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32.ダンジョン大改造

 「何だ、この立て札わ」

 ダンジョンの入口に、穴を塞ぐように、立て札が立ててあった。


 今日1日、何人もダンジョンに入るべからず。

 明日より平常に戻りますので、本日はゆっくりとお休みください。


 「これって、ギルドで告知してたヤツじゃねえの。へん、無視して入っちゃえ」

 5人組の冒険者が、入ろうとした。

 とたんに、5人は消えたかと思うと、5人は穴から出て来た。

 「へっ、何で外に向かってるんだ。今、中に入ったはずなのに」

 狐にでも騙されたような顔だ。理解が追いついていないようだ。

 「ちくしょう。もう一度だ。ダンジョンに突っ込むぞ」

 やはり、5人組は入ったと同時に、外に出て来た。

 「えっ、やっぱり外じゃないか。さっき入ったのに、何でだよ」

 泣きそうな顔だ。

 「今日は、もう帰って寝るぞ。頭が痛くなって来やがった」

 5人組はブツブツと文句を言いながら帰って行った。

 そうを見ていた者の中にも、同じように挑戦する者が数人いたが、結果は同じだった。入った筈なのに、外に踏み出していたのだ。


 「こりゃ、今日はダメだな。書いてあるように、明日出直したほうがいいみたいだなあ。帰って、寝よ」

 「俺たちもそうするかな。このダンジョンには、結構助けられてるからな。明日からにしろって書いてあるんだから、そうするかな」

 「オレ達は、別のダンジョン行くか。時間が短くなるかもだが、しかたないやろ」

 何だかんだと、ここに居た全員が、帰って行った。

 入れない以上、ここにいる意味がなかった。


 

 さて、何からやっていきますかね。いや、クリムの階層改造が先でした。

 少し、待ちましょう。

 「いつ頃終わる予定なのかな」

 画面から振り返って、クリムは、不思議そうな顔をしていた。

 「あれー、言いませんでしたっけ。もうすぐ終わりますよ」

 そんなこと、言ってたっけ?まあ、いいや。後は建物だけだね。

 「計画書がありましたからね、ちょいちょいのチョイですよ。おっと、そんな事を言ってるうちに、どうやら終わったようですよ」

 「建物を作りに行くから、1階層に、転送してくれるかな」

 「わかりました。この後は、どうすればいいですか?」

 「クリムの仕事は終わりだよ。ありがとうね。後は任せといて」

 「まあ、ここからスクリーン越しに見てますから、何かあれば言ってください。それでは、転送しますね」

 俺の身体が薄くなって、消えて行った。

 「レイ様は、色んな事をやり過ぎですよ。そこが良いとこでもあるのでしょうが」

 クリムは、冷蔵庫から、ケーキを取り出して、食べ始めるのだった。



 中央には、噴水を作って、そこを中心に放射線状に道を広げて行こう。ここは、計画書通りにしとこう。噴水には、水の魔石を使うので絶えることはないかな。魔石の交換は必要だけどね。

 メインの道は4本。道で区分けする。

 東は出口に通じる道。

 西は2階層に通じる道。

 北は宿屋街。

 南は買取や、日用品を売っている店に続いて行く。もちろん、ギルドやガッチャードさんのお店も忘れない。

 店舗は多めに作っておく。少ないより多いに越したことはない。

 準備だけしておけば、ガッチャードさん達で上手くまとめてくれるはずだ。

 そうだ。2階層に続く階段の手前に衛兵さん達の詰め所が必要だ。この階層に魔物は出ることはないけれど、安心を買う意味でも、必要だと思われる。心の安寧だね。

 一件ずつは面倒だから、まとめて、建築して行く。

 改装は、その都度しても良いだろう。お店の内容によっても違うだろうしね。

 武器や防具のお店も必要だ。場合によったら、工房も必要になるかもしれないなあ。

 そう言えば、王都の中に、工房とかあるのだろうか。防具屋や武器屋があるのだから、何処かにあるはずだ。一度見学に行っても良いかもしれない。

 噴水の近くに案内板を設置しておこう。

 どれくらい、人が集まるかな。

 沢山人が集まって、このダンジョンが潤ってくれると言う事ないのだが。


 

 「レイ様、凄い村が出来ましたな。いや、これはもう街ですなあ。お見それいたしました」

 ガッチャードは、1階層の出来上がり具合に、かなり驚いているようだ。ダンジョンの中の街なんて、今まで無かったろうから、当たり前の反応かもしれない。

 出来具合を視察に来たギルド長はもちろん、国から派遣された視察員の人も、開いた口が塞がらないようだ。

 「ギルドは、その建物を使ってください。扉の上の看板に盾と剣のマークを入れていますので、よくわかると思います。入口に一番近いところに造りましたので、この階層の管理も併せてお願いしますね」

 ギルド長は、繰り返しうなずいている。張子の虎か、ギルド長は。

 「各商店や宿屋は、ガッチャードさんを主体でお願いします。構いませんよね」

 「言い出したのは、こちらですし、仕方ありませんな」

 恵比寿顔のガッチャードさんは、久しぶりかな。それだけ、真剣に考えていたのだと思う。

 「ま、待ってください。国が主体でするべきではありませんか?ダンジョンの中の街など、前代未聞なのですから。国がリーダーシップを取るべきだと思うのですが」

 元々、国には言ってなかった事だし、後から出て来て、物申すなど、受け入れられない。女王に、一言言っとけば良かったかな。実際は、僕のダンジョンみたいなものだから、好き勝手させるわけにはいかない。

 「魔物がこの階に上がって来た時の面倒は、みてもらえるわけですね。ありがたい事ですね。そこはギルドに頼む予定でしたし、手間が省けました」

 「そ、それは、帰って相談してみないと、即答しかねます」

 「即答できないのでしたら、口を挟まないでもらえますか。それに、明日から営業開始なのですから、これは、ダンジョンマスターの意向です」

 視察員は、ワナワナと震えていた。怒りで震えているのか、困って震えているのか、どっちなんだろう。

 「相談して来てもらっても構いませんが、明日の営業開始は変わりませんよ。ダンジョンマスターとも、話を付けていますし、変更は無理ですよ」

 「く、国の言うことが聞けないと言う事ですか」

 「ダンジョンは、独立国家みたいなものですからね、国とは関係ありませんよ」

 やっぱり、女王に一言言っとけば良かったかな。袖の下は、大事だよね。


 その時、建物の陰から、人が現れた。

 ジェームズ侯爵と、女王だ。こっそりと、様子を見に来ていたようだ。

 俺は視察員に聞こえるように言う。まだ気付いていないようだし。

 「女王様、様子を見ていたのなら、もう少し早く出て来てくださいよ」

 「そう言うで無い。視察員を送っておるのだから、出来る限りは任せたいではないか」

 突然の女王の登場に、視察員は青い顔だった。脚が震えているようだ。

 「女王様、私は国の事を思って、た、対応していたのです」

 「もっと勉強せい。ダンジョンは国のものではなかろう。王都にあるダンジョンは国のものであるが、それを区別するために迷宮と呼んでおるのを知らないわけでもあるまい。迷宮は唯一、他の国とを結ぶダンジョンぞ。ダンジョン自体の成り立ちが違うわい。迷宮が国のものなら、ダンジョンは民のためのものですよ。わかりましたか」

 「も、申し訳ありません」

 頭を下げる視察員。

 これで、国が絡む事はないだろう。これで、丸く収まってくれると良いのだが。この女王なら、大丈夫だろう。

 「騒がせてしまって、済まぬのう。レイよ、後は上手くやってくれ。頼んだぞ。ガッチャードにギルド長よ、お前達もレイと一緒にこの街を、いや、このダンジョンのこと、頼んだぞ」

 「お任せください、女王様。レイ様と共に、栄えさせて参ります。レイ様は、ここのダンジョンマスターと知り合いだそうです。そのお陰で、ここまでの街が出来ました」

 あの女王が驚いていた。

 「ほう。そう言う事なら、一度お目にかかりたいものだのう」

 どうするかなあ。あの女王に知られると、何かされそうだしね。まあ、これはチャンスかもしれないな。

 「ちょっと待ってくださいね。今、呼びますから」

 どうやら皆んな、魂が抜けたような表情になった。もしかして、皆んな、信じてなかったのかな。僕は嘘は付かないのだけどね。

 「本当に、呼べるのか。冗談ではなかったのか?」

 「ただ、会っても、ダンジョンマスターらしくはないですよ。余計に、信じられなくなるかもしれませんよ」

 レイは、メガミフォンを取り出すと、クリムを呼び出した。


 プルプル、プルプル。


 「レイ様、何か用事ですか?」

 テレフォンから能天気な声が聞こえて来る。

 「皆んなが、ダンジョンマスターに会いたいそうなんだが、今すぐ、こっちに来れるか?」

 「えっ、えっ、私なんかが、顔を見せて、良いのですか?」

 「いいんじゃないか。顔を知られれば、わざわざクリムに会いに行く人もいなくなるだろうし」

 会いたいわけではなくて、攻略したいだけなんだが。似たようなものだろうし、攻略したがる馬鹿が多くなるかもしれないから、魔力も溜まり放題だな。

 「わ、わかりました。今すぐ、1階層に、転移しますね」

 どうやら、かなり緊張しているようだ。今まで、まともに、人と会ったこともないだろうしな。仕方ないか。

 「待ってるから、急いでな。ひとりで不安なら、睦月とでも一緒に来るといいよ」

 「はーい」

 気づけば、レイの周りから人が離れていた。不安そうに、遠目で見ていた。

 そんなに心配しなくても、大丈夫なのだが。


 レイの隣の空間が歪み始めた。

 歪んだ空間から、クリムとゴーレムの睦月が現れた。

 クリムは、睦月に抱き抱えられている。おまえは、子供か。

 「お待たせ、レイ様」

 「何で抱えられているんだよ」

 「ちょっと怖かったもので」

 ああ、周りの人達は、ドン引きしていた。

 「レイよ、そちらの大きい方がダンジョンマスターなのか?」

 やっと、女王が口を開いた。

 「いえ、抱えられている小さい方です」

 「へっ、あのちっこい方か。あっ、済まん。小さいお方の方なのか」

 見た目が、ああだもんな。そう見えるよな。

 「こらクリム、ちゃんと立って、女王様達に挨拶しなさい。睦月も甘やかさない」

 「はい、マスター」

 それだけ言うと、クリムを立たせて、自分はその後ろに立った。背筋を伸ばして、クリムを守るように立つ。

 よく出来たゴーレムだ。誰が造ったんだ、おい。

 「わ、私が、このダンジョンのマスターをしておりますクリムです。レイ様に助けていただきながら、このダンジョンの運営を行っております。お、お見知りおきを」

 ああ、口の周りにクリームが付いたままだ。

 「今後も、このダンジョンで活動しても良いのか。最終的には、皆がクリム殿を倒すために攻略していくと思うが、構わないのか?」

 恐る恐る女王が尋ねる。

 「問題ありませんよ。だいたい、そう簡単には攻略出来ませんよ。いや、させませんよ」

 「その自信は、何処から来るのですか?」

 答えにくそうに、俺を見るクリム。

 「レイ様が守ってくださるので、大丈夫です」

 自分で何とかして欲しいものだ。

 「レイよ、本当にダンジョンマスターと友達なのだな。もう信じるしかあるまいよ」

 どうやら、呆れている。

 「レイ殿は、本当に不思議なお方ですな」

 ジェームズ侯爵は、嬉しそうだ。こんな所にふたりで来るなんて、余程信頼されているのだろう。

 「今の私が、どれくらいまで攻略出来るか、一度このダンジョンに潜ってみますかな。女王様も、一緒にいかがですかな」

 女王の瞳が爛爛と輝いていた。やる気満々だ。大丈夫か、この国。

 「御大自らは不味いでしょう。その時にはお誘いしますから、部下と一緒にこっそりと来るのは、やめて下さい」

 「まあ、女王様と潜るのは冗談ですが、私は部下を引き連れて、来ようかと思います」

 「抜け駆けは許しません」

 そう言う女王が、一瞬鬼に見えたような。

 あのジェームズ侯爵さえ、青い顔をしていた。

 「そう言えば、レイよ。先程の話の出来る物は何か、教えてくれぬか」

 やべ、そこをついて来ますか。まあ、渡す予定だったから、仕方ありませんね。

 「これはテレフォンと言います。同じ物を持っている者と、離れたところで、会話をすることの出来る魔道具です。数量限定なのですが、仕方ありませんね。女王様にひとつ進呈いたしましょう」

 ここは奮発しておこう。

 「良いのか、本当に貰っても」

 にんまりする女王。

 「ただし、他人に自慢したりしないでくださいよ。今の所、10台までしか作れないのですから」

 マジックバックから取り出して、女王に渡す。

 「後で使い方の説明をしますので、今は仕舞っておいてください」

 「わかった、わかった」

 両手で、テレフォンを触りまくりだ。そんなに嬉しいのか。もっと早くに渡せば良かったかな。

 本格的に、ヤバい。

 次が未定、その次も未定。

 どーしようー

 次回、〔大宴会の後で〕、タイトルは変わるかもだぜ!!

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