41.事後報告とそれぞれの思い
「さて、今回の件、誰が報告してくれるのかしら」
女王が一番に口を開いた。今回の出来事の真相を最も聞きたかったのだ。
白の城で一番大きい会議室に、今回の関係者一同が集まっていた。もちろん、この国の四天王もいた。国側は、女王と四天王だけであった。いや、もうひとり、隠れているようだ。
女王が何も言わないということは、身内なのだろう。忍者みたいな者か。
他には、俺側と言えば良いのだろうか。俺はもちろん、アリスとティンクもいた。
こんな大きな会議室に、八人しか居なかった。もっと小さな部屋でも良かったのでは。女王にしてみれば、あれだけの事をしたのだから、かなりの人数がいると思っていたようだ。
誰も口を開かない。みんな、詳しいことはわからないのだ。仕方なく、俺が話し始めた。
「事の始まりは、何かを食べた事で、異常な力がついたと言うことだ。ひとつは、異常なまでの再生能力。人によって違うが、限界はあるようだ。それでも、レベルの低い冒険者辺りでは駄目だな。最低でも、AからBランクは必要だろう」
「それ程か」
苦虫を噛んだような表情に女王。
「ふたつめは、何かしらの能力に特化してると言うことだな。相性が悪ければ、Aランクでもやばいかもしれない。ジェームズ侯爵辺りなら、問題なく勝てると思うが、それでも苦戦するだろうな」
「おっしゃる通りですなあ。何度も致命傷を与えても、再生して来ますから、心が折れるやもしれませんなあ。余程辛抱強く、我慢しないと、勝てないと思われますぞ」
「いえいえ、侯爵殿なら何とか出来るでしょう。隠し事はよくありませんよ」
「おやおや、私はそれ程強くありませんぞ」
侯爵の笑い声が、会議室中に響く。
「そう言うことにしておきましょう。さて、最後ですが、進化すると言うことです。何らかの理由で、例えばレベルが上がって、ある数値を越えたとか。その瞬間から、進化に至る様です。ここでは、真・魔人とで言いましょうか。進化すると、とんでもない強さになります。進化前の2倍もしくは3倍でしょうか。これも、魔人により異なるかもしれません。この進化で、本来の魔人=真・魔人となると考えます。それまでは、新米魔人、雑魚魔人、とでも呼びたいですね。それくらい差があります」
「そいつらに勝つ方法はあるのか?」
「ある意味簡単ですね。魔人より強くなればいいだけですから」
「例えば、どれくらいか」
「俺の仲間か、ジェームズ侯爵、女王様辺りでしょうか。今回は負けたみたいですが、相性だと思います。四天王の他の方達の強さがわかりませんが」
「要するに、このままではヤバいと言うことじゃな」
「ただ、あそこ迄成るには、かなりの時間が必要なようですので、次が出てくる前に、鍛えるくらいの時間はあると思いますよ。まあ、平行して、何故あれ程の力を手に入れたのか、調査する必要があるかと思います。もしかすると、既に、次の魔人がいるかもしれませんからね」
机をコンコンと指で叩く音がする。知らず知らずのうちに、叩いているようだ。
音の出る方法をみんなの視線が集中する。
「他に何か解決策は、ないのかい」
女王の問いに、誰も応えない。
否、応えられないと言うべきか。
「レイには、何かあるなの?何か、隠してる事、きっと、あるなの」
アリスが耳元で呟く。
「アイディアはあるんだけどね」
「レイらしくないなの。いつものやる気が見れないなの。どうしたなの?」
アリスがどんどん攻めて来た。
「わかったから、そんな耳元で言うなよ。ちゃんと聞こえてるよ」
「それなら、言うてみい」
どうやら、女王には聞こえていたようだ。どれだけ、耳がいいんだか。
「女王は、地獄耳なの」
「お前達の声が大きいだけだ。全部聞こえておるぞ」
仕方ない、少し話をするか。
「出来るか出来ないかは、これから考えようと思っているので、少し妄想が混じるかもしれないが、許してくれ。1対1で考えるのはやめて、みんなで鍛えることを考えている。1対多なら、何とかならないかと。そのためには、育成場が必要だ。もちろん、強い練習相手も必要だ。そこで」
「そこで?」
女王がやたら乗り気だ。自分が強くなろうとしてないか。
「そこで、ダンジョンだ。強力な魔物の出るダンジョンを見つけて、そこを育成場、ああ、訓練場の方が言いやすいかな。そこで、訓練する。要は、レベルを上げてもらう」
「そんなダンジョンがあるのか?」
「実はそこが最大の問題なんだ。可能かどうか、検討が必要だ」
「そんなことが、出来るのか?」
「今は半々と言ったところかな」
興味津々の女王は、腕を組んで、目を閉じていた。過去のことを思い出して、可能性を考えているのだろうか。俺より、女王の方が詳しいに違いないのだから。
「もし、それが可能なら、私達も参加できるのかな」
ここにもうひとり、興味津々の者がいた。ジェームズ侯爵である。そう言えば、戦闘狂だったな。
「ああ、誰でも参加出来るようにしようと考えている。冒険者さん達にも強くなってもらわないと、意味ないからな。遭遇しやすいのは、騎士でなく冒険者だろうから」
「あたしの所では、無理なのか」
アリスの耳元に、俺は小さな声で返事をした。
「今はやめとこう。あのダンジョンがとんでも無い事になるぞ
「わかったの。後はレイに任せるの。それが一番なの」
「他に良い案はないのか」
「並行して、事実を探るべきだと思うのですが」
四天王のひとりが言った。
「そうよな。根本的な原因を探す事も大事であろうな。それについては、こちらで、なんとかしよう。済まんが、レベルを上げる方法については、レイ殿の方に一任したいが、良いかの」
「俺は構わんが、本当にいいのか。他の貴族達が邪魔しなければ、問題無いが。その辺りは、何か手を打ってもらえると助かる」
「了解した。そこは、任せい」
女王は、胸を叩いて、大きく頷いている。
「何かあれば、お互いにすぐに連絡することとしようぞ」
女王からの提案だった。
「ああ、それなら、テレフォンで連絡してくれ」
女王にうなづく。
仕方なく、四天王の方々にも渡しておくことにした。
「何じゃ、これは?」
「テレフォンと、言います。このカード同士で、連絡が取り合えます。わざわざ呼び出さなくても、これがあれば、大丈夫。残念ながら、沢山はないので、他の方には渡せませんが。使い方は・・・・・」
俺は四天王方に、事細かく教えといた。わからないからと、呼び出されては堪らないからだ。
「とりあえず、ここまでとしようぞ。何かあれば、その都度相談じゃ」
それだけ言うと、女王はさっさと、会議室から出て行った。
ジェームズ侯爵を除く3人もその後を続くように出て行く。
それを待っていたかの様に、侯爵が俺の肩に回すように手を置いた。
「腹が減ったから、何か、食べに行かないか」
ああ、これは逃げられそうに無いな。
「もちろん、侯爵様の奢りですよね」
「ああ、構わんよ。色々と、聞きたい事もあるしのう。私の行きつけの店に行くとしようか」
「ここだ、ここ」
ジェームズ侯爵は、勝手知ったる自宅のように、入って行った。
「店主、いつもの部屋は空いているか。空いていれば、勝手に入るぞ。いつもの定食を4人前頼む。大盛りでな」
「へーい」
奥の方から、店主らしき人の声が聞こえて来た。遅れて、美人のウエイトレスが、飲み物を持って来た。
「わしには、ワインを頼む。あとは、果実水だな」
それぞれの前に、水の入ったコップを置くと、すぐに下がって行った。
「この水、美味しいなの。普通は水は飲めないなの。お腹がグルグルになるの」
「お前には、そのコップは大き過ぎるだろう。小さいコップをもらった方が良くないか」
美人ウエイトレスが、ワインと果実水を持って、戻って来た。小さなコップも持って来ていた。凄く気の利くウエイトレスである。
「うちの店のお水は、魔法で出していますからね、お腹が下ることはございませんので、安心して、お飲みください」
そう言うと、またすぐに出て行った。落ち着きがないのか、ただ忙しいだけなのか、どっちなのだろう。
「ここは、何かしらの会合でよく使われる店だからな、あまり要らない事は言わないのだよ」
ワインをぐいっと飲み干す。
「さて、城での話は、本当に可能なのか。その辺りの詳しい話を教えて欲しいのだ。わしも、このまま、負けっ放しと言うわけにもいくまい」
「侯爵様には、隠し事をしても無駄だろうから言うけれど、半々なのですよ。本当に」
「それは、ダンジョンのせいか」
「そうです。それなりのダンジョンを見つけるか、作らなければ、対応出来なくなると考えています。進化すると、それほど脅威だと言うことです」
「あの変わった形の鎧でも駄目か」
「あれは、今のところ、俺専用なので、難しいですね。何体も造れないのですよ。まだ試運転中なのです」
「あたしも、あれが欲しいなの」
駄々を捏ねるアリスだが、本当に試運転中だから、難しいのだ。
「お待たせしました。ワイバーンのステーキに、シュガーバードの串焼きだよ。久しぶりにワイバーンが獲れたからね。貴方達、付いてるねえ」
「肉なのー、肉なのー」
いきなり頬張るアリス。釣られるように、小さく切ってもらった肉をティンクも、美味しそうに食べていた。食べてる時は、子供にしか見えない。
俺もナイフで切って、口に運ぶ。
「美味いな、これは。ワイバーン狩に行きたくなるな。何処に行けば、会えるのだろう。調べておく必要があるな」
「そうか、美味いか。それなら、この店を贔屓にしてやってくれ。実は、わしの次男の店なのだ。ちなみに、ウエイトレスは次男の嫁だ。美人だろう」
「すると、この部屋は年中借りてたりしてないか。貴族様が来る店にしては、おかしいと思ってたんだよ」
「まあ、正解だな」
「ちょっと待てよ。そうすると、侯爵は何歳だよ」
「次男は、わしが20歳の時の子供だから、45歳くらいになるかな。40歳を越えてから、考えるのを放棄したからな」
「その歳で、あんなに強いのかよ。パワフルおじさんだなあ」
「強くなる為だけに、鍛錬して来たからなあ。わしは、まだまだ最強を目指してるぞ。だからこそ、早目に訓練場を用意して欲しいのお」
「そろそろ引退しろよ。もう兄貴に任せれば、良いじゃないか」
店主で、侯爵の次男が、デザートのケーキを持って入って来た。持ちきれないので、美人ウエイトレスの嫁さんが、残りを持って、後に続いた。
「残念だが、まだまだじゃ。この前も文句ばかり言うから、訓練場で、ボコボコにしてやったわ」
大声で笑っている。
どう反応して良いのか、みんな、困っているようだ。
テーブルの上の残骸を下げてもらって、新しい果実水を出してもらった。
「さて、これから、どうするのだ」
腕を組んで天井を見上げる侯爵。
「アリス、お前さんの所で、暫く侯爵の面倒を見れないか。俺が、ダンジョンを見つけるか、作るまでで良いのだが」
「オッケイなの。でも、修行は辛いなの。それと、あの鎧をあたし用に作るなの」
「わかった、わかった。少しでも時間が勿体無いから、暫くはアリスとティンクに面倒を見てもらってくれ、侯爵。俺は訓練用のダンジョンを探すよ」
「了解した。アリスとティンクよ、よろしく頼む」
「任せとくなの」
アリスが小さな胸を叩く。
「ここは、わしが払うから、気にせんで良いぞ」
「いいのか?」
でも、支払っているようにないな。ツケかな。
「出来るだけ、経過を連絡するようにするよ。単独で動くのは、デメリットが多そうだしね」
「まあ、簡単には行きそうになからのう」
サリーと相談して、ダンジョンの攻略でもするかな。ダンジョンについては、サリーが一番詳しそうだしな。
「侯爵様、時間があるなら、アリスと今後を相談してみてくれ。俺は、ダンジョン探しをしてくるから」
「おお、時間はあるぞ。わしも、相談したいと思っていたから、ちょうどいいわい」
「わかったなの。あたしに任せるなの」
「ティンクは、どうする。俺的には、アリスの面倒を見といて欲しいなあ」
「わかりました。何かあれば、連絡するようにしますね」
これで、決まったようだ。
あとは、何か真相が掴めれば良いのだが。
さあ、どうする、レイ。
きっと、サリーに任せるのだろうな。
偶には、自分で考えろ。
次回、〔サリーにお任せ〕、お楽しみに!




