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19.公爵からの話

 



 ディペラント公爵家でのパーティー以来、裁ききれないほどの手紙が届くようになり、俺もフィルローゼを連れて何度かパーティーへ行った。


 その度に大絶賛されてフィルローゼは得意げで、毎回「ほめて!」という顔で俺を見てくる。


 そんな顔しなくたってもう全力で褒めちぎりたい俺はこれ以上ないくらい褒めまくって、彼女が満足するまで髪を撫でてあげていた。



 そんな中、この騒動のきっかけになったディペラント公爵からは全く音沙汰がない。

 我が家では何かアクションがあるだろうと構えていたのに肩透かしを食らった気分だったけれど、それも日々忙しくて忘れかけていた頃。



「交代後、デューア・ホーフツェルは部屋へ残るように」


 いつものように財務副大臣室の扉前を警護していた俺に、そんな命が下った。

 財務副大臣といえばもちろんディペラント公爵で、パーティーから少し間を置いての急な呼び出しにビビりつつ、交代の挨拶の後も部屋に残った。


「そう難しい話ではない。楽にしてよいぞ」


 俺よりも少し年上だが、女性たちの憧れの的になるほどのイケメンぶり。

 地位も能力も美貌も持ち合わせているような人に『楽にしろ』とか言われても無理ですって。


 それに、いつもは執務時間中ずっと居るはずの秘書官が席を外している。


 この部屋には公爵と俺とあとは従者が一人だけ。

 実質人払い状態で冷静に話なんてできないって!!


「話というのは他でもない、君の妹のフィルローゼについてなのだが」


 予想はしていたもののフィルローゼの名前が出てきて身構える。


「いや、そう警戒せずともよい。単に、『俺に結婚の意思はない』そう言いたいだけだ」


「……は?」


 仲を取りもてとか言われるかと思っていたから不躾な返事をしてしまった。


「周りが俺を結婚させようと、色々噂を流しているだろう? 婚約したという噂が俺の耳に入って驚いたくらいだからな」


 俺はそんな噂までは聞いていないが、世間では色々言われているのは知っている。


「自然に落ち着くのを待とうと思っていたのだが、思いのほか噂がうるさくてな。それに、そちらの家が勝手に期待しても悪いと思い、こうして君を呼び出した訳だ」


「は、はい、わかりました」


 俺としては、ディペラント公爵がフィルローゼを狙っていない、それだけで充分だ。


「面倒なことになって悪いとは思うのだが、何せ最愛の人にねだられたものでな。

 またそのうち呼ぶと思うのでよろしく頼む」


「……さいあいのひと?」


 急な話の流れに着いていけない。

 確か、公爵には婚約者も恋人もいないハズでは。


 キョトンとした顔で見つめている俺の目の前で、斜め後ろに立つ従者へ手を伸ばし、その頬をするりと撫でる。

 された方は跪くように手に擦り寄り、俺の視線を気にしつつもされるがままだ。


 うん、何も言われなくっても分かった。

 その従者君が公爵の想い人なんだな。


「この子はソラと言うのだが、以前聞いたフィルローゼの歌を大層気に入ったようでな。

 ぜひまた聞きたいと言うからどこのパーティーへ行くのか探しても一向に出歩く気配がない。

 痺れを切らして俺が招待した、という訳だ」


「は、はあ……。じゃあ何で、あんな真正面で聞いていたんですか?」


 そのせいで勘違いをされたんだよ、と言う気持ちを込めて聞いてみる。


「カンタンな話だ。俺があの席に座っていれば、ソラは確実にいい場所で歌を聞けるだろう?」


 確かに、主催者であれば急に呼ばれてしまうこともあるかもしれない。

 余興のためだけにここに居ます、とは言いづらい雰囲気になるかも。

 でも、あれだけはっきりと席を用意しておけば誰も話しかけには来ないだろうな。


「誰しも愛する人の望みは叶えたいと思うし、叶えるのは自分でありたいだろう?」


 片手で従者ソラ君の髪や頬を弄びながらそう言う公爵は、その美貌も相まってなんだかイケナイ雰囲気まで出ている。


「はあ、そういうものですか……」


 俺に出来ることといえば何とか相槌を返すことくらい。


「君もあの娘の望みは幾らでも叶えてやりたいと、そう思っているのではないか?」


『あの娘』というのはフィルローゼのことだろう。


「いや、フィルローゼは『妹』なので、最愛とかそう言うのとはまた違いますね……?」


 俺が言い終わる前にも関わらず、公爵がニヤニヤした悪い笑みを浮かべるものだから言葉を濁してしまった。


「ほう、『妹』だと。では、いつか他の家へ嫁に出すのだな。それならば我が家でも問題はなかろう。

 ソラはいつでも歌を聞けるようになり、彼女にとっても悪い縁談ではない。

 いいことずくめだろう?」


「いえ、彼女はまだ我が家へ来たばかりですので」


 精一杯の言葉で断っても、意地の悪い笑みを湛えた美青年はまだ俺を逃がす気は無いらしい。


「いやいや、別にそちらの家に慣れずとも、我が家に慣れてくれたらそれでいい」


「結婚する気はないんじゃなかったんですか」


「気が変わったな」


「フィルローゼは、世界で一番彼女のことを大切にしてくれる人の所にいて欲しいのです。

 そちらのソラ君を大切にしている公爵閣下の所へは参りません」


 相手は身分も何もかもが上だけれど、フィルローゼのために強気に断言した。


「ほう。それほどまでにあの娘が大事か」


「当たり前です」


「ならば、『世界で一番大切にする人』は誰なのか、もう一度考えた方がよかろう」


「……は?」


 急に何の話だ?

 フィルローゼの旦那候補が他にも居るのか?


「ほぉう。自覚なしか。それはそれで面白い。

 ただ、そうだな。少しばかり迷惑を掛けた代わりに、俺から言えることをひとつ」


 なんだかもったいぶった言い方だけれど、フィルローゼの事だから聞き逃せない。


「愛することに立場は関係ない。男でも、身分が違っても、兄妹でも。大切だと思う相手を、本当に大切にするために手段を選ぶ必要はないと、そう思う」


 目の前でイチャイチャするのを見せつけられながらだと、『立場は関係ない』という言葉は重く感じられる。



 それに、『兄妹でも関係ない』。

 本当だろうか。


 もし、もし本当に関係ないのなら。


 フィルローゼと、このままずっとずっと一緒に居られる未来が、あるんじゃあないだろうか。





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