表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
A.I.W-story-  作者: 香芳戯 麻弥
白の国編
51/102

51.回復薬と悪巧み

 ミノタウロスに殴られて、ソルトは弾き飛ばされた。

 それでも、血を吐きながら、立ち上がる。 

「もう無理だ。一度、撤退しよう」

 《烈火の魂》のリーダー、ソルトが言った。

 「ああ、そうしたいんだが。逃してくれそうにないのだが」

 チリは、周囲の様子を伺う。4体が四方に立ち塞がる。

 4体のミノタウロスに囲まれて、逃げ場がないようだ。

 「魔力が尽きそうだわ。もう回復させてあげれそうに無いわ」

 魔法は魔力が無いと使えない。当たり前のことだが、魔力は出来るだけ残して戦うべきである。無くなれば、魔法は使えなくなる。だが、どうしても使わなければいけない時もある。魔力を残す余力が無かったのだ。この状況では使わざるを得なかったのだ。そうしなければいけない程に、全員が傷だらけだったし、全員疲れ果てていた。

 「すまないシオン。お前だけでも逃したかったのだが、どうやら無理そうだ」

 折れた剣を握り締めて、ソルトが言った。

 「俺の盾も、限界かもしれない」

 そう言うシュガの盾には、ヒビが入っていた。

 「シオンを中心に円陣を組むぞ。最後の最後まで、諦めるなよ」

 ジリジリとミノタウロス達が近づいて来た。


 「おい、そこの方、お願いがあるのじゃが」

 外套でスッポリと姿を隠しているお年寄りが、俺に声をかけて来た。

 「この先で、魔物達に囲まれているグループが居るのだが、この回復薬を届けてやってはもらえまいか」

 顔も見えない様な輩に、怪しい回復薬を貰っても、信用し辛いのだが。

 「いいけど、おじさんが直に渡せばいいじゃないか。上手くいけば謝礼だって貰えるだろう」

 「私はそこまで強くないのだよ。ただの魔法薬師だからな」

 「ふうん。まあ、いいけど。貸してくれ、渡してくるから」

 「おう、ありがたい事じゃ」

 俺は回復薬を数本渡されて、そのまま、助けに向かった。

 

 「おーい、助けは必要か」

 俺の声掛けに答えたのは、リーダーのようだ。

 「頼む。魔力も切れて、みんな限界なんだ」

 「わかった、ちょっと待ててくれ」

 俺は弓矢ガン、通称レイガンを取り出すと、右と左のミノタウロスの頭を撃ち抜いた。

 もう2体が、俺を敵であると認識したようで、俺の方に向かって来た。もう4人の事は眼中に無いようだ。雄叫びを上げて、近づいて来る。

 予定通りである。

 これで、遠慮無く、撃つことが出来る。万が一にも当たる可能性をゼロにしておきたい。

 狙いを定めて、連射する。外すはずも無く、頭を撃ち抜く。実は矢尻に必中の魔法陣を描いてある。だから、本当は万に一つも無いのである。

 倒れている4体にカードを投げて回収する。ダンジョンに食わせるなんて勿体無いことはしない。

 「おーい、大丈夫だったかあ」

 俺は4人に声を掛けて、俺の回復薬を渡して飲ませた。

 流石に、さっきの怪しい回復薬は渡さない。

 だいたい、ここ、24層に弱い魔法薬師など来れるはずがない。しかも、ひとりでだ。絶対強い奴に決まっている。嘘つきの回復薬ほど危ないものはないからな。

 多分、何処かで見ているだろうから、貰ったやつを渡して見えるようには、小細工しておいた。あの回復薬は、後で調べてみよう。

 

 「有難うございました」

 4人は同時に頭を下げた。

 「気にしなくても、大丈夫だよ」

 面白いものも見れたしね。彼らには言わないけどね。

 「さっきのミノタウロス、どうする?全部マジックバックに入れちゃったけど。分けるかい?」

 「いえいえ、倒したのは其方ですから、所有権は其方にありますので」

 「本当にいいの?大分武器と防具が傷んでるみたいだけど、物入りなんじゃないの?」

 「・・・・・」

 「でしょう。半分ずつにしようよ。マジックバック、持ってる?持っていれば、そこに入れるんだけど」

 「持ってはいるのですが、容量が小さいもので、そんな大きなミノタウロスは入れられません。ですから、貰ってください」

 リーダーは、無理している。丸わかりだ。

 「それじゃあ、こうしよう。マジックバックを貸してあげるから、持って行きなさい。マジックバックは、ギルドに預けてくれたら、良いよ」

 俺の言葉に驚いたのか、リーダーが無口になってしまった。そんなに変なことは言ってないはずなのだが。

 「持ち逃げされたら、どうするんですか?」

 女の子が、怒ったように言った。

 「大丈夫だよ。それは、俺が作ったやつだから、定期的に俺の魔力を流さないと、中身が消滅するようになっているんだ」

 完全に嘘である。だいたい俺には魔力はない。

 「それなら、お借りしても、よろしいですか?」

 「大丈夫だよ」

 俺は、マジックバックに2体のミノタウロスと回復薬を少し入れておいた。

 「何から何まで、申し訳ありません」

 「気を付けて、帰るんだよ。それと」

 俺はリーダーの耳元で伝えといた。

 外套で顔のわからない人とあっても、あまり関わらない方が良いよと、告げ口だけしておく。

 「出会いがあれば、また会おうね」

 そう言って、俺は下の階に向かった。


 下の階に降りると、指輪に話しかけた。

 「サリー、お願いがあるんだけど」

 「何でしょうか、御主人様」

 「俺が今手に持っている回復薬をそっちに転送して、調べて欲しいんだ」

 「わかりました」

 その言葉と同時に、俺の手にあったものは消えた。

 後は、サリーが調べてくれる筈だ。

 「おっと、追い付いて来たみたいだから、気付かれないうちに、逃げよっと」

 俺は、もうダッシュである。

 これで追いつけるとなると、余程の強者であるが、流石に諦めたようで、姿を見せなかった。俺は念の為、も1階層下に降りた。

 

 「この階は、何が出て来るのかな」

 胸ポケットの中でずっと寝ているティンクを起こす。

 実は、ポケットの中には、音が入らない様な魔法陣を描いているので、よく眠れるらしい。

 「おはようございます、御主人様」

 「うん、よく寝てたね。この辺りから、魔物が強くなるみたいだから、起きてよね」

 大きく欠伸するティンク。

 「そろそろ、お客さんが来たみたいだよ」

 それは、2メートル位ある甲虫擬きだった。

 「こんな魔物がいたんだね。でも、かっこいいね」

 カブトムシは、男のロマンである。

 でもね、魔物に容赦はしない。

 レイガンを取り出して、撃つ。

 が、矢弾は、甲虫擬きを貫通するが、何らダメージ与える事ができなかった。

 「ダメージが無い?何で?貫通したよね」

 俺は、刀に変えて、すれ違いざまに、斬った。

 斬った所からふたつに分かれた。刀なら効くのか。

 いや、甲虫擬きは元の形に戻っていた。

 「御主人様、あれはリトルビートルの軍団ですね。小さな魔物の塊ですから、今の攻撃ではダメージを与えられません。そのうち、身体中にリトルビートルが取り憑いて、卵を産みつけるようです」

 「それだと、ティンクは一番に狙われそうだな。気をつけなよ」

 「それは、困りますので、御主人様に盾になっていただきましょう」

 そう言うと、俺の陰に隠れるティンク。

 御主人様を助ける気は、毛頭ないようだ、酷い妖精である。もしかして、邪妖精なのか。

 「違います。正義の妖精です」

 何故だ、俺の心の声が聞こえたのか。謎である。

 「圧縮したファイアボールを魔物に撃ち出してくれ。魔物の中心辺りで爆発するように、調整してくれ。どちらかと言えば、ファイアボムだな」

 俺の言葉が終わらぬうちから、魔力を、ティンクは練っていた。

 「撃ちますよ」

 ティンクの手の上のファイアボムが、撃ち出された。

 リトルビートルの真ん中に、ティンクに撃ち出されたファイアボムが到達して、爆発する。

 「シールド!」

 俺は、魔物をシールドで囲う。それぞれ、5重にする。

 爆発とその熱波により、逃げ場のないリトルビートルの群れは燃え尽きた。

 そして、シールドが堪え切れずに弾けた。

 「やりましたね」

 俺の背後で、ティンクが歓声をあげている。

 「まだだ」

 俺の光波レーダーに2体の魔物が確認された。かなり大きい個体だ。

 そこにいるのはわかっても、何がいるかまではわからない。それが欠点ではある。

 ティンクが少し高い位置まで飛んで、眺める。

 「あれは、ギガビートルとメガビートルですね。もしかすると、夫婦かもしれません」

 リトルビーストの敵討ちと言うわけか。

 ティンクは降りて来ると、俺の肩に止まった。いつもの位置だ。

 「どうします。逃げますか」

 「今更出しな。討伐します」

 そろそろ近くまで来ている頃だろう。

 「ティンクはメガビートルを頼む。俺はギガビートルの相手をする」

 「わかりました。甲殻がとても頑丈ですから、気を付けてください」

 ティンクは飛びあがると、メガビートル目指して、風となって、飛んだ。

 あっちは、ティンクに任せておけば良いだろう。俺はレイガンを出して、狙いを定める。

 額付近に狙いを定めると、連射した。

 

 ガンガンガン。


 矢弾は甲殻に負けて、跳ね返る。

 「おいおい、どれだけ硬いんだよ」

 レイガンが効かなかったことで少し同様していたのか、角で跳ね上げられてしまった。落ちてくるところを狙っているのか、角を構えて待っている。

 2発目食らうのは流石にマズいので、シールド出して走って向きを変えて、離れた所までさらに走った。

 俺は、甲殻のつなぎ目を狙って、レイガンを撃つ。撃ちながら、ギガビートルの周りを回る。

 が、どこにもレイガンは効かなかった。

 「流石に昆虫の王者だ。どうするかなあ。そうだ、ドラゴンの鱗で作った矢尻があったなあ。調子に乗って作って、ティンクの怒られたやつだ」

 俺はマガジンを入れ替える。

 「これで駄目なら・・」

 迫りくるビートルの角を横っ飛びに躱して、狙いを定める。

 頭と身体の境目に向かって、引き金を引いた。

 矢弾がギガビートルにめり込んだ。貫通まではしないが、めりこむだけでも十分である。

 苦しそうに暴れるギガビートルだった。

 「効果があるのなら、少し危険を冒してでもやることがある」

 俺は、ギガモービルの周囲を走り回る。

 ギガモービルも、この速さには付いていけなかった。始めは追うように回転していたが、追い付けなくなると、威嚇するように立ち上がった。

 「待ってましたよ」

 俺は、滑りこむように、身体の下に潜ると、マガジンが空になるまで撃ち続けた。

 やはりお腹の方が、弱いようだ。何発も矢弾がめり込んだ。

 ポトポト落ちていた血が、流れるように血が吹き出した。まるで滝である。

 我慢できず、腹から倒れるギガモービル。凄い地響きだった。

 「やったか?」

 動かなくなったギガモービルを見つめて、確信して、カードを投げて、回収する。

 「さて、ティンクは、どうなったかな」


 

 斬っても、斬っても、メガビートルの甲殻には傷が付かなかった。

 凄い強度だ。

 「とんがり帽子を使って攻撃したいけど、あれは一種の自爆技だからなあ」

 自分より強いやつに攻撃すると、自分自身に跳ね返ってくるのだ。あれは、そういう技だから。

 「今の自分の攻撃が効かないとなると、厄介ですね」

 ティンクは、腕に付いているバングルを見つめた。

 御主人さまに戴いてから、まだ使ったことがなかった。それだけ強い敵に会わなかったという事ではあるのですが。今日は、お披露目である。

 「妖精武装!」

 ティンクは光に包まれた。光の繭である。繭から、光が漏れ始めて、最後には光が、繭の殻が弾けた。

 中から現れたのは、全身に武装されたティンクだった。

 深紅のドレスに、身長サイズの槍とティアラのような兜だ。始めに戴いた際に、少し私の意見を入れて直してもらいました。

 少しくらいの攻撃や魔法は平気なようです。

 さあ、どれくらいの品物なのでしょうか。

 行ってみましょう。

 ティンクは、槍を中心に飛んでいく。

 カキン!

 弾かれる前提でしたが、どうやら効いているようです。当たった箇所に傷が付いています。これなら、いけそうです。

 メガビークルの周りを飛びながら、何度も刺していきます。相手は嫌がっているようですが、ティンクは小さ過ぎて、メガビーグルの攻撃は届かなかった。

 致命傷にはなりませんが、目に見えて傷口が増えていきます。このままいけると良いのですが、そんな簡単ではありません。

 メガビークルの口から、ウオーターカッターが飛んで来ました。一度目は避けれましたが、何度も繰り返しウオーターカッターが飛んできて、逃げ道がなくなりました。

 妖精武装のお陰で、ケガをすることはないようです。

 私は、右足を軸にして回転します。

 ドレスのスカート部分は刃となって、回転を始めます。このまま角に向かって、スカートで斬りかかります。

 キーン!

 回転ノコギリのように、角を根元から斬り飛ばします。

 斬られた角を見て、メガビートルが吠えました。

 「槍変化!」

 槍が広がって、ティンクを包む。まるで、その姿はドリルミサイルであった。

 ロケットの様に上昇して、Uターン。そのまま、メガビーグルに突っ込んでいきます。

 メガビーグルの背中から腹を貫通する。大地に潜り、再び大地から出現する。

 槍変化を解除すると、倒れ伏したメガビーグルの上に飛びあがった。

 天に槍を突き上げて、吠える。

 勝鬨を上げて。喜びを表すティンクだった。


 近づくレイは、ティンクの頭を撫でていた。

 「よく倒したね。凄いね、ティンクは」

 武装を解除して、肩に乗るティンクはニヤニヤしていた。レイに褒められて、嬉しいのだ。

 カードを投げて回収するのを忘れない。

 それと、リトルビーグルを何体か、回収しておいた。


 「今日は、帰ろうか、ティンク。ちょっと調べたいこともあるしね」

 「はい、私も疲れました。今日は退散ですね。

 「でも、帰り着くまでが遠足だからね」

 俺は、ティンクを肩に載せて、上に向かって、走るのだった。


 

 

 

 


 毎日、ギリギリです。

 次回、どうするか。

 それでも、お楽しみにしてもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ