表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/61

19.魔人探しは、慎重に

 「ああ、間違いない。魔人は、元はストロだった。ストロが突然狂い出して、巨大化して、そして身体が黒くなって、魔人になった。理由はわからない、とにかく魔人になったんだ」

 パーティのリーダーのカルロスは、そう語った。皆んな、見ていたのか、頷いていた。

 「魔人化した理由には、何か心当たりはないかい?」

 「申し訳ないけど、わからない。本当にいきなりだったんだ。誰か、何か気づいた者はいるかい」

 「私もわからないわ」

 「僕も何も気付かなかったな」

 「ああ、でも、喉に何か詰まったようで、水を飲んでたぞ」

 「そう言えば、ひとりで何か食べてたかな」

 「何を食べてたか、誰か、見てないか?」

 全員、首を振っていた。誰も見ていないようだ。

 「何かを食べてた事がわかっただけでも、収穫だな。俺と戦っている最中にも、何か食べてたから、原因は間違いなく、食べ物だな」

 「誰よりも強くなりたいって、言ってたから、何かドーピングの元でも、見つけたのだろうか」

 それ以上、誰も何も言わなかった。


 「このことは、ギルドに報告してくれ。もしも、誰でも手に入るような物なら、大変な事になるから」

 「わかった、それは、リーダーの僕からギルドに伝えておこう」

 仲間を失った事で、悲しいのだろう。

 仲間に裏切られた事で、ショックなのだろう。

 誰も、次の言葉を吐かなかった。


 「とりあえず、街に帰ろう。このままここに居ても、何も出来ないだろ。早く、報告しておくことが大事だ。こんなことが、二度と起きない様にするためにも」

 「でも、この身体じゃあ、魔物が出たら、太刀打ち出来ないぞ」

 「そうね、皆んな、何かしら怪我をしているものね」

 皆んな、ボロボロだった。武器も壊れて、戦える状態では無かった。

 「それなら大丈夫だ。乗り物を用意しよう」

 レイは、マジックバックから、タートル君を取り出した。

 それは、巨大な亀の上に載った家だった。

 「さあ、乗ってくれ。中は広いから、全員乗れるはずだ」

 「えー、何だ、これは」

 皆んな、驚いている。マリアも一緒になって、驚いていた。そう言えば、見せたこと、なかったかな。

 「だ、大丈夫、なの、これ?」

 どうやら、皆んな、半信半疑のようだ。

 「早く乗ってくれ。どうやら、魔物達に見つかったようだ。さっさと行くぞ」

 「あ、ああ」

 リーダーを先頭に、みんな乗り込んだ。

 最後に、レイが乗り込む。

 同時に、タートル君は浮き上がって、飛んだ。

 「何で、飛んでんだー」

 リーダーの雄叫びが、ダンジョンにこだまする。



 「何なんだ、あの乗り物は」

 リーダーは、フラフラだ。顔も真っ青だ。

 この人こそ、大丈夫なのか。

 「えー、乗り心地、最高じゃあないですか。フワフワなソファの上に、寝転がってるだけで、目的地に着くんですよ。また、乗りたいですー」

 「魔物を恐れることもないし、本当に最高ですね。レイさん、また載せてくださいね」

 「機会があったらな」

 レイ達は、街の門の近くまで来た所で、タートル君から降りた。こんな乗り物見たら、パニックになりかねない。

 「ここから、歩くよー」

 皆んながリュックを背負い直した所で、レイたちは門に向かった。

 ギルドカードを門番に見せて、門を抜ける。通り過ぎて、そのまま、ギルドに向かった。


 ギルドの扉を開けて、そのまま受付に向かった。

 「何の御用でしょう」

 「ギルドマスターに、話があるんだが」

 リーダーが、受付嬢に話し掛けた。

 「アポは、取られてますか?」

 「急用なんだ、アポは取ってない」

 「少しお待ちください」

 少し嫌な顔をしながらも、受付嬢は対応してくれた。

 レイ達は、リーダーを残して、待合室の方に移動した。

 「マスターは、話を聞いてくれるかしら」

 「流石に、大丈夫だろう。でも、ダメなら、マスター室に殴り込もう。この案件は、放っておくわけにはいかないからな」

 レイの言うことも、最もである。それほどの案件だった。

 暫くすると、受付嬢がやって来た。

 「マスターの執務室にお越しください。リーダーの方は、先に行って、説明しとくそうです」

 「ああ、わかった。行ってみよう」

 受付嬢の後をレイ達はついて行った。

 

 コンコン。扉を叩く受付嬢。

 中から、入って来いの声が聞こえた。

 「失礼します」

 受付嬢の後について、レイたちも入って行った。


 「おお、来たか」

 「お連れいたしました」

 それだけ言うと、受付嬢は帰って行った。

 「まあ、その辺に座ってくれ」

 ふたつあるソファに全員で分かれて座った。

 「話は、リーダーから聞いた。大変だったな。でも、このことは今は誰にも言わないで欲しい。訳もわからず、パニックになるのだけは阻止したいんだ。わかってくれ」

 ギルドマスターが頭を下げる。厳つい顔の割に、良い人みたいだ。ムキムキの肩が、淋しそうに少し震えていた。

 「わかりました」

 リーダーが代表して、答える。反対する者は居なかった。

 「調査は、こちらでもしてみるが、わからないことが多過ぎるから、お前達も十分注意してくれ。何かわかれば、教えて欲しい」

 ギルドマスターも困っているようだ。手掛かりが無いのだから、仕方がない。

 「今日は色々とあって、疲れているだろうから、とりあえず解散だ。また何かあれば、声をかけるよ」

 「わかった。さあ、皆んな、帰ろうか」

 リーダーの一声に、皆んな、立ち上がった。流石に疲れたから、早く帰りたいのだ。

 「そうだ、レイとマリアは残ってくれ。申し訳ないが、もう少し話しが聞きたい」

 マリアを見ると、頷いていた。納得しているようだ。

 「今日は、世話になったな。本当にありがとう」

 それだけ言って、淋しそうに出て行った。

 リーダー達が出るのを待って、レイとマリアは、もう一度ソファに座り直した。


 「ぶっちゃけ、魔人と言うのは強かったのか?」

 ギルドマスターは、ぶっちゃけ過ぎである。肩の力が抜けたのか、ソファにもたれて、天井を見つめている。これか、大変だろうと、心の中で手を合わせておく。

 「そこまで強いわけではないけれど、再生能力が凄いんだ。腕や足が、野菜のように生えて来るんだ。見てるだけで、逃げたくなる。異様なんだ。普通の冒険者だと、太刀打ち出来ないかな」

 「そんなにか」

 「ああ、そんなにだ。お陰で、メインの武器を壊されたよ」


 トントン。


 「マスターにお客様です」

 扉の向こうから、声が聞こえて来た。

 「今、来客中なので、後にしてもらえ」

 ギルドマスターが、声を上げて、伝えた。

 「お客様、ダメです。今はマスターが接客中なのです」

 「構わん。大至急、話をせねば、拙いのだ」

 扉が開いて、男が入って来た。

 「おや、貴方もいたのですか。それなら、話が早い」

 レイは振り返るように男を見た。

 「貴方は、あの時の。確か、ジェームズ・フォン・ボルトン侯爵でしたか」

 「あの時は助かりました。今回も手を貸して頂けると助かりますぞ」

 ジェームズは、ギルドマスターの隣に腰を下ろした。

 「いきなり、何用ですか、ジェームズ侯爵。まだ、お客人と話している最中なのですぞ」

 流石のギルドマスターもお怒りだ。

 「すまない。だが、今はそれどころではないのだ」

 偉い立場の人だろうとは思ったが、ギルドマスターとも顔見知りのようだ。

 「こっちは後でも大丈夫ですから。そちらの話が終わりましたら、呼んでください」

 立ちあがろうとするレイの肩を押さえるジェームス侯爵。凄い力だった。とてもではないが、動けなかった。

 「いや、君にも聞いてもらいたい」

 仕方なく、もう一度ソファに腰を下ろした。

 「本当に良いのですか」

 「構わんよ。場合によっては、彼の力を借りねばならない」

 ギルドマスターとレイの顔をもう一度見て、侯爵は静かに話し始めた。


 「魔人が現れたのだ」

 侯爵が、そう呟いた。

 「またですか」

 ああ、つい反応してしまった。

 「またとは、どう言うことか」

 「こっちでも、と言うか、ダンジョンの中で出たんですよ、魔人が」

 「何だって、それは本当なのか」

 侯爵は、左手でこめかみを押さえた。

 「まずは、そちらの話を聞きたい」

 侯爵は、膝に手を置いて、話を聞く体勢に入った。

 「ダンジョンで、魔人が出たんですよ。それをそこのレイが倒したんです。まあ、そこまではよくある話です。問題は、倒された魔人が、人間に変わったと言う事です」

 マスターは、一度に言い切った。流石に、ギルドマスターである。

 「魔人が人間だったと言うのか」

 「まだ一例ですので、はっきりとは言えませんが、そう言う事です」

 腕を組んで、何かを考え込む侯爵。

 「私の方は、街中で、急に魔人が現れて、暴れたと言う内容だ。一頻り暴れると、何処かに行ってしまったらしい。何十人も怪我人が出たが、死人は出なかったようだ。不幸中の幸いだ」

 膝に手に力が入るのが、わかった。

 「それで、どうしろと言われるのですか」

 マスターが、口を曲げて、言った。

 「逃げた魔人を探し出して欲しい。勿論、報酬は弾むぞ」

 どうやら、レイに向かって、言っているようだ。

 「魔人に興味はあるんですがね、さっきの戦いで武器の刀を折られちゃったものですから、少し時間が欲しいですね」

 「構わんよ。強敵を相手に武器無しは、流石に無理だろうからな。こちらでも、行方を追ってみるが、期待はせんようにな。こっちは、その手の専門ではないからな」

 そうは言っても、余りゆっくりは出来ない。今度こそ、犠牲者が出るだろうからな。

 話がまとまったせいか、侯爵はソファにもたれ掛かった。

 一度、城に帰って、武器製作にかかるとするかな。レイは、その後のことを思案していた。


 「魔人って、昔からいたのですか?」

 レイは、気になっていたことを聞いてみた。

 一度、目を閉じて、侯爵は何かを考えているようだ。

 「いや、魔人が現れ始めたのは、最近のことだ。しかも、いくら探しても見つからないと来た。こちらも、対処に困っているのだよ」

 「誰か、魔人に勝てる人はいらっしゃるのですか?」

 「残念ながら、今の所、ほとんどいない。我らが四天王か、女王様くらいのものだ。だから、余計に拙いのだ」

 レイはマスターに尋ねた。

 「ギルドの方には、勝てそうな方、いらっしゃらないのですか?」

 「何人か、いるにはいるのだが、運悪く、皆他のクエストで、出かけている」

 「ギルドの方でも、探すだけ探してみてください。もし魔人を見つけたら、すぐに逃げるように言うのを忘れないでください。戦ったら駄目ですよって、念を押すのを忘れずに」

 「了解した」

 レイは頭を下げて、立ち上がり、マリアを伴って、扉を開けて、部屋を出た。

 「何か、良い方法ないかな。今までと同じやり方だと、駄目だろうな。虫や鳥にでも、探してもらえれば、早そうなんだが。ルビー達に相談してみるかな」

 ギルドを出て、人気のない所を探した。

 「やっぱり、家が欲しいかな。いちいち、転移出来る場所探すの、面倒なんだよね」

 そして、転移した。


 レイは、46階層を訪れた。

 「一面、花畑だな。巣は森の方かな」

 歩きながら、ここの階層の様子を見る。

 花を痛めないようにするためか、花畑を区切るように道があった。

 花畑の区画を過ぎると、草原だ。草原にも、白詰草やタンポポ、名も知らないような花が咲いていた。草原の合間に色が散っている感じか。兎に角、花が多い。

 「レイ様ー」

 知らない女性が、飛びながら、近付いて来る。背中に翅が見える。ティンクが大きくなったのかな。人間ではないようだが。

 よく見れば、綺麗な女性だった。花冠を頭に載せている。

 「レイ様、私です。ルビーです」

 「えー、いつから人間になったの?」

 目の前に、舞い降りる。

 「アリス様に鍛えていただいた、賜物です」

 黄色いドレスに、花冠。翅は、地上に降りると、小さく畳まれていた。

 進化でもしたのだろうか。蜂の魔物が進化すると、妖精になるのかな。


 「今日は、何用でお越しになられたのですか?」

 ルビーは小首を傾げる。可愛い過ぎだろう。

 「ルビー達が、どうしてるかと思ってね。様子を見に来たんだ」

 「嬉しい」

 ルビーは顔を赤らめる。

 「実は、折言って相談があるんだが、兵隊蜂達で、街を監視したり出来ないだろうか」

 「それなら、ちょうどいい子がいます」

 微かに翅を振るわせるルビーの元に、一匹の小さな蜂が飛んで来た。5センチくらいの大きさだ。

 「お呼びになられましたか、ルビー様」

 ああ、蜂が喋ってる。もう驚かないけどね。

 「この子、喋れるのかい。早過ぎないか」

 驚愕である。それ程レベルが上がっているとも言えないのに、すでに言葉がわかるなんて。

 「レイ様、この子は生まれてすぐに、言葉を喋っておりました。ご存知の通り、かなり珍しい事です。レイ様の役に立つために生まれて来たのではと、思っております」

 「わかった。この子を連れて行こう。でも、本当に、良いのかい」

 「勿論です。その代わり、名前を付けてやってもらえませんか?」

 その蜂は、嬉しそうにルビーの周りを回っている。

 「お前たちには宝石の名を付けたから、同じように宝石の名から付けようかな。そうだな、エメラルドはどうかな。でも長いから、エメラってのは、どうかな?」

 「いい名前ですー」

 エメラは、喜んでいる。名前が気に入ったのか、名前が付いたことが嬉しいのか、どっちなんだろう。

 「ルビーと暫く会えなくなるけど、エメラは大丈夫なのかな」

 「大丈夫です。レイ様のお役に立てるのですから、問題ありません」

 可愛いやつだ。

 「ついでに、これをお持ち帰りください」

 それは、大きな壺だった。

 「中身は、蜂蜜でございます」

 レイは嬉しそうに、すぐにマジックバックにしまった。

 「ありがとう。また来るよ」

 レイは、エメラを連れて、シラサギ城に転移した。


 

 「アンバーは、いるかい」

 シラサギ城に到着すると、レイはすぐにアンバーを呼び出した。

 「レイ様、何か御用でしょうか?」

 影のように、アンバーは現れた。

 「白の国の王都に店を出したいんだ。しかも家付でね」

 「王都で、何かありましたか」

 「アンバーは、魔人の噂を聞いていないかい?」

 ソファに腰掛けながら、レイは尋ねる。

 「はい、噂程度なら聞いております。何処からか現れて、暴れ回るとか。どんな攻撃も効かないとか。その程度でしょうか」

 「よく知ってるね。今は、皆んな、その程度だと思うよ。その魔人を探してくれないかと偉い人に頼まれたんだよ」

 「何か当てはあるのでしょうか?」

 「無い。だから、この子に探して貰おうと思って。そのために、アジトが欲しいんだよね」

 レイは、懐からエメラを出した。

 エメラは嬉しそうに、レイの周りを舞った。

 「なるほど、蜂ならば、何処にいても不思議はないですから」

 「そう言う事」

 レイはアンバーに、オッケイサインを指で出した。

 「実は、野菜を売るための場所は、すでに見つけております。一度観ていただいて、問題なければ、そちらを使ってみては、いかがでしょうか」

 お辞儀をするアンバー。

 「流石アンバー、話が早いねえ」

 「後は、レイ様が契約するだけとなっております。こればかりは、ゴーレムの私では出来ませんので」

 深く頭を下げるアンバー。

 「問題ないよ。それじゃあ、明日にでも、行ってみるかい」

 「それがよろしいかと」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ