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12.工事するダンジョン

 「これで、様子を見ようか」

 最下層に集まって、僕たちは、壁のスクリーンに見入っていた。

 一階から四十階までは、どの階も人で溢れるだろう。宝箱も多めにセットしておいた。魔物も、溢れるくらいにセットした。後は、ここの知名度を上げれば、予定通りになるはずだ。

 人が溢れるのは良いことだが、攻略されては元も子もないから、四十一階からは、難度を上げている。もちろん魔物の強さを上げているが、人の住み難いと言うか、長時間は居られないような環境にしている。

 暑さが尋常で無い火山地帯。

 寒過ぎて、凍えそうな雪原地帯。

 常に雨の降っている豪雨地帯。

 他にも、人には生きづらい階層を四十五階まで作った。これで、Aランクの魔物でなくても、地理的優位に立てるはずだ。Bランクでも充分凌げると思う。

 そして、四十九階までは、Aランクの魔物のオンパレードだ。これで、そう簡単には、攻略出来ないはずだ。

 

 「少し凶悪過ぎないですか?」

 どうやらクリムは心配しているようだ。人が来なくなると、ダンジョンマスターの価値が下がるからだ。

 そんな価値がいるのかと思うけれど、ダンジョンマスターの間では大事なのだそうだ。よくわからん。

 「少しくらいは凶悪にしておかないと、攻略されちゃうぞ。でも、攻略されたら、どうなるの?」

 「当然、私は消滅します。このダンジョンも崩壊します」

 「それなら尚更、少しくらい凶悪にしとかないとね。四十階までは、難易度が低いんだから、人はそこにいっぱい集まるから、大丈夫だよ。それに失敗したら、また変えればいいんじゃないのかな」

 「オーナーが、そう言うのであれば、信用しますが」

 「もしもが無いように、四十一階から四十五階までは、俺が製作したゴーレム達をリーダーにして、階層を守らせるから大丈夫だよ」

 「わかりました。でも、今度は、少し過剰では?」

 「いやいや、万が一があるからねえ。念には念を入れとかないとね。クリムも出来れば、Sクラス当りを何体か用意しといてよ」

 「わかりました」

 「力はあるのに越した事は無いからね」

 「四十六階以降は、どうしますか?」

 「皆んながそれぞれの階を担当するのは、どうかな?四十六階は、ルビーとサファイアに半分任せて、残りは俺の住居兼攻防にしたいんだよね。ハチミツがいっぱい取れるかもしれないしね。四十八階はアリスが、四十七階は俺が研究所にしたいんだよね。そして、四十九階はクリムでどうかな。面白そうだと思わない?」

 「あたしも、するなのー。凄いの作るなのー」

 「それでは、暫くは自由行動と言うことで、お願いするよ」

 「期限を区切った方が良いなのー」

 「とりあえず、一週間にしようか」

 これで、暫くはゆっくり出来るかな。

 「それでは、ダンジョンマスターの権限を、一時的に譲渡いたします。ただし、それぞれの階層限定にします」

 クリムの目の前に、タブレットがニ台出現した。

 それを一枚づつ、手渡す。

 「使い方は、タブレット自体が教えてくれますので、不明点は、タブレットに聞いてください」

 「はーい」

 「ティンクは、アリスに付いといてね。少し怪しいから、ね」

 「わかりました。でも、私は、レイ様の相棒なんですけどね・・・」


 「さて、どんなダンジョンを造ろうかな」

 この階まで、来れるやつなんて、そうそういないだろうけれど、やっぱり万が一ってことがあるからなあ。真ん中にお城を作って、秘密基地化するのは、どうだろうか。秘密基地は、男の夢だもんな。ロマンですよね。

 そうなると、やっぱりゴーレムとかが必要になるなあ。メイドや執事っぽくするかな。

 でも、凄いお城を造っても、誰にも見られないのは悲しいなあ。案外、四十階までの途中に造った方が面白いかも。湖の真ん中に造って、近寄れないようにすればオッケイじゃない。

 三十一階層くらいを自由にしてもいいか、後でクリムに聞いてみるかな。


 クリムから承諾してもらったので、三十一階層に秘密基地を造ることにした。

 タブレットを取り出して、まずは色々と試してみることにする。

 階層の中心に湖だな。そこに、島を造って、その上にお城を建てることにした。モデルは、シラサギ城だな。

 石垣の上に、ドドーンとお城を建築しよう。

 湖の周囲は、森がいいかな。そうすれば、魔物も住みやすくなるかな。あまり強い魔物は要らないかな。強い魔物は、全部湖に住まわせちゃおう。船で、近づいて来るようなら、沈没させるだけでいいからね。

 島の周囲には、塀が欲しいね。周りから見られないようにしないとね。塀の中で、畑を作ってみたいしね。美味しいものは、自分で作らないとね。

 ひとりだと大変だから、作業ゴーレムを五体と、メイドゴーレムを一体かな。あとは、執事ゴーレムも欲しいね。居ない時に任せれる人材は、必要だよね。

 タブレットを操作して、巨大な湖と。中央に大きな島を作成する。

 大地に大きな穴が開いたかと思うと、中央に盛り上がりが出来て、水が低いところから湧き出して来た。

 あっという間に、湖が出来上がった。

 島には木が生え始めた。中央には生えないようだ。お城を作るために、開けとくように操作したから、当たり前だけどね。


 メガミフォンを取り出して、アプリを開く。

 製作アプリの中から、お城を選ぶ。

 参考は、シラサギ城っと。実物の半分くらいの大きさにする。門は西側正面に一つあれば良いかな。左右にはゴーレム用の小天守閣を置いてっと。東には後々のための小天守閣かな。

 本丸の大天守閣は、五階建てくらいで良いかな。白漆喰の外観を美しく仕上げよう。

 細かい設定は、アプリにお任せかな。これで、オッケイをポチッと。

 内装は、外装とは真逆にマンション風にしたよ。流石に、畳と板張りは大変だからね。

 後は、出来てからのお楽しみかな。

 「おー、大地から石垣が生えて来た」

 凄い勢いで、出来ていく。明日までには完成するみたいだ。

 完成後、お城の周囲に五メートルくらいの石塀を作ろう。そうすれば、中で何をしてても見えないしね。

 することも無くなったし、五十階のスタッフルームに帰ろうかな。あそこも、少し整備しないと、ただの洞穴だもんな。リビングルームみたいな部屋がいるよな。シャワー室か、お風呂も欲しいな。寝るところは、自分のエリアに帰れば大丈夫だから、いらないかな。 

 クリム用に作ってやるかな。

 忘れてならないのは、仕事部屋だね。洞穴だと、良い仕事は出来ないよなあ。

 あーあ、する事だらけだなあ。

 楽しいから良いかな。

 考えてても仕方ないか。戻って、作業しよう。


 「やっと三十一階まで来れたな。三十階のボス戦は苦労したよな。ジョンの最後の一太刀が決め手になってくれて、助かったよ」

 「もう戦う力も気力も残ってなかったから、ほっとしたわ。全滅かなって、諦めてたもの」

 「そうだよなあ。お陰で次の階層に行けるんだから、助かったよ。ジョン、様様だよ」

 ジョンは、剣を鞘に納めて、汗を拭う。

 「いやいや、皆んなの力だよ。ひとり欠けてても、倒すことは出来なかったさ」

 「どうしたの、今日は。いつもなら、俺が居たからだとか言う癖に」

 小ぶりの岩に、ジョンは腰を下ろした。その周りに、各々腰を下ろした。疲れ果てて、立っとくのも億劫だった。

 「少し休憩したら、三十一階に降りてみるかい。ヤバいと思ったら、すぐにひっ返せば良いだろう。どうだい」

 「私は賛成。ここまで来たんだし、下の階の様子を見ておきたいわね」

 「そうだよな。僕も賛成だな。ナタリーは、どうだい」

 「私も、メルと同じで賛成よ」

 「決まりだな。スティーブ、前衛を頼む。その後を僕が行くから、後ろをナタリーとメルに任せるよ」


 巨大な盾を構えて、スティーブは階段を降りて行く。

 十メートル程度の階段を降りきると、広々とした森に出た。

 中央には、湖が見えた。湖の中には、島があった。

 「あの島、可笑しくない?ぐるりと石の塀に囲まれてるよ。何なの、あれ」

 湖に向かって、広い道が伸びていた。

 「とりあえず、行ってみる?」

 「そうするか。でも、様子を見て、ヤバいと思ったら、即撤退だからな」

 「わかっているわよ。今回は、様子見でいいわ」


 「魔物はいそうか?」

 「ええ、居るには居るけど、どうやら、この道には出て来ないみたい。道から、五メートルくらいの所で、立ち止まっているみたい」

 「この道に結界の魔法でもかかっていると言うのか」

 「それは、無理じゃない。大仕掛けになるもの。普通の魔法使いには無理ね。それこそ、英雄クラスでないと」

 「だよなー」

 そんな事を話しているうちに、湖に出た。

 澄んで、とても綺麗な湖だ。

 「ねえねえ、巨大な水棲魔物が、至る所に見えるんだけど。目の錯覚かしら」

 「いや、いるね。うじゃうじゃいるよ」

 「まるで、あの島を守っているようだな」

 水竜が、跳ねた。

 「あんな大物までいるの。あの島に渡るのは、無理じゃない」

 百メートル先の湖畔に、開けた場所が見えた。キャンプするのに、ちょうど良さそうだ。

 「今日は、ここに一泊してみないか。明日もう一日様子を見て、行くか、戻るか、決めようじゃないか」

 ジョンはそう言うと、テントを取り出し始めた。


 「なあ、ナタリー、あの石塀まで、マジックアローが届かないか。おまえさんなら、届きそうな気がするのだけど」

 「ギリギリ届くかしら。何のためにするの」

 「あの石塀の強度が知りたいだけだよ」

 「住んでる人が、怒って出て来たりしないかしら」

 「大丈夫だと思うよ。あの石塀、人為的に造ったものにしか見えないから。あんな所に、あんな物を造れるやつが、そんなチャチな物を造るとは思えない。多分、傷ひとつ付かないと思うな」

 「それはそれで、ショックかも」

 魔法を唱えて、両手を島に向かって、伸ばす。

 「マジックアロー!」

 魔法の矢は、湖面を滑るように進むと、石塀に当たった。

 ああ、矢は四方に弾けて、消えた。傷ひとつ付いてない。

 「あれは、ダメだな。無視して、下の階に進もうか」

 「賛成だわ。島まで渡れないし、石塀を壊せそうにないし、お手上げね」


 「凄いな、ここまでマジックアローの届く魔法使いがいるとは、思わなかったよ。あれくらいじゃあ、傷ひとつ付かないけどね」

 石塀の中に、作っている畑を見回りながら、レイは攻撃に気付いていた。

 相手をする必要もないし、無視するつもりだ。

 湖を渡って来れるようなら、相手をするが、今は必要ないようだ。

 「レイ様、そろそろアプルの収穫時期ですが、いかがいたしましょう」

 ゴーレムの睦月、それを言いに来た。

 「如月と、弥生なら、手が空いてると思うから、一緒に収穫してくれるかな」

 「わかりました」

 お辞儀をすると、睦月は離れて行った。

 俺も後で、様子を見に行こうかな。

 「栽培してばかりしても、倉庫が一杯になるからな。何処かに売りに行きたいな。白の女王に相談してみるかな。勝手に店を出すと、文句言われそうだしな」

 上手く売り込んで、店を出してもらって、順調に行き出したら、色々と見て回りたい。この大陸には、白の女王の元、四つの領がある。四天王と呼ばれている大臣達が、それぞれの国を収めているようだ。

 ルビーとサファイアは、順調に仲間を増やしているようで、偶に蜂蜜を差し入れに来てくれる。嬉しい事だ。

 「そう言えば、最近アリスを見ないけど、どうしているのかな。様子を見に行くかな」

 レイは白鷺城に似せて造った自分の城に戻った。

 

 「お帰りなさいませ、ご主人様」

 「アンバーか。少し留守をするから、後を頼む。色々と作物が育っているみたいだから、適当に収穫するように、皆んなに言っといてくれ。睦月、如月、弥生の三人にはアプルの収穫を頼んでいるから、それ以外を頼む」

 「承りました」

 「パールを一緒連れて行くよ。転送の間に呼んでくれ」

 それだけ言うと、地下室に向かった。転送の間は、そこにある。

 各階に簡単に跳べるシステムだ。

 これがあるから、僕たちは簡単に移動出来る。

 ただ、誰でもが使えるわけではない。登録してある者達だけだ。


 「レイ様、お呼びでしょうか」

 「ああ、アリスの所に行こうと思って。パールも付いて来て」

 「わかりました」

 俺たちは、倉庫の奥にある魔法陣の上に乗った。

 瞬間、足元の魔法陣が光り輝いて、空間がぶれる。

 と、同時に、姿が消える。


 現れたのは、小部屋の中。最下層だった。

 目の前の扉を開けて、部屋から外に出る。

 「皆んな、いるじゃないか」

 スクリーン前のソファに、クリムはもちろん、アリスも座っていた。

 「アプルの実ができたから、持って来たよ。味の感想を聞かせて欲しい」


 「美味しいなのー」

 アリスは、いつの間にか食べていた。

 クリムは恐る恐る口にした。こいつは、物を食べなくても生きていけるから。食事に必要はないのだが、最近色々と口にするようになった。

 「ケーキの方が好きですけど、これも美味しいですね」

 「クリムも味がわかるようになって来たな。ケーキばかり食べてちゃ、身体に悪いから、色んな物を食べるようにしろよ」

 「わかりました、オーナー」

 「マイダンジョンの具合は、どうだい」

 「もっと強い魔物が欲しいなのー」

 両手にアプルを持って、アリスは言った。

 「魔物の平均レベルは、いくら位だい」

 「Sランク平均なのー。十匹しか居ないけど、全部Sランクにしてやったなのー。育てるのが、楽し過ぎたなのー」

 「それは凄いな。やり過ぎだけどな」

 「全コンプリートを目指すなのー」

 「秘密基地とか造ったのか?今は、何処に住んでるのかな」

 「ここなのー」

 クリムがヌルッと顔を出して来た。

 「アリスさん、色々と煩いんです。自分では何もしないんです。私はメイドでは、ないのです」

 珍しくクリムが怒っていた。余程だったのかな。

 「そうだな、アリスにも召使を造る約束をしてたな。早めに造るから、キチンと住むところも造りなよ」

 「わかったなのー」

 ほっとしたのか、クリムはスクリーンの前に戻っていった。

 「レイは、どうしてたなのー」

 「お城もどきを造ってた。周囲に畑を作って、ゴーレム達に任せてる」

 「あたしも観に行くなのー」

 「後でな。こっちを少し、住みやすい場所にしてな。相変わらず、洞穴って、可笑しいだろう」

 俺はパールを連れて、部屋の製作を始めた。


 「こんな感じで、どうかな?」

 イメージは、ホテルのロビーかな。

 壁は、全て板張りにした。最も広い部屋に、スクリーンがある。スクリーンの周りにひとり用のソファーを置いて、それぞれにサイドテーブルを付けた。

 隣の部屋は、会議室。楕円の大きなテーブルを囲むように椅子を配置している。部屋の隅には、ちょっとしたキッチン。その横に、冷蔵庫。飲み物用だ。中には、各種飲み物を入れてある。

 その隣は、休憩室かな。仮眠用のベッドも完備している。必要無いかもしれないけれど、必需品だ。

 もちろん、トイレとシャワー室も用意した。

 これで、いい環境になったと思う。

 「これは、凄いですね。ゆったりと、ダンジョンの監視が出来ますね」

 「だろう。これで、みんなも集りやすくなるし、定期的に会議をするのも良いよね。今は、誰が何をしているか、わからないからね」

 「他にも必要なものがあれば、遠慮なく、言って欲しい」

 「わかりました、マスター」

 クリムが嬉しそうだ。

 「それじゃあ、自分の階に戻るよ。アリス、本当に付いて来るのかい?」

 「うん、行くなのー」

 

 魔法陣から降りると、アリスは一目散に外に飛び出して行った。

 「慌てなくても、大丈夫だよ」

 外では、アリスが仁王立ちでお城を眺めていた。

 「レイ、これ凄いなのー。あたしも、ここに住むなのー」

 「自分の階に、家を作れよ」

 「あたしには、無理だって、わかったなのー。だから、ここに住むなのー。だから、あたしの部屋が欲しいなのー」

 「わかった、わかった。パール、アリスに部屋を選べさせてやってくれ。余っている部屋がいっぱいあるはずだから」

 「やったなのー」

 「それでは、アリス様、こちらへどうぞ」

 パールは、アリスを連れて、階段を上って行った。

 アリスの方からティンクが飛んできて、俺の肩に止まった。

 まあ、アリスは手元に置いとく方が、安心出来るから良いかな。


 「レイ様、お戻りになられてましたか。島の外の南廻りに作った空き地が、凄いことになっております。冒険者で、溢れ返っているようでございます」

 「まあ、そうだろうね。ダンジョンにあって、天国のような場所だもんね」

 「このままでは、まずいかと。広げるか、何かしないと、冒険者の間で、喧嘩でも起こりそうな勢いでございます」

 どうするかなあ。先々には、ホテルもどきでも建てようかと思っていたのだが。困った問題だな。

 「とりあえず、空き地をもう少し広げておくよ」




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