28.新しい力
基点と目標点に転移扉がないと、移動出来ないのは不便だ。
こればかりはどうにもならない問題だな。
出来れば、簡単に転移したいものだ。
屋敷に戻ると、スリラックの報告とアンバーへの連絡を終えて、執務室のソファに座って、考えをまとめていた。
これからの事を考える。
エイト・フィフティーン店は、スリラックさんに任せておけば大丈夫だろう。もう少し人手はいるかもしれないけれど。アルバイトみたいな者を雇えないだろうか。こちらの世界にもアルバイト的なものがあるのか、不明だが。相談してみよう。
ダンジョンの方は、クリムに任せておけば、良さそうだ。順調に育っているみたいだから。
シリーのダンジョンは、少し心配だ。あれは、桃太郎シリーズだよなあ。もしかすると、他のシリーズもあるのだろうか。近いうちに、様子を見に行った方がいいかもしれない。ある意味、放置して帰って来ちゃったからな。はは、大丈夫かな。
農場は、睦月達が上手く遣り繰りしてくれているみたいだから、問題ないだろう。
宿屋の方も順調そうだと、アンバーが教えてくれた。人の出入りも落ち着いたみたいだから、大丈夫だろうとのことだ。イート君任せだけど、問題なし。
何もかもうまく行ってるみたいだ。
何もかも上手く行くと心配になる。大丈夫だろうか。
考えても無駄か。
そうすると、後の課題は、天空島だな。上手く役立てることが出来るようになれば、万々歳なんだが。誰にも知られずに。
サリーと一緒に、色々と開発が必要だ。
最終的には、自力で天空島を飛ばしたい。じっと、浮いているだけなんて、つまらないからな。
こっちも、順調にいってもらいたい。
残る問題は、魔人かあ。
あれは、何処からやって来たのだろう。
何故あれ程の強さなのだろうか。
再生能力も、異常だ。
わからない事だらけ。
今のままでは、勝てない気がする。
どうするかな。
トントン。
「スリラックです。レイ様、いらっしゃいますか」
何の用だろう。急用でも出来たかな
「入っていいよ」
扉が開く。
急ぎ、入って来るスリラックだった。
「女王様の使いの方が参りました。何でも、回復薬を売って貰えないかと言う事です」
そうだよね。
みんなの前で使っちゃったからなあ。
仕方ないかなあ。
「もう女王様の耳に入ったかあ。うーん、どうしようかな」
スリラックは話が見えず、首を傾げていた。
聞いてくることはしないが、顔が聞きたくて、うずうずしているようだ。
黙ってても、そのうち耳に入るかな。ガッチャードさんの耳にでも入ったら、色々と大変だしね。まあ、そのうち耳に入るだろうけど。
「まあ、色々あってね、自分で作っている回復薬をみんなの前で使っちゃってね。その回復薬を売って欲しいみたい」
「初耳ですね」
うん、初めて言った。
「まだ誰にも言ってなかったからね。内緒にしてたから、怒ってる?」
一瞬鬼に見えたスリラックだったが、すぐに天使の笑顔に戻っていた。いつも以上の笑顔に。
「どれくらいの量が納品出来ますか。何日くらいで、それが可能ですか」
どうやらスリラックは売る気満々のようだ。作るのは、俺なんだが。まあ、何個でもいけるのだけれど。材料さえあればだが。
「1日50本くらいなら、問題ないかな。ただし、材料が追い付かないと思う。それに、他にもいろいろとする事があるから、それ位が限界かな」
「わかりました。国には1日20本、お店には30本でお願いします」
おいおい、折半ではないのかね。
悪い表情をしてる。でも、これまで見たことがないくらいの悪い笑顔だ。断る自信はない。
「わかったよ。用意して、ここに置いとくから、毎日取りに来て」
「本当ですか。毎朝取りに伺います」
「材料があるうちは、良いけど、無くなりそうになったら、どうするか、相談するよ」
「材料でしたら、ギルドに依頼してみては、いかがでしょうか?」
いい案かもしれないな。
「とりあえず、お城に行ってくるよ」
女王様と相談して、それからかな。
あと、呼ばれる度に行くのも大変だから、メガミフォンの簡易版は作れないだろうか。通話と撮影機能くらいがあれば、大丈夫だろう。
急な連絡が必要な時もあるだろうから、あって損は無いと思う。
スリラックが居るのを忘れて、作成に取り掛かる。
メガミフォンを取り出して、アプリを開いく。
役立グッズ【テレフォン】・・通話メインの簡易携帯電話。写真撮影も可能。アプリはない。制限台数、10台までとする。それ以上は世界が混乱する。盗難防止機能付。5メートル離れると、勝手に手元に戻って来る。
あった。テレフォンなんて、そのままじゃん。異世界なのですよ、ここは。
まあ、いいか。とりあえず、制限いっぱいの10台を作ってみるとしよう。出来るのは、通話と撮影機能だけど、便利だよね。
「材料は、フライング・スパイダーの糸、鉄鉱石、サンダー・バードの魔石っと。メガミフォンから投射される魔法陣の上に置いて、メガミフォンのアイコンをクリック。これで、オッケーボタンを押します」
魔法陣から、10台のテレフォンが出現した。それは、少し厚みのある長細い板だ。銀色に光っている。
こんなものかな。
「スリラックさん、これを使ってください。何かあれば、俺と通話が出来ます。登録さえすれば、その人達とも、通話できますよ」
「今のは、何ですか。何が起こったのですか?」
やべ、スリラックさんがいるの忘れて作ってしまった。
「とりあえず、受け取ってよ」
恐る恐る受け取るスリラック。
「これ、魔道具ですよね。私みたいな者が戴いて構わないのですか?とても高級そうなのですが」
まだ手が震えているようだ。
「急に連絡取りたい時とか、困るでしょう。これがあれば、タイムリーに話が出来ますよ。撮影も出来るので、状況を伝えるのが楽になりますよ。かなり便利だと思います」
「えっと、撮影って、何ですか?」
「目の前の風景を一枚の絵にすることが出来るんだよ。絶対に、役に立つから」
スリラックは丁寧に見つめると、手の上で、色々と触っている。
「色々とやってみるといいよ。後は、アンバーとパールにも渡すつもり。これからは、連絡が取りやすくなるから、何かあれば、躊躇せずに連絡してくれていいよ。まあ、出れない時もあると思うから、その時はワンギリしといてくれたら、折り返し連絡するよ」
「ワン、ギリ?」
「何かをしている最中でも、相手の通知が残るんだよ。後で、簡単に折り返して、連絡が取れるんだ」
「こんな国宝みたいな物貰って、本当にいいのでしょうか?」
「俺の仲間にしか渡さないから、遠慮はいらないよ。ああ、女王様には渡すつもりだからね」
スリラックは、何も言わなかった。無理矢理納得したようだ。
「睦月にも渡すから、野菜や果物が無くなりそうなら、連絡するといいよ。これで、俺を経由しなくても、連絡を取りやすくなるはずだから、迅速に事が運びやすくなるよ」
渋々納得するスリラックだった。
「わかりました。遠慮なく、使わせて頂きます」
スリラックは、深々とお辞儀をした。
「聞いているかもしれないけど、暫くは魔人の件で時間を取られると思うからね。スリラックに任せるからね。何かあれば、アンバーに相談するといいし、思うようにやってもらって、構わないからね」
スリラックが出て行くと、代わりにアンバーが入って来た。
「お呼びでしょうか」
呼んでないけど、用事があると、アンバーは不思議とやって来る。
「後で行こうと思ってたんだけど、これ、渡しとくよ」
レイはアンバーにテレフォンを渡した。
「何かあれば、これで連絡してよ。使い方はねえ・・・」
「なるほど、これは便利でございますなあ」
アンバーは新しい物好きだもんなあ。パールも喜んでくれそうだなあ。
「魔人のことで、暫くドタバタするから、急ぎならテレフォンでね」
「わかりました。でも、御主人様、あまり無理なさらないようにしてくださいませ。何かあってでは、遅そうございますから」
「大丈夫だよ。何かあれば、すぐに逃げるから」
「そうしてくださいませ」
軽く頭を下げると、アンバーは出て行った。
さあ、今度は、天空島に行って、対策を練ろうかな
ちょっとした案はあるんだけどね、出来るかどうかだよね。
転移扉、言いにくいから、転移ドアにしようかな。執務室の机の椅子、後ろが壁だから、そこに、転移ドアを作成する。ここなら、あまり人が近づかないはずだ。でも、万が一のために、このドアを通れるのは、俺だけに設定してっと。さらに、普段は見えない様に、隠蔽の魔石を取り付ける。これで、完成だ。これなら、誰も気づかないよね。
ドアを開けて、天空島に跳ぶ。
いけね、女王様の所に伺うのを忘れているなあ。
まあ、いいか。後にしよう。
「サリー、いるかい?相談があるのだけれど」
巨大な水晶に向かって、話し掛ける。が、返事がない。
おかしいなあ。水晶だから、何処にも行けないはずなんだけれど。
水晶の陰から、女性が現れて、言った。
「お帰りなさいませ。食事にします?それとも、私にします?」
レイは、大いに吹き出した。
「こらこら、揶揄うのはやめなさい」
「一度は言ってみたいシチュエーションだと思いますが、旦那様」
「旦那じゃ、無いし」
「残念でございます」
水晶の陰から現れたのは、綺麗な女性だった。肌に張り付いたような華麗な淡いブルーのドレス。均整の取れたプロポーション透けて見える。ロングな青の髪が、時間を忘れた様に、ゆらゆらと揺れる。全身が、キラキラして、眩し過ぎる。
「君は、誰?」
この天空島には、ゴーレムしかいないはずだが。
「御主人様、お忘れですか?サリーです」
レイは、マジマジと見つめた。長い青の髪と、透き通ったような蒼い瞳。綺麗だ。
「御主人様の造られましたゴーレムの中に、シンクロ中です」
サリーであろうゴーレムが、くるりと回った。
「水晶のままだと、行動し難いので、ゴーレムの身体を借りてしまいました。申し訳ございません」
深く頭を下げる。確かに水晶のままだと、行動し難いよね。
でも、ゴーレムが、そこまで人間らしく姿になるの?どう見ても、人間だよね。
サリーの能力、恐るべし。
「他のゴーレム達は?」
「私のダンジョンで、レベル上げ中です。かなり強くなっております。近いうちに、天空島の四天王となるかもしれません」
俺よりやり手だよなあ、絶対に。
「この天空島でのことは、サリーに任せているから、問題ないよ。どれくら強くなるか、楽しみだ」
サリーは喜んでいた。
「それより、お願いがあるのだが」
「何でしょう。私に出来る事でしたら、遠慮なさらずにお話しください」
一呼吸おいて、話し始める。
「物を、俺の元に、瞬間的に送ることって出来ないかなあ」
「それは、可能かと。転移と同じシステムですから」
「凄いな、サリーに任せれば、何でも出来そうだ」
「でも、どうしてでございますか」
「魔人と戦うためかな。強敵でねえ、この前負けちゃったんだよ。だから、もっと強力な防具や武器が必要なんだよ。ただね、持って歩いても、すぐには着替えられないから、着替えられる方法も考えとかないといけないんだよ。そこで思い付いたのが、物質の転送だね」
「転送ですか」
「何らかの手段で、物を送るシステムだよ。それが可能ならば、天空島に用意しておいた鎧や武器を一瞬で、俺の元に送ることが出来て、そのまま着装することも可能だと思うんだ」
サリーには、何か考えがあるのか、パネルに向かって、キーを打ち込み始めた。
「ここと、ここに、魔石を入れて、魔石に魔法陣を描き込めば、一度バラバラにしたものを、もう一度元の姿に戻せますか」
サリーは、一心不乱にキーを打ち込んでいた。何かを計算機に打ち込んで、確認しながら、それでも指先が止まらない。
こうなると、終わるのを待たないとダメなやつだな。もう誰にも止められない。
サリーは、何を思いついたのだろうか。
「目標とする為に、こちらが認識出来る何かを持っていただいても、かまいませんか」
唐突に、サリーが言った。
「それは、問題ないよ」
俺にも色々とアイディアはあるのだけれど、まだその形が思い付かない。肝になるシステムだから、簡単にはいかないだろうけどね。それでも、この転送システムがないと、全てが上手くいかなくなる。何もかもが、パーになるかな。
「物の転送さえ上手く行けば、後はどうとでもなりますからね」
俺もそう思うんだよね。
「御主人様、その転送の仕組みは、このまま私の方で考えても構いませんか?」
「構わないよ。俺では難しいからね」
巨大なスクリーンの傍に、小さな画面が現れた。そちらに移動して、何かを一生懸命に打ち込んでいく。
このまま、任せよう。
「それじゃあ、俺は新しい防具と武器を考えるかな」
レイは2階に作った工房に入ると、机の上を片付けて始めた。偶にしか使ってないから、散らかったままだ。
片付けたら、紙を出して、思いつくイメージを描いていく。
戦隊モノや、宇宙の刑事が着てるようなやつがいいかな。転送さえ出来れば、完璧なんだが。
頭はフルフェイスのヘルメットタイプかな。
身体は、鎧のイメージだけど、バトルスーツみたいな方が、恰好いいよね。
靴は、ロングブーツみたいな感じかな。
色はやはりシルバーで統一でしょう。あー、特撮の見過ぎかなあ。って、特撮って、何?でも、いつ見たんだろう。まだ記憶がおかしいままだ。未だに、自分の事が、思い出せない。
細かい所は、作製時に考えるとしよう。
武器の方はどうするかな。やはり刀、いや、太刀にしようか。少しくらい大きくても大丈夫だし。これは、譲れない。
一本だと折れたりしたら困るから、二、三本作っておくかな。予備は大事だよね。相手に合せて、対応出来るようなものは出来ないかな。転送さえ可能なら、火属性や水属性の太刀もありだよね。
槍とかあっても面白いね。楽しくなってしまうよ。
その前に、常時持ってる分も考えとかなくちゃ。折れたままだ。宝箱から出て来たやつも良いけれど、やはり自分で作りたいな。
それと、集団戦の時に、ひとりは辛いからね。用心棒みたいなのも作りたいね。特撮超人セブンの怪獣カプセルみたいなやつがいいねえ。ダンジョンで育てた魔物をカプセル化出来ないかな。いや、待てよ、カードで出来るかな。でも、どの魔物にするか、悩むなあ。
そう言えば、ここのダンジョンはどうなってるんだろう。宝箱とか、出るのかな。
後で、サリーに聞いてみよう。
とりあえず、試作品がいるよね。
レイはメガミフォンを取り出した。
防具アプリを開く。
スクロールして、見て行く。あった。
バトルスーツ・・・フェイスヘルメットとボディスーツが一体化したもの。 50000Pから
材料により強度が変わる。
徹底的に、凄い材料を使ってみよう。
自分自身の安全面だから、とても大切だと思う。
まずは、当然ドラゴンのウロコだな。魔法耐性を付けたいから、妖精の翅と世界樹の枝を入れようか。粘りも欲しいから、ハイパースパイダーの糸も混ぜてっと。
身体のサイズは、写真を撮って、それに合わせてもらおう。
おっと、マントを忘れてはいけないな。全魔法を跳ね返せるようにしようかな。でも、マントは邪魔だなあ。鎧自体が、魔法を反射出来るようにしようかな。
これで、クリックしてっと。
バトルスーツ・ドラゴンタイプ・・・全魔法耐性。神の鎧。軽くて、防御に特化している。ファイア・ドラゴンの魔石とケルベロスの魔石をミックスさせてることで、炎属性を持つ。
良い感じではないかな。
今度は刀なのですが、材料はミスリルとドラゴンの牙。この前遭遇した雷獣の牙も混ぜてみよう。上手くいけば、雷魔法もどきが使えるようになるかも。
これで、クリックと。
サンダー・ブレイド(雷魔法付の太刀)・・・雷魔法を使える名刀。あまり力を加えなくても、スパッと斬ることが出来る。神の刀。
これまた、凄いのが出来ました。反則みたいな刀だなあ。
もう一本は、どうしよう。絶対に折れないような刀が作れないかな。
材料は、タートルキングの甲羅とアイアンゴーレムの鎧装の一部でいいかな。
これで、クリックしてっと。
羅剛刀・・・受けた剣を跳ね返すほどの剛力に特化した刀。絶対に折れない。
よし、これを常時持ち歩くとしよう。
そこに、サリーがやって来た。
「御主人様、この指輪をお付けください」
それは、何処にでもあるような指輪だった。ただ、細かく魔法陣の描かれた指輪だった。それがふたつある。
「ふたつあることで、転送位置を細かく措定することが可能となります。位置がわかれば、あとはそこに物質を転送するだけです」
そうか、ひとつだと曖昧な位置関係がふたつあることで、より正確にわかるわけだ。すごいなこれは。
「試験も兼ねて、左と右の薬指にお願いします」
「他の指では駄目なのかい」
「その指が、一番安定するようです」
サリーから渡された指輪を両手の薬指にはめた。少し大きめのようだったが、指にはめる事でサイズが調整されるようだ。ピッタリと合った。
「どちらかの指輪に向かって、転送、と言ってもらえれば、オッケイです。私の方で反応して、転送いたします。最終的には、自動転送を考えております」
「うん、わかった」
「これは、逆も可能となりますので、天空島に転送と言って貰えれば、御主人様をこちらに迎えることも可能です。以前のような魔法陣は不要となります」
俺が薬指に嵌めるのを確認すると、恥ずかしそうに、サリーは言った。
何処に恥ずかしがる要素があるのか不明だが、これはかなり便利になるよ。
「送ることも送る返すことも、可能と言う事だろうか」
「そうなります」
これは、大発明クラスだ。凄い便利になるよね。
「ただし、人の転送迎に関しては、今の所ダンジョンは不可能です。地上までになります。もう暫くお待ちください。ダンジョン内にも転送出来るよう、研究中です。それ以外でしたら、転送可能です。指輪を元に、位置を確認しますので、大丈夫です」
「ダンジョン内転送が、出来るようになったら、連絡してくれるかな?この指輪で、通話出来るのでしょ?」
「わかりました」
「試しに、北の森まで、転送してもらえるかな」
いざという時に使えないと困るから、試験をしたい。
「それでは、御主人様、北の森の入口付近に、転送いたします」
巨大スクリーンの端に浮かび上がる地図にポイントを打ち込むと、転送のスイッチをクリックした。
レイの身体が揺らぎ、霞のように消えて行った。
いよいよ、新しい力を試す時が来た。
新しバトル・スーツの登場だ。
次回、〔試運転〕、乞うご期待!!




