだった。凶悪過ぎる。ここまで来れる者たちは、ほぼいないんじゃなかろうか。スノウみたいな魔法が使える者がいればだが。スノウは特別だからな。
20階のボスは、巨大な一輪の花だった。
「タイラント・ローズですね。根を使って、移動も出来るはずです。あと、葉がナイフの様に飛んで来ます」
「誰が、行く?ああ、でも、スノウは休め。かなり魔法を連発して、疲れただろう。だから、今回はダメだ」
「そうさせてもらいます。レイ様の言うように、かなり疲れているようです」
そう言うと、近くの木の根っこの上に、腰を下ろした。
「アリスは、どうする?」
「あたしは、あいつらにビビらせてくるのなの。視線が気になって、集中出来ないなの」
「了解。でも、殺したら駄目だからな」
「わかってるなの」
それだけ言うと、アリスは俺の影に沈んでいった。
そうすると、俺なんだが、まさかティンクがやるって言わないよね。
「はい、言いません。御主人様の戦いを見させていただきます。アリス様に、何かあってもいけないので、様子を見ておきます」
俺は頷くと、左でレイガン、右で刀を持って、タイラント・ローズに向かって行った。
動きが遅いと思っていたのだが、意外と早い。レイガンを撃っても、躱して、葉を飛ばしてくる。
それを刀で斬りながら、時計回りに移動する。
タイラント・ローズは、棘の付いた枝を鞭のように攻撃してくる。それも、一本でなく、何本もだが。刀で受けると巻き付いて来るので、躱すしかなかった。
どうにもこうにも、攻めきれない。
仕方なく、矢弾を火弾に変えてみる。
撃つ。
タイラント・ローズの枝に当たり、爆発する。千切れ飛ぶ枝だが、すぐに再生された。これも、駄目そうだ。
一度離れて考える。
アリスたちがいるから、バトルスーツは使えないな。困ったぞ。天空城のことも含めて、やはりアリスたちに話しておいた方がいいかもしれないな。
そうだ。暇つぶしで作った腐食弾があったな。使ってみるか。
再生の方が早いか。それとも、腐食の方が早いか。
レイガンのマガジンを腐食弾のチェンジする。
これが駄目なら、バトルスーツを転送してもらうかな。
俺は、タイラント・ローズに銃口を向けて、腐食弾を撃った。
周囲を回りながら、何発も撃ち込む。
トリガーを引いても、音がしなくなった。どうやらマガジンが空になるくらい、撃ち込んでしまったようだ。
当たった箇所から、腐食が広がっていく。腐食と再生が、拮抗するかのように、動きが止まる。が、また腐食が広がっていく。どうやら、再生が追い付かないようだ。
腐食が進み、くすんだ葉が落ち、色の落ちた枝が、ドロドロになって、流れ出す。
茎も瘦せ衰え、どうやら、根は腐ったようだ。
ドーンと、倒れるタイラント・ローズ。花も、諦めた様に、パサパサになって、枯れていく。
最後は、死骸と言うより、押し花のように潰れていった。
沁み込むように、大地に取り込まれて、跡形もなくなった。
その後に、宝箱が現れた。
「この宝箱、大きくない?」
開けてみると、
「種?」
大きな箱の中にあったのは、一粒の種だった。
「ティンク、これ、何の種か、わかる?」
俺の手のひらにある種をじっと見つめるティンク。額に皺が寄っている。
「わかりません。何の種なのでしょうか?」
「ティンクにわからなければ、誰もわからないな。持って帰って、調べるかな」
俺は、マジックバックに仕舞おうとしたが、入らない。種は、俺の手のひらから移動しない。なんでだ。
「種が生きてるからでしょうか」
俺は、仕方なく、カードに回収してみた。
「カードなら、出来たよ」
今まで、こんなことがが無かったせいか・・・薬草は、マジックバックに仕舞えたよな。摘んだことで、死んだと見なされたからかな。
「わからない。まあ、いいや。それより、アリスは、戻って来たか」
「まだです」
「見に行ってみるか」
「ええ、それが良いと思います」
俺達は、下の階に行くのを止めて、アリスの進んだ方に向かった。
一話で終わらなかったので、次回に続きます。
お楽しみに!




