10.ルビーとサファイア
宿で一泊して、これから、ダンジョンに行きます。
もう少し、この国の状況が知りたいと思ってるけど、ダンジョンとかあるみたいだし、国のことよりやはりダンジョンに興味津々なんだよね。後で、お店とかも回っておこう。食料品を買っとかないと、調味料が少ないんだよね。肉は、その辺の魔獣でもいいんだけどね。
ちなみに、ダンジョンの魔獣は魔物と言って。区別しているそうです。
この国の他の領都や、他の国とかも見たいけど、それはオークションが終わってかな。ガチャードさんにも、それまではいて欲しいと言われてるしね。仕方ないかな。
「アリスは、どうする?」
「あたしも、やっぱりダンジョンに潜りたいなのー。凄く面白そうなのー」
「そうだよな、やっぱりダンジョン見たいよな。今日はダンジョンに潜ってみようか」
「それがいいなのー」
「遠くのダンジョンから行ってみますか。近いと人が多そうだし。嫌でしょう」
俺たちは南門に向かった。この門から出るのが、一番近いらしい。
門番の横を通り過ぎる。特に何も言われなかった。チラリと見られたようだが、それだけだった。でも、キチンと門番をしていることにビックリだ。物語の中だと、何かしらの問題が起こるのがここである。
身分証は、入る時だけ必要らしい。
ギルドでもらったから、見られても問題ないけどね。
森を抜け、林を越え、山を迂回して。
「着いたのー」
ダンジョンの前の広場には、色んな店があった。
これは、小さな街だな。
武器や防具はもちろん、薬屋や魔道具屋に至るまで、何もかもがここで用意出来そうだ。まあ、今回はは特に用意するものは何もないけれど。
入口には門がそびえていた。たまに出て来る魔物から、街を守るためだそうだ。
スタンピードとか言ったかな。定期的に、魔物が溢れ出て来るらしい。とは言っても、何年に一度位のレベルらしい。その対応のために、ここにも門番や騎士の待機所があるそうだ。常に、五十人程度詰めているらしい。訓練の一環もあるみたいだ。どちらにしても、ご苦労なことだ。
「さて、入りますか」
俺たちは、ダンジョンに足を踏み入れた。
二十メートルくらいあるだろうか。短めの洞窟を抜けると、草原に出た。暗かった洞窟から、一気に明るくなった。ここって、本当に地下なのかと言うくらい明るい。地下なのに、空が高い。本当に不思議な所だ。
何層まであるのか、未だに終わりが見えないらしい。有名なギルドのパーティがかなり深くまで潜っているようだ。まあ、頑張って欲しい。俺達は、楽しければ、そんなことに興味はない。
「さて、下に降りる階段を見つけますか」
階下に行くには、階段を探すしか無い。しかも、どこにあるか、わからないときた。
「あたしは、あっちだと思うなのー。なんか、いっぱいいるし、絶対にあっちなのー」
「任せるよ。ついて行くから、先行、よろしくー」
あー、魔物の群れに、もう突っ込んでいた。俺のも残しといてくれよ。
いい加減、魔物の相手は疲れたよ。
「少し、休憩にしようよ」
「仕方ないなのー」
地下なのに、日が照って、暑い。木陰で、休憩だ。魔物も、数えられないくらい倒したし。一階なので、まだまだ弱いのだけどね。
「何か、甘いものがほしいなのー」
「そう言えば、蜂蜜があったよな」
アイテムボックスから、蜂蜜の固まりを取り出す。
早速、アリスは摘んでは食べている。
ティンクも摘まんでは、舐めている。
「美味しいなのー。頬っぺたが、落ちそうなのー」
「あー、生き返りますね」
「うん、美味いな。ん?」
蜂蜜の中から、何かが出て来た。丸い卵のような形だ。何だろう?」
「それは、魔物の卵ですね」
ティンクが忘れた頃に、そう呟いた。
「蜂の卵です。とは言え、魔物の蜂ですが」
卵はふたつあった。
赤と青の卵がふたつ。僕の手の中にあった。
「どうしようか、この卵」
「飼えばいいなのー」
魔物を飼うのか。ちゃんと言うことを聞いてくれるのかな。
「どうすれば、孵化させることが出来るんだ。ティンク、わかる?」
「流石に魔物のことまでは。でも、レイ様が、所持しておけば、いつか孵りますよ」
いつまで所持しとけばいいんだか。とりあえず、マジックバックにでも入れとこうか。
でも、マジックバックの中って、生き物は駄目なんじゃないかな。それなら、何故今まで無事に入っていたのかな。卵だからかな。
とりあえず、ブランクカードに収納しておこうかな。
「悩んでも仕方ない。前に進もうか」
「進むなのー」
結局下層では、相手になる魔物がいないので、一気に十層まで来てしまった。
アリスが張り切っているから仕方ないのだけど。
今も、ゴーレムを相手に蹂躙している。
俺はその後を辿って、魔石や使えそうな素材を拾っている状態だ。もしかして、一度も戦っていない気がするなあ。
おー、一段とデカいゴーレムが現れた。身体の表面が赤いのは、気のせいだろうか。
「あれは、ファイヤーゴーレムですね。普通のゴーレムの数倍強い魔物です。アリス様は、大丈夫でしょうか?」
「どうだろう。多分、大丈夫だと思うよ。まだ、飛び道具を隠しているから」
アリスは、大剣を背負いなおして、アイテムボックスから、何かを取り出した。
パチンコだ。Y字形の木にゴム紐を張って、石を飛ばすあれだ。ただし、アリスの持っているのは、俺の試作品だけど、性能は凄いよ。
Y字形の木には樹木の精のトレント材を使っているし、ゴムはジャイアントスパイダーの糸を織って作ったものだ。弾も、ドラゴンの鱗を丸くして使っているから、止めれる盾なんて、無いんじゃないかな。見てて、楽しみだと思うよ。
Y字形の木を左手に持って、ゴム紐を引っ張る。
狙いを定めて、ゴム紐を放す。発射だ。糸を引くように跳んでいく。
弾がファイヤーゴーレムの額を打抜いた。
いきなり動きを止めて、ファイヤーゴーレムは後ろに倒れた。身体の火は消えて、燻っていた。
「レイ、このパチンコは凄いなのー」
脚を大きく開き、腰に手をやって、パチンコを掲げていた。
「ちょっとやり過ぎでは」
ティンクもそう思うか。うん、俺もそう思う。
「悩まない、悩まない、前進、前進」
俺は、アリスと一緒に歩きだしていた。
結局、二十層まで、あっという間だった。
グルグル、グルー。
忘れてた、あれはアリスのお腹の虫だ。そう言えば、昼を食べるのも忘れて、ここまで来てしまった。
「今日は、この辺に泊まるとするか。晩御飯にしよう」
「それが、いいなのー。お腹が空いたなのー」
「おはよーなのー」
「おはよう。何気に早いんだ」
「日が上ると、目が覚めるなのー」
テントの外には、魔物の山が出来ていた。朝早くから、何やってんだか。
外に出るために、テントを片付けた。
「ん?」
ブランクカードの中で、何かが暴れている。何だろう。
カードを取り出すと、中から何かが飛び出して来た。
俺の周りをグルグル回り始めた。赤と青の線が、渦を巻いている。僕に何かをするわけでもなく、様子を見るかのように、旋回しているようだ。
よく見ると、蜂だ。マジックバックに入ってた卵から、あの蜂達が孵ったようだ。
どうやら、カードの中で、孵化してしまったようだ。
「言葉は、さすがに通じないかな。うーん、どうしよう。それなら、こっちの言葉がわかるのなら、はい、なら、円を描くように飛べるかい?」
蜂達は、大きく円を描いて飛んだ。どうやら、話が通じるらしい。
「無理やり連れて来たみたいで、悪かったね。もう自由にしてもらって、いいよ。好きな所に行きなさい」
蜂が八の字に旋回を始めた。
「もしかして、✖️ってことかな。行く所が無いのかい?」
今度は円を描いて飛んでいる。行くとこないのなら、どうするかな。
考えていると、蜂達は、カードの中に飛び込んで行った。
「そこがいいの?」
飛び出して来ると、円を描いて、旋回した。
「まあ、いいか。その代わり、言うことは、ちゃんと聞くんだよ」
もちろん、蜂は旋回を始めた。
「この子達に、名前がいるなのー」
アリスは、たまに良い事を言ってくれる。
名付けかあ、どうしようかな。二匹分だからなあ。うん、赤と青だから、ルビーとサファイアにしよう。
「ルビーとサファイアに命名します」
「レイは、センスないなのー」
「赤と青だし、抜群でしょう」
「まあ、レイにセンスを求めてもダメなのー。だから、あたしが、鍛えて来るのー」
そう言うと、アリスは二匹を連れて、森の中に入って行った。
偶には、レベル上げとかないと、アリスに置いていかれそうな、勢いだ。
マジックバッグから、刀を取り出す。光波の輪を広げて、周囲の様子を窺う。一種のレーダーの役目をしてくれる。光波の輪をどんどん広げて行く。居た。
右手奥、百メートルくらいだろうか。魔物の集団だ。何かまでは不明だが、大きさとサイズくらいはわかるから、かなり使える魔術だ。
「さて、行きますか」
足元が悪いので、地面から十センチくらいの所に、シールドを並べて行き、その上を走る。俺のシールドは一度衝撃を与えると割れるため、何度も、何枚も出しては、踏んで走る。これなら、足元を気にしなくてもいいから、かなり楽だ。
そんなことを考えているそばから、現場に到着した。
あれは、ミノタウロスだ。牛頭人身の怪物だ。それが、群れを成していた。十頭はいるだろうか。
まずは、刀で勝負してみよう。アリスが獲物を全部攫ってしまうから、出番がなかったんだよね。
「シールド」
階段のように、シールドを積み上げて行く。
一段一段、駆け上がる。
ミノタウロスの上空、五メートルくらいまで上がる。
そして、そのまま、一気に駆け降りる。
勢いを付けて、一閃。連続で、斬りつける。
しかも、相手が気が付かないうちにだ。
訳もわからないうちに、半分が頭を飛ばして、倒れていた。
それをもう一度繰り返す。
駆け上がって、一気に駆け降りて、一閃。
気がつくと、ミノタウロスは全て倒れていた。
「まあまあだな。一度で全部を倒せるくらいでないとなあ。一対一で負ける気はしないけど、いつもそうなるとは限らないから、一度で何百も何千も倒れるくらいでないと、そのうち高い壁にぶつかりそうなんだよな」
光波レーダーを、発動する。
前方百メートルに、また魔物の固まりを発見する。
今度は草原のようだ。足元は、それほど悪くないので、普通に走ることにした。
見えて来た。
魔物は、巨大な蛇のようだ。体長二十メートルくらいはあるだろうか。胴体の太さは、僕の身長を越えているかな。S字を書くように、移動している。身体の大きさの割に、素早そうだ。
俺は数枚の銀紙を魔物に向けて、投げ付けた。
キラキラ輝いて、魔物の廻りを舞っている。
俺は、その内の一枚に飛び込む。
実は、光る物なら何でも良いのだ。
俺は、光る物の中に潜むことが出来る能力を持っている。
そして。
光を媒体にして、移動が可能だ。
僕は魔物の死角から飛び出ると、斬りつけた。
再び、銀紙の光に紛れ込んでは、違う光から出現を繰り返す。
魔物はなす術もなく、僕に斬り刻まれた。
僕は巨大な蛇を回収すると、光波レーダーを再度発動した。
まだまだ行きますよ。