44.俺の錬金術は、おかしい
久しぶりに、物作りをしようと思う。
とは言っても、俺はメガミフォン頼みだから、そこまで本格的では無い。と、思う。
今日は、アリスの戦闘服を作る事にする。いつもメイドの洋服だから、変えてやりたい。
「やっぱ、セーラー服だよな」
メガミフォンを取り出して、防具のアプリを開く。
高級鎧・・・ミスリル製の鎧。強度、魔法耐性、共に良好である。高価であるため、一般人には手が出ない。
中級鎧・・・銀製の鎧。魔法耐性がある。
低級鎧・・・鉄製の鎧。無難な製品。
その他・・・オーダーメイドにより、色んな趣味の鎧が作製可能。
その他の中で、探す。スワイプさせて、項目を見る。
あった。
セーラー服をタップする。
セーラー服タイプ・アーマードスーツ・・・魔法耐性に優れ、攻撃された力を反転させて、相手に弾き返す。ただし、限界があるが、レベル上昇に伴い限界値も上昇する。ともに成長するスーツ。必要な材料は、ブルースパイダーの糸、ブルードラゴンの鱗、ミスリル鋼。
これで、いいだろう。
それぞれの材料が入ったカードを取り出す。
合成アプリをタップ。机上に魔法陣が投影される。
その上に、3枚のカードを置く。
《10000ポイントを使用して、合成しますか》 はい / いいえ
はい、を押す。
魔法陣が光り始めて、小さな竜巻が起こる。カードを舞い上げて、竜巻の中に入る。
暫く、回転する。球上になる。
そして、割れると。
中から、セーラー服タイプ・アーマードスーツが、姿を現す。
俺は、それを持ち上げると、重さを確認して、ひと通り、目を通す。特に不具合点は見られない。
とりあえず、マジックバックに仕舞う。
そうだ、併せて、空翔ける靴なんか、どうだろう。
もう一度、防具アプリを開く。
天翔ける靴・・・重力を無視して、空を駆けることの出来る靴。小さな羽が付いている。水上は歩けないので、要注意。必要な材料、ペガサス・ロードの羽、ジャイアント・バタフライの羽、ワイバーンの皮。
《5000ポイントを使用して、合成しますか?》 はい / いいえ
もちろん、はい、を押す。
途中経過は同じなので省くが、上手く出来上がったようだ。
不具合点も無さそうだ。このまま、マジックバックに仕舞う。
残りは、4980万ポイントだ。
次に、ティンクの防具も必要だな。
妖精がアーマードスーツを着るから、妖精武装だな。
武器も兼ねたトンガリ帽子に、身体にピッタリのドレスは、どうかな。スカートは、回転すると、切れるようにしておこうか。目が回らないといいけど。
防具アプリをスワイプして、探すと、ありました。
妖精武装だ。名前がそのままじゃん。
妖精武装・・・妖精にしか着ることが出来ない。背中には翅の出る開口付き。魔法耐性はもちろん、物理的にもかなりの強度がある。腰には、小型の剣付き。よく切れる。必要材料、ミスリル鋼、レインボー・ローズの花びら、ユニコーンの角。
《50000ポイントを使用して、合成しますか?》 はい / いいえ
はい、だ。
あっという間に、出来上がった。残りは、4975万ポイント。
完成。俺の手のひらに乗るくらいの大きさだ。
後は、弓矢を簡素化して、連発出来るようにしてみたい。
この世界には、火薬なんて物はなかった。魔法があるので、必要ないのだ。
今度は、武器アプリを開く。
弓矢ガン・・・10センチ程度の矢を12連射可能。小型銃に似た形状。マガジンを交換することで、連発を可能とする。必要材料、鉄鉱石、アイアン・タートルの甲羅、ファイアバードの嘴。
《100000ポイントを使用して、合成しますか?》 はい / いいえ
はい、をタップ。
残りポイントが、4965万になってしまった。一度、ポイントを貯める為に、高ダンジョンに行こうかな。こいつの練習も兼ねてだ。
おっと、腰に取り付けれるように、ホルスターが必要だ。
これは、俺のガンだから、【レイ・ガン】と命名。
よし、これで準備できたし、練習に行こうかな。
あー、ティンクがいるから、転送してもらえないな。少し時間が掛かるけど、タートル君で行くかな。
「ティンクは、何処?ダンジョンに行くよ」
「はーい」
厨房の方から、ティンクが飛んできた。口元で、ばれるぞ。
東門から出て、東の『絶息のダンジョン』を目指す。
タートル君で行くから、それ程時間はかからない。
あっという間に、到着だ。
「タートル君、また後で」
タートル君は付近のお散歩だ。
「気をつけてねー」
ダンジョンに入ると、人が凄い。溢れていた。
俺は、早々に探索して、10階層まで来た。
さて、何が出て来るかな。
周囲を探索すると、100メートルくらい先に、ファイアウルフの群がいた。
「レイ様、あの群れは多過ぎませんか?手伝いましょうか?」
相変わらず、俺の肩の上から、話しかけて来た。
「大丈夫だよ。そのために、新しい武器、弓矢ガンを作ったんだから」
近くまで接近する必要がないから、見えさえすれば、相手に気付かれず、狙うことが出来る。
このくらいで、いいだろう。
弓矢ガン=レイ・ガンをホルダーから取り出すと、狙いを付ける。
バキューン。
バキューン。
バキューン。
このくらいの距離なら、外す事はなさそうだ。
ファイアウルフは、仲間が急に倒れて、残ったもの達は慌てていた。何が起きたか、分かっていないようだ。キョロキョロと周囲を警戒しているもの達が多い。
「すごい威力ですね。私も欲しくなりました。レイ様、私にも作ってください」
耳元で、ティンクが煩いです。
「わかった、わかったから、耳元で大きい声出し過ぎだよ」
さて、風向きが変わったから、臭いでバレる頃かな。その前に殲滅かな。
「ティンクは、右側を頼む。俺は左側を殲滅する」
「わかりました」
それだけ言うと、ティンクは肩から跳ねて、飛んで行った。
俺は、弓矢ガンで狙って、連発する。マガジンを3度交換する頃には、ファイアウルフ達は、いなくなっていた。
ティンクは・・・素手だ。素手で、殴り倒していた。もう残り少ない。俺が手を出す事もないだろうから、様子を伺う事にする。誰に似たのか。きっとアリスだろうけど、アリスに似て、戦闘狂だった。
帰ったら、メリケンサックでも作ってやろうかな。でも、妖精にメリケンサックは似合わないな。グローブにするかな。指無しグローブなら、映えるんじゃないかな。
現場に出るとすごいな。製作意欲が湧き出してきる。
と、思っているうちに、ティンクはファイアウルフを殲滅して、戻って来た。
「レイ様、終了いたしました」
「ああ、また、血塗れだなあ。魔法で、洗った方がいいよ」
15階層まで来ました。
「どうやら、ここはボス部屋のようですね。何だか、変な臭いがプンプンします」
扉の隙間から、部屋の臭気が漏れているようだ。
「臭いは我慢するしかないなあ。それじゃあ、扉を開けるよ、ティンク。用意はいいかな」
「はい、問題ありません」
ゆっくりと、扉を押すと、スウーと開いていく。呆気ない。
広い室内には、無数のスライムがいた。赤、青、黄、無数の色が存在した。世界の色が集結しているかのようだ。
跳ねる赤。
揺れる青。
蛇行する黄。
その中央には、巨大なスライムがいた。
苔生した体躯に、夜空のような瞳が真っ直ぐに、こっちを見つめていた。
「凄い数だな」
「レイ様、多過ぎて、気持ち悪いです」
ティンクは、俺に肩の上でぐったりしていた。
「モンスター・チューバーに手伝ってもらうか」
カプセル魔物は、パクリだとアリスに言われて、モンスター・チューバーと呼ぶことにした。魔物の筒の造語だ。そのうち。MTと呼ぶ予定だ。
チューブを取り出して、スライムの群れの中に投げ入れる。
後で、変なところに出すなと、文句を言われそうだ。
「お呼びにより参上・・・。何だ、こいつらは」
「ここって、ぎゅうぎゅうではないですか」
「・・・」
「呼び出すところ、考えろー」
まあ、無視だ。
「俺とティンクで、ボスの相手をするから、あとを頼んだ」
俺は大きめのスライムを選んでは、踏んで跳んだ。
ボスの上までは、あっと言う間だった。
これなら、簡単に決着がつかないか?
俺は、刀を突き刺した。
が、滑って刺さらない。
苔が潤滑油のような役割を果たしているようだ。
「レイ様、私が殴っても効きません。力が苔に分散されて、効きません」
だろうね。俺の刀が通らないくらいだもんね。
周囲を見渡すと、モンスター・チューバー達は、順当にスライムの数を減らしていた。4分の1くらいは減っただろうか。もしかすると、あっちの方が、早く終わりそうだ。
ボスはと言うと、何をしても動かなかった。攻撃が効かないのがわかっているからなのか。身動きひとつしない。
「ティンク、少し時間稼ぎを頼んでいいかな」
「お任せください、レイ様」
「お願いするね。でも、その前に、ティンク、このバングルしてもらえる?サイズが小さ過ぎて、指輪は無理だったから」
「バングル?腕輪ですか?」
渡されたバングルを左の腕に宛がう。あとは、勝手に調整されて、腕に嵌った。
「それ、ティンクを守るための鎧に変形するから、【妖精武装】と叫んでくれるかな」
ティンクは、レイにお辞儀した。
「ありがとうございます。早速、使わせていただきます」
「うん、俺はそんなに時間かからないと思うけど、対抗出来るものを作るから。あとをよろしくね」
俺は、シールドで駆け上がり、岩肌に取り付く、少し平たい場所を発見していた。
崖に取り付くと、メガミフォンを取り出して、検索した。
「あった」
【ドリル・アローヘッド】・・・矢尻がドリルタイプになっている。放たれることで、回転を始め、敵に食い込む。カウントすることで爆発するタイプもある。
「これだ、とりあえず、50本くらいあれば良いかな」
《50000ポイントを使用して、作製しますか?》 はい / いいえ
もちろん、ここは、タップだ。
目の前に、【ドリル・アローヘッド】が現れる。
マジックバックに仕舞う。
どんな様子だろうか。
少し時は戻る。
「妖精武装」
ティンクの叫び声と同時に、風がティンクに纏わりつく。小さいが竜巻に巻き込まれて、竜巻はそのまま上昇して、消えた。
そこには、とんがり帽子のドレスのティンクがいた。
「これが、【妖精武装】ですか。とても、身体が軽く感じられます。まるで、何も身に付けていないようです。魔力が身体の周りを渦巻いているようですね。これは、凄いです」
少し浮いて、回転する。
「自由に動けますね」
すると、ボス・スライムがゆっくりと動き出した。今の今まで、じっとしていたのに。どうやら、ティンクに脅威を感じたようだ。
すぐさま、ティンクは、同じ個所を殴り掛かる。何度も、何度も、同じ個所を叩き続ける。
ウオーーー。
ボス・スライムが叫んだ。
瞳もウルウルしている。初めて感じる痛さに、恐怖を感じているようだ。
それでも、止まらず、殴り続けるティンクだった。
その1点のみ、苔が無くなっていた。10センチ程度だが、苔が無くなっていた。
感じる痛みに堪え切れず、ボス・スライムが動き出した。
ゆっくりだが、移動を始めた。
殴り付けるティンクは、止まらない。
タンピングランマーのように、ドドドと、1か所を叩きつける。工事現場で整地したり、アスファルトを叩きつけるあれだ。
「お待たせ」
俺が戻った頃には、ティンクの怒涛の攻めで、ボス・スライムが泣いているようだった。魔物だから、容赦はしない。
「凄いな、あとは任せても大丈夫なんじゃない」
殴りながら。ティンクが言う。
「今のままだと、とどめが刺せません。これ以上は無理です」
俺は、いけると思うのだが、時間さえかければ。
「わかったよ。あとは、任せなさい。新兵器を作って来たから」
「あの時間にですか?やっぱりレイ様の錬金術は、可笑しいですね」
そうかなあ。
まあ、いいか。
「俺の合図で、一度離れてくれるかな。とどめを刺すから」
「わかりました」
俺は、レイ・ガンにドリル・アローヘッドの入ったマガジンを充填する。
狙いを付けると、ティンクに合図を送る。
「それでは、離れます」
ティンクは後退する。
それを確認すると、発射だ。
「狙いは、ティンクが作った禿。カウントは、5。発射」
狙い違わず、ボス・モンスターの禿にドリルが刺さって、奥深くに進んで行く。
「カウント、5、4、3、2、1」
ボゴッ。
ドリル・アローヘッドが、ボス・スライムの体内で爆発した。四方八方に飛び散るボス・スライムの身。ドロドロの液体が、辺り一面を緑に染めていた。
「ふう、何とかなったかな」
ティンクが肩に乗って来た。【妖精武装】はすでに解除していた。
「レイ様、とんでもないものを作られましたね」
「そんなことないよ、ティンクと俺の共同作業だよ。ティンクが居なければ、勝てなかったさ」
ティンクの頭を撫でる。
「ありだとうね」
ティンクは真っ赤になっていた。可愛い。
「そ、そんなことより、他の方達は大丈夫でしょうか」
「問題ないよ。ほら、みんなも終わってるよ」
4体のMTは近くまで来て、片膝で跪いていた。
「お疲れ様。ありがとうね、みんな」
みんなの頭も撫でてあげたいくらいだ。
「この残骸は、どういたしましょうか?」
「ボス・スライムの分だけ魔石を回収するから、あとはダンジョンに飲み込ませておいてよ。多過ぎて、無理だしね」
「わかりました。それでは、チューブの戻ります」
「うん、わかった。ゆっくり休んでね」
MT達は、すぐさまチューブに戻って行った。
あとで、ケーキでも差し入れておこう。あいつら、甘党だから。
「ティンク、下の階に行くよ」
そう言うと、ティンクは俺の肩に戻ってきて、腰を下ろした。
「レイ様、【妖精武装】、ありがとうございました。ただ、出来れば、バングルでなく指輪にして欲しいのですが」
「ああ、ごめん。小さ過ぎて、無理だったんだ。だから、バングルにしたんだよ。バングルなら、人間の指輪サイズだからね」
「そうなんですか、残念です」
「でも、何で指輪がいいの?」
「・・・秘密です」
「俺の錬金レベルが上がれば、出来るようになるかもしれないから、それまで我慢してね」
「はい、・・・わかりました」
ティンクは、俺の耳たぶを摘まんだ。少し、痛いんだが。
はーい、在庫切れでーす。
頑張ります。
次回予告なく、去り行く作者です。




