4. 本当のプロローグ
湖に落ちたあの日から一年が過ぎた。
俺達は湖に落ちて、気を失っているところをあの小さなドラゴン達に助けられたのだ。
山の上の神殿に運ばれて、一週間後に目を覚ましたらしい。
強力なドラゴンを倒したことで、急にレベルが上がって、身体が付いていかなかったようだ。
子どもから大人に一気に成長したような感じらしい。
そして、これが俺達のステータスだ。
ミライ・レイ
【種族】 人間
【称号】 女神の使徒 ドラゴンスレイヤー
【レベル】 100(MAX)
【魔法】 使用不可
【女神の加護】 女神の鞄
女神の光使い
女神のカード
メガミフォン
女神の錬金術師
女神の鍛冶師
女神の魔改造師
女神のゴーレム造型師
女神の不死鳥
その他
アリス
【種族】 人間
【称号】 女神の使徒
【レベル】 100(MAX)
【魔法】 使用不可
【女神の加護】 女神の鞄
女神の闇使い
メガミフォン
女神の矛盾
女神の四天王
その他
何だか、訳の分からない加護がいっぱい付いている。未だに、使い道が不明だ。そのうちわかるだろうとの、長老の言葉だった。
「お前たちが女神様にかなり愛されているようじゃからのう。甘々じゃよ」
要は、女神様が、変てこな加護は付けないだろうとのことだ。どうだかな。
レベルは、ジャバウォックを倒したことで、一気にレベルが上がったんだろうとのことだ。それほど、ジャバウォックは強敵だったようだ。聞けば、長老クラスだと。びっくりだ。まあ、死ぬ思いがするくらい修行をしたしな。何度、三途の川が見えたことか。
100以上のレベルは無い為、それ以上になると単純な比較は出来ないらしい。強さは、それほど単純ではないらしい。
ただレベル100を越える人間はいないだろうとのことだ。
神殿には、いつも長老ドラゴンが鎮座していた。
「わしももう年でな。上手く動けん。ここで、迎えが来るのを待つだけよ、はっはっは」
と、いうことらしい。
長老は、俺達が眠っている間に、女神様から話を聞いていたらしく、この世界のことを詳しく教えてくれた。ここのドラゴンは、女神様の眷族にあたるらしく、上位者は女神様と会話が出来るらしい。女神様からの一方的なものではあるらしいが。
ただ、今では上位者は、長老だけのようだ。次の世代が育たないと嘆いている。
そして、この世界は、魔法が発展した世界だという事。女神様にも聞いていたので、納得である。
この天界を中心に、四つの大陸が存在する事。
ダンジョンや迷宮には、魔物が存在する事。
ダンジョンマスターという主がいるのがダンジョンで、迷宮は国が面倒をみているダンジョンらしい。そのため呼び分けているそうだ。そして、迷宮だけが唯一、他の大陸に行く道があるそうだ。
他にも、この世界での生活の仕方や、戦い方まで、教えてくれた。
「お前らは、この世界の住人ではないからのう、魔法は使えん。魔法とは、体内から生まれる魔力に祝詞を与えて発動するものじゃからな。魔力を生み出せぬお前らに魔法を使えん理由がそこにあるのじゃ」
それを聞いたときは、かなりショックだった。
「その代わり、女神様の加護を持っているようだから、大気にある魔素を集めて、力に変えることが出来るはずじゃ。それを上手く使えれば、魔法にも負けはせんよ。使い方は、わしが教えてやるでな」
そうそう、湖に落ちる前に遭遇したあの子も一緒にいる。どうやら、迷い人のようだ。俺もそうだけど、違う世界から、たまに迷い込むのだそうだ。
それを迷い人と、呼んでいるらしい。
名前は、アリスだ。年齢は小学生程度。人形みたいな顔立ちの女の子だ。ぶっちゃけとても可愛い。ただ、恋人にしたいかと言うと難しいかな。どちらかと言えば、娘にしたいかな。歳が離れてるから仕方ないのだろうけど。それに、俺はロリコンではない。
彼女も俺と同じで、記憶がないようだ。自分の名前はもちろん、生い立ちもわからない。だから、名前は長老が命名した。記憶の無い者同士、助け合っていこうと思う。
この世界のことは何もわからない。こればかりは、どうにもならないので、一緒に勉強、いや、修行をしていた。頑張れば、手から光線がでるだろうか(笑)
実は、俺は出るのだ。【女神の光使い】という加護があるかららしい。
彼女、アリスには【女神の闇使い】という加護があった。女神様にも闇があるのだろうかとは思ったが、実際そうだから。
俺たちふたりが組めば。そうそう負けるとこはないらしい。(長老談)
他にもいろいろと加護があるのだが、それはまた追々で。一度にレベルが上がってせいで、一気に増えたのだろうとのことだ。
「レイ様、アリス様が呼ばれています。そろそろ、出かけましょうかという事です」
妖精が飛んできて、僕の肩に止まった。そのまま、肩に腰を下ろす。
彼女は、妖精のティンク。身長15センチくらいの僕の相棒らしい。
俺があの日目を覚ますと、突然目の前に現れた。女神様に頼まれたのだと言っていた。
この世界に凄い詳しいので助かってはいるのだけれど、肝心なことを聞くと急に無口になるのだけが、困り者だ。どうやら、女神様から、必要以上のことは言ってはいけないと、言われているらしい。
まあ、メイドのように、良くしてくれるので、とても助かっていることだけは事実なのだが。母親の様に心配性な所だけは困っている。
「わかったよ。長老に、あいさつをして、出発しますか」
「レイ、遅いなのー」
漆黒のメイド服の女性は、いや、女の子はあの日一緒に落ちて来た少女だった。
闇の様に黒いメイド服に、小さなケープ。小さなマントのことだ。
背中には、巨大な剣を背負っている。これがアリスの一番の武器だ。邪魔だろうって、言ったんだが。聞いてくれない。そのうち、普段は小さくて、取り出したら巨大になるように改造したいのは秘密だ。メイド服に巨大な剣こそ正統らしい。何に対して正統なのか、よくわからない。本人がいいのなら、それでいいだろうと、放置している。
ただし、あの剣は巨大な割には軽い。軽いが強度はある。まあ、そういう風に製作したから。
ちなみに、装備一式、俺の力作だ。暇と加護を存分に使って、作り上げた。【女神の鍛冶師】と言う加護を持っているようだ。もちろん、材料もそれなりのものを使ったのだが、生憎俺にはその価値がよくわからない。
鑑定みたいなものがあるらしいのだけど、女神様はその加護を与えてくれなかった。知り過ぎても駄目なのだそうだ。その代わり、自分たちのステイタスは見ることが出来るようにはしてくれていた。
知り過ぎて駄目な意味は、そのうちわかるだろうと、長老は言っていた。
それだけ、こっちの世界では常識知らずなのだろう。そのせいで、妖精ティンクには、よくしかられた。
俺はドラゴンの鱗を組み合わせたチェーンメイルの上に、グレートスパイダーの糸で編んだ甚平もどきを羽織っている。ドラゴンの鱗は貴重だから、見られると狙われるらしいので、それを隠すためだ。
マントは、全魔法耐性の付いたものだ。魔法が使えない以上、急な攻撃には対処しにくいのだ。それならば、端から効かなくしてしまうのが一番だろうということで、作ってしまった。長老は呆れていたが。
ちなみに、アリスのケープにも同じ小細工をしてあるから、アリスにも魔法はほぼ効かない。
僕の武器は、当然刀だ。漆黒の鞘に入れて、いつも腰に佩刀している。
この世界に落ちている時に拾った【女神の鞄】を持っているので、仕舞っておけば良いのだけれど、見つかると馬鹿なやつが寄って来るので気をつけろとの、長老の意見を採用した。
空間から物が出て来ると変なやつに目を付けられて、マジックバックであるとすぐばれるそうだ。それ程マジックバックは珍しいようだ。
「レイに、アリスよ。気を付けて行くのじゃよ。お前らに勝てる奴など、そうそう現れるとは思わないんじゃが、いろいろな奴がいるからのう。注意することに越したことはないじゃろ」
「長老は心配性なのー。あたしが付いてるから大丈夫なのー」
「そうじゃったのー。アリスがおれば、何も問題ないのー」
長老が笑っている。アリスに、甘々である。孫でも見るようだ。
「アリス、忘れ物はないか?」
「大丈夫なのー。マジックバックに全部入れてるのー」
左手で腰を軽く叩く、アリス。
僕のは、ベルトの後ろに着いたポーチ型。アリスのは左腰に付いたポーチ型だ。
珍しいマジックバックとは言え、この世界では、珍しいなりに結構流通しているらしい。古参の魔法使いなら、作ることが可能なのだと。錬金術師とも、呼ばれているようだ。そのうち、遭遇するだろう。とても楽しみだ。
「ティンクも忘れ物ないかな?」
「大丈夫で、ございます」
「ティンク・・、も、頼みましたぞ」
「お任せください」
「それじゃあ、行くかな」
「また会おう、レイ、アリス」
「ああ、また。色々とありがとうございました」
長老は背中を向けたまま、手を挙げていた。
寂しいのだろう。
僕は、マジックバックから、自作の翼竜ゴーレムを取り出した。
恐竜のプテラノドンに似せたボディだ。羽が左右に伸びている。大きく開いた口から魔素の含んだ大気を吸い込んで、後方に吐き出すタイプだ。乗るところは、特に作らなかった。ボディ自体がシートだ。ハンドルのような突起物だけは作っておいた。操縦は、全てそこで行う。だからこそ、扱いが難しいのだが。
「アリスはいつもの所でいいか」
要は、僕の影の中だが。闇使いの加護持ちのため、影さえあれば何処にでも隠れることが出来る。もちろん、影からの攻撃もだ。相手にしてみれば、気づいたら刺されてるかな。防御しにくいから、かなり強力だ。
「ティンクは、ハンドルの前だ。周囲の警戒を頼むな」
「了解です」
ハンドルに背中を預けるように、座る。これも、定位置だ。
さて、そろそろ、行きますか。
胴体に跨って、バイクの様にハンドルを回す。後方から噴き出す大気。その勢いで、風に乗って、飛び出す。
「何度も言うようじゃが、気をつけてのー」
やっぱり、長老、泣いてる?
「わかってるよー」
今までありがとうございました。
ちょっとだけ、鼻水をすする・・・。
翼竜ゴーレムは、風を縫うように進む。湖の周囲の山の中で一番低い山を目指す。
越えるわけでは無い。
越えると、魔素がなくなってしまう。浮遊大陸の周囲には魔素があるが、ある高さを越えると、魔素が薄くなり、終いには無くなってしまうらしい。魔力と魔素には何らかの関係があるため、魔素が無くなる=魔力も無くなってしまうらしい。ここは研究中だ。
だから、山を越えても、意味がない。越えられないのだ。
目的地は、山の麓にある洞窟だ。洞窟を進むと、何処かで下界と、繋がっているらしい。大陸自体は繋がっていないが、転移でつながっているようだ。長老曰くであるが。
時折りすれ違うドラゴン達が、尻尾を振ってくれる。応援してくれてるらしい。
こっちも、手を振り返しておく。
また会えるといいんだが。
麓の洞窟が見えて来た。
入口には二体の巨大な石像が建っている。
長老曰く、これが曲者らしい。
この天界から、誰も出ていかないように、守っているとのことだ。
長老も、ずいぶん古くからの話だから、もう記憶が曖昧らしい。
そういうわけで、とりあえず飛び込むしかない。
もし動いても邪魔する暇がないくらい、加速して、飛び込むつもりだ。
錆び付いて、動かないことを願っているのだが。
アクセルを全開にして、一度上昇する。
下降する力も加えて、もう一度アクセルを全開にする。
後方の吹き出し音が高くなり、音が消える。これが限界なのだと思う。
「行くよ、ティンク。しっかり、摑まっててよ」
洞窟に一直線で進む。
もう少しの所で、石像が動き出した。手に持つ槍を二体がクロスさせて、進行の邪魔をする。
僕たちが、それをすり抜けて、突入した。
後ろから、石像の手が伸びて来た。速い。
一体の手に羽をつかまれてしまった。
勢いのまま、一緒に洞窟に入り込む。
瞬間、空間が揺らいだ。気づくと、広い空間に出ていた。
太陽が燦燦とし、森と森の間には、草原が広がっている。ここは、どこだ?洞窟に入ったはずなのに、何かの弾みに出てしまったのだろうか。
片翼のもげた翼竜ゴーレムをマジックバックに収納する。どこかで修理しないといけないな。
勢いのまま、着地する。生い茂る草の上を何度もバウンドした。一緒に入って来た石像達も同じだ。ゴロゴロと転がっている。
止まると同時に、飛び起きて、刀を抜いた。
石像もすでに立ち上がっていた。石の割に、動きが早い。
後ろに跳躍して、石像から離れる。まずは、様子見なんだが。
俺の影から、何かが飛び出して来た。アリスだ。
どうやら、影の中から、様子を窺っていたようだ。
「レイは、ズルいのー。あたしも、参加するのー」