36.作戦会議
屋敷に戻ると、アンバーを呼び出した。
「おかえりなさいませ、レイ様。おや、アリス様も、お久しぶりでございます」
「本当に、久しぶりなの。元気してたなの」
「アリス様のおかげで、かなりレベルも上がりましたので、最近の若いものに負ける気がしません」
「それより、魔人の話を聞かせてくれるかな」
「さようでございました、そちらが先ですな。エメラが言うには、まだ発見されていない野良ダンジョンに隠れているようでございます。この王都から歩いて3日くらいの距離の所のようでございます」
それくらいなら、タートルくんで行けば、1日も掛からずに着きそうだな。明日にでも、行ってみようかな。ああ、女王に一言言っとかないと、後が面倒くさそうだな。
メガミフォンを取り出すと、女王様に連絡を入れる。
早、一度で出たよ。
「レイか、どうしたのじゃ」
「ああ、魔人をやっと見つけたから、明日にでも討伐に行こうかと思ってさ。その連絡だよ」
「場所を教えるのじゃ。騎士達も向かわせる」
「後で、地図を送るよ。歩いて3日くらいらしいよ」
「先に手を出すんじゃないぞ。妾らが到着するまで、様子見で待機だからな」
「そんなことしてたら、逃げられるぞ」
「そのために先行するんじゃろ。頼んだぞ」
ツーツー
切りやがった。こんなことなら、言わなきゃ良かったなあ。
先行して、ダンジョンの様子を見るしかないか。
「女王様は、先に手を出すなってさ。逆らうわけにもいかないから、先に行って、とりあえず様子を見ようと思う。明日朝から、出掛けようと思うので、よろしく」
「わかったなの。行く用意をするなの」
「ティンクと三人旅は久しぶりだなあ。面白くなりやがった」
途中で食事を作る余裕があるかどうか。イート君に頼んで、お弁当でも作ってもらうかな。まあ、3日分程度の食べ物なら常にマジックバックに入れてるから大丈夫だろう。
後はアンバーと今後の相談をしておけば大丈夫かな。
そうだ、エメラに言って、蜂達を少し借りて行こうかな。様子を見るには、ちょうどいいだろう。
「まさかエメラ自身が付いて来るとは思わなかったよ」
タートル君に揺られながら、僕たちは見つけた野良ダンジョンに向かっていた。
途中、何度か、魔獣達に襲われつつも、野良ダンジョンが遠目に見える所まで来ることが出来た。ここからは、エメラ達の出番だ。
「無理しなくて良いからね。ダメだと思ったら、すぐに帰っておいでよ」
「はい、わかりました」
そう言うと、エメラを中心に蜂達は円陣を組んでいた。
ヒソヒソと話をしているようだ。
「いいですか、敵は魔人です。命を掛けて探し出しなさい。それが布いてはレイ様の役に立つことです。いいですね。それでは、参りましょう」
蜂達は一斉に飛び立っていった。
「何だか、張り切っているなあ。無理しなきゃ、良いけど」
レイはベルトの横に付けている小型のバックからひとつの細い筒を取り出した。
「白狼、ダンジョンの様子を見て来てくれ。エメラがピンチの時は、助けてやっておくれ。頼んだぞ」
筒を投げると、発光して、光が広がって、小型の狼に変わった。白く輝いている。
「ワオーン」
白狼は音も無く、駆け出した。隠密を得意とする忍者みたいな魔獣だ。
それをじっと見つめるアリスと目が合ってしまった。
こちらをジーと見ている。無視しときたいんだが。
「レイ、あれは何なの」
「レイ様の浮気者」
アリスの質問は兎も角、ティンクは変な方向に育ってないかな。後で、念入りに聞いておくとしよう。
「ん?何の事かな」
満面の笑顔を返しておく。
「あの白い狼は、何なのー」
「あれは、レイ様の浮気相手ですか」
やっぱり聞いて来るよね。どうするかな。相変わらずティンクはおかしいし。
「えーと、秘密兵器かな」
「あたしも欲しいなの」
「浮気は許しませんよ」
とりあえず、ティンクは無視だ。
アリスは、欲しがりっ子だからなあ。
「自分で造った訳ではないから、何とも言えないなあ。これが、片付いたら、相談してみるよ」
「約束なの」
アリスは小指を伸ばして来る。
「相談の約束は出来るけど、造るかどうかは、いまは約束出来ないからね」
あえて、指切りはしないでおく。
「うー、わからないけど、わかったなの」
「私はわかりません」
何とか危険を回避出来たようだ。ティンクは無視だけど。
天空城やサリーのことは、まだ秘密にしときたい。あそこは、純粋な僕の秘密基地だから、暫くは内緒かな。
翌日、騎士団が到着した。
もちろん、女王様も一緒にだ。
「レイ、どうな状態だ」
到着早々、会議に引っ張り出された。
一番大きな天幕の下に、主な者を集めて、話し合いがなされた。
「あまり良くない状態ですね。どうやら、成り立ても含めて、魔人が5体いるようです」
「それは、信用出来る筋の話なのか」
騎士団長達の顔色が一変に悪くなった。
「俺に仲間からの情報だから、間違いないよ」
「レイなら、どうする?」
それを考えるのが、女王様の仕事でしょうに。
「このダンジョンは、5階層まであるらしい。5階層で、あの魔人を見たみたいだから、間違いないと思う。まあ、アイツより強いヤツが居たら、撤退した方がいいと思う」
周りが、ザワザワし始めた。誰もそこ迄とは思っていなかっただろうしね。
「それで」
落ち着いているのは、女王様と後ろに控えているジェームズ侯爵くらいかな。一度戦っているしね。
「僕達で倒せるのは、3体か4体だと思うから、1体はそちらで相手をして貰いたい。1階から一体ずつ居るみたいだから、1階の魔人の相手をして貰えれば、後は何とかするよ。っていうか、1階のやつが1番弱そうだね。それでも、多分キツイと思うよ」
「そっちは、大丈夫なのか」
女王様は、心配してくれているようだけど、多分そっちの方がヤバイと思うよ。まともに戦えそうなのは、女王様とジェームズ侯爵、それに騎士団長くらいでしょう。
「勝算はあるのか」
魔人の強さを一番よく理解しているジェームズ侯爵が、聞いて来た。
「まあ、色々と用意しているから大丈夫かな」
自信はあるけど、流石にここまで増えてるとは思わなかったよ。最悪、僕が2体相手をすればいいから、何とかなると思うけど。
「それでは、午後一番で突入じゃ。それまで、防具や武器を確認をせよ」
突入の少し前、エメラ達が帰って来た。
魔人たちは、各階層に留まって、移動していないとのことだった。
「エメラ達は避難しつつ、周囲の状況を探っといておくれ。何処かに隠し通路があって、逃亡しないとも限らないから」
エメラ達は、丸く円を描くと、あたり一面に散って行った。
白狼はまだ、5階層で見つからないようにしながら、様子を伺っている。変化があれば、連絡が来ることになっている。
レイは、アリスとティンクを前にして、作戦を伝えた。作戦というほどのものではない、ただの戦う順番だ。
1階層は騎士団で対応してもらう。魔人の中でも一番弱いみたいなので、何とかして貰おうと思う。2階層はティンクに任せる。アリスと相談したら、かなりレベルも上がっているから大丈夫だろうと聞いている。
「おまかせください、レイ様。魔人如き、蹴散らして見せましょう」
無い胸を張って、そう告げた。
「討伐したら、1階層の様子を見て、降りて来てくれるかい。状況によっては、騎士団に手を貸してやって欲しい」
「わかりました」
「アリスには3階層を頼む。討伐したら、下に降りて来てくれ」
「4、5階層は、僕が何とかするよ。ちょいとキツイけど大丈夫だと思う」
アリスは、納得していないようだ。何とかするなんて、一番タチの悪い理由だから仕方ない。
「まだ秘密兵器があるから、心配はいらないよ。それより、自分達の心配をした方がいい。魔人は結構強いからね。手を抜かず、全力で行った方がいいよ」
ティンクもアリスも、大きく頷いている。
「それでは、これより突入する」
騎士団はダンジョンに向かって、走り出した。
レイ達もゆっくりと後に続く。
アリスとティンクの戦いが見てみたいが、そんな余裕はありそうにない。何事もなければ、それで良いのだが。
1階層はすでに修羅場となっていた。
多くの騎士は、遠回りに魔人を囲っていた。
魔人の相手をしているのは、騎士団長、ジェームズ侯爵と、女王様だった。女王が魔法で牽制しつつ、ジェームズ侯爵と騎士団長が左右から斬りかかっている。少しずつ、体力を削いでいく作戦だろうか。それでは、回復力の優れている魔人には、通用しなくなると思うのだが。
まあ、女王様は、それくらいわかっていると思う。とりあえず任せるしかない。何とかするだろう。
2階層の魔人は、太ったピエロだった。両手に鞭を持って、待ち構えていた。
「それでは、ここは私が担当いたします。レイ様、アリス様、お気を付けて」
それだけ言うと、ティンクは太ったピエロの方に歩を進めた。
「ティンクなら、大丈夫なの」
アリスは、何も心配していないようだ。
「次の階は、わたしなのー。楽しむなの」
テンショョンの高いアリスが心配になって来た。
3階層には、帽子屋がいた。シルクハットに巨大なハサミ。漆黒のタキシードに蝶ネクタイが目立っていた。目が切れ長で、かなり吊り上がっている
「あたしがお前の相手なのー」
いつの間にか取り出した大剣を引き摺るように、走り出していた。
「覚悟するなのー」
ここは、大丈夫そうだ。アリスに任せて、予定通り、階下に向かうことにする。
4階層には、腕が4本ある化け物がいた。
魔人と対面するぼく達の横に、ゆらりと白狼が現れた。少し前に念話で呼んでおいたのだ。同時に、残り3体の筒も開封する。
この階層は、こいつらに任せるつもりだ。
「無理するなよ。ヤバそうになったら、戻って来い。僕の方が酷い状況になっているかもしれないけれど」
どうやら、僕の言う事など聞いてないようだ。やる気満々だ。
さて、下に降りようかな。
「久しぶりだね」
何日ぶりの再会だろう。あの時は、酷い目にあった。
「ふん、また負ける気か。この前のように、手を抜いてやれんぞ、今日は」
頭をボリボリ掻きながら、魔人は言った。
「大丈夫だよ。今日は俺が手を抜いてあげるから」
首を振る魔人。ボキボキ言っている。凄い音だ。間違えて、首が折れればいいのに。
「あれから、力を蓄えたからな。あの時と一緒だと思うなよ。今すぐ逃げれば見逃してやってもいいぞ」
何処からか、巨大な斧を取り出して、肩に担いでいる。柄が2メートルくらいあるだろうか。先端に巨大な両刃の斧が付いている。振り回せるのか、あれ。
とりあえず、様子見ですかね。
羅剛刀を取り出して、構えた。
開始のゴングが鳴った。
戦いは、始まった。
レイ達に勝ち目はあるのか。
次回、〔血塗れフェアリー〕、乞うご期待!!




