16.増員と宿舎と、とりあえずの決着と
「本当によろしいのですか?」
心配なのは分かるけど、お姉さん、しつこいです.
「大丈夫だから、私が保障するから」
マリアが一生懸命に説得してくれている。ずっと親代わりに育ててたんだもんな。なかなか納得出来ないんだろうね。時間をかけて、説得するしか無いかな.
そうだ、良いこと考えた.
「先生も、一緒に行ってみませんか?一度見て貰えれば納得出来ると思うのですが。いかがでしょうか?」
「えっ、よろしいのですか?」
「問題ありませんよ」
でも、どうやって連れて行こうか。馬車でも借りるかな。ギルドで、貸してくれるだろうか。
また同じようなことあるかもしれないから、作っちゃおうかな.借りたら返しに行かないといけないし、面倒だよね.
そうしよう.自分で作ろう.
「ちょっと馬車を借りて来ますので、準備をしたりして、少し待っててください」
この辺りまで来れば、誰も見てないよな。
でも、最近、変な視線を時々感じるんだよね。悪意は無いみたいだから、良いのだけど。
メガミフォンを取り出す.製作アプリを開いて、馬車を選ぶ.
十人乗りなら、大丈夫だろう。どんな攻撃にも耐える構造にする。武器は不要だ。どうせ、誰も扱えない。
守りに特化した馬車にしよう。
馬車を引く馬は、ゴーレム馬にしよう。敵を跳ね飛ばして行くくらい元気な馬にしよう。ゴーレム馬なら、一頭引きでいけるだろう。うーん、楽しくなって来た.
見た目は地味にしよう。賊に狙われないような外見の方がいいだろう。
ピロロン。
完成だ。
「良いねえ。でも、少しやり過ぎたかも。まあ、良いやね。さあ、迎えに行くかな」
ああ、御者がいるな。
馬を扱えるゴーレム、いるかなあ。
メガミフォンを再度開いて、ゴーレムの項目を検索する。
あった。
御者ゴーレムがあった。
「これにしよう。タイプは、流石に男性だな。女性だと、逆に襲われそうだもんな」
ピロロン。
完成だ。
すぐ出発だな。
馬車に乗って、養護施設に向かう。
「待ったかい」
マリアが駆けてきた。
「よく貸してくれましたね。ギルドって、今日の今日には貸してくれなかったりするのですが」
流石にマリアは詳しいな。
「借りる人が少なかったみたいだよ。すぐ貸してくれたよ」
ふう。冷や汗ものだな。そうのち、詳しいことは話す機会もあるだろうけど、今はまだ早いかな。時間の問題だろうけどね。
「さあ、乗って、乗って」
マリアが連れて来たのは、五人だった。養護施設出身だと、働き口が無くて、冒険者になるくらいしか無いらしい。養護施設出身と言うだけで、嫌がられるみたいだ。どこの世界も、世知辛い世の中だ。
「みんな、乗ったかな」
「はい、これで全員です」
「それじゃあ、出発だね。ヒスイ、頼んだよ」
「任せてくだせい」
手綱を引くと、ゴーレム馬は動き出した。
馬車の中は、三人掛けが二列と、四人掛けが一列ある。後ろには、ちょっとした物を置けるスペースがある。後々は、簡易キッチンに改造したい。トイレも欲しいとこだが。流石に、やり過ぎかな。
「みんなには、簡単に説明はしときました」
マリアがそう言うと、それぞれが話始めた。
「僕はレッドと言います。簡単な料理なら出来ます」
真面目なハンサム君と言った感じの男の子だった。
「俺は、イエロ。お菓子作りなら得意だよ。砂糖があまり使えなかったから、たまにしか作れなかったけどね」
身長は低いが、やる気が溢れている様に見えた。毎日が楽しくて仕方がないのかな。
「うん、イエロの作ったお菓子は、本当に美味しいですよ。私は、グリンです。料理は得意と言うわけではないけど、今は無理でも、頑張って働きます」
イエロの後ろに隠れるようにして、顔を覗かせた。恥ずかしがり屋なのかも知れない。ポニーテールの似合う女の子だった。
「私は、ブルーと言います。どちらかと言うと、頭脳労働が得意です」
背が高くて、優しそうだ。細いがしまった身体をしている。頭脳派と言うより。肉体労働が嫌いなだけに見えるが気のせいだろうか。
「あたしは、モモ。頭脳労働より、肉体労働が好きです」
可愛らしい女の子だ。短い髪の至る所が跳ねている。元が良いのだから、もう少し見た目を気にした方がいいと思うのだが。でも、ちょこちょこ動いて、危なっかしそうだ。気をつけて貰いたい。
「皆んながキチンと出来ているのを確認するまでは、私は帰りませんからね。遅くなりましたが、私は、ミレーユと言います。よろしくお願いいたします」
養護施設の職員さんも、やる気になっているようだ。
ただし、足を広げて、腕を腰にやる仕草は、折角の美人が台無しだ。馬車が揺れても仁王立ちだ。すごい体幹だ。
まあ、みんな、きちんと挨拶は出来るようだから、問題ないな。
これは、イート君が喜ぶだろうな。
「何をしてもらうかは、向こうで、代表のイート君と相談して、決めたいと思います」
みんな、うなづいている。
「出来るだけ、希望に添えたいと思うから、安心して欲しい」
馬車は山道に差し掛かった。道も狭くなり、魔獣も出易くなる。この子達に何かあっても困るので、光波探索ソナーを飛ばして、周囲の状況を確認しながら進んで行く。
森の中に入った事で、辺りが暗くなったせいか、みんなも緊張しているようだ。
「さあ、着いたよ」
魔獣に襲われることもなく、僕たちはダンジョンに辿り着いた。
御者の席の後ろには、中が見える小窓が付いている。
「ここからは、歩きだよ。迎えが来てる筈なんだが、何処に居るかな」
周りを見回すと、ダンジョンの入口から、アリスが現れた。
「魔物を倒すのに夢中になって、遅くなったのー」
「俺達も今到着したばかりだから、大丈夫だよ」
馬車から降りると、同じように、中の人も次々と降りてきた。
「御者さん、馬と馬車の面倒をお願いします」
表面上は、借りた体を取る。様子を見て、マジックバックに仕舞えば良いだろう。いや、御者ゴーレムにマジックバックを渡しておくかな。適当なところで、閉まってもらって、パールに迎えに来てもらおうか。
「みんな、離れないように、ついて来てよ」
「はーい」
「アリスは、前方の魔物の処理をお願い」
少し歩いて、ダンジョンの危険さを観てもらったら、隠れて転移する予定だ。勝手に出歩いたりしないと思うけれど、念には念を入れておかないとね。ダンジョンは危険な所だと認識してもらう必要があると思う。
「もう良いよー、アリス」
やり過ぎだっての。アリスの凶悪さを見て、みんな、ビビってるよ。全く、どれだけ戦闘狂何だか。
「あの子、強すぎませんか?守ってもらってて、何なんですが、魔物達が可哀想に見えるのは気のせいでしょうか」
マリアの言うことも、ご尤もだった。見なくてもいいものまで見えそうなので、早々に転移することにしよう。
あの大樹の裏くらいが良いかな。
「みんな、ちょっと待ってね。少し準備するから。アリス、みんなを見ててね」
はは、アリスはみんなに揉みくちゃにされているようだ。どうして、あんなに強いのかと、質問攻めにあっている。
さて、今のうちに、準備しようか。
マジックバックからタブレットを取り出して、転移ドアを選んで、大樹の裏に、仮で取り付ける。行き先は宿屋の僕の部屋だ。部屋といっても、ほとんど転移先となっているだけだ。だから、何も無い部屋だ。
転移ドアを開けて、みんなを呼ぶ。
「みんな、お待たせ。ここから、入ってくれないかな」
不安気だが、全員がドアを潜って行く。
「みんな、部屋に出たら、端に寄って、待っといてね」
全員がドアに入ったのを見届けて、俺も入る。もちろん、ドアはマジックバック行きだ。
「ここ、何処ですか?」
みんな、キョロキョロしている。
何も無い部屋だけどね。
「宿屋の俺の部屋だから、安心していいよ」
と、ゆっくり出来たのは、ここまでだった。
宿屋の食堂は、今日も大繁盛で、パニクってました。
マリア達6人はすぐに対応してくれている。養護施設の職員さんも、一緒になって応援してくれるようだ。イート君も少しホッとしている模様です。
紹介は、また後でいいよね。今は、それどころでは無さそうだし。
俺は後退りしながら、一時撤退です。アリスも、こっそりとついて来ています。
俺達は、彼らの泊まるところを作ったりしないといけないので、お城に戻ることにしました。
いつもいつも付きっきりでの送り迎えは出来ないから、お城行きの転移ドアを少し大きめに改造しておくかな。僕の部屋の転移ドアを改造するだけだから、今のうちにしておこう。
お城の庭の一角に、宿舎みたいな建物を作ろうか。その方が、彼らもゆっくり出来るはずだしね。
することが、どんどん増えていくんだが、大丈夫だろうか。
あー、ドツボにハマりそうだ。
忘れないうちに、転移ドアだな。
転移ドアの改造は、終わった。
ちゃんと機能するか、確認して、お城の方に来ている。
宿舎は、広い庭の一画に作ろう。二階建てが良さそうだ。各自の部屋は、二階に作ろう。一階は、みんなで集まれるくらい広いリビングに、小さめのキッチン。お風呂もいるな。男女別々にするから、二個必要だ。大浴場とまではいかないが、後々の事も考えて、十人くらいは入れる大きさにしておこう。
転移ドアも、忘れずに取り付けよう。好きな時に、宿屋に行ける方が便利だよね。
細かい所は、それぞれに聞いてからにしようかな。
「こんな所かな」
忘れている箇所はないか、よく考える。うん、大丈夫だ。
後は、宿屋の方が、上手くいっていることを願うだけだな。
これで駄目なら、やり方を変えないと不味いな。
そろそろ、いい時間だし、ドアの説明を兼ねて、迎えに行くかな。
先に帰って来たパールに伝えよう。
「パール、みんなを迎えに行って来るよ。一緒に行くかい」
「行きたいのはやまやまですが、皆さん、疲れて帰って来られると思いますので、夕食の用意をしておきます」
「それが良いね。それでは、行って来ます」
ドアを開けて、中に入る。
中は白い世界だ。白い膜に身体を捩じ込むようにして、通り過ぎる。
別なドアがあるので、それを開ける。
そこは、宿屋の俺の部屋だ。
何も無い部屋の反対側の扉を開ける。
廊下を通って、階段を降りると、みんな、床に寝転んでいた。レッド達五人、は疲れて果てて寝ているようだ。
「マリアさん、生きてますか?」
「何とか、生きてますよ。久しぶりに動いたので、疲れました」
だから、君達を連れて来たんだよ。
「美味しい夕食を用意させてますから、もう少し、頑張ってください」
「わかりましたー」
「職員さん、ミレーユさんでしたっけ。大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。ただ、こんなにハードだとは思っていなかったものですから」
そう言って、椅子で寄りかかって、ぐったりしている。
イートくん達は。それでも何とか立ち上がって、片付けを始めた。それは、ゴーレム達に頼んで、宿舎に戻るようにしよう。
「イート君、明日はお休みにしよう。片付けは、ゴーレム達に任せて、城の方に帰ろうよ。イート君はともかく、他のメンバーが、もう無理そうだ。帰って、夕食の後に、今後の相談をしよう」
手を止めて、振り返るイート君。
「お休みにして、大丈夫なんですか」
「お店の前に、貼り紙を貼っとくし、泊まり客はまだ少ないし、ゴーレム達に任せれば、大丈夫だよ」
ふう、と息を吐く。
「わかりました。それでは、皆さんと一緒に帰りましょう」
「ああ、それがいい。ゴーレム達、後は頼んだよ」
「はい、わかり、ました」
そう言うと、ゴーレム達は片付けを始めた。
みんなでお互いに肩で助け合いながら、立ち上がった。それでも、笑顔で、俺の部屋に向かった。
「この部屋にある、そこのドアは宿舎につながっている。念の為、みんなのことを登録するから、少し待ってね」
俺は、タブレットを取り出して、この扉の通行可能者として、みんなを登録した。
「よし行くよ。扉を開けて、通るだけだから、軽い気持ちで通ってね。それでは、ひとりずつ、お願いします」
それを聞いて、一番にイート君達が入って行った。続けて、マリアに、レッド他のメンバーも通過する。最後に、ミレーヌさんが通るのを待って、俺は入って扉を閉めた。