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A.I.W-story-  作者: 香芳戯 麻弥
白の国編
41/102

41.事後報告とそれぞれの思い

 「さて、今回の件、誰が報告してくれるのかしら」

 女王が一番に口を開いた。今回の出来事の真相を最も聞きたかったのだ。

 白の城で一番大きい会議室に、今回の関係者一同が集まっていた。もちろん、この国の四天王もいた。国側は、女王と四天王だけであった。いや、もうひとり、隠れているようだ。

 女王が何も言わないということは、身内なのだろう。忍者みたいな者か。

 他には、俺側と言えば良いのだろうか。俺はもちろん、アリスとティンクもいた。

 こんな大きな会議室に、八人しか居なかった。もっと小さな部屋でも良かったのでは。女王にしてみれば、あれだけの事をしたのだから、かなりの人数がいると思っていたようだ。

 

 誰も口を開かない。みんな、詳しいことはわからないのだ。仕方なく、俺が話し始めた。

 「事の始まりは、何かを食べた事で、異常な力がついたと言うことだ。ひとつは、異常なまでの再生能力。人によって違うが、限界はあるようだ。それでも、レベルの低い冒険者辺りでは駄目だな。最低でも、AからBランクは必要だろう」

 「それ程か」

 苦虫を噛んだような表情に女王。

 「ふたつめは、何かしらの能力に特化してると言うことだな。相性が悪ければ、Aランクでもやばいかもしれない。ジェームズ侯爵辺りなら、問題なく勝てると思うが、それでも苦戦するだろうな」

 「おっしゃる通りですなあ。何度も致命傷を与えても、再生して来ますから、心が折れるやもしれませんなあ。余程辛抱強く、我慢しないと、勝てないと思われますぞ」

 「いえいえ、侯爵殿なら何とか出来るでしょう。隠し事はよくありませんよ」

 「おやおや、私はそれ程強くありませんぞ」

 侯爵の笑い声が、会議室中に響く。


 「そう言うことにしておきましょう。さて、最後ですが、進化すると言うことです。何らかの理由で、例えばレベルが上がって、ある数値を越えたとか。その瞬間から、進化に至る様です。ここでは、真・魔人とで言いましょうか。進化すると、とんでもない強さになります。進化前の2倍もしくは3倍でしょうか。これも、魔人により異なるかもしれません。この進化で、本来の魔人=真・魔人となると考えます。それまでは、新米魔人、雑魚魔人、とでも呼びたいですね。それくらい差があります」

 「そいつらに勝つ方法はあるのか?」

 「ある意味簡単ですね。魔人より強くなればいいだけですから」

 「例えば、どれくらいか」

 「俺の仲間か、ジェームズ侯爵、女王様辺りでしょうか。今回は負けたみたいですが、相性だと思います。四天王の他の方達の強さがわかりませんが」

 「要するに、このままではヤバいと言うことじゃな」

 「ただ、あそこ迄成るには、かなりの時間が必要なようですので、次が出てくる前に、鍛えるくらいの時間はあると思いますよ。まあ、平行して、何故あれ程の力を手に入れたのか、調査する必要があるかと思います。もしかすると、既に、次の魔人がいるかもしれませんからね」

 机をコンコンと指で叩く音がする。知らず知らずのうちに、叩いているようだ。

 音の出る方法をみんなの視線が集中する。

 「他に何か解決策は、ないのかい」

 女王の問いに、誰も応えない。

 否、応えられないと言うべきか。

 

 「レイには、何かあるなの?何か、隠してる事、きっと、あるなの」

 アリスが耳元で呟く。

 「アイディアはあるんだけどね」

 「レイらしくないなの。いつものやる気が見れないなの。どうしたなの?」

 アリスがどんどん攻めて来た。

 「わかったから、そんな耳元で言うなよ。ちゃんと聞こえてるよ」

 

 「それなら、言うてみい」

 どうやら、女王には聞こえていたようだ。どれだけ、耳がいいんだか。

 「女王は、地獄耳なの」

 「お前達の声が大きいだけだ。全部聞こえておるぞ」

 仕方ない、少し話をするか。

 「出来るか出来ないかは、これから考えようと思っているので、少し妄想が混じるかもしれないが、許してくれ。1対1で考えるのはやめて、みんなで鍛えることを考えている。1対多なら、何とかならないかと。そのためには、育成場が必要だ。もちろん、強い練習相手も必要だ。そこで」

 「そこで?」

 女王がやたら乗り気だ。自分が強くなろうとしてないか。

 「そこで、ダンジョンだ。強力な魔物の出るダンジョンを見つけて、そこを育成場、ああ、訓練場の方が言いやすいかな。そこで、訓練する。要は、レベルを上げてもらう」

 「そんなダンジョンがあるのか?」

 「実はそこが最大の問題なんだ。可能かどうか、検討が必要だ」

 「そんなことが、出来るのか?」

 「今は半々と言ったところかな」

 興味津々の女王は、腕を組んで、目を閉じていた。過去のことを思い出して、可能性を考えているのだろうか。俺より、女王の方が詳しいに違いないのだから。

 「もし、それが可能なら、私達も参加できるのかな」

 ここにもうひとり、興味津々の者がいた。ジェームズ侯爵である。そう言えば、戦闘狂だったな。

 「ああ、誰でも参加出来るようにしようと考えている。冒険者さん達にも強くなってもらわないと、意味ないからな。遭遇しやすいのは、騎士でなく冒険者だろうから」


 「あたしの所では、無理なのか」

 アリスの耳元に、俺は小さな声で返事をした。

 「今はやめとこう。あのダンジョンがとんでも無い事になるぞ

 「わかったの。後はレイに任せるの。それが一番なの」

 

 「他に良い案はないのか」

 「並行して、事実を探るべきだと思うのですが」 

 四天王のひとりが言った。

 「そうよな。根本的な原因を探す事も大事であろうな。それについては、こちらで、なんとかしよう。済まんが、レベルを上げる方法については、レイ殿の方に一任したいが、良いかの」

 「俺は構わんが、本当にいいのか。他の貴族達が邪魔しなければ、問題無いが。その辺りは、何か手を打ってもらえると助かる」

 「了解した。そこは、任せい」

 女王は、胸を叩いて、大きく頷いている。

 

 「何かあれば、お互いにすぐに連絡することとしようぞ」

 女王からの提案だった。

 「ああ、それなら、テレフォンで連絡してくれ」

 女王にうなづく。

 仕方なく、四天王の方々にも渡しておくことにした。

 「何じゃ、これは?」

 「テレフォンと、言います。このカード同士で、連絡が取り合えます。わざわざ呼び出さなくても、これがあれば、大丈夫。残念ながら、沢山はないので、他の方には渡せませんが。使い方は・・・・・」

 俺は四天王方に、事細かく教えといた。わからないからと、呼び出されては堪らないからだ。


 「とりあえず、ここまでとしようぞ。何かあれば、その都度相談じゃ」

 それだけ言うと、女王はさっさと、会議室から出て行った。

 ジェームズ侯爵を除く3人もその後を続くように出て行く。

 それを待っていたかの様に、侯爵が俺の肩に回すように手を置いた。

 「腹が減ったから、何か、食べに行かないか」

 ああ、これは逃げられそうに無いな。

 「もちろん、侯爵様の奢りですよね」

 「ああ、構わんよ。色々と、聞きたい事もあるしのう。私の行きつけの店に行くとしようか」


 「ここだ、ここ」

 ジェームズ侯爵は、勝手知ったる自宅のように、入って行った。

 「店主、いつもの部屋は空いているか。空いていれば、勝手に入るぞ。いつもの定食を4人前頼む。大盛りでな」

 「へーい」

 奥の方から、店主らしき人の声が聞こえて来た。遅れて、美人のウエイトレスが、飲み物を持って来た。

 「わしには、ワインを頼む。あとは、果実水だな」

 それぞれの前に、水の入ったコップを置くと、すぐに下がって行った。

 「この水、美味しいなの。普通は水は飲めないなの。お腹がグルグルになるの」

 「お前には、そのコップは大き過ぎるだろう。小さいコップをもらった方が良くないか」

 美人ウエイトレスが、ワインと果実水を持って、戻って来た。小さなコップも持って来ていた。凄く気の利くウエイトレスである。

 「うちの店のお水は、魔法で出していますからね、お腹が下ることはございませんので、安心して、お飲みください」

 そう言うと、またすぐに出て行った。落ち着きがないのか、ただ忙しいだけなのか、どっちなのだろう。

 「ここは、何かしらの会合でよく使われる店だからな、あまり要らない事は言わないのだよ」

 ワインをぐいっと飲み干す。

 

 「さて、城での話は、本当に可能なのか。その辺りの詳しい話を教えて欲しいのだ。わしも、このまま、負けっ放しと言うわけにもいくまい」

 「侯爵様には、隠し事をしても無駄だろうから言うけれど、半々なのですよ。本当に」

 「それは、ダンジョンのせいか」

 「そうです。それなりのダンジョンを見つけるか、作らなければ、対応出来なくなると考えています。進化すると、それほど脅威だと言うことです」

 「あの変わった形の鎧でも駄目か」

 「あれは、今のところ、俺専用なので、難しいですね。何体も造れないのですよ。まだ試運転中なのです」

 「あたしも、あれが欲しいなの」

 駄々を捏ねるアリスだが、本当に試運転中だから、難しいのだ。

 

 「お待たせしました。ワイバーンのステーキに、シュガーバードの串焼きだよ。久しぶりにワイバーンが獲れたからね。貴方達、付いてるねえ」

 「肉なのー、肉なのー」

 いきなり頬張るアリス。釣られるように、小さく切ってもらった肉をティンクも、美味しそうに食べていた。食べてる時は、子供にしか見えない。

 俺もナイフで切って、口に運ぶ。

 「美味いな、これは。ワイバーン狩に行きたくなるな。何処に行けば、会えるのだろう。調べておく必要があるな」

 「そうか、美味いか。それなら、この店を贔屓にしてやってくれ。実は、わしの次男の店なのだ。ちなみに、ウエイトレスは次男の嫁だ。美人だろう」

 「すると、この部屋は年中借りてたりしてないか。貴族様が来る店にしては、おかしいと思ってたんだよ」

 「まあ、正解だな」

 「ちょっと待てよ。そうすると、侯爵は何歳だよ」

 「次男は、わしが20歳の時の子供だから、45歳くらいになるかな。40歳を越えてから、考えるのを放棄したからな」

 「その歳で、あんなに強いのかよ。パワフルおじさんだなあ」

 「強くなる為だけに、鍛錬して来たからなあ。わしは、まだまだ最強を目指してるぞ。だからこそ、早目に訓練場を用意して欲しいのお」

 「そろそろ引退しろよ。もう兄貴に任せれば、良いじゃないか」

 店主で、侯爵の次男が、デザートのケーキを持って入って来た。持ちきれないので、美人ウエイトレスの嫁さんが、残りを持って、後に続いた。

 「残念だが、まだまだじゃ。この前も文句ばかり言うから、訓練場で、ボコボコにしてやったわ」

 大声で笑っている。

 どう反応して良いのか、みんな、困っているようだ。

 

 テーブルの上の残骸を下げてもらって、新しい果実水を出してもらった。

 「さて、これから、どうするのだ」

 腕を組んで天井を見上げる侯爵。

 「アリス、お前さんの所で、暫く侯爵の面倒を見れないか。俺が、ダンジョンを見つけるか、作るまでで良いのだが」

 「オッケイなの。でも、修行は辛いなの。それと、あの鎧をあたし用に作るなの」

 「わかった、わかった。少しでも時間が勿体無いから、暫くはアリスとティンクに面倒を見てもらってくれ、侯爵。俺は訓練用のダンジョンを探すよ」

 「了解した。アリスとティンクよ、よろしく頼む」

 「任せとくなの」

 アリスが小さな胸を叩く。

 「ここは、わしが払うから、気にせんで良いぞ」

 「いいのか?」

 でも、支払っているようにないな。ツケかな。


 「出来るだけ、経過を連絡するようにするよ。単独で動くのは、デメリットが多そうだしね」

 「まあ、簡単には行きそうになからのう」

 サリーと相談して、ダンジョンの攻略でもするかな。ダンジョンについては、サリーが一番詳しそうだしな。

 「侯爵様、時間があるなら、アリスと今後を相談してみてくれ。俺は、ダンジョン探しをしてくるから」

 「おお、時間はあるぞ。わしも、相談したいと思っていたから、ちょうどいいわい」

 「わかったなの。あたしに任せるなの」

 「ティンクは、どうする。俺的には、アリスの面倒を見といて欲しいなあ」

 「わかりました。何かあれば、連絡するようにしますね」

 これで、決まったようだ。

 あとは、何か真相が掴めれば良いのだが。

 

 


 さあ、どうする、レイ。

 きっと、サリーに任せるのだろうな。

 偶には、自分で考えろ。

 次回、〔サリーにお任せ〕、お楽しみに!

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