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3.社交界へ

 


 フィルローゼが家に来てから、我が家の社交は一変した、らしい。


 というのも、俺は社交なんて全くの不得手でほとんど参加しないからだ。


 兄上たちは家の仕事をしているから社交も大切だけれど、騎士として外で働く俺には関係ないから今まで関わって来なかった。

 俺の勤務は夜勤もあって不規則だし、参加しづらいのもある。


 そんな俺が見ていてもわかるほどに社交の様子が変わってきた。


 まず、華やかになったし、借金も無くなった。

 どう上手いことしたのかは分からないけれど、父上とユルゲン兄上は普通の貴族らしい振る舞いも出来る人だ。


 フィルローゼが人気を集めてくれる分、色々と頑張ったんだろう。




 他人事のようにそう思っていたら、騎士団内ですら話題になった。


「おいおい、ホーフツェル? 妹ちゃんが最近話題らしいじゃんかー」


 同期の友人、スミロが軽い調子で喋りに来た。


「そうそう、俺んとこでも兄貴が言ってたぜ? すげーんだってな! 俺も一回聞いてみたいぜ」


 俺が返事をする前に、ロビンにまでそう言われた。


「ああ、とっても上手いな」


「いいねぇ、かわいくって歌がめちゃくちゃ上手い妹ができて! うらやましー!」


 スミロは本気でそう思っているようだけれど。


「俺の妹だ。やらんぞ」


 短く答えると、笑いながら肩を叩いてきた。


「分かってるって! そうカッカすんなよ!」


 俺の大事な《妹》だからな。

 騎士団でも話題になるほどとは、フィルローゼは本当に人気があるんだろう。


 ……熱狂した連中は何をしでかすがか分からないからな。

 俺が守ってあげないと、と思った。



 そんな話をした日、家に帰ると。


「デューアにいさま、おかえりなさい」


「ただいま、フィルローゼ」


 シンプルに普通の挨拶を返したのだが、かわいい妹はそれが不満らしい。

 真っ白な頬をぷくっと膨らませている。


「にいさま、普通の兄は、妹の頭を撫でてくれるそうです」


「……そうなのか?」


 あいにくと俺に妹は居なかった。

 だから、普通の兄の振る舞いが出来ていない時もあるんだろう。


「ええ、そう教わりました。ですので、してくれませんか」


「フィルローゼがして欲しいなら、いくらでも」


 近づいて、頭をぽんと撫でてあげると、フィルローゼは頬をピンク色に染めてとろけるような笑みを浮かべた。


「うふふ。ありがとうございます」


 そんな彼女がとっても可愛かったから、それから毎日帰ると頭を撫でるようにしたら、フィルローゼは毎日かわいらしく喜んでくれるようになった。


 ……ただ、ユルゲン兄上もシルビオ兄上もしていないらしいのがちょっとした疑問だったけれど。



 ☆。.:*・゜



「あの、デューアにいさまは、パーティーへは行かれませんの?」


 規模の大きなパーティーに出入りするようになって、フィルローゼは振る舞いや話し方が変わってきた。

 ただ歌うだけじゃなくて、きちんと勉強しているんだな。


「俺は社交にはあんまり関わってないからな。

 兄上たちの方がよっぽど上手い」


「でも、たまにはデューアにいさまとお出かけしたいですわ」


 ぷくっと頬を膨らませてそう言うから、軽く頭を撫でてあげる。


「んー、フィルローゼが一緒に行きたいなら、兄上にそう言っておくよ。

 すぐには無理かもしれないけど、行ける日もあるはずだから」


「ありがとうございます。楽しみですわ!」


 軽くリズムを付けて歌うように言うフィルローゼは本当に楽しみなようだから、なるべく早く機会を作ってあげたいと思った。



 そうして数日後。

 フィルローゼはしょっちゅうパーティーに出ているから、俺の予定が合うものに一緒に行くことになった。


「いつもよりもっと人が多いらしいですから、不安ですわ」


 紅色の瞳を揺らめかせながらそう言うフィルローゼは本当にかわいい。


「そう気にすることじゃない、と言っても気になるんだろうな。みんながフィルローゼのことを見てるから」


「みんなが見てるのもそうですけれど、今日はなんと言ってもデューアにいさまが一緒ですから。いつもよりちゃんとしないといけませんわ」


 ぐっ、とこぶしに力をこめるのはとてもかわいいんだけれど。


「そんなに緊張しなくても大丈夫。いつも通りの歌を聞かせてくれたら嬉しいな」


 ぽん、と頭を撫でてあげただけで、彼女はルビーの瞳を輝かせた。


「はいっ! 頑張りますわ!」


 せっかくのセットが崩れないようにそっと髪を梳くと、柔らかでとても繊細な手触りだった。



 ☆。.:*・゜



 パーティー自体はそこそこ規模の大きなものだが、警備として王宮のパーティーをよく見る俺にとっては圧倒されるほどではない。


 フィルローゼは最初から出ていくのではなく、少し遅れて行って場が温まったころに登場するらしい。

 皆が会場の中へ入ってしまって人気のない廊下を進み、彼女をエスコートする。


 ドアマンに目線で合図をすると、少しもったいぶってゆっくりと扉が開けられた。


 父上が指定した時間ぴったりだから、みんながフィルローゼを待っていたのだろう。

 俺が予想していたよりもずっと大きな歓声に迎えられた。


 これだけの注目を浴びて、フィルローゼは怖がっていないかと思って隣を見ると、穏やかな笑みを浮かべていた。

 視線はこちらを見ていないけれど、とっても嫌で仕方ない、という訳ではなさそうだ。


 中央から少し左側へ寄ったところに簡易の舞台と椅子が準備されているからそちらへ向かう。


「大丈夫だよ」


 さすがに緊張しているだろうと思って一声掛けて、彼女をステージへと送り出そうとした瞬間。


「みなさま! 騙されてはいけませんわ! それ(・・)は、『呪いの子』ですわよ!」


 この華やかな場に不釣り合いな、甲高い声が響いた。


「多少歌が上手いかもしれませんけれど、それが何だって言うの? 見てごらんなさい! あの真っ赤な目を! 呪いが掛けられている証拠ですわ!」


 激しく捲し立てているのはフランチェスカ。

 フィルローゼの父親の正妻で、彼女を虐待した末に家から追い出した張本人で、後ろには俺と同じ位の年齢の息子を連れている。


 俺の身体は考えるよりも先に動いていた。

 フランチェスカから、フィルローゼを守れるように、彼女の盾になれるように。


「呪い……?」

「シェーンベルク伯爵夫人が、急にどうした? 歌姫とどういう関係なんだ?」

「紅い瞳は呪いの証だって?」


 急に場が騒然とし始める。

 シェーンベルク家は伯爵で、その身分に合った権力を持っているのだから、周りの人々に影響を与えるのは当然だった。


 いくら歌が上手くて人気があっても、所詮権力には逆らえないのかもしれない。



 でも、俺は、フィルローゼを守ってあげたい。

 ただ彼女の前に立っていることしか出来ないくせに、そう思った。



「その子供は不義の子で、呪いを受けて産まれて来たのよ! だからあんなに気味の悪い色の目をしているの!

 現に、母親は病死したのよ! そんなのと関わっていたら、呪いが移ってしまうわ!」


 フランチェスカがそう高らかに言うと同時に、それまで黙って後ろに立っているだけだった息子がゆらりと動いた。

 ごく自然な動きでフィルローゼに近づき、右のこぶしを振り上げる。


「てめぇっ……!」


 身分が上だとか、寄親の嫡男だとか、そういうことは頭から抜け落ちて、騎士団仕込みの罵倒が口から零れでる。


 ただ、こちらから手を出してはいけない。

 それは意識していたから俺からは何もしない。前に立ち塞がるだけ。


 そうしたら、相手は標的をこちらに変えた。

 大きく振りかぶった右手を、俺の左頬に叩き込む。



 その衝撃は俺からしたら大したことはないほどに軽くて、でも人を殴るということそのものに抵抗を感じていないことが分かる程度には重かった。


 コイツ、殴ることに慣れてやがる。


 その標的が誰かを考えただけで怒りが身体を支配しそうになるが、ぐっと堪える。

 ただでさえ、華やかなパーティーの場で乱闘が起こっているんだ。ここでやり返すのは絶対に駄目だ。


 だから俺は、不敵に見えるように笑う。

 相手を挑発するように。

 お前の攻撃なんか、全く意味が無いんだというように。



 俺の後ろにはフィルローゼが居るんだ。

 少しも隙を見せず、一歩も引かない。


 その意志を強く持って睨みつけただけで、相手は気圧されたように一歩下がった。



 相手が誰だろうと関係ない。

 フィルローゼは、俺が守る。



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