46.すれ違いのバラード
「回復魔法を頼む」
片膝を付いて、ポップが言った。
「任せて。ヒール」
ユーリが、ポップに回復魔法を掛ける。
「ありがとう。俺は、もう一度アタックしてくるよ」
「無理しちゃ、ダメだよ、ポップ」
「大丈夫だ。ユーリのお陰で、疲れも吹っ飛んだよ」
そう言うと、ゴブリンの群れに向かって、突進する。
「ひやー、疲れたなあ。まさか、ゴブリンの巣だとは、思わなかったよ。でも、ユーリのお陰で殲滅できたよ。30体くらいは、いただろうか。魔石を取っていくのが大変だな」
「そんなこと、言わないの。これが無いと、ギルドからお金もらえないんだから。つべこべ言わずに、取る」
ふたりは、言い合いをしながらも、魔石を取って行った。
バスン。
ドタッ。
「君たち、魔石の回収は大事だけど、周囲の警戒しながらやらないと、危ないよ」
それは、肩に妖精を乗せた人でした。
襲って来たゴブリンを倒してくれた様でした。
「あ、ありがとうございました」
すぐ後ろにゴブリンが倒れていた。
どうやら、1体残っていたみたいだ。
「この辺のやつらは、レベルが低いから、大したことにはならないと思うけど、気を抜いちゃ、ダメだからね。気を付けてね」
それだけ言うと、その人は走り去っていった。肩の妖精さんが、こっちを向いて、手を振っていたので、振り返しておく。
「私達、危なかったんだね。もっと気を付けないとね」
「ああ、俺が警戒の手を抜いたばかりに、ごめんな」
「でも、あの人、噂の人だよね。確か、光の騎士って呼ばれていたと思ったけど」
去って行った方向を、ユーリはずっと見つめていた。
「あの人がそうなんだ。俺も噂を耳にしたことがあるよ。ユーリも、あんなのがタイプなのか?」
「何言ってるのよ。初めて見たから、びっくりしてるだけよ」
「ふーん」
「何よ、文句あるの」
「な、ないよ・・・」
「おーい、ユーリ、少し休んで行こうよ」
ポップは、そう言って、近くの木にもたれ掛かった。
仕方なく、ユーリも隣に腰を下ろした。
「いつになれば一流の冒険者になれるのかなあ。ゴブリンの相手ばかりだと、レベルが上がらないよなあ」
「焦らない、焦らない。そこが、ポップの悪いところなのよ。少しは自覚しなさいよ」
「悪かったよ。これからも少しずつ頑張るよ。もう文句は言わないよ」
「大丈夫、ポップなら、すぐにレベルが上がるわよ。だって、強いんだもの」
顔が赤くなるポップだった。恥ずかしくて、ユーリに顔を合わせられない。
目を合わせられないまま、ポップは言った。
「こ、今度、ダンジョンに潜ろうよ。その方が、稼ぎがいいらしいから」
「・・・いいけど、無理してない?私達じゃあ、まだ早くないかなあ」
「大丈夫さあ。トーマ達も、もう潜ってるらしいから、俺達でも大丈夫さあ」
「それなら、いいけど」
「おはようございます」
ダンジョンの方向にユーリの家があるので、ポップが迎えに行く。おばちゃんが迎えてくれた。
おばちゃんと言っても、ユーリの母親だ。魔法学校からの付き合いだから、お互い顔を知っている。ギルドの帰りに、ご飯をごちそうになったりしていた。幼馴染ってのとは、少し違うかもしれない。学校からの帰りに一緒に帰ったりした程度だ。
「ポップ君、ユーリのこと、お願いね。何なら、嫁に貰ってくれたらいいのに」
おばちゃん、そこまで考えたこと無いよ。びっくりするようなことを言うなあ。お互い、もうすぐ20歳だから、人に言われて、考えないこともないけど、意識したことはない。
「お母さん、何馬鹿な事言ってるのよ。お父さん、呼んでるよ」
忘れていたことを思い出したかのように、奥に戻って行った。
「気を付けてね。行ってらっしゃい」
そう、言葉だけ残して。
「初めてのダンジョン。気を引き締めて行きましょう、ポップ」
ユーリの顔が少し赤い。見られないようにはしているようだが。
「今日は、2階層くらいまでは行きたいね」
何処かで、鐘が七つ鳴った。
「馬車の定期便に遅れちゃうよ。急がなきゃ」
ポップとユーリは、並んで走って行った。
「何とか、間に合ったね」
席に座って、鼓動を押さえる。結構走ってきたから、二人とも、息切れしそうだ。
ダンジョンまで1時間くらいかかるらしいから、それまでに呼吸を整えれば、大丈夫だ。
Eランクのダンジョンだから、初心者向けだ。
無理をしなければ、特に問題はない。
道がだんだん細くなっていった。この辺りでは、魔獣は出ないらしい。
くねくねと曲がりくねった道の先に、ダンジョンの入り口が見えて来た。
そして、乗合馬車はここまでだった。
「昼過ぎに、街に帰る最終便が出るから、遅れないようにな」
「ああ、ありがとう」
ダンジョンの中は、真っ暗だった。細い洞穴を抜けると、森が見えた来た。地下のはずなのに、無茶苦茶明るい。これなら、問題なく戦えそうだ。
「準備はいいか、ユーリ」
「ええ。ポップこそ、大丈夫?」
「ああ。それじゃあ、行こうか」
魔物がいないか、様子を見ながら、少しずつ前進する。背を低くして、ゆっくり、ゆっくり。
「見つけた。オークが3体だ」
オークは、大きな牙の生えた豚顔の魔物だ。凶暴で、力が強いから、要注意だ。
「ファイア・アロー」
ポップは、炎の矢を飛ばすと、駆け出した。
ユーリは、ポップに当てないように、風の刃を飛ばす。
「ウインド・カッター」
左右の2体に当たると、大声を上げて、暴れている。
その間に、中央のオークに剣を立てる。狙いは、もちろん胸である。
剣が突き抜けて、オークが倒れる。
まだ暴れている左のオークの首を斬る。その勢いのまま、回転して、右のオークの首も斬る。
だが、右のオークは首を傾けて躱したため、傷が付いただけだった。
「ウインド・カッター」
ユーリの2発目の魔法が、胴体に食い込む。
ポップが、逃さず追撃する。今度は、首が落ちた。
3体とも動かないのを確認して。
「よし、やったぞ」
ポップは、皮を剝ぎ取り、魔石と肉を取り出す。豚に似てるせいか、肉は美味いのだ。最高級の豚肉である。
3体もいれば、解体に時間がかかる。その間、ユーリには周囲の警戒をしてもらう。この前みたいなことがあると困るからな。
「そろそろ戻らない?結構、倒したし、魔石が持ち切れなくなるよ」
「うーん、もう少し進みたいけど、戻ろうか。ユーリも疲れただろう」
「うん、もうすぐ魔力切れになりそう。帰りの分を残しとかないとね」
(また来ればいいよな)
ポップは、そう考えていた。ふたりなら、もっと先まで行けそうだとも。
当初の予定通り、3階層まで来れたから、満足だった。
足取りも軽く、来た道を戻ることにした。
ユーリが、キョロキョロして、周囲を気にしている。
「どうした?近くに、魔物でもいるのか?」
「ううん、この前の人に、また会えないかと思ってね」
「会って、どうするんだよ」
「この前の御礼、上手く言えなかったから。ちゃんと言っとこうと思ってね」
(女って奴は、少しカッコいいのを見ると、すぐ舞い上がっちゃうんだからな。困ったものだ。俺だって、少しくらい格好いいと思うのだが)
「ポップ、右手斜め前にゴブリン1体。気を付けて」
ユーリの指す方向に茂みが揺れた。
ゴブリンが飛び出て来る。
ポップは、剣を抜いて、水平に斬る。
ゴブリンの胴体が離れる。
「他には、居ないか?」
「うん、大丈夫そう」
「やっぱり、ユーリは頼りになるよな。ありがとうな」
「ポップだって、一撃だったじゃない。もうひとりでも大丈夫じゃないの」
「まだまだ、これからだよ」
ゴブリンはもういなさそうだったので、剣を鞘にしまう。
「もうすぐ1階層だ。もうひと安心だろう」
「ダメよ、油断しちゃあ。何処に何がいるか、わからないんだから」
「わかってるよ、帰るまでが遠足だもんな」
時間通りに出発した乗合馬車に乗って、街まで帰って来た。
そのままギルドまで行って、回収した魔石を勝手もらう。
「お帰りなさい、ポップさん、ユーリさん」
「ただいま。魔石を買い取ってもらいたいんだけど」
リュックから、魔石を取り出すと、机の上に置く。
「1、2、3・・・オークの魔石が50個、ゴブリンの魔石が10個ですね。オークの肉は、どうしますか?」
「ふたつ残して、あとは買い取ってもらいたい」
「わかりました」
魔石や肉をサイドテーブルに置くと、引出を明けて、金貨を取り出した。
「今日は頑張りましたね。魔石と肉を合わせて、金貨15枚と銀貨が1枚ですね。いつも、これくらいあるとギルドとしても嬉しいですね」
「お金は折半にすると、銀貨1枚余るから、ユーリが貰ってよ。お肉は1個ずつね。偶には、親にお土産に渡してよ」
「いいの?」
「いつも回復魔法のお世話になってるからね」
「それは、そうだけど。私は守ってもらってばかりだし、・・・それにいつまで守れるかもわからないよ」
「また頑張るから、問題ないよ」
「・・・」
ユーリの口は開いたままだ。
「どうした?」
「・・・冒険者って、危ない職業だから、もっと安全な仕事しないのかなって思って」
「安全な仕事かあ。俺、学がないから、難しいかな。体力勝負の冒険者が合ってると思うんだ」
「でも、体力勝負なら、他にも家を建てたり、運送したりの仕事だってあるじゃない。それじゃあ、駄目なのかなあ」
ポップをじっと見つめるユーリ。真剣な瞳だ。
「うーん、昔から冒険者になりたくて、頑張って来たからな。難しいかな」
頭を掻くポップ。自分がけがをするなんて、思っていないのだろう。
「そっか。そうなんだ。私は、いつまでもは続けられないかな」
二人の間に、沈黙という壁があるようだ。すぐ目の前にいると言うのに、ひどく遠く感じる二人だった。
そんな沈黙が嫌なのだろう。ポップが、口を開いた。
「いつも通り、明日はお休みにしよう。また、明後日からでいいかな?」
「あっ、明後日は用事があるから、・・・ごめん」
俯くユーリ。
「珍しいね。でも、用事があるなら、仕方ないね。それじゃあ、また三日後に」
「・・・うん」
ポップは、家と反対の方向に駆け出していた。走りながら、振り向くと。
「今日は、寄りたい所があるから、こっちから帰るから。ユーリ、気を付けて、帰んなよ」
「ポップも、気を付けてね」
手を振るユーリ。
応えるように、ポップも手を振っていた。
ポップが訪れたのは、魔法具屋でした。
扉を開けて、中に入る。
「いらっしゃいませ」
「魔力を増やす指輪が欲しいのですが」
後ろの棚から、商品を取り出す。
「こちら、魔力量を1.5倍に増やす指輪でございます。指輪の細工も、今風に仕上げておりますので、お薦めの商品でございます。サイズも自動で調整してくれますので、サイズ直しの心配も不要かと」
凄い。これなら、ユーリの魔力切れの心配がいらなくなるかも。
「値段は、いくらですか?」
「金貨で10枚でございます」
高過ぎて、買えない。
「す、すみません。もう少し安くなりませんか?」
「売れ筋の商品ですので、これ以上は無理かと」
「はあ、そうなんですか」
ポップは、頭を抱えた。こんなに高価だとは思わなかったのだ。
「それでしたら、ペンダントのタイプは、いかがですか?これでしたら、金貨7枚になります。首に掛けるのを嫌がる方が多いものですから、これでしたら、お安くさせていただきます」
7枚と言えば、今日の儲けが全部飛んで行く。困るポップだった。
「もう少し、安くなりませんか?」
店員さんも、困り顔だ。これ以上安くすると、お店の売り上げが無くなってしまう。どうやって、これ以上は無理だった。
それでも、考えると、店員さんは、はたと気がついた。
「それでは、こちらのペンダントは、いかがですか。魔力量は1.3倍しか増やせませんが、これでしたら、金貨5枚でお売り致します。いかがですか?」
少し悩んだが、いつもと同じ位の儲けが残るから、大丈夫だと思った。
「それをください」
意を決して、店員さんに伝えた。
「ありがとうございます。包装は、どうされますか?無料でさせていただきますが」
「小箱とかに、入れて貰えたり出来ますか?」
「はい、可能ですよ。しばらくお待ちください」
引き出しから、小箱を取り出して、丁寧にペンダントを入れてくれた。
その箱と引き換えに、金貨を渡す。
ポップは両手で受け取ると、直ぐにリュックに仕舞った。
店員さんにお礼を言うと、ポップは店を出た。
あとは、これをユーリに渡すだけだ。
三日後が楽しみで、しかたないポップだった。
「明後日は、ひとりでダンジョンに行ってみようかな。浅い階層なら、大丈夫だよな」
色々と予定を考えるポップだった。
その日の朝。ポップは、いつもの所で、ユーリを待っていた。
「おかしいなあ、寝坊でもしたのかな、ユーリ。でも、ユーリの寝坊なんて、珍しいよね。迎えに行ってみようかな」
「おはようございます。おばさん、ユーリが来ないんだけど。起きてる?」
大きな声で、ポップは叫んだ。
すると、扉が開いて、不思議そうな表情で、ユーリの母親が出て来た。
「ユーリから、聞いてないのかい。商店の若旦那と顔合わせをしてさあ、お見合いっていうのかねえ、上手くまとまってねえ、お店の方に手伝いに行ったよ。自分から話をするって言ってたから、てっきり知ってると思ったんだけど」
ポップは大きく目を見開くが、すぐ表情を緩めて、
「ああ、そう言えば、そんな事言ってたっけ。忘れてたよ。ごめんね、おばさん」
ポップの頬に、ひとすじ光るものが流れた。
ポップは、深くお辞儀すると、一目散に来た道を戻って行った。
ああ、そうか、ユーリは安全な方を選んだんだと、ポップはそう思った。
「今日から、ひとりか。あはは・・・」
ダンジョンの中が、やけに暗く感じた。
オークを幾ら倒しても、満足感が感じられなかった。
解体する気にもならないから、倒したオーク達はそのままだ。ダンジョンが勝手に飲み込んでくれるだろう。
もっと強い相手と戦いたい。
その欲望だけが湧いてくる。
ふらふらと、暫く歩くと、オークの巣があった。
どれくらい、居るのか。数は、どうでも良かった。自分が満足さえすれば良かったのだ。
「何だかなあ。何もかもが面倒臭いなあ。俺、どうしたんだろう」
木に隠れながら、巣に近づく。
魔法を唱えて、3カ所に、ファイアアローを打ち込む。
同時に、駆け出して、オークを斬っていく。
魔法を撃ち込んだ箇所で、火の手が上がる。森で火魔法を使うと、火事になるからやめる様に教わったが、今日はどうでも良かった。
オークは火の手を敵と勘違いして、3カ所に分散される。
まずは、右から倒していくことにする。右が一番数が少なく見えたのだ。
「ファイアアロー」
混乱している所に、更に魔法を撃ち込む。これ以上は無理だ。魔力が無くなる。
ポップは右の群れの塊を1匹1匹、倒していく。
「よし、ここは終わったぞ。次は中央だ」
左の群れに、もう1発、魔法を撃ち込んでおく。
中央も半数くらいは、魔法で倒れていた。
再び、斬って斬って、斬りまくる。
自分の脚がもつれて、転がる頃には、中央は全滅していた。
ポップは、リュックから回復薬を取り出して飲んだ。
「よし、傷口も治った。これで、全快だ」
体力的には戻っても、疲労感は薬では全快とはいかない。減った血は戻らないからだ。
「ファイアアロー」
残りの群れの塊に、撃ち込む。
その頃には、敵さんも気づいたのか、全員で襲って来た。
ポップは、大きく息をしながら、迎え撃つ。
剣はオークの脂で、上手く斬れない。頭を狙って、叩いていくしかなかった。剣の脂を拭き取る暇がなかったのだった。
それでも、どうにか全滅させると、何処からともなく巨大な何かが近づいて来た。
「オークキングか。これだけの群れだ、居ても不思議ではないか。でも、俺じゃあ、勝てないな。どうする、逃げるか、それとも・・・、戦うか」
選択する時間が、分かれ目だった。すぐに動いていれば。
「よし、逃げよう。どう考えても無理だ」
ポップは、逃げるために、走り出していた。
脇目もふらずに走る。ドタドタとオークキングの足音だけがこだまする。
「あそこを曲がれば、何とかなる」
道が細くなり、ブッシュの中を走るためだ。オークキングは大き過ぎて、走れない。
しかし、願いは空しく、オークキングに追いつかれてしまった。
背中から、棍棒に殴られて、吹き飛ばされる。
何度も転がって、倒れ込む
口から鉄の味がする。内臓の何処かをやられたようだ。
「まだ動けるよな」
自分に言い聞かせるが、オークキングは執拗に追いかけてきて、棍棒を振り上げる。
ニヤリと、口元が上がる。
「ヤバい」
ポップは這うように逃げる。
棍棒が今までいた所に落ちて来た。
ドスン、大地が揺れる。
あれは食らったら、ヤバいやつだ。
棍棒から逃れたと思ったら、今度が脚が飛んできた。太い大木のような足で、蹴り上げられる。舞い上がった所に棍棒が来た。
腕で防ぐが、そのままボールのように飛ばされた。
左腕が変な方向に曲がっていた。
コロン。
ポケットから、小箱が落ちた、ユーリにと思って購入したペンダントだ。これを潰されたらマズい。小箱に覆いかぶさるようにして、小箱を守る。
「ごめん、ユーリ。もう、駄目だ」
いつまで待って、痛みが来ない。
不思議に思い、オークキングの方を見る。
そこには、倒れて、口から血を流すオークキングが居た。ピクリとも動かない。
「おーい、大丈夫だったか。何とか、間に合ったけど、君は無茶し過ぎだ。今の君では、オークキングは無理だろう」
見上げると、肩に妖精を乗せたあの人だった。
「あ、ありがとう、ございます」
その人は、何処からか回復薬を取り出して、ポップに渡した。
「とりあえず、それを飲んでよ。毒じゃあないから、安心していいよ」
その人は、カードを取り出して投げた。すると、オークキングの死体が消えた。
「助け賃として、このオークキングは貰うよ。あとは、頑張って、魔石と肉を取るんだね。ああ、でも、ひとりだと周囲の警戒をしてくれる人がいないか。仕方ない、回収するまで、見張っとくよ。頑張って。回収してね」
「は、はい。わかりました」
ポップは手渡された回復薬を一息で飲み干す。
「美味い」
飲んだ瞬間、身体に力が漲るのがわかった。傷もあっという間に治ってしまった。すごい回復薬だ。
とりあえず、一息つく。
「ありがとうございました。この、御礼は・・・」
「いいよ。さっきのオークキング貰ったし、何もいらないよ」
「あれは、貴方が倒したもので・・・」
「魔石とお肉の回収、終わりました」
「それじゃあ、君も休憩しなよ。魔石を回収するだけでも案外疲れるでしょう。ゆっくり、休憩しなよ」
「本当に、良かったんですか?マジックバック借りて」
「うん、いっぱい持ってるから、問題ないよ。王都のギルドに渡しといてくれたらいいよ。君、頑張ったもんね。あんなに討伐したら、持って帰れないよね。ここに転がしといたら、勿体ないでしょ。他な魔物を呼び寄せるしね」
椅子とテーブルを何処からか取り出すと、果実水まで出してくれた。
「どうぞ、座って」
「ありがとうございます」
そう言って、ポップは椅子に腰を下ろした。座るだけで、疲れが取れるようだ。
「そう言えば、一緒にいた女の子は、今日は居ないの?」
「えっ、覚えていてくれたのですか?」
「魔物を倒して喜ぶあまり、周囲の警戒を怠る人、偶に居るからね。気づいたら、気に掛けてるよ。そんなんで死んじゃうの、嫌でしょ」
果実水を一口、口に流し込む。
美味しい。疲れが取れるようだ。
「君さあ、やっぱり、ひとりでダンジョンに潜るのは、無理があるよ。チームを組んで、潜らないと、そのうち、ダンジョンに取り込まれちゃうよ。あの子と喧嘩でもしたなら、謝って、よりを戻した方がいいよ」
「あの子、ユーリって言うんですが、結婚することになっちゃって・・・」
「そんな事があったんだ。でも、君はこのままでも良いの?今なら、まだ間に合うんじゃないかな。もしかすると、ユーリって子も、強引に奪いに来てくれるのを待ってるんじゃないかな。よく考えないと、間に合わなくなるよ」
ポップは、首を振った。
「ユーリは、言ってました。冒険者なんて先の見えない仕事より、生活に安定した人を選ぶんだって」
「君は、それでいいの?」
ポップは、何も言えなかった。
「俺は、こう思うんだ、人生って、選択しては進んで行く迷路みたいなものだって。でもね、選択にも色々あってね。どっちにするか、人生賭けて選ばなければいけない時が、必ず来るんだよ」
一度間を開けて、
「もしも、魔物に襲われて、右か左か、どちらかしか助けれないとしたら、君ならどうする?」
「・・・・・」
「もしも、彼女か母親か、どちらかしか助けることが出来ないとしたら、君はどちらを選ぶ?」
「・・・・・」
「そんなこと、起こらないって、思ってる?人生ってね、そんなに甘くないよ。必ず、その時が来るよ。例えば、ユーリさんとのことだって、そうでしょう。ユーリさんを選ぶか、冒険者を選ぶか、簡単に答えは出ないと思うよ」
「・・・あなたなら、どちらを選びますか?」
「簡単だよ。後悔する方を選ぶよ。後悔しない事柄は、放っといても大丈夫だけど、1年後、5年後、30年後に、選ばなかったばかりに、後悔するのなら、何があっても、そっちを選ぶべきだね」
ポップは、残りの果実水を一気に飲み込んだ。
「ご馳走様でした。これから、ギルドの方に帰ります」
「ダンジョン出るまで、ついて行こうか?」
ポップはリュックを背負うと、お辞儀をした。
「大丈夫です。今日は、ありがとうございました」
「ああ、気を付けてね」
ポップは上の階を目指して、戻って行った。
後ろ姿をじっと見つめる。
「後で、後悔しなきゃいいけど。自分の力で守るか、守れないから他人に託すか、難しい選択だけどね。俺の人生にも、そんなことがあったのだろうか?・・・思い出せないからなあ」
椅子とテーブルをマジックバックに仕舞うと、階層深く潜って行った。
ギリギリの事態は続く。
そんな訳で、次回へと続いていきます。
よろしくです。




