21.マリアの大冒険
私は、マリア。
今日は、ダンジョンに来ています。
相棒のタイガと一緒。
タイガは、レイさんが造ってくれた虎ゴーレムです。毛並みも、もふもふで、とても可愛いのです。
今は、1メートルくらいの大きさです。レベルが上がると、大きくなるだろうって、言われてました。実は、凄く期待しています。
「マリア、この虎を相棒にして、ダンジョンをめぐって、レベルを上げててくれないか」
そう言われて、私はタイガを貰いました。
「明日から頼む。北のダンジョンがいいかな。あそこなら、知り合いのダンジョンだから、何かあれば、みんなが助けてくれるはずだ」
レイさんは、忙しい人だから、放置されるのは仕方ないとして、何そのダンジョンが知り合いって。可笑しくないですか。
ここまでは、タイガに乗せてもらって来ました。
目の前に、北のダンジョンが見えて来ました。
一度降りて、歩いてダンジョンの門に向かいます。
ギルドカードを門番に見せて、中に入ります。
「無理するなよ」
門番に手を上げて、大丈夫の合図を送ります。
さて、新たな伝説の幕開けです。
「タイガ、何か来たら、教えてね」
「ワフ」
油断にしないように、まずはゆっくりと前進。
この階層は、ほぼ草原。時々、隠れれそうな大きな岩と、森があるくらい。相手をすぐに発見できるという利点と、すぐに見つかるという欠点もある。
「ワフ」
タイガが何かを見つけたようだ。
森から、集団でゴブリンが出て来た。10匹くらいいるかな。浅黒い肌に、醜い顔。角と尻尾が生えている。
「タイガ、初めての戦いだけど、出来る?」
「ワフ」
タイガは駆け出して、前脚の爪で、ゴブリン達を葬っていく。
あっという間の出来事だった。
褒めて、褒めてと言わんばかりに、尻尾をビュンビュン振って帰って来た。
「凄いね、タイガ。私の出る幕なかったね」
「思った以上に時間がかかってしまいました。降り口がまだ見つかりません。この階の魔物は大したことないのですが、探索に時間がかかってしまいますね。レイさんみたいに、探索の魔法は使えないし、困りました」
「ワフワフ」
タイガが何かを伝えようとしているようですが。
「どうかした?タイガ」
聞いても、わからないよね。
「ワフーーー」
タイガの吠えると、空気の波紋が広がっていきました。
聞き耳を立てていたタイガが、急に走り出しました。
「待って、タイガ」
私は追いかけるのに必死です。何処に行くのでしょうか?
暫く走ると、洞窟を見つけました。
タイガは洞窟の前で、お座りをして待っていました。
「タイガ、もしかして、ここが下の階に行く降り口なの」
「ワフ」
タイガはとても嬉しそうです。
「ありがとうね。このまま降りて行こうか」
タイガを先頭に、降りていきます。
その先は、やはり草原でした。ただし、森の範囲が増えています。
「タイガ、次もお願いね」
「ワフーーー」
タイガが吠えると、やはり空気が振動して、波紋になって広がります。
「ワフワフ」
どうやら見つけたようです。
「途中の魔物を葬りながら、行くよ。まだまだ弱いだろうし、前進あるのみだね」
そんなことを言っているうちに、今度はコボルトですね。犬のような頭部をした。亜人種ですね。さあ、蹴散らして行きましょう。
また洞窟ですね。今度は、階段があるようです。
何匹倒したか。途中までは数えていたのですが、わからなくなりました。
タイガが一回り大きくなったような気がするのですが。
3階は、オークでした。大きな牙の生えた豚でした。
4階は、ゴブリン、コボルト、オークの混成部隊でした。
5階は、ハイ・オーク達。オーク・ジェネラルや、オーク・メイジがいました。魔法を団体で使ってくるものですから、避けるのが大変でした。この辺りから、少し難易度が上がったようです。
6から9階は、巨大生物の宝庫でした。ジャイアント・スネイクに、ジャイアント・スパイダー。サイクロプスまで、出て来ました。単眼の巨人です。
そして、10階です。
階下に降りると、すぐに扉がありました。
開けると、何もない空間でした。
でも、扉を閉めたとたん、中央からヘカトンケイルが湧いてきました。100本の腕と50の頭があります。数えてはいませんけどね。その両隣には、オーク・クイーンとオーク・キングが立っていました。
「タイガは、キングとクイーンの相手をお願い。私がヘカトンケイルを倒すまで、適当に相手をしててくれる。倒してもいいけどね」
「ワフ(やってやろうじゃないか)」
そう聞こえたような気がした。
「行くよ、タイガ」
私は、レイさんから貰ったマジックバックから炎の剣を取り出した。まだ使ったことが無かったから、ここで試し切りです。どれだけの力があるのか、ワクワクする。
ヘカトンケイルは、全ての腕に棍棒を持っていた。当たらなければ問題ないけれど、下手な魔法も数撃ちゃ当たるっていうから、気を付けよう。
私は、左手に魔力を込める。
「火炎弾」
私の得意な魔法だ。
頭くらいの大きさの火炎玉を飛ばす技です。連続で、5発くらいまで撃てます。
一発は外れましたが、他は全て大当たりです。腕が何本も飛び散りました。それでも懲りずに向かって来るヘカトンケイル。流石に、階層ボスだけのことはあります。
深く呼吸を整えて、もう一発です。
「火炎弾」
飛ばした火炎弾の後ろに隠れるように、合せて飛び込みます。
プシュー。
斬れた所が、溶岩のように熔けていきます。
ヘカトンケイルの身体が、斜めにずれていきました。
この炎の剣、切れ味良すぎませんか。
おっと、タイガはどうしているでしょうか。心配です。
「ワフ」
2メートルくらいになったタイガがお座りをしています。
レベルが上がって、巨大化したようです。
大きくなり過ぎて、お座りしても、頭に手が届かなくなりました。なでなで、出来ません。
代わりに、タイガが私を舐めて来ます。
可愛いのですが、涎が・・・。
中央に、宝箱が出現しました。しかも、三つ。
ひとつは、ブーツです。くるぶしの所に、小さな羽根が付いています。もしかして、跳べる?
ふたつめは、籠手でしょうか。盾の代わりでしょうか。
みっつめは、剣でした。一緒に紙切れが入っていました。〔蒼の剣〕と書いてあります。残念なことに、能力まで書いてありません。帰ったら、レイさんの鑑定眼鏡でみてもらいましょう。
どれも、銘品です。今日は、大当たりの日ですか。
11階は、砂漠ですか。足元を砂に取られて歩きにくかったのですが、先ほど宝箱から出たブーツを履いてみたら、あら、大変、浮きながら走れるものですから、砂の影響が無くなりました。最高です。タイガは、元々気にしていなかったので、またサクサクと進めます。
砂から出て来る、ジャイアント・スコーピンもなんのその。蒼の剣で、バッタバタです。
蒼の剣は、水が流れるがごとく剣が伸びて、切断していきます。魔力を流すと、凍らすことも出来る優れものでした。
他には、マーダー・キャメルは砂から出て来ると、跳ねながら攻撃してきます。背中のコブは、盾の代わりをするのか、タイガの攻撃が通りません。
怒ったタイガは、空に向かって咆哮しました。
すると、咆哮が黄色く変化すると、稲妻となって、落ちて来ました。
マーダー・キャメルの背中に辺り、コブだった部分の肉が、辺り一面に弾け飛びました。
もちろん、マーダー・キャメルは、ひとたまりもありませんでした。
倒れると、身動きひとつしなくなりました。
〔咆哮雷撃波〕とでも言いましょうか。凄い威力です。
あれ、タイガの身体が輝きだしました。
眩しくて、瞬きした瞬間に。
タイガが、白い虎に変化していました。
「やった進化したよ」
それは、紛れもなく、タイガの言葉でした。
「タイガ、喋れるようになったの?」
私は驚いて、口に両手を当てます。
本人も驚いているのか、私の周りを走り回っています。
余程嬉しいのでしょう、私を背に乗せて、階段のある所まで、ひとっ飛びでした。
12階は一面森でした。背の高い木が生え茂っていました。
カブト・ウルフはすばしっこくて、見つかったら最後、いつまでも追いかけて来ます。影からひょっこりと現れるのが、死神スパイダーです。数で襲ってくるので、大変でした。私の火炎弾だと、森が火事になるので、蒼の剣が大活躍でした。水の珠を作って、中で溺れさせるのです。これが一番手っ取り早い攻撃でした。
13、14階は、古代遺跡みたいな所でした。出て来るのは、主にアルラウネやガーゴイル、ジャイアント・バットでした。
ジャイアント・バットは、大きな蝙蝠です。口から、超音波を発するので、注意が必要です。当たらねければ、問題ありません。
15から19階までは、谷底の階層や、山頂の階層、洞窟だけの階層までありました。
地獄の猟犬と言われる黒い大型犬のヘル・ハウンド、翼の生えたエンゼル、間違えました、翼の生えた白馬のペガサスや、首から上に雄牛の頭が付いている怪物ミノタウロスなど、強敵ばかりでした。
ほとんど、タイガの〔咆哮電撃波〕で、全滅にしてしまって、巻き込まれないように離れて見ているだけでした。
20階は、待ちに待ったボス戦です。
「タイガ、〔咆哮電撃波〕は控えてくれる。一緒に戦ってたら、私に当たっちゃうからね。気を付けてよ」
「わかりました」
扉を開けて、中に入る。
これは、海でした。
ボス戦が海って、ズルくないですか。
と思っていたら、海の中央で渦が発生して、中から、強大な・・・タコとイカが現れました。
おー、それに、あれは幽霊船でしょうか。フジツボや海藻だらけのボロ船が、渦から浮上して来ました。
「タイガ、さっきの言葉は撤回するから、あのタコとイカに〔咆哮電撃波〕をおみまいしてやって。その間、私は少し浮いておくから。一緒に感電したくないもの」
マリアは、羽根ブーツの力で、少しだけ浮いた。
「逝っちゃってー」
タイガは、その言葉を待っていたのか、タコとイカに電撃波をおみまいする。
タコとイカは、黒く焦げると、そのまま海に沈んでいった。
おまけに、幽霊船まで、巻き込まれるように大破して、船首が垂直に立ち上がると、静かに沈んでいった。
「あら、一撃で終わっちゃったね」
マリアは冷めた笑いで、地上に降り立った。
そして、海の中から勢いよく、宝箱が撃ち出されて来た。
それは、マリアの目の前に落ちた。
3つの宝箱は、壊れることもなく、目の前に並んでいる。さっきまで、そこにあったかのように。
「開けてみようか」
ひとつ目は、首輪だ。
ふたつ目は、金銀財宝。いったい、いくらくらいあるのだろうか。
三つ目は、宝石かな。色んな色がある。何に使えるんだろう。レイさんに聞いてみよう。
21階から29階層は、普通の森や草原でした。山もあったかな。
魔物は、今まで出たやつ全部。魔物の大集合みたいな感じでした。高いレベルには違いないのだろうけれど、ちょっと強い人なら、ここまで来れると思う。その代わり、色んな薬草や木の実があったな。薬師の人なんか、大泣きレベルだよね。
さて、お待ちかねの30層。ボス戦だね。
そろそろ二刀流が出来そうなんだけどね。
「お邪魔します」
30階の扉を開けると。
湧いてきたのは、ワイバーンでした。白と黒のワイバーンが二体です。
いいこと思いついた。
「タイガ、ここは一緒に攻撃するよ」
私は、タイガに跨った。
タイガは、笑っていた。
「用意はいい?タイガ」
「ああ、大丈夫だ」
私は、右手に炎の剣、左手に雷竜剣を持って、目の前でクロスさせる。
「行くよ、タイガ」
その言葉を待っていたのか、稲妻のごとく、突っ込むタイガだった。
二体のワイバーンは、動く間もなく、私の剣で斬られる。翼が裂ける。どうせ、飛べるほどの空間はないから、致命傷にはならない。
それならば、再度攻撃を仕掛ける。
タイガの爪から逃れようとするところを、逃さぬように斬りつける。
ガキーン。
爪で受け止めるワイバーン達。
流石にボス戦、一筋縄ではいかない。
ならば。
「火炎弾」
魔法を撃ち込む。払うように魔法を弾く。
これでも、ダメか。ならば。
「タイガは、このまま突っ込んで、黒い方に攻撃」
私はタイガの背中から跳んで、空中を走る。
両方の剣で、白い方の首を狙う。二体は、タイガに気を取られて、下を向いたままだ。私の方が軽く見られているようだ。
「舐めるなよ」
誰の影響だろう、口が悪くなってきたみたい。
シャキーン。
白いワイバーンの首が跳んだ。
うん、上手く行ったようだ。
再び上空に駆け上がる。
黒いワイバーンが、悔しそうに上を向く。
そこを逃さず、タイガが突っ込む。爪をドリルの様に回しながら、ワイバーンの腹を削り取る。
悲鳴を上げる黒のワイバーン。
私はすかさず、火炎弾を飛ばす。
ちょうど上を見上げたところに、火炎弾が上手く直撃した。爆発する頭。
爆風に飛ばされた。少し油断したか。そこを上手くタイガが受け止めてくれた。
「ありがとうね、タイガ」
「今度の宝箱の中味は、何かな」
これだから、冒険者は辞められないんだよね、きっと。
宝箱は、五つ。
ひとつは、金銀財宝。すっごいお金持ちになってるような気がする。
ふたつは、指輪。
みっつは、腕輪。
よっつは、また指輪だ。
五つ目は、紙切れ。お疲れさまでしたと書かれている。しかも、何処かの宿屋のチケット付き。
何だよ、これは。
もういいや、早く31階に行こう。
疲れました。
そして、31階層。
見たことあるとこだ。
宿屋の食堂で、死ぬ思いをしたよね。
だって、あそこの建物。あの宿屋だもの。
ああ、このダンジョンだったんだ。
とりあえず、食堂で美味しいもの食べて、寝よう。
疲れたもの。
王都のお店の準備は出来たけど、野菜や果物だけしか無い。
何かメインになる物を探して、ダンジョンまで来て見れば、お肉がいっぱい。
新たなダンジョンで、新たな出会いが・・・・
どうする、レイ、次回、ダンジョンであれこれ、乞うご期待!!