42.サリーにお任せ
「お疲れ様でした、御主人様」
「今回は、流石に疲れたよ。でも、このまま放っとくわけにもいかないしね」
「お風呂にされます、それとも、わ、た、し?」
最近のサリーは色眼を使って来る。冗談なのか、本気なのか、謎だ。
「冗談は置いときまして、御主人様自らダンジョンを造ってみては、いかがですか?」
「えっ、そんなに簡単にダンジョンって、造れるの?」
「ええ、造れます。ただし、ダンジョンの卵を持っていればですが」
「それだと、簡単じゃあないことない。そのダンジョンの卵なんて、何処のあるの?そこから始めないといけない事ないかな」
「普通はそうでしょうが、私は持っておりますので」
驚いて、俺は、サリーを二度見した。
「都合良すぎない?」
「ヒーローは都合の良いものでございます」
「まあ、いいけどね。誰がヒーローなんだか」
「もちろん、御主人様でございます」
俺は、サリーに勝てそうになかった。
「都合の良い話は好きだ。その卵は、どういう風に使うものなんだい」
「埋めておけば、勝手に成長いたします。天空城の跡地に囲いを作って、その中に埋めてしまうのは、いかがでしょうか。さすれば、邪魔者も現れないと思われます。念のため、ゴーレムを数体、配置して置けば、問題ないかと」
「とりあえず、それで、ダンジョンを育ててみようか」
「それが、よろしいかと」
何だか、サリーの手のひらで転がされてる感、満載だなあ。それでも、サリーに頼んでおけば問題ないからね。
お風呂に入って、今日の疲れを癒して、俺はサリーの作った料理に舌包みを打っていた。いい奥さんになること間違いない。誰が貰ってくれるんだよ。あー、でも、やりたくないなあー。って、俺は、何を考えていることやら。
「何処で勉強するのかい。料理が美味すぎだろう」
サラダに、豚汁。フワフワのパン。メインは、ミディアムステーキ。美味し過ぎるだろう。本当に、何処で料理の勉強をしているのやら。不思議で仕方ないが、美味しいのは正義だから、あまり考えない方がいいかな。
「美味い御飯も食べたし、これからの事を相談したいのだけど。時間はあるかな?」
「大丈夫でございますよ」
お茶を淹れながら、サリーは返事を返してくれた。
「ダンジョンを造れる目処が立ったのはいいけれど、何処にダンジョンを造るのがいいのだろうか」
何せ土地勘がないから、検討が付かない。何処でもいいと言えば、何処でもいいのだが。
「御主人様、先程少しお話ししましたが、天空城の跡地がよろしいかと」
お茶を淹れたサリーは、目の前の椅子に座った。
笑顔でこちらを見ていた。
「サリーは、そこがいいと思っているのには、何か理由があるのかい」
「あそこは、魔素の集まりやすい場所です」
あまりピンと来ない。
「通常より魔素が、集まりやすいことを確認しております。場所を探している時に、偶然気が付きました。この天空城の大地に魔素が多いことは知っておりましたので、もしやと思い調査した結果でございます」
もしかして、天空城が上手くいったのは、そのためか。
「御主人様が斬った山の跡地ならば、周りから一段高く、村程度なら作れる広さがあるかと。山の地下にダンジョンを造れば、申し分ないかと」
想像してみる。斬った山の風景は、まだ鮮明に憶えている。これは、いい考えかもしれないなあ。
「明日にでも、そこに行って見ようか。善は急げって言うしね」
「それでは、土魔法の得意なゴーレム2体をお連れください。おそらく、囲いを作ったり、村らしくするには、適任かと思います」
「ああ、そうしよう。でも、用意が出来すぎてない?」
「いえいえ、これが私の存在意義ですから」
「有難いことだね。これからも、よろしく頼むね」
「サリーに、お任せください」
「用意はいいよ」
レイは、ゴーレム2体を従えて、準備完了の合図を送る。
「それでは、彼の地付近に、転送いたします。お気をつけて」
「ああ、わかってるよ。ゴーレム達も、よろしく頼むよ」
「お前達、しっかりと御主人様を守るのですよ」
「・・・・・」
サリーには、ゴーレムの言いたいことがわかるようだ。
上手く話が通じると良いのだけれど。ゴーレム達には、俺の言う事がわかるようだ。俺もわかると良いのだが。
「それでは、転送いたします」
中央のパネルの下にあるコントロールスイッチを押すサリー。小さくお辞儀をしている。
「それでは、行って来る」
レイとゴーレム達の足元に、光が溢れ、3人の姿が揺らめいて、消えて行った。
「相変わらず、反則だよな、転送は」
レイ達は、こんもりとした高台にいた。1キロくらいあるだろうか、水平に斬られたような大地があった。
「そう言えば、この原因を作ったのは俺だなあ。浮遊城を作るためとはいえ、やっちまった感、満載だなあ。まあ、そのお陰でダンジョンが造れるのだが」
さて、どんなダンジョンにするかな。とりあえず、この地で生活出来る施設が必要だ。
「お前は、高台の周りに石塀を頼む。高さは、10メートルくらいは欲しいかな」
うなづくと、ドタバタと走って行った。
「お前には。うーん、呼び難いから、後で名前を付けようか。この地を綺麗な平地にして、周囲に家を造ってもらおうかな。宿や、武器屋、防具屋なんかが居ると思うから。出来るか?ダンジョンの入り口は、中央に造ればいいだろう。それは、こっちでやっとくよ」
「ガッ、ガッ、ガッ」
それだけ言うと、やはり走って行った。
俺は、ダンジョンの実を植えるかな。どれくらいで、大きくなるのだろうか。まあ、焦っても仕方ないか。
「この辺りでいいかな。そんなに深く掘らなくても、大丈夫とは言ってたけど。浅過ぎても心配になるなあ」
10センチくらい掘って、実を入れる。上から、土を被せて終わりだ。
「埋めたら、魔力を掛けると、成長が早くなるって言ってたけれど、俺には魔力はないから、魔素を掛けてみるかな」
光の剣を出す要領で、魔素を放出してみる。さて、どうなることやら。
魔素に反応したのか、見る間に、何かが生えてきた。
ドンドン大きくなっていく。
芽というより、キノコ?丸いものが、ドンドン大きくなっていく。謎の丸いキノコ。傘の部分が赤色をしているから、毒キノコなのか。
すでに、1メートル位にはなっている。
「どれだけ大きくなるんだ」
さらに、大きくなる
あっという間に、5メートルを越えているようだ。柄の部分でさえ、幅が3メートルくらいある。しかも、柄の部分に扉があった。
扉を開けてみる。
中には、10メートルくらいの広場があった。奥に、水晶だろうか、1メートル程の丸い石があった。
ゆっくりと、水晶玉に近づいてみた。
何の変哲もない、水晶玉だ。
「これが、出来たばかりのダンジョンか」
一瞬、水晶玉が光を発した。ような気がした。
「何だ、何か伝えようとしているのか。それとも、ただの錯覚か」
<さ、さっか、錯覚、では、あり、ません、よ>
「水晶玉が、喋ってる?」
水晶玉のチカチカ光る速度が上がっているような気がする。コンピュータが、育っているように。
「俺の言葉が、わかるか?」
<も、もう、もう少し、お、おま、お待ち、くだ、さい。まも、なく、解析、が完了、いたし、ます>
こいつは多分、ダンジョンの核だな。敵にならなければ、良いが。仲良くなるために、名前でも付けるかな。水晶さんとか、核さんとか可笑しいしね。ただ、俺って、センスないから、気に入ってくれるといいけど。
「呼び名は必要だろうから、ドロシーって、どうかな」
<はい、ありがとう、ございます。名付けにより、解析、速度が、上がって、おります。もう少し、お待ち、ください>
水晶玉の点滅が、さらに速くなった。次第に、点滅部が、点灯に変わり、水晶玉全体が光り始めた。
眩しくて、目を左手で覆う。我慢出来なくなって来た。
<手を触れて、もらえませんか?>
「ああ、わかった」
レイは、右手を水晶玉に添える。
水晶玉とレイの意識が繋がった。一瞬、輝くと、光は収まった。
恐る恐る、左手を下ろす。
「解析が終了しました。これで、貴方様をマスターとして、補助させていただきますので、よろしくお願いいたします」
「うん?俺は、いつもはここに居れないよ。それでも問題ないのかい」
「問題ありません。このダンジョンは、マスターの描く通りに作製いたします」
「え?まだ何も伝えてないけど」
「先程、触れていただいた際に、マスターの解析も終わらせておりますので、問題ありません」
問題ありありなんだが。俺のプライバシーは、どこに行った?
「まあ、いいか。それでは、10階層程度のダンジョンを造っておくれ。もちろん、マスター部屋は最下層に、この水晶玉ごとお願いね。俺は、外の様子を見てくるよ」
周囲の外壁はすでに出来上がっていた。
高さが10メートル、幅は2メートルと言ったところだろうか。思っていたより、デカくないかな。
ゴーレムは、入り口となるであろう門を作っていた。これは、人族には開けられなくないかな。誰が開けるんだ。門番用のゴーレムが必要だな、これは。サリーに言われていたのか、やり過ぎだな、これは。
周囲の家も出来ていた。中央奥にお城、だな、あれは。誰が住むんだか。
お城を挟んで、二階建ての商店が並んでいる。こんなに必要かというレベルである。
これは、一度集合させて、意思統一が必要だな。
レイは、門を作成しているゴーレムの方に歩いていった。
家を作っているゴーレムを呼んで、こちらに来させることにした。3人で話し合いだ。
そこで初めて気がついた。
謎のキノコが消えて、巨大な扉が聳えていた。ダンジョンの入口が、変化していたのだ。荘厳な雰囲気は、到底ただのダンジョンの入口には見えなかった。俺が見たことのあるダンジョンの入口は、ただの洞穴だったはずだ。
まあ、訓練場として他とは一線を引く訳だから、これで良いのかもしれない。
「お前は、クン。そっちは、レン。これからは、そう呼ぶことにする。わかるかい?」
ゴーレム達の胸元が、ピカッと光った。本当に一瞬だった。
「わかりました、マスター」
「理解しました、マスター」
えっ、いつから話せるようになったのかな。
「作業の続きをさせていただきます、マスター」
そういうと、2体は元の場所に戻って行った。さっきまで、ドスドス走っていたのが、軽やかになっている。どうやら、色々と確認が必要だな。一度女神に連絡してみようかな。
さて、ダンジョンの方は、どうなっているかな。何だか、嫌な予感がしないでもない。
1階は、草原になっていた。所々に森があるようだが、ほぼ草原だな。狙われたら、隠れる所がないぞ。
2階は、岩山だった。至る所に、岩が転がっている。隠れる所だらけだが、逆に敵を見つけ難いぞ。
3階は、森だった。鬱蒼とした森のせいで、光を遮られている。全体的に暗いようだ。上からの攻撃にも対応しないといけないから、苦労しそうだ。
4階は、湖というより、湿地帯だな。脚を取られて、前に進むのに苦労しそうだな。所々に沼や、池があるようだ。泥濘んでいるだけで無く、沈んでいきそうだ。
5階から9階までは、まだ作業が進んでいないのか、荒地のままだった。
そして、10階は、神殿になっていた。中央奥に水晶玉が鎮座し、囲むようにテーブルが並んでいる。テーブルは全て液晶パネルになっているようだ。外の様子が写っていた。クンとレンの、ゴーレムの姿も見えた。
パネルに触れると、キーボードが浮いて来るようで、ゴーレムが懸命に何かを打ち込んでいた。
邪魔をするのも悪いので、近くのソファーに座って、様子を見ることにする。
入って来て、右側にはいくつも扉があった。何の扉か、後で聞いてみよう。
左側にはひとつの扉しかなかった。少し大きめで、両開きだ。
「マスター、帰ってらしたのですか?」
それは、ひとりの少女だった。えっ、誰?
こんなゴーレム造ってないよね。
「君は、誰。どこから迷い込んだのかな」
「ドロシーです。水晶玉では効率が悪いので、マスターのゴーレムを改造して、仮の実体を作成いたしました。現状、ポイントが少ない為、ここまでしか出来ませんでしたが、ポイントが貯まり次第、マスター好みの女になるように努力いたします」
「うん、しなくていいから」
「外は任せておけば大丈夫そうだから、こっちの様子を見に来たよ。ちょっとビックリしたけど、かなり捗っているみたいだね。そうそう、何処かの階に砂漠を造ってくれないかな。足元が悪い戦いも大切だと思うからね。それ以外は任せるよ」
そう、水晶に話しかける。
「わかりました、マスター」
「ここの運営方法をどうするかな。訓練するためのダンジョンにしたいからね。魔物に倒されたら、1階の何処かにリスタート出来るようなことって可能かな。ここは、殺されるための施設ではないから、復活させてやりたいんだよな」
「可能ではありますが、ダンジョン運営のためのエネルギーが足りなくなるかもしれませんね。訪問者の魔力と命が、ダンジョン運営のエネルギー源となりますので」
「それは問題だなあ。こう言うのは、どうだい。敗者の武器から防具、手持ちのアイテム類に至るまで、没収と言うのは、どうかな。それをエネルギーに変換すれば、復活分くらい何とかならないかな。どうだろうか」
「わかりました。それでしたら、何とかなるかと思います」
「魔物の方は、どういたしましょう」
「下の階に進むほど強い魔物が出る様にして貰おうか。しかも、Bランク以上の魔物だな。出来れば人型が多い方がいいかな。魔人は、どうやら人型が多いみたいだから」
「わかりました、マスター」
色々と確認しつつ、キーボードに打ち込む様に、ゴーレムに指示するドロシーだった。
「1階から3階まではBランクの魔物で行こう。4階から7階まではAランクだな。残りはSもしくはSSランクだな。簡単には、ここまで来れないだろうけどね」
「それでは、そのラインで用意いたします。現状、ダンジョンポイントが少ない為、何処まで出来るか、わかりませんが」
「魔力かあ。代わりに、魔素を取り込んで、魔力に変換とか出来ないだろうか。魔素変換からの魔力利用が出来れば、かなりの事が、解決すると思うのだけれど。魔素なら、そこら中にあるだろう。魔素供給システムみたいなものが出来れば画期的なんだけど」
悩みつつ、ドロシーの答えを待つ。
ルルルー、ルルルー。
誰からの連絡だろう。
レイは、女神フォンを取り出した。
「何だい」
相手はサリーだった。
「錬金ゴーレムが、魔素供給システムの製品化に成功いたしました。そちらに、送る事も出来ますが、いかがいたしましょうか?」
もしかしてだけど、サリーは何処かで俺を見てるのだろうか。タイミングが良過ぎる。
「ああ、それなら、こっちに転送してくれ。でも、凄いタイミングだなあ」
「こんな事もあろうかと、錬金ゴーレムに開発を進めさせていましたから。お役に立てて光栄です。錬金ゴーレムにも、よくやったと御主人様が言っている旨、伝えておきましょう」
「ああ、そうしてくれ。詳しいことは、帰った時にでも教えて欲しい」
そんな話をしていると、目の前が揺らいで、魔素供給システムが送られて来た。都合良すぎるくらい、早過ぎないだろうか。
「今届いたから、設置してみるよ。ありがとう、サリー」
「美味しい料理を用意して置きますので、早めにお帰りください」
「ドロシー、魔素供給システムが、早速完成したぞ。すぐに、組み込んでみてくれ」
「は、早くないですか」
俺もビックリしてるなんて、言えない。
「ま、まあ、いいじゃないか。これで、ダンジョンが出来上がるのも、予定より早くなりそうだな。楽しみにしてるぞ」
「お任せください」
「はあ、精神的に疲れたから、一度天空島に帰ろうかな。お腹も空いたしな」
あとは、魔物の配置さえ出来れば、とりあえず完成かな。外回りは、女王様と少し話をしないと駄目だろうしな。勝手に何もかもしとくと、嫌味を言われそうだし、要相談だな。次に来るまでは、クンとレンに任せておけば、大丈夫だろう。
みんなにひと言言って、帰るかな。
思った以上に、早く完成しそうだな。
アリスは侯爵と。
俺は、やっちまったぜ。
大ピンチだ。
次回、〔アリスと侯爵と俺と〕、お楽しみに!




