59.帰って来たS級チーム
「やっと帰って来たよ。やっぱり王都は、いいなあ」
迷宮の門から出て来たのは、《栄光の牙》のリーダー、クラウスだった。
その後を続いて、メンバーの3人が現れた。クーガー、クミン、クワトロ達だった。
「このまま、ギルドに報告に行くかい?」
「何処かで飯を食ってからにしないか。もうお腹ペコペコだよ」
そう言うのは、クーガーだった。革製の鎧に、腰には曲剣を差していた。しかも2振りを左右に差している。軽さをメインにした鎧から、早さに特化しているのがわかった。
「あんたは、いつも腹ペコじゃないの」
クミンが嫌味を言う。薄い外套を羽織っている。小さめの斧を背負っていた。背が低い事もあって、斧が大きく見えるのは、錯覚だろうか。
「まあ、そう言いなさんな。朝食べてから、今まで何も口にしていないのだから。下界はもう夕方だ」
大柄な盾持ちは、クワトロだった。服は、薄い外套だ。魔法を使う時に使用するロッドを腰に差していた。盾使いの魔法使い?あまり居ないタイプだ。
「報告は長引きそうだから、先に飯にするか」
リーダーのクラウスも皆んなと同様に、お腹が減っていた。
「話のわかるリーダーで助かるぜ」
そう言いながら、クーガーは、クミンと何処の店にするかの話し合いを行なっていた。
「いいのか、本当に。後で、ギルドマスターにどやされるぞ」
クワトロは、真面目だった。他人に対して、誠実であった。これが、彼の生き方でもある。
「いいだろ。長い間、迷宮に潜っていたのだし、久々に穴倉から出て来たんだ。ゆっくりしようや」
「そうだな、そうしようか」
ふたりは、顔を見合わせて、笑っていた。
「おーい、早くしないと、置いていくよ」
クミンが、早くしろと手招いていた。
クラウス達は、苦笑いしながら、追い掛けた。
遅れて出て来たのは、《紅き守護神》の二人と、《蒼き神威》の五人組だ。この二組は仲が良く、よく一緒に依頼を受けるグループだった。
「面倒くさいことは、早めに済ませたいから、このままギルドに行かないか」
「そうだな。報告を済ませてから、ゆっくりと打ち上げでもするか」
「ああ、いい考えだ」
「俺達は、ギルドの待合で、ゆっくりしとくよ。報告は、リーダー達だけで、いいんだろう」
「ああ、それでいいだろう」
「ただし、打ち上げまで、酒は禁止な」
「やっぱりか。まあ、仕方ねえな」
二人と五人は、ギルドに急いだ。
「それで、どうだった?」
ギルドマスターである。
「《栄光の牙》達が来てないみたいだけど、いいのかい?」
「いつものことだ。どうせ、先に飯でも食ってるんだろう。後で話を聞くから、いいさ。先に、お前達の報告を済ませてくれ」
「それならいいのだが」
頷くギルドマスター。
リーダー同士、顔を見合わせて、頷いた。
「赤の国行きの門は、どうなっていた?」
「相変わらずだ」
「そうか、何も変わってないか」
迷宮には、隣の大陸につながる洞窟があった。通常は門の開閉により、隣の大陸に行く事が出来るのだが、赤の国への門だけは、今だに開かないでいた。
この世界は、天界を中心にして、時計回りに、緑、青、黄、白、赤と言う具合に、グルリと存在する。お互い左右の国と迷宮で繋がっている。本来ならばだ。ところが、隣の赤の国と繋がる門だけは、何をしても開かなかった。理由は不明。
それを調査するために、年に一度、国がギルドに依頼しているのだ。
毎年変化はないが、放っておくわけにも行かず、調査をしている訳だ。
実は、反対まわりの隣国である緑の国からも国交が閉ざされているらしい。門は硬く閉ざされたままの様だ。
赤の国以外は、迷宮を通して、国交が繋がっているので、迷宮さえ踏破出来る自信があれば、問題なく、行くことが可能だ。
「少しでも動いたりしていないか、注意深く調べたのだが、何も変化していなかったよ。1ミリたりとも動いていない。これは、3グループの総意だ」
「わかった。国の方には俺から報告しておく。1ヶ月間、ご苦労様だった。国から報酬が出ているから、貰ってくれ。不足がない程の金額はあるはずだ。本当に、ご苦労様だったな」
ギルドマスターが頭を下げた。それ程、困難な依頼なのである。それ程に迷宮には、高レベルな魔物が出現するのだ。
「俺たちが迷宮に潜っている間に、何か変わったことは無かったのか」
ギルマスは、顎を摩って、考え込んでいたが、ポツリと漏らした。
「今、困った問題が発生しているのだ」
「困ったこと?」
「ああ、魔人という輩が、現れるようになったんだ。まだ、はっきりとした事は、よくわかっていないが、魔人はお前達に匹敵、もしくは、それ以上に強くて凶悪だ。あのジェームズ侯爵をして、勝てなかった」
「まさか、侯爵が亡くなったのか?」
「それは、大丈夫だ。お前達がいない間に、何処からか現れたレイと言う男に助けられたよ。相当ヤバかったらしい」
「魔人は、何処にいるんだ」
「それが分からんから、問題なのだ。お前らも気を付けろよ。絶対にひとりで向かって行っては駄目だぞ。これは、女王様からのお達しだ」
「それでは、そのレイと言う人物とは会えるのか」
「それは、問題なく会えるぞ。ただ、忙しい奴だから、今は会うのは難しいかもしれん。偶にギルドにも来るぞ。回復薬を納品して貰っているからな。あとは、商業区の方に、屋敷を持っているから、そこに行けば会えるかもしれんぞ。場所は、凄く売れている店舗があるから、すぐわかるさ。その隣だ。レイを怒らせるなよ。その凄く売れる店もレイの店だからな。美味い野菜や果実がいっぱいあるぞ。行くのなら、買って来てくれ」
「ギルマス、無茶苦茶喋ってるぞ。いつから、そんな喋るようになったんだ」
「レイの件は、聞かれることが多いからな。いつもの事だ」
それだけ言うと、ギルマスはソファにもたれ掛かった。どうやら、お疲れのようだ。魔人の件もあるのかも知れない。
「今回のことは、ありがとうな。また、よろしく頼むよ。暫くはゆっくり休養してくれ。すぐに問題が起こるかも知れんからな」
「わかった」
ふたりは立ち上がって、仲間の元に戻って行った。
ギルマスも執務机に戻って、今回のことの報告書の作成をするようだ。
「そう言えば、《栄光の牙》が、まだだったな。どうせ飯でも食って、飲んだくれてるんだろうさ。もう調査結果は聞いたし、もういいよな。早く報告書を終わらせて、帰って寝るか。最近、忙しかったからな」
「おいおい、凄え人が並んでるなあ」
「ああ、どんどん伸びていくんだよ」
「おお、グラース、お前も見に来たのか」
「お前もか、イグニス」
「ああ、リーダーに頼まれて、様子を見に来たんだ」
看板には、《エイト・フィフティーン》と書かれている。店の中も、凄い人である。この国で、一番混んでいるようだ。
「隣が、ギルマスの言う、レイの屋敷らしい」
グラースは、並んでいるお客に様子を伺ったようだ。イグニスが来るより、かなり早く来ていたようだ。
「デカい屋敷だな」
屋敷を見上げて、イグニスが言った。
「裏の山も、レイって奴の持ち物らしい。国から褒美に貰ったんだと」
「何をすれば、そんなに褒美が出るんだよ。羨ましくなるぜ」
「まだ、あるぞ。隣の養護施設も、レイの持ち物らしいぞ。一晩で出来たって、評判だ」
「ありえないだろう」
ふたりは、施設の前まで来て、中を覗いてみた。
「あっちは、どうなったんだ。元々有ったとこは」
「お金が払えないから、立ち退きを食らったらしい。それをレイが助けたって話だ」
「俺たちって、Sランクだよな。街に対して、いや、国に対して、何かやったことあるか?」
「ないさ」
「何だか、既に負けてる気がするなあ」
ガクリと首を垂れるふたりだった。
「リーダーに怒られるから、何か買って帰るわ」
「あれに並ぶ気かよ」
「うちは、リーダーが怖いからな」
「違うだろ。奥さんがリーダーだからだろ。お前のところは、奥さんの方が強いじゃないか」
何も言い返せないイグニスであった。
「お前の所だって・・・」
「俺は、まだ独身だ」
「・・・」
「仕方ねえから、俺も付き合ってやるよ。さあ、並びに行くぞ。列は長くても、回転は早いみたいだから、すぐに順番が来るさ」
イグニスの肩を叩きながら、一緒に並ぶふたりだった。
「アリス、今日は一緒に西にダンジョンに行ってみないか。勿論、スノウも連れて行くぞ。そろそろ、他のダンジョンも攻略したいからな」
朝食を頬張るアリスだった。口にはパンがいっぱい詰まっていたので、手でオッケイのサインを出した。
「ゆっくり食べろ。大きくならないぞ」
ニカっと笑うと、食事の続きを始めた。
「スノウは、どうした?まさか、まだ寝てないよな」
俺の朝食を持って来たパールが言う。
「スノウ様なら、庭で素振りをされてましたよ」
テーブルに置かれた朝食は、パンと、ハムに載った目玉焼きだった。
「あたしの強さを見て、自分がまだまだだって、気がついたらみたいなのー」
口の物が無くなったのか、アリスがそう言った。口のまわりに、黄身がいっぱい付いていることは、秘密だ。後で、パールが教えてくれることだろう。
「パール、スノウを呼んで来てもらえるかな」
「わかりました、レイ様」
一礼すると、パールは部屋を出て行った。
「何か用ですか、レイ様」
「これから、ダンジョンの攻略に行こうかと思ってね。スノウを一緒に行かないか」
「はい、行きます。着替えて来ますので、少し待っててください」
それだけ言うと、スノウは部屋を出て行った。
俺は、スノウの準備が整うまで、ゆっくりと朝食をいただくことにした。
俺達は門を出ると、タートル君を出して、飛び乗った。
「行き先は、西のダンジョンだ。急ぎで頼む」
「了解です」
タートル君は、飛び上がると、西の方向に加速した。
「これで、跡を付けて来た奴らから、離れることが出来そうだ。何だってまた、俺をつけているのだろうか」
考えても、仕方ないか。俺は到着するまでに、必要なものは入っているか、確認した。どうやら、忘れ物はないようだ。
「僕は、この辺りを散策しときますね。用があれば呼んでください。笛三つで、戻ります。なんてのは、冗談ですが、それでは、また後でね」
そのまま飛んで行くタートル君だった。笛、置いてけよ。
「入り口は、何処かな?」
「そこの木の陰なの。パッと見て、見つけられないように工夫してあるなの」
「よくわかったな、アリス」
「・・・実は一度来たことがあるなの。気分転換に来たなの」
何だか怪しいな。アリスが用もなく、来るだろうか。まあ、今は、いいか。
「それじゃあ、入ろうか。スノウも、準備、いいかな」
「大丈夫です。さあ、行きましょう」
俺達3人は、木の陰の洞穴に、入って行った。
「何の用事だ、おっさん」
「やっと来たか。呼んだら、もっと早く来い。新しい仕事だ」
「新しい仕事?俺を呼ばなきゃいけない程、困ってるのかよ。シルバーのおっさん」
椅子に深く腰掛けているのは、蘇芳界の魔法医師シルバー院長であった。
「ああ、材料が手に入らなくて困っている」
こめかみを指で押さえるシルバーだった。
「もしかして、【イリスの実】ってやつかい。あれは、難しいぞ。何処に生えているか、ハッキリわからないらしいからな。偶然にしか見つからないようだぞ」
「だから、困ってるんだ。誰にでも出来る様な簡単な依頼など、お前には頼まんよ。高額な金を払っているんだから、探して来い」
「今は懐もあったかいし、したくねえんだがな」
「いつもの倍で、どうだ。私も困っているんだ。何とかしろ」
脚を組み替えては、頭を掻いては、貧乏揺すりをしている。かなりお困りの様である。イライラが止まらないようだ。
「その条件なら、仕方なく受けてやるよ。言っとくが、仕方なくだからな」
それだけ言うと、立ち上がって、部屋を後にして、裏口から見られないように出て行った。
「金の亡者め。だから、冒険者は好かんのだ」
シルバーは、机に戻ると、何事も無かったように、書類を相手に格闘し始めた。
いつもの時間が過ぎて行った。
次回を楽しみにしてもらえると、嬉しいな。
それでは、また。




