27.迷ったら、ダンジョンへ
何もかも嫌になる事、無いですか。
何かムシャクシャして、じっとしていられない時って、無いですか。
頭の中がパニックになって、でも、何も考えたく無くて。
何かする訳で無く、ただじっとしてる時間が勿体無くて。
逃げ出したいけれど。
逃げられない。
追いかけたいけれど。
追いつけない。
そうだ、ダンジョンに行こう。
ダンジョンに行って、何もかも忘れて、頭を無にしよう。
レッツ、ダンジョン。
そんな理由で、俺は、シリーのダンジョンに来ています。
その後、どうしているか、気になって、やって来ました。
「サリーがダンジョン・マスターだった時に比べて、何か変わっている気がする。ダンジョンの雰囲気が、変化している」
それを1番に感じた。
まずは、1階だ。
出て来る魔物は、・・・犬?
いきなり、火を吐いた。
ジャンプして、かわす。
火を吐く犬って、何だ。
マジックバックから、鑑定メガネを取り出した。
ファイア・ドッグ・・・火の魔法を操る狂犬。知能は低いが、群れで襲って来るので、厄介である。
気づくと、ファイア・ドックに囲まれていた。
シールドで階段を作り、囲まれている輪から、脱出する。
多勢に無勢だ、逃げるが勝ちだ。
だが、追いかけて来るファイア・ドッグが次第に増えていった。10頭くらいだと思っていたものが、50頭くらいになっていた。何処から湧いてくるのやら。
訓練も兼ねて、剣で、1頭ずつ、片付けようか。それがいいかな。
俺は、ダンスでも踊るように、1頭ずつ片付けていく。
上段斬りから、稲妻のように、剣を操って、右に、左に斬っていく。
時には空中で回転しながら、時には大地を這うように移動しながら、斬っていく。
次は右だとか、今度は左だとか、考えてはいけない。無にしたまま、感じるままに、斬っていく。今は余計なことは考えなくて、良いはずだ。
気付くと、襲って来た全てのファイア・ドッグを倒していた。
死屍累々、見渡す限りファイア・ドッグの死体が転がっていた。ゆっくりと、大地に引き込まれるように、1頭1頭消えていった。後に残ったのは、ファイア・ドッグの魔石ばかりだった。
ひとつひとつ、魔石を回収していくと、全部で100匹を越えていた。
以前は、こんな魔物出なかった筈なのだが。
「今度は、青い犬かよ」
ブルー・ドッグ・・・水の魔法を操る犬。かなり知能が高いが、個で動くことが多い。群れる事を嫌う。
いきなり、水の束を吐いた。1本の糸となって、向かって来た。連続で吐けるようで、後をついてくるように飛んでくる。まるで、蜘蛛の糸のようだ。
嫌な予感がして、木に隠れる。
水の糸は大木を平気で、切り倒した。
受けたら、大変なことになっていたかもしれない。
木に隠れながら、ブルー・ドッグの背後を狙う。だが、素早い動きで、回転する。まあ、中心の方が速いよなあ。
さて、どうしたものか。ある賭けを思い付いた。
「シールド100」
ブルー・ドッグに向かって、シールドを重ね掛けする。そのシールドを押すような形で、前に進む。
ブルー・ドッグがシールドを壊すのが速いか、俺が押し込んで、辿り着くのが速いか、勝負だ。
勝負には、勝った。あと数枚の所で、辿り着いて、斬り倒した。
1頭の方が、こんなに面倒だとは思わなかった。労力の割に、魔石はひとつだけだ。
周囲を探索してみる。周囲には、何もいなさそうだ。早く下に降りる所を見つけた方が、良さそうだ。
「あった」
そんなに遠く無い所に、下への階段を見つけた。
でも、この階は犬しか居なかったなあ。
この階は、どんなだろうか?
何だか、ここも面倒くさい気がするのだ。
今度は、何が出てくるのかな。
この階は、分かり易いほどの森だった。これは、ジャングルと言った方が良さそうだ。
蔦が垂れ下がり、暑い。光があまり入って来ない。全体的に、暗い。
「ああ、そろそろお出ましだな」
現れたのは、猿に似ていた。緑のサルと、黄色のサル。
ウインド・モンキー・・・群れを成して襲って来る。群れには、1頭だけ知能の高いボスが存在する。
サンダー・モンキー・・・群れを成して襲って来る。ウインド・モンキー達とは仲がいい。一緒に群れると、とても厄介である。
周辺を探索すると、100頭以上の数がいた。
「こんに囲まれると逃げようがないのだが」
言ってるそばから、ウインド・モンキーから風の矢が放たれる。
魔法を併せるように、今度はサンダー・アローだ。
「全方位シールド、トリプル」
咄嗟に3重のシールドを掛ける。
でも、サンダーは拙い。少しピリッときた。
逃げると、後方から、竜巻もどきが追いかけて来る。
ウインド・トルネード、か。このままだと、巻き込まれるが。
俺は、竜巻に向かって、シルバー・ペイパーを撒き散らす。舞い上がるシルバー・ペイパー。俺はそのひつにダイブした。
一瞬消えたように見えるはずだ。モンキー達が探しているのが見えた。
シルバー・ペイパーを起点に、出ては斬りつけ、幾度となく返す。
一緒に巻き込まれたモンキーを倒しながら、移動できる。味方に当たると躊躇するモンキー達の動きの止まったところを狙いながら、数を減らしていく。出たり入ったり、こっも大変なのだよ。
何とか、片付けて、岩の上に座り込む。マジックバックから取り出した水を飲む。
魔石集めるの面倒だけど、仕方なく、集めて回る。
次が集まって来ないうちに、下への入り口を探す。
やっと見つけた。ここまでに2回見つかったけど。
3階は、またしても草原。森も何も無いから、隠れる所がない。
遠くの方から、何かが飛んでくるのが見えた。何だろう。
鑑定メガネで見つめる。
「今度は、鳥か」
ブラック・フェザント・・・嘴が硬く、突かれたら、鉄でも穴が開く。夫婦で行動することが多い。
ホワイト・フェザント・・・羽根を飛ばしてくる。刺さると痛い。
隠れる所もないので、とりあえず反対に逃げる。
同時に、下への階段を探索。
見つけた。
あいつらの向こうだ。
仕方なく、大回りしつつ、階段に向かおう。
て、思っていた時もありました。
飛ぶものには、勝てません。早々に、追い付かれました。
仕方なく、シールドで、あいつらより高い位置に駆け上りました。
その間、フェザントのエックス攻撃を躱しながら。
あいつら、右と左から、クロスしながら攻撃してきました。
ブラックは回転しながら、嘴で突っ込んで来ました。ホワイトはその周りに羽根を飛ばして来る。避けれない。
俺は、マジックバックから傘を取り出した。ドラゴンに食われた時の傘である。傘で、羽根を受けながら、ブラック・フェザントをすれ違いざまに斬る。
所詮、鳥だ。硬いのは嘴だけだった。首が簡単に斬れた。ブラックの身体を蹴って、向きを変える。ホワイトに後ろから、斬りつける。羽根が斬れて、落ちていく。
地響きと共に、2頭は落下した。多分、夫婦なのだろう。可哀想だが、仕方ない。
魔石を拾うと、一目散で走り出した。
早く下に降りた方が、面倒くさくなさそうだ。
今度は、海だった。
海の真ん中に島が見える。ただそれだけの階だ。
「あの島に行けってことだよなあ」
仕方なく、シールドを足元に張りながら、走っていくことにした。
どれくらい走っただろうか。
海から何か出て来ることもなく、何とか島に辿り着いた。
何もない岩に覆われた島だ。
中央には、巨大な何かが胡坐をかいて、座っていた。
下に降りる階段は見えない。
倒さないと、現れないってことかな。
鑑定メガネで見ると。
赤鬼・・・この階層のボス。倒さないと、階下に降りる道が出現しない。赤い角からは、破壊光線が発射される。青い角からは、冷凍光線を発射する。当たると氷らされて、解けるまで動けなくなる。肌は鉄の様に硬く、普通の剣では刃が立たない。武器は、金棒。棘が付いているので、当たると痛い。
これって、魔人より強くないかい。再生能力はないみたいだけど、攻撃が通らないぞ。
「良くぞ、ここまで参られたのお。わしを楽しませてくれよ」
そう言って、笑いながら、立ち上がる。金棒を肩に背負って、臨戦態勢だ。
俺は、飛び道具があまり好きでは無い。剣で、命の凌ぎ合いが性に合っている。だから、飛び道具はあまり使わない。
うん、絶対では無い。
右手で、ピストル真似て、赤鬼の胸辺りを狙う。
それでは、どんな時に飛び道具を使うかと言うと。
こんな時である。
「フィンガー・レイ、発射」
指先から出た光は、赤鬼の胸を穿つ。
「へっ」
素っ頓狂な声をあげて、金棒の重みで、後ろに倒れた。
赤鬼は、何も出来ずに、命を閉じたのだ。ちゃんと相手をしてやれよ、と言われそうだが、嫌であった。
ブランクカードを投げて、ダンジョンの大地に吸い込まれてしまう前に、ゲットする。強い魔物は、肉が美味しかったり、骨や毛が役だったりするので、取っとかないとね。
何処かで、ファンファーレが鳴った。
島の中央の大地から3つの宝箱と、洞穴が出現した。
いくつになっても、宝箱には心躍らせる。ワクワクを抑えながら、宝箱を開ける。
ひとつは、刀だ。実は、いつか出ないかと、待っていたのだ。ラッキーである。
ふたつ目は、また刀だった。
気を取り直して、三つ目を開ける。10センチ程の棒だった。
とりあえず、鑑定してみる。
赤鬼刀・・・折れることのない、剛刀。使用すると、焔の残像を残す。格好良い。切れ味は、極めて普通である。
桃太郎刀・・・犬、猿、雉の魔物を呼び出す事が可能。自らのレベルに応じたお助け魔物が出現する。刀自体は、名刀レベルではある。
如意棒・・・サイズを自由に変えられる。絶対に折れる事のない棒。
うーん、微妙なものばかりだ。現状では、無いよりあった方が良いレベルかな。とりあえず、赤鬼刀を腰に刺してみた。
「下に降りると、また変なの出て来そうだよね」
俺は宝箱の上に腰掛けた。
「ひと休憩してからだな」
マジックバックからサンドイッチを取り出して、口に運ぶ。今日のサンドイッチは、俺の自信作である。かなり美味しい。美味いのだが、目の前で見つめられたら、美味しく感じないよ、ねえ、シリー。
いつの間にか、目の前にシリーがいた。
「久しぶりだね、シリー」
シリーの身体は、子供のままだった。サリーに似て、可愛らしい顔をしている。花が開いたようなドレスが、とてもよく似合う。頭の上には、ちっちゃなティアラが載っていた。
シリーの視線は、サンドイッチに釘付けだ。
「食べさせてあげるから、マスター部屋に案内してよ」
視線が、サンドイッチから俺に移る。
「本当に食べさせてくれるのですか」
「ああ、そのつもりだけで」
ダンジョン・マスターって、みんな、食い意地が張っているのかと、疑ってしまう。いつも食べ物に釣られて、出てくるのだが。でも、食べなくても生きていけるはずだったよね。相変わらず、不思議な生き物である。
シリーは壁に円を描いて、何かを呟いている。
円の部分に霞が掛かる。
「この穴は、最下層に繋がっているので、一緒に飛び込んでください」
そう言うと、すぐさま、シリーは飛び込んで行った。仕方ないので、俺も後に続いた。
「痛たたた」
穴から飛び出たのはいいけれど、何も無い土の上だから、お尻が痛かった。
10メートル位の部屋には、何も無かった。壁は土のままだ。何の細工もない。有るのは、1メートルほどの水晶だけ。その横に、同じ位の高さのシリーが立っていた。
「テーブルもないのかい」
「ダンジョンの運営で、手一杯で、そこまで手がまわりません」
仕方なく、メガミフォンを取り出して、一通り揃えることにした。
まずは、壁一面の液晶パネルだ。
「これで、全階層の様子が見れるからね。怪しい人が来たら、早めに対策することが出来るはずだ」
「はいです、パパ」
シリーは、とても嬉しそうだ。でも、パパではありませんから。
「何度も言うけど、パパではないからね」
次に、この部屋をリビング風にして、中央にテーブルとソファだね。カーペットも敷いておく。トイレとお風呂は、オマケで付けておこう。また来た時に、ゆっくりしたいからな。
壁には大理石風のクロスを貼っておこう。ムーディな感じが出て、最高だと思う。
「これくらいやっとけば、大丈夫だろう」
返事がないと思ったら、シリーは一心不乱にサンドイッチを食べていた。
今日は疲れたから、これで帰ろう。
「また来るから、今日は帰るよー」
ああ、聞こえてないか。
「またね、シリー」
俺は、サッサとこのダンジョンを後にした。
ついに完成だ。
これで、負けることはないだろう。
俺の拳が唸るぜ。
次回、〔新しい力〕、乞う御期待!!




