18.種は蒔かれたか
「レイさん、本当にこれを貰ってもよいのですか」
剣と鎧を持ったまま、マリアは固まっていた、
「マリアさんの為に作ったんだから、貰ってよ」
「本当にいいんですか」
「問題ないよ。マリアさんが怪我する方が問題だからね」
「それでは、有り難く、頂戴しますね」
鼻歌が出てますよ、
「ちょっと着替えて来ますね」
「作物を見回ってから行くから、宿舎の前で待っといて」
「はーい」
さて、行きますか。アーバンとパールにも、今日の予定を伝えてあるから、心配することもないだろう。
最近は畑を見て回る余裕もなかったから、どんな作物が育っているか知らないんだよね。
ゴーレム達、かなり頑張っているみたいだからね、楽しみだ。
お城を出て、角を曲がると、色とりどりの畑にが広がっている。果樹園もあるみたいだ。
自然と早足になってしまった。
「これは凄いな。キャベーツにジャガイーモ、エダマーメまである。これは、何?俺の知らない作物まであるのかい。しかも、一面畑になってるね。島を拡張して畑を広げられるようにしないと、不味いんじゃないの」
「そうして、貰えると、助かります。まだまだ、作りたい、物が、いっぱい、あるので」
睦月が、背後から話しかけて来た。
「話し方が、少し流暢になってないか?」
「アリス様に、鍛えられ、ましたので」
直立不動で、ゴーレムは答える。
「お前達もか」
「北側に、訓練場を作って、いただきましたので、日々、訓練、しております」
俺の居ない間に、好き勝手してるな。本当に、何を考えているのかな、アリスは。
「アリス様は、我々のことを、考えて、訓練されている、ようです」
「大丈夫だよ、怒っている訳ではないから」
「それなら、良いの、ですが」
気にしても仕方ないだろう。アリスの頭の中は、よくわからないから。でも、何をしても、信頼できるから、問題は無い。同じ迷い人だからか、恋人のように、親子の様にか。
「果物は、何を作っているんだい。アプルと、奥にあるのはバーナナかい」
「他には、イチーゴにメローン、パイナポーですね。今度、ブードを作ろうかと思っています」
「それは、楽しみだね。色んなデザートに挑戦出来るね」
「ごめんね、少し遅くなってしまったね」
「いえいえ、私も今来た所です」
鎧が良く似合ってるね。やっぱりマントが欲しいね。今度作ってみよう。
「時間も限りがあるから、このまま転移して、外の出ようか」
「今日は、南のダンジョンに行こうかと思っていたけど、東のダンジョンに行こうと思ってる。この国にある四つのダンジョンの中で、一番オーソドックスらしいよ。無茶苦茶強い魔物もいなければ、無茶苦茶弱い魔物もいないらしい」
「大丈夫でしょうか」
「俺が付いてるから、大丈夫。緊張していると、勝てるものも、勝てなくなるよ」
深呼吸するマリア。多少、緊張が解れたようだ。
「さあ、行くよ」
俺たちは、ダンジョンに足を踏み入れる。
いきなり出て来たのは、オークだ。豚の魔物だ。肉が美味しいらしい。
「あの右側のオークを何とかしてごらん。あとの四体は、こっちでなんとかするよ」
「わかりました」
マリアは、剣を抜いて、中段に構えた。
「落ち着いて、練習した通りにね」
「ふぁい」
うん、噛んだね。まだ緊張してるのかな。
でも、あの鎧に攻撃が通るとは思えないから、何とかなるよね。
「うりゃー」
マリアは、果敢に攻め込んだ。
オークも、棍棒を振り上げた。
チャンスだ。
一気に加速する。今の全力だ。
中段から斜め下に下ろした剣を横に薙ぐ。
振り下ろして来る棍棒の隙間を縫うように斬る。
今のマリアには、一度では無理だ。
二度、三度と斬りつける。
ただし、今の武器は、レイの作った物だ。普通なら切れないものでも。
斬れる。
何がどうなったか、わからないうちに、斬れていた。
オークは、すでに事切れていた。
「えっ、私、こんなに強くないですよ」
「ああ、知ってる。でもね、速攻で強くなって欲しいから、剣に細工をしてる。だから、今のマリアは自分が思っている以上に強いはずだよ」
レイは、すでに四体のオークを倒して、マリアの横に戻って来ていた。
「うーん、納得出来ないような、出来るような」
「大丈夫。レベルが上がれば、剣に頼らなくてもいいようになるよ」
マリアが悩んでいる間に、カードを投げて、獲物を回収っと。
「はい、はい、次行きますよ」
レイは、考え込むマリアを引っ張って、次の階層に向かった。
「前から、ハイオークの一団が来ます」
「マリアは左から、俺は右から行くよ。頑張ってね」
そう言うと、レイは楽しそうに、ハイオークに突っ込んで行った。
「新しい武器、試してみるかな」
刀を仕舞うと、代わりに扇子を取り出した。
左手で、扇子を広げると、右手から銀色の小さな紙を飛ばす。幾枚も幾枚も飛ばす。それを扇子で舞い上がらせる。あたかも沢山の蝶が舞うように、ハイオーク達の廻りを覆い始めた。
人間なら、綺麗だの一言が漏れるところだ。
蝶の舞が始まると、レイの右手の指先が踊る。
すると、どうだろう。
銀の蝶から、光が放たれる。
幾多の蝶から、幾多の光が放たれ、光が踊る。
光は、ハイオーク達の身体中を穿つ。
幾度も、幾度も、穿つ。
次々と倒れるハイオーク。あっという間に、七体が大地に転がっていた。
「ほお、これは使えるね。ただ、敵も味方も無いな。一人で戦う時しか使えないわ。封印かな」
マリアを見ると、何とか一体を倒していた。あと二体だ。
「手伝い、いるかな」
剣を振りながら、マリアは言う。
「今は、要らないです、何とかしてみます」
「うん、頑張って」
カードを飛ばす。次々と死体が消えて行く。
マリアは、ハイオークの攻撃を躱しては、横に飛んだ。避けつつ、ジグザグに前進する。
そして、攻撃を躱わしては、斬りつけていた。右から左から、刀で薙いでいく。
血が噴き出る度に、ハイオークは雄叫びを上げていた。地味に煩い。
頃合いか。
マリアは、一度後方に飛び下がって、剣を握る手に力を込める。
「トドメです」
一気に加速すると、二体とすれ違い、同時に斬った。
ハイオーク達の身体がふたつに分かれる。
息を吐くマリア。額に玉のような汗が浮かんでいた。
「マリアは、やっぱりセンスあるね、冒険者に誘って、正解だったね」
「ありがとうございます。レイさんにそう言ってもらえると、自信になります」
「自信ついでに、次に行こうか」
かなりのハイペースだ。何処まで行くつもりなのか。
「少し休憩しませんか?」
マリアは、流石に疲れているようだ。
「少し無理をさせ過ぎたかな。あそこの木の下で、休憩しようか」
レイは、マリアを連れて、木の下まで歩いた。
「少し早いけど、お昼にするか。イート君にお弁当作ってもらっといたよ」
「まるで散歩でもしているようですね、レイさんは」
マジックバックからテーブルと椅子を取り出す。
「まあ、椅子に座って、ゆっくりしようや。お弁当も置いとくから、好きな方を食べてよ。お茶もあるから、安心してね」
マリアは、お弁当をひとつ取ると、食べ始めた。
「美味しいですね、このお弁当」
「それは、イート君に言ってやってよ。きっと、喜ぶよ」
レイも食べ始めた。
「本当だね、美味しいね」
美味し過ぎて、手が止まらない。
宿屋にお客の絶えない理由であろう。一度食べたら、また食べてみたくなる、そんな味付けだ。
「今日中に、もう二、三階層は行きたいね。目標は五階制覇だね」
「行けますかね」
「行くさ。行くんだよ」
「お腹も膨れたことだし、前に進みますか」
出した物をマジックバックに仕舞って、鎧の具合いを確認する。問題ないようだ。
「行くか」
「早過ぎませんか、進捗具合。もう予定の階まで来ましたよ」
「いえいえ、マリアが強過ぎるだけですよ。さっきの横薙ぎなんか、最高でしたよ」
確かにここまで、かなりの魔物を倒すことが出来ていた。ただし、まだ相手がそれ程強く無いだけで、そろそろ限界であろうと思われる。
「次の層は、流石に倒すのに時間がかかると思うけど、無理しちゃ駄目だよ。ヤバそうな魔物からは、逃げても大丈夫だからね。一番大事なのは、自分の命だからね。それだけは、覚えておいてよ」
「わかりました」
「さあ、次はボス部屋だよ。準備は、いいかな」
「はい、大丈夫です」
「それでは、行きますか」
巨大な石の扉を押し開ける。
見た目は大きいけれど、思った程の力はいらない。とは言え、開けれないと言うことは、まだここに挑戦するだけの能力がないと言う事だ。
だから、俺達は開けることが出来る。
ギギギー。
轟音と共に、扉が開いた。
中に入ると同時に、中央に竜巻が起こる。
竜巻が収まると、そこには巨大な鬼が二体立っていた。
「俺は、風神」
「俺は、雷神」
「前に進みたければ、俺達を倒してから行け」
「了解した」
レイは、マリアの様子を見た。緊張してはいないようだ。これなら、問題ないかな。
「俺は、左の雷神を相手するから、マリアは右の風神をお願いね。倒そうと思わなくてもいいよ。俺が雷神を倒すまで、風神の相手をしていて欲しい」
「わかりました」
剣の柄を握り直すマリア。臆してはいないようだ。それなら、問題無い。
「行くよ」
言うが早いか、レイは駆け出していた。
「シールド」
シールドで階段を作ると、駆け上がっていった。いつもの攻撃だ。
雷神を中心に円を描くように、回って行く。
雷神の頭上高くに辿り着くと、銀の紙を巻き上げる。
「銀紙閃光弾」
銀紙は、雷神の周りを回る。キラキラと、光を弾きながら、あたかも桜吹雪のように。
刹那、幾多の銀紙から、光線が打ち出される。
光線は、雷神を何度も何度も貫いて行く。雷神は、何も出来ずに、倒れた。
「雷を撃たれたら、逃げようが無いからね、攻撃される前に倒させてもらったよ。ごめんね」
ものの数分で雷神を倒したレイは、カードを投げた後、マリアの様子を見る。
風神の金棒を避けながら、攻撃を加えていた。ゾウにアリの攻撃かもしれないが、どうやら地味に効いているようだ。
堪らず、風神は、背負袋の口を開けた。風が噴き出して来る。
いきなりの突風に、マリアは身を縮めて、耐えた。
攻撃を止めたのを見計らって、風神は金棒を振り回す。闇雲に振り回している。
マリアは仕方なく、風に乗るように、後方に跳ねた。二回、三回と後方回転を繰り返して、避ける。
風神は頭上で金棒を回転させた。回転に合わせて、風が起こり、それは竜巻に変わる。その竜巻に背負袋からの風を当てる。竜巻と風が喧嘩して、火花が起こり始める。
火花を起こしながら、竜巻と風が螺旋になる。螺旋風とでも言おうか。
螺旋風は、マリアに向かって、進んで行く。
マリアは、螺旋風に向かって行こうとしていた。
「ダメだ。マリア、一度引くんだ。鎌鼬に巻き込まれるぞ」
「わかりました」
後ろでなく、横に転がって、逃げる。
螺旋風は、どうやら真っ直ぐにしか進まないようだ。
「俺が、あの竜巻を斬り捨てるから、その後で風神を攻撃して」
「わかりました」
レイは、攻撃を仕掛ける。
風神は、螺旋風を放つ。
レイは、大上段に構えたまま、シールドで階段を作って登る。
そのまま、螺旋風を切り付ける。真っ二つになると、裂けたV字の間から、風神が見えた。
そこに、マリアが攻撃を掛ける。
いきなりの攻撃に、対応出来ずに、真一文字に斬られる。
ギエー。
風神の雄叫びが上がる。
倒れる風神。
どうやら、勝負は着いたようだ。
「凄いな、倒しちゃったよ。そこまでのレベルがあるとは思っていなかったから、ビックリだよ。成長速度が早過ぎないか」
「レイさんの御指導の賜物です」
どうやら、本気でそう思っているようだ。
カードを投げて、風神もアイテム化する。
ダンジョンでは、放っておくと魔物は消えてしまう。ダンジョンに飲み込まれると言った方がいいかもしれない。アイテム化しておくと、後で色んなことに使える。
「レイさん、宝箱です。しかも、ふたつ。今日は、付いてますね」
風神と雷神がいた後に、宝箱が出現していた。これは、たまにしか起こらない出来事だった。しかも、ふたつなんて、前代未聞らしい。
「マリア、好きな方を開けてみなよ。半分はマリアの物だから」
「いいんですか、本当に」
「でも、残り物に福があるかもよ」
「何だか、こっちの箱が、私の事、呼んでるみたいなんです」
そう言うと、マリアは宝箱を開けていた。
「おー、こっちは剣です。柄と鞘が、真っ赤ですけど、超かっこいいですね」
「良かったな。しかも、それ、伝説級の品物だよ」
「そうなんですか?」
「こっちには、鑑定眼鏡だ。欲しかったんだよね」
〔炎の剣〕
炎巨人の瞳より明るく輝く剣で、火を象徴する。世界を火の海に沈めた過去を持つ神話の剣。
おお、この眼鏡を掛けて観ると、対象物を鑑定することが出来るみたいだ。
お互い、WIN WINだ。
「私は、レイさんに貰った剣で満足なんですがね」
「どちらかを予備にしとけばいいんじゃないですか。もしくは、二刀流もありだけどね」
マリアは、驚いたような顔をしている。
「まあ、その辺はおいおい考えていけば良いと思うよ」
ふたつの剣を見比べて。
「そうですね」
そう言って、マリアは、自分のマジックバックに、炎の剣を仕舞った。
「そろそろ、下の階に行きますか」
「ええ」
階段を降りると、何だか、様子がおかしかった。
草が泣いている。
森が震えている。
全てがざわついていた。
遠くの方から、人の叫び声が聞こえて来る。ひとりではなく、何人もの叫び声や泣き声が、聞こえて来た。
「何が起こってるのでしょうか」
レイは、光波レーダーを広げる。
大きな塊ひとつと、その周りに小さな点が沢山あった。
「どうやら魔物が一体、暴れているようだ。マリアは戻って、ここで待っていてくれ。僕は様子を見て来るから」
「嫌です。私も付いて行きます。何も出来ないかもしれないけれど、それでも、それでも、何か出来ることがあるかも知れないから」
真っ直ぐに、こっちを向いて、マリアはそう言った。
「わかった。一緒に行こう。その代わり、俺より前に絶対出ない事。それだけは、約束してよ」
「わかりました」
「行くよ」
レイは、一気に加速して、声のする方に駆け出した。遅れないように、必死で、マリアは付いて走った。
「あれだな」
進む方向に、巨大な黒い塊が見えた。五メートルくらいある、人だ。真っ黒い人だった。よく見ると、頭に角らしい突起が見えた。
鬼なのか。
「一気に仕掛けるから、マリアは周りの人を安全な方向に誘導して」
「お気をつけて」
レイは足元にシールドを出して、駆け上がって行く。狙うは顔だけ。
「オバエハ、ダニ、モノダ」
鬼が喋った。魔物ではないのか。
「人に名前を聞くならばあに言え」オデハ
ニヤリと、鬼が笑う。
「ダマイキナヤツダ、バア、イイ。オデハ、マジンダ。マジン、カリストロ。オボケテオケ、イキテイレバダガダ」
「ほざくな。たかが、魔物のくせに」
頭に向かって、刀を振り下ろす。
鬼は腕で受けた。皮膚が硬過ぎて、刀が通らない。いや、傷ひとつ付いていない。
後方に宙返りして、一度距離を取る。
「言うだけのことはあるようだな」
「ニンゲンゴトキガ、ホエルダ」
魔人が仕掛けて来る。
が、武器はないようだ。大きな拳で、殴り掛かって来た。
左に跳んで回避する。腕に向かって、刀を一閃する。
カキーン。
「どれだけ硬い腕なんだ。バケモンだなあ」
「オバエノ、ヒョロヒョロコウゲキダド、キズヒトツ、ズカンワ」
レイは、赤の魔石を取り出して、柄に嵌め込む。
「次は、止められるかな」
魔人に向かって、駆け出した。
魔人の拳を避けながら、上段から刀を振るう。
「火焔剣、発動」
刀から火が吹き上がる。刀自身も赤化していた。
「一気に行くよ」
高速の太刀筋が、魔人の右腕を断つ。切り口が溶けている。
「これで、一本」
シールドを出して、一気に駆け上がる。
と同時に、刀が大きく炎を上げて、そのまま焼き斬る。
溶けながら、左腕も落ちる。
それなのに、魔人は笑っている。
「ソンナ、コウゲキナド、ムダダナ。ヒヒヒヒ」
魔人が身体に力を込めると、腕が生え始めて、あっという間に、左右の腕共、元に戻っていた。
「ほお、再生出来るのか。凄いな」
体勢を立て直すと、レイは言葉とは裏腹に悩んでいた。いつまで再生出来るのかと言う事だ。一度なのか、三度なのか、それとも、永遠なのか。どうしたものか。
「それでも、斬るしか無いんだよなぁ。どちいの限界が先か、試すしかないなあ」
「ムダダ、ムダ。ワレニカテルヤ、カイムダア」
右から左へ。高速で、右足を斬る。さらに、左から右へ。稲妻のように、左足を斬る。
足が無くなって、低くなった魔人の首を斬る。
が、右腕で止められてしまった。いや、斬るより、再生の方が早くなっている。爆炎を上げて、腕を溶かして、後方に跳ぶ。
「もう再生したのかよ」
魔人の足が、文字通り生えて来た。
限界は無いのか。再生のための魔力は尽き無いのか。このままだとジリ貧だった。
「それでも、攻撃を続けるしかないか」
レイは柄の魔石を赤色から青色に入れ替えた。
炎は消えて、水の刀に変わった。
「伸びろ、水龍波」
水が龍のように変わり、伸びて行く。伸びた刀で、斬りつける。袈裟懸け斬ると、魔人の身体が斜めに落ちて行く。
「今度はどうだ」
「ムジムジ、ザンネンデシタ」
身体を持ち上げると、ふたつの身体を合わせる。
身体は、何事もなかったように、引っ付いている。
本当に無敵なのか。頭を悩ませる。
それでも、することは、ひとつしかない。
音もなく、レイは刀を水平に斬った。首が切れて、コトンと落ちる。
やはり、魔人は首の無い胴体で転がった首を拾い上げて、首の上に頭を乗せた。
「ダガラ、イッテルダド。ムリダッテ」
ふと気づく。魔人の身体の色、薄くなってないか。黒から白に変わっているような気がするのだが。
「限界が、近いのかなっと」
指でピストルを真似て、指先を魔人に向ける。そして、放つ。
光の矢が、指先から放たれた。
魔人の頭を光が通過する。
ドガーン。
魔人が、後ろの倒れた。立った状態のまま、後ろ側に倒れた。
「やったか?」
魔人は呻いていた。
「イデエヨ、イデエ。ザッキマデ、ダントモダカッタノニ、ドジダンダ、オデサマノカラダハ」
まだ再生している。
「ハラ、ヘッダノガマズインダ」
魔人は、何処からか、何かを取り出して、口に入れた。
ムシャムシャと食べている。
「アア、コレガサイゴダッタノニ」
再び、すべてが再生した。
「これは、大詰めだな」
魔人に向かって、レイは飛び込む。
躱す魔人。
追いかけるレイ。
レイの速さが上がる以上に、魔人のスピードも上がって来た。
抜き身の腕を突いて来る。当たったら、たまったものじゃないぞ。
右に左に躱す。
徐々に速くなる。最速の突きだ。
レイは、躱すのがやっとだった。
まだスピードが速くなるのか。これ以上は、避けられそうに無い。しかも、槍と化した腕は、更に巨大化していく。
レイの背中に何かが当たる。
「モウニゲラレナイゾ」
どうやら、知らないうちに追い詰められていたようだ。背中に、大木があった。もう下がれない。
「ヘヘ、ケッコウダノシメタゼ。ガクゴバイイガ」
そう言うと、再び、突いてきた。
刀で、受け流すように、槍と化した腕を受け止めた。
ピキッ。
刀が保ちそうにない。
「ジニヤガレー」
槍を引き戻して、もう一度突いてきた。
更に槍は巨大化してゆく。
槍の周囲に、稲妻が走る。魔力を思い切り込めているようだ。
「シールド百だー」
シールドの重ねがけをする。何とか保って欲しい。
ガキーン。
バリバリバリバリ。
シールドを全て壊して、槍が迫る。
レイは刀で受け止める。
ピキ、ピキーン。
刀が折れた。次は受け止められない。
「ヅギバナイゼ、ヒヒヒ」
口から垂れる涎は、魔人というより狂人か。
レイは両の手で、ピストルを真似る。魔素を取り込んで、巨大な光に変える。
振り下ろされる魔人の槍より早く、撃つ。
左手で頭を、右手で心臓を狙う。
「行けー」
ピキーン。
狙い違わず、胸には大穴が開く。頭は弾け飛ぶ。
魔人は残った部分が白くなった。身体も縮んで、さっきまでの大きさはない。
縮んで、後ろに倒れた姿は、まさしく人間だった。
「どう言う事だ」
レイは、頭の無い人間を見直す。足先から指先まで、人間のそれだった。
「大丈夫ですか」
マリアが駆けつけて来た。
「何とか倒せたよ。ただ、魔人だったはずの者が、人間に変わってしまった。俺の知らない魔法か、スキルでもあるのだろうか」
「聞いたことはありませんが。ん?この人、冒険者のストロさんじゃないですか。ギルドでよく見掛けるので覚えています。そう言えば、逃げたのは同じパーティーの人でした」
「どう言う事だ、後で、逃げた人達に聞いてみよう」
カードを投げて、取り敢えず、収納しておく。刀も壊れたので、もう一度作り直しだ。
「マリア、逃げた人達の所に連れて行ってくれないか。何だか、これから起こる悪い事の前触れのようで、気持ちが悪い。解決出来るものなら、解決しときたい」
「ええ、そうしましょう。こっちよ、ついて来て」
レイは、マリアについて行った。
魔物達の姿はなかったため、時間もかからず、逃げた者達が避難していた洞穴に到着した。